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二章
告白(1)
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それからは、学校帰りに虹葉の家へ寄っていくのが日課となった。
俺が虹葉との思い出を聞かせて、虹葉はそれに耳を傾ける。
半分くらいは覚えていないようで少し悲しくもなったが、まぁ、帰って来てくれただけで良しとしよう。それだって奇跡みたいなものなんだから。
虹葉と共に過ごす穏やかな時間。
二人だけの、特別な時間。
でも、それも長くは続かなかった。
二週間ほど経ったある日。
9月も下旬に差し掛かろうというこの日は、朝からどんよりとした雲に覆われ、何となく気分を沈ませた。時折吹く強風が木々をざわめかせ、つい最近まで眠っていた秋の記憶を呼び起こす。
「やっぱ今日みたいな日は、家の中が一番だな」
学校を終え、毎度のごとく虹葉の家に転がり込んだ俺は、虹葉の淹れてくれた紅茶を啜りながらしみじみと呟く。
「そんなこと言って。怜は天気なんて関係なく、うちに来てるじゃない」
「『来ていい』って言うなら、行くに決まってるだろ」
俺は横目で虹葉の顔を伺う。
虹葉はマグカップを手に持ち、「まぁ、私は全然構わないけど」と言うと、ゆっくりと口をつけた。
どうやら、まんざらでもないらしい。
くつろいでいる虹葉を見ていると、自然と口元が弛んでしまう。
(さぁ、今日は何から話そうか)
そんな事を考えていた矢先だった。
〈ピーンポーン〉
突然インターフォンが鳴り響いた。
俺は虹葉と顔を見合わせる。どうやら虹葉にも覚えが無いようであった。
「ちょっと見てくるね。怜はゆっくりしてて」
そう言うと、虹葉は玄関へと向かって行った。
ガチャリとドアを開ける音が響く。
それから、何やら話し声が聞こえた。ドアの向こうなので何と言っているかは聞き取れなかったが、長々と話し込んでいる様である。
(……)
(…………)
(…………)
(……遅いな)
静かに待っていたが、中々帰ってこない。時間を確認する。虹葉が見に行ってから数分が経とうとしていた。
こうも遅いと、流石に心配になってきたので様子を見に行こうかと思い始めた時。
「やめてっ」
叫び声が聞こえた。
虹葉の声だった。
俺は急いで玄関へと向かう。
そこには、虹葉の手首を掴み今にも玄関から上がり込もうとする男がいた。年は四十前後だろうか。白髪の混じり始めた髪に、銀縁の細身の眼鏡が特徴的だったが、俺には覚えのない男だった。
「なんだ、先客ですか」
男は俺を視認すると、そう呟いて舌打ちをした。
男は早々に踵を返し、そのまま虹葉を外へ連れ出そうとする。
「おい、待て」
「……なんですか?」
「お前、誰だよ」
俺は凄みを聴かせて尋ねる。
「私はこの子の。虹葉の父親です」
予想外の答えに口が空いてしまった。側から見ればきっと、目を丸くしていた事だろう。
「分かったなら部外者は静かにしていてください。これは私と虹葉の話なので」
そう告げると、「行きますよ」と言いながら嫌がる虹葉の手首を再び引き始めた。が、虹葉も負けてはいない。「嫌、ですっ」と拒否を続けながら両足で踏ん張って、廊下に留まろうと足掻いている。
「離せよ。嫌がってるだろ」
部外者とは言われたが、黙って見ているわけにはいかなかった。虹葉は、明らかに嫌がっているじゃないか。
俺は父親の手首を掴み、虹葉へと加勢する。連れて行かせまいと、必死に抵抗した。が……。
「やめなさい。部外者は引っ込んでいろと、言ったでしょう!」
父親は怒気を纏わせながら俺の胸を突き飛ばした。
派手な音をたてながら廊下の壁に打ち付けられる俺。
「かはっ」
背中を強打し、鈍い痛みが全身を走る。肺の中の空気が全て出たような感覚。一瞬だけ方向感覚がおかしくなる。
