不滅のティアラ 〜狂おしいほど愛された少女の物語〜

白銀一騎

文字の大きさ
3 / 117
〜シンデレラガール〜

謎の病気

しおりを挟む
 後日私はクリスと一緒にクリスの友人宅に行った。

 白い大理石で出来た門構えのすごい豪邸だった。私達は豪邸の一室に通された。部屋の中央に大きなベッドがあり、一人の痩せ細った男が生気のない目でこちらを見るとかすかに笑った。友人の名前はロマノフと言った。私はロマノフに病気の症状を聞いた。

「いつから症状が出始めました?」

「もう五年前から体調がすぐれません」

「どこか痛いところはありますか?」

「手や足の先がしびれて時々痛くなります。最近では立って歩くことも困難になります」

「食欲はありますか?」

 私が聞くとロマノフは小さい声でありません、と答えた。

 私は製薬会社で会った医者の言っていたことを思い出した。なんでも患者の病気の原因は食事によるところが大きいそうだ。病気名がわからない場合は患者の食事を見れば大体わかると言っていたことを思い出した。

 私はロマノフの食事を確認した。

「今朝の食事は何を食べました?」

 私がそう聞くとおかゆが出てきた。それは白米で作ったおかゆだった。ロマノフによると食欲が無いので、少しでも栄養価の高い白米を使ったおかゆを毎日食べているそうだ。

「いつ頃からおかゆばかり食べているのですか?」

「体調が悪くなった五年前からずっと食べています」

「おかゆだけ?」

「そうです」

 私はその答えを聞いてある病名が頭に浮かんだ。もしかして脚気かっけじゃないか? と私は思った。

 脚気とはビタミンB1が欠乏して起こる病気で、全身の倦怠感けんたいかん、食欲不振、手足のしびれなどの症状が出る病気のことである。ビタミンB1を含まない白米食ばかり食べてる人が発症する病気で日本でも白米食が普及した明治から大正時代にかけて多くの人が脚気で死亡していた。

 確か明治37年の日露戦争では25万人もの脚気患者が出て3万人ほどの患者が亡くなっている恐ろしい病気だと聞いたことがあった。

 私は脚気かどうか確認するためにロマノフをベットに座らせて膝下を軽く棒で叩いたが、反応がなかった。膝蓋腱反射しつがいけいはんしゃと言って、膝下を叩くと正常な人は足が跳ね上がる反応を示すのだが、脚気の人は反応がないのだ。

「ロマノフさん。あなたの病気は脚気ですね」

「脚気? 聞いたことがない病名だ」

「主にビタミンB 1の不足によって起こる病気ですので、これからは玄米のおかゆと、豚肉や野菜も食べるようにしてください。あと、お酒も控えるようにしてください」

「食事を変えるだけで治るんですか?」

「そうですね。徐々に改善していくと思います」

 私がそう言うとロマノフの顔が明るくなった。

「ティアラさん。ありがとうあなたは私の命の恩人です」

「い……いえ。まだ治ったわけではないのでお礼を言われても……」

「いいえ! そんなことはありません。何人もの医者に診てもらったが、病名すらわからなかったのにあなたは病気の原因を突き止めてくれた。それだけでも私は救われた」

 ロマノフはそう言うと私の手を両手で掴んでありがとう、ありがとう、と泣きながら何度も感謝してくれた。クリスはロマノフの肩に手を置いてよかったなロマノフと言った。クリスの目にも涙が見えた。

 私とクリスはロマノフの部屋を出た。出た瞬間クリスが私に抱きついて感謝した。私は男性に抱きつかれたことがなかったので、びっくりして声も出なかった。

 クリスは私の耳元で友人を助けてくれてありがとう、と声を振るわせていた。おそらく私の肩で泣いているのだろう。私はそんなクリスを愛おしく感じた。

 私はクリスに家まで送ってもらった。途中までで良いと言ったが強引に家まで付いてきた。クリスは別れ際に今度君に見てもらいたいものがあると言い出した。

「見てもらいたい物?」

「ハハハ……そんなに大した物じゃないんだけど、うちの経営しているワイナリーだよ」

「ワイナリー?」

「そう。ぜひ君に見てもらいたい!」

 私はワイナリーというものに興味があったのでいい機会だと思いOKした。クリスが帰った後に気づいたことがある。これってデートに誘われたのではないか? 年齢=彼氏いない歴だった自分を思い出した。異世界に来てまさか初デートをする羽目になるとは思っていなかった。私は母が作ってくれた服で初デートに行くことを決意した。