意識をして深く呼吸をしたが、酸素が足りない。手足に上手く力が入らずに、思わずしゃがみ込んだ。
それでも、目だけは虹葉を追っていた。
早く。早く。虹葉が無理矢理連れて行かれようとしているのに。早く。動かないと。
父親は抵抗を続ける虹葉に呆れたのか、引く手を緩めた。それから虹葉の耳元へ近づくと、何かを呟いたようであった。
父親に耳打ちをされた途端、虹葉の目が大きく見開かれた。身体を震わせ、目が揺らぎ始める。
何かがおかしい。そう直感した俺は、無理矢理力を込めてよろよろと立ち上がる。
虹葉は俺の目を真っ直ぐに見つめた後。
「怜、ごめんね」
そう言って、笑った。
「——!」
その笑顔を見た俺は、思わず息を止めた。
虹葉は父親に手首を握られ、されるがままに玄関から出て行こうとする。
「待て」
早く。早く。止めないと。
そんな笑顔で笑われたら、俺は納得出来ないに決まってるじゃないか。
父親はこちらを一瞥した後、玄関の取手に手をかける。
早く。早く。早く。
「うわぁぁぁ」
走る。俺は背中に走る痛みに堪えながら、走る。どんなに情けなくたって、今、虹葉を助けないと。絶対に後悔する。
走る。父親を見据えて。
そして、自分の持てる力の全てで体当たりをお見舞いした。
したのだが。
俺の渾身の体当たりは、父親の足元をふらつかせただけに終わった。
「このっ。ガキがっ」
父親は血走った目をこちらへ向けると、先程よろしく俺の胸を突き飛ばした。
再び廊下に背を強打し、悶絶する俺。潰れたカエルの気分がした。
父親は再び玄関を開けようとする。
「ま……て……」
父親はもう、こちらを見もしなかった。
早く。虹葉を止めないといけないのに。
俺は蹲ったまま動けない。
——俺は、なんて弱いのだろう。
——虹葉一人守れない。
父親が玄関を開ける。外の光が、玄関へと差し込んできた。
——虹葉が行ってしまうっていうのに。
——結局、俺には虹葉を助ける事なんて出来なかった。
惨めで。でも、何も出来なくて。本当に、俺はなんと弱いのだろうとつくづく思う。今にも連れて行かれそうな虹葉を前にして、蹲る事しか出来ないのだから。
——俺はなんて無力なんだ。
扉が開き、出て行こうとする二人。それを、ただ見ている事しか出来ない。
涙で視界がボヤけた。
——俺に、もっと力があったなら。
唇から血が滲む。
とはいえ、どんなに嘆いた所で、きっと、最初から結果は変わらなかっただろう。
大の大人の男に、力で勝てる訳なんて、ないのだから。
父親が玄関から踏み出そうとしたその時。
「警告。これ以上の蛮行は、正当防衛として対処致します。警告。これ以上の——」
虹葉の口から、そのような言葉が繰り返された。
父親も踏み出そうとした足を一度戻し、振り返って様子を窺う。
「警告。これ以上の蛮行は——」
虹葉の声とは思えないような単調で、無感情な声明。
つまりこれは、警告、なのか?
虹葉の口からは、今も警告文が流れ続けている。
しかし、父親はどうやら相当頭に血が昇っていたらしい。警告を気にもせずに、再び虹葉の腕を掴んで玄関から踏み出した。
厳密にいうと、踏み出そうとした。でも、玄関からは出れなかった。
なぜって?
父親が玄関の敷居を跨ごうとした瞬間。
父親が掴んでいた虹葉の手首が、あっけなく取れた。それからバチンという音がしたと思ったら、父親は仰向けに倒れていた。
玄関は再びガチャンと音を立てて閉まる。
キッチン横の小窓から差し込んだ光が、倒れた父親を見下ろす虹葉の横顔を浮かび上がらせる。普段の優しい虹葉からは想像できないような、冷たい目をしていた。
俺は初め、何が起こったのか分からなかった。
父親が掴んでいたはずの虹葉の右手首が取れて、玄関に転がっている。
そこから目で追った先にある虹葉の手首の断面には、2本の電極が顕になっていた。その間をバチバチと電流が流れている。
あれは……テレビで見た事ある。
もしかして、スタンガン、か?
「あ、今野くん。これ見た事あるって顔してるね。スタンガンって知ってる? 原理はあれと同じ物だよ。どう? 初めて見た?」
虹葉? は、そう楽しそうに言いながら、父親を足で転がしてうつ伏せにした後、その背中に馬乗りになった。
「は、放せっ」
父親も抵抗を試みるが、虹葉? はそれを許さなかった。
「え? 放さないよ? ちゃんと警告はしたんだからね。それより、今日はどうしたの? お父さん。まぁ、大方虹葉ちゃんがどこまで覚えてるのかの確認と、口封じに来たんだろうけどね。言うこと聞かないからって、『抵抗するなら、あの動画をそこにいる少年に見せるぞ』は無いと思うなー。うん。ない」
虹葉と同じ顔。同じ体。
でも、中身は明らかに別人だった。
「お前、虹葉じゃないな」
俺は目の前の虹葉? を注意深く観察する。
「流石今野くん。すぐ気付くよね。えらいぞっ」
「お前は、誰だ?」
「えーっ、今野くんとはお久しぶり、なんだけどな」
前にも会ったことがある、という事は……
「もしかして、虹葉もどきか?」
「うわ、あたしの事”虹葉もどき“って呼んでたの? 悲しいなぁ」
「意味合いは合ってるだろ」
「まぁいいや。一応あたしにも名前があってさ。今後は”いろは“って呼んで欲しいな」
「いろは?」
「そうそう。よく言えました」
いろはは得意げに胸を張ってみせる。
「いろは、もしかして、それが素の君なのか?」
「そうそう。一応、虹葉ちゃんの体を借りてる身だからね。身って言っても、体は無いんだけど」
いろははそう言うと、自分で言って面白かったのかガッハッハと笑い始めた。
……正直、俺は付いて行けていない。
「まぁ、お母さんからも『迷惑はかけないように』って、口酸っぱく言われててさ。お母さんの研究の事もあるし、良い子でいた訳。虹葉ちゃんみたいにね」
「お母さんって、神崎の事か?」
「そうだよ。呼ぶと怒られるけどね」
いろはは面白そうにニヤニヤと笑っていた。
「それじゃあ、始めよっか」
「始めるって、何を?」
「この男の罪の告白さ」
いろはは右手のスタンガンをバチバチと鳴らしながら、下敷きになっている男の目の前へとチラつかせてニヤニヤと笑った。
俺が虹葉との思い出を聞かせて、虹葉はそれに耳を傾ける。
半分くらいは覚えていないようで少し悲しくもなったが、まぁ、帰って来てくれただけで良しとしよう。それだって奇跡みたいなものなんだから。
虹葉と共に過ごす穏やかな時間。
二人だけの、特別な時間。
でも、それも長くは続かなかった。
二週間ほど経ったある日。
9月も下旬に差し掛かろうというこの日は、朝からどんよりとした雲に覆われ、何となく気分を沈ませた。時折吹く強風が木々をざわめかせ、つい最近まで眠っていた秋の記憶を呼び起こす。
「やっぱ今日みたいな日は、家の中が一番だな」
学校を終え、毎度のごとく虹葉の家に転がり込んだ俺は、虹葉の淹れてくれた紅茶を啜りながらしみじみと呟く。
「そんなこと言って。怜は天気なんて関係なく、うちに来てるじゃない」
「『来ていい』って言うなら、行くに決まってるだろ」
俺は横目で虹葉の顔を伺う。
虹葉はマグカップを手に持ち、「まぁ、私は全然構わないけど」と言うと、ゆっくりと口をつけた。
どうやら、まんざらでもないらしい。
くつろいでいる虹葉を見ていると、自然と口元が弛んでしまう。
(さぁ、今日は何から話そうか)
そんな事を考えていた矢先だった。
〈ピーンポーン〉
突然インターフォンが鳴り響いた。
俺は虹葉と顔を見合わせる。どうやら虹葉にも覚えが無いようであった。
「ちょっと見てくるね。怜はゆっくりしてて」
そう言うと、虹葉は玄関へと向かって行った。
ガチャリとドアを開ける音が響く。
それから、何やら話し声が聞こえた。ドアの向こうなので何と言っているかは聞き取れなかったが、長々と話し込んでいる様である。
(……)
(…………)
(…………)
(……遅いな)
静かに待っていたが、中々帰ってこない。時間を確認する。虹葉が見に行ってから数分が経とうとしていた。
こうも遅いと、流石に心配になってきたので様子を見に行こうかと思い始めた時。
「やめてっ」
叫び声が聞こえた。
虹葉の声だった。
俺は急いで玄関へと向かう。