 ◇

 人生初デートの日は直ぐに訪れた。私が家の玄関を出ると立派な馬車が横付けされていた。その横に着飾ったクリスがいた。クリスは私を馬車に乗るようにエスコートしてくれた。

 私とクリスの乗った馬車はゆっくりと目的地に向けて走り出した。

 私はロマノフの事が気になってクリスに聞いた。

「クリス。ロマノフさんの容態はどうかしら?」

「ティアラ、君のおかげでロマノフは順調に回復しているよ。もう立って歩けるようになったと言っていたよ」

「本当! それは良かったわ!」

 私は人の役に立つ事ができて嬉しかった。

 馬車はしばらく走った後に町の中心部で止まった。

「さあ着いたよ」

 私はこんな町の中心部にワイナリーがあることが信じられなかった。私が馬車の窓から外を見ると何かの店先に馬車が停まっているようだった。

「こんなところにワイナリーがあるの?」

「ワイナリーに行く前によりたいとこがあってね」

 私はクリスに案内されて店の中に入った。店の中は高そうな服やアクセサリーが売られていた。この世界の高級ブティックといったところだろう。

「ここは……?」

「ティアラにこの前のお礼がしたくてね」

「え?」

「ティアラ、この店の物、何でも欲しい物を言ってくれ! 君にプレゼントしたいんだ」

「ええ? 悪いわ……こんな高そうなところ……」

「良いんだよ。君は僕の友人を助けてくれた。これでも安いくらいだよ」

「んー、でも……」

 私は人からプレゼントをしてもらったことがほとんでないのでどうしたら良いのかわからなかった。ましてやこんなかっこいい男の人からプレゼントなんてどうもらって良いのかわからず困惑した。

 私は正直に自分の気持ちを伝えることにした。

「クリス気持ちは嬉しいわ、でもやっぱり受け取れないわ」

「え? どうして?」

 クリスはびっくりした表情で私を見ていた。

「私が来ているこの服は母が手作りで作ってくれた服なの。まだまだ着れるので私にはこの服で十分なのだから…………私には必要ないわ……ごめんなさい」

 私は本当にクリスに申し訳ない気持ちでいっぱいになった。私がうつむいているとクリスは私の手を取って目をキラキラさせて言った。

「本当に君は不思議な女性だね。今までそんなこと言った女性は初めてだよ」

「ごめんなさい……面倒な女で…………」

「違うよ! 素敵な女性だと言っているんだよ。自分の母親の作った服を大事にするような女性に悪い人はいないと思うよ」

「でも……クリスの気持ちに答えられなかったわ」

「良いんだよ。僕の方こそごめんね。いきなりこんなところに連れてきてしまって、君を困らせてしまったね」

 クリスは私の手を掴んで今度こそワイナリーに行こう、と言った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

【完結】異世界リメイク日和〜おじいさん村で第二の人生はじめます〜

天音蝶子(あまねちょうこ)
ファンタジー
壊れた椅子も、傷ついた心も。 手を動かせば、もう一度やり直せる。 ——おじいさん村で始まる、“優しさ”を紡ぐ異世界スローライフ。 不器用な鍛冶師と転生ヒロインが、手仕事で未来をリメイクしていく癒しの日々。 今日も風の吹く丘で、桜は“ここで生きていく”。

猫なので、もう働きません。

具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。 やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!? しかもここは女性が極端に少ない世界。 イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。 「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。 これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。 ※表紙はAI画像です

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

黒騎士団の娼婦

イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

処理中です...