そこには、虹葉の手首を掴み今にも玄関から上がり込もうとする男がいた。年は四十前後だろうか。白髪の混じり始めた髪に、銀縁の細身の眼鏡が特徴的だったが、俺には覚えのない男だった。
「なんだ、先客ですか」
男は俺を視認すると、そう呟いて舌打ちをした。
男は早々に踵を返し、そのまま虹葉を外へ連れ出そうとする。
「おい、待て」
「……なんですか?」
「お前、誰だよ」
俺は凄みを聴かせて尋ねる。
「私はこの子の。虹葉の父親です」
予想外の答えに口が空いてしまった。側から見ればきっと、目を丸くしていた事だろう。
「分かったなら部外者は静かにしていてください。これは私と虹葉の話なので」
そう告げると、「行きますよ」と言いながら嫌がる虹葉の手首を再び引き始めた。が、虹葉も負けてはいない。「嫌、ですっ」と拒否を続けながら両足で踏ん張って、廊下に留まろうと足掻いている。
「離せよ。嫌がってるだろ」
部外者とは言われたが、黙って見ているわけにはいかなかった。虹葉は、明らかに嫌がっているじゃないか。
俺は父親の手首を掴み、虹葉へと加勢する。連れて行かせまいと、必死に抵抗した。が……。
「やめなさい。部外者は引っ込んでいろと、言ったでしょう!」
父親は怒気を纏わせながら俺の胸を突き飛ばした。
派手な音をたてながら廊下の壁に打ち付けられる俺。
「かはっ」
背中を強打し、鈍い痛みが全身を走る。肺の中の空気が全て出たような感覚。一瞬だけ方向感覚がおかしくなる。
意識をして深く呼吸をしたが、酸素が足りない。手足に上手く力が入らずに、思わずしゃがみ込んだ。
それでも、目だけは虹葉を追っていた。
早く。早く。虹葉が無理矢理連れて行かれようとしているのに。早く。動かないと。
父親は抵抗を続ける虹葉に呆れたのか、引く手を緩めた。それから虹葉の耳元へ近づくと、何かを呟いたようであった。
父親に耳打ちをされた途端、虹葉の目が大きく見開かれた。身体を震わせ、目が揺らぎ始める。
何かがおかしい。そう直感した俺は、無理矢理力を込めてよろよろと立ち上がる。
虹葉は俺の目を真っ直ぐに見つめた後。
「怜、ごめんね」
そう言って、笑った。
「——!」
その笑顔を見た俺は、思わず息を止めた。
虹葉は父親に手首を握られ、されるがままに玄関から出て行こうとする。
「待て」
早く。早く。止めないと。
そんな笑顔で笑われたら、俺は納得出来ないに決まってるじゃないか。
父親はこちらを一瞥した後、玄関の取手に手をかける。
早く。早く。早く。
「うわぁぁぁ」
走る。俺は背中に走る痛みに堪えながら、走る。どんなに情けなくたって、今、虹葉を助けないと。絶対に後悔する。
走る。父親を見据えて。
そして、自分の持てる力の全てで体当たりをお見舞いした。
したのだが。
俺の渾身の体当たりは、父親の足元をふらつかせただけに終わった。
「このっ。ガキがっ」
父親は血走った目をこちらへ向けると、先程よろしく俺の胸を突き飛ばした。
再び廊下に背を強打し、悶絶する俺。潰れたカエルの気分がした。
父親は再び玄関を開けようとする。
「ま……て……」
父親はもう、こちらを見もしなかった。
早く。虹葉を止めないといけないのに。
俺は蹲ったまま動けない。
——俺は、なんて弱いのだろう。
——虹葉一人守れない。
父親が玄関を開ける。外の光が、玄関へと差し込んできた。
——虹葉が行ってしまうっていうのに。
——結局、俺には虹葉を助ける事なんて出来なかった。
惨めで。でも、何も出来なくて。本当に、俺はなんと弱いのだろうとつくづく思う。今にも連れて行かれそうな虹葉を前にして、蹲る事しか出来ないのだから。
——俺はなんて無力なんだ。
扉が開き、出て行こうとする二人。それを、ただ見ている事しか出来ない。
涙で視界がボヤけた。
——俺に、もっと力があったなら。
唇から血が滲む。
とはいえ、どんなに嘆いた所で、きっと、最初から結果は変わらなかっただろう。
大の大人の男に、力で勝てる訳なんて、ないのだから。
父親が玄関から踏み出そうとしたその時。
「警告。これ以上の蛮行は、正当防衛として対処致します。警告。これ以上の——」
虹葉の口から、そのような言葉が繰り返された。
父親も踏み出そうとした足を一度戻し、振り返って様子を窺う。
「警告。これ以上の蛮行は——」
虹葉の声とは思えないような単調で、無感情な声明。
つまりこれは、警告、なのか?
虹葉の口からは、今も警告文が流れ続けている。
しかし、父親はどうやら相当頭に血が昇っていたらしい。警告を気にもせずに、再び虹葉の腕を掴んで玄関から踏み出した。
厳密にいうと、踏み出そうとした。でも、玄関からは出れなかった。
なぜって?
父親が玄関の敷居を跨ごうとした瞬間。
父親が掴んでいた虹葉の手首が、あっけなく取れた。それからバチンという音がしたと思ったら、父親は仰向けに倒れていた。
玄関は再びガチャンと音を立てて閉まる。
キッチン横の小窓から差し込んだ光が、倒れた父親を見下ろす虹葉の横顔を浮かび上がらせる。普段の優しい虹葉からは想像できないような、冷たい目をしていた。
俺は初め、何が起こったのか分からなかった。
父親が掴んでいたはずの虹葉の右手首が取れて、玄関に転がっている。
そこから目で追った先にある虹葉の手首の断面には、2本の電極が顕になっていた。その間をバチバチと電流が流れている。
あれは……テレビで見た事ある。
もしかして、スタンガン、か?
「あ、今野くん。これ見た事あるって顔してるね。スタンガンって知ってる? 原理はあれと同じ物だよ。どう? 初めて見た?」
虹葉? は、そう楽しそうに言いながら、父親を足で転がしてうつ伏せにした後、その背中に馬乗りになった。
「は、放せっ」
父親も抵抗を試みるが、虹葉? はそれを許さなかった。
「え? 放さないよ? ちゃんと警告はしたんだからね。それより、今日はどうしたの? お父さん。まぁ、大方虹葉ちゃんがどこまで覚えてるのかの確認と、口封じに来たんだろうけどね。言うこと聞かないからって、『抵抗するなら、あの動画をそこにいる少年に見せるぞ』は無いと思うなー。うん。ない」
虹葉と同じ顔。同じ体。
でも、中身は明らかに別人だった。
「お前、虹葉じゃないな」
俺は目の前の虹葉? を注意深く観察する。
「流石今野くん。すぐ気付くよね。えらいぞっ」
「お前は、誰だ?」
「えーっ、今野くんとはお久しぶり、なんだけどな」
前にも会ったことがある、という事は……
「もしかして、虹葉もどきか?」
「うわ、あたしの事”虹葉もどき“って呼んでたの? 悲しいなぁ」
「意味合いは合ってるだろ」
「まぁいいや。一応あたしにも名前があってさ。今後は”いろは“って呼んで欲しいな」
「いろは?」
「そうそう。よく言えました」
いろはは得意げに胸を張ってみせる。
「いろは、もしかして、それが素の君なのか?」
「そうそう。一応、虹葉ちゃんの体を借りてる身だからね。身って言っても、体は無いんだけど」
いろははそう言うと、自分で言って面白かったのかガッハッハと笑い始めた。
……正直、俺は付いて行けていない。
「まぁ、お母さんからも『迷惑はかけないように』って、口酸っぱく言われててさ。お母さんの研究の事もあるし、良い子でいた訳。虹葉ちゃんみたいにね」
「お母さんって、神崎の事か?」
「そうだよ。呼ぶと怒られるけどね」
いろはは面白そうにニヤニヤと笑っていた。
「それじゃあ、始めよっか」
「始めるって、何を?」
「この男の罪の告白さ」
いろはは右手のスタンガンをバチバチと鳴らしながら、下敷きになっている男の目の前へとチラつかせてニヤニヤと笑った。
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