不滅のティアラ 〜狂おしいほど愛された少女の物語〜

白銀一騎

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〜シンデレラガール〜

異世界のワイナリー

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 私たちはエンリケ家の所有するワイナリーに着いた。

 大きな門を通ると農夫が大勢集まって、ワインの出荷作業を行なっていた。大きな出荷場を通過して私たちは丘の上に出た。丘の上から見ると広大な土地一面がぶどう畑になっていた。見渡す限りのぶどう畑に私は驚いた。

 私たちは馬車から降りると倉庫のような所に通された。倉庫の中にはダチョウに似た鳥が数匹鎖に繋がれていた。

 私がダチョウを不思議そうに見ていると、コカス鳥だよ、とクリスが教えてくれた。

「ここからは急斜面が多いから、この鳥に乗って移動するよ」

「え? これに……乗るの?」

 私が躊躇しているとクリスは易々とコカス鳥の鞍に跨って私に手を差し伸べた。

「ほら。手を出して」

 私がクリスの手を掴むと力強く私を自分の乗っているコカス鳥の鞍に引っ張り上げてくれた。クリスと私は一緒のコカス鳥に跨ったため密着する形となってしまった。私はこんなに男性と密着したことがなかったので、かなり焦っていると、首を持つと嫌がるからね、とクリスが私の耳元で囁いた。私は『キャ』と小さく叫ぶとどうして良いか分からず困惑した。クリスはそんな私を見て優しく手を握ってここを掴んでね、と誘導してくれた。

 私たちはようやくコカス鳥に乗ってぶどう畑に出た。私はダチョウみたいな鳥に乗って移動できるのか心配だったが、鞍がしっかりしているので乗り心地はよかった。私たちの乗ったコカス鳥はクリスの言うことをよく聞いてすごくクリスに懐いていた。

「この子すごく良い子ね。名前はなんて言うの?」

「ニトって言うんだ。僕が生まれた時から一緒に育った超優秀なコカス鳥だよ」

 クリスは自慢のコカス鳥を褒められてとても嬉しそうな顔をした。


 私たちは広いワイナリーを一通り見終えると昼ご飯にしよう、とクリスが言った。私たちは広いぶどう畑の真ん中に作られた、大きなテントに入った。テントに入ると使用人が昼食を作って待っていた。私たちはそこで昼食を食べた。

 私は食後の紅茶を飲んでいる時に、ふと疑問に思った事をクリスに話した。

「なぜあそこの丘から下はぶどう畑にしないの?」

 私は一部の畑が使われていなかったので疑問に思った。

「ああ……あそこの土地はぶどうが育たないんだ」

「ぶどうが育たない? 土壌改善はしたの?」

「土壌改善? なんですかそれは?」

「あそこの土地はおそらく土が酸性の土壌になっているので、消石灰をまいてアルカリ性に土壌を改善すれば育つようになりますよ」

「何? 本当ですか? それは良い事を聞きました。でもなぜ、その…土が……酸性?とわかるのですか?」

「あそこに紫陽花の木があります。丘の上やこの辺りの紫陽花の花が赤色に咲いているのに対して丘から下に生えている紫陽花の花は青色の花が咲いていました。紫陽花はアルカリ性で赤、酸性で青い花が咲くので丘から下の土壌が酸性というのがわかります」

「消石灰を撒けば良いんですか!」

「はい。おそらくここのぶどうはアルカリ性の土壌を好むようなのでそれで良いと思います」

 クリスは立ち上がると近くにいた使用人にすぐに消石灰を撒くように指示をした。使用人たちは慌ててテントを出て行った。クリスは使用人がテントを出て行ったのを見届けると私の隣に座って話してきた。

「本当にあなたはどうして、そんなことを知っているのですか?」

「私は……」

 私はクリスに本当のことを言おうと思った。

「私は、本当はここに居てはいけない者なんです。他の世界から転生してきたのです」

「他の世界から転生?」

「はい。私の元々住んでいた世界は、ここよりも遥かに発達した文明を築き上げた社会でした」

「それで聞き慣れない言葉を知ってるのですね」

「こんな変な話を信じてくれるのですか?」

「あなたが言うことは真実だと思っています」

「私は本当は、ここに来てはいけないのかもしれない。ティアラの人生を私は奪ってしまった。本当はあなたとここでこうして会うのはティアラであって私ではなかった」

「そんなことはない。あなたはティアラです。神様は何かあなたに重要なことを託すためにあなたをこの世界に転生したに違いない。あなたは胸を張って生きるべきだ!」

 私は泣きながらクリスと話していた。クリスはポケットからハンカチを出すとそっと私に渡してくれた。私はハンカチを受け取ると涙を拭いた。私がふとクリスを見るとクリスは私の手を両手で優しく包んでくれた。クリスは私の顔を見つめながら、ゆっくりと私の顔に自分の顔を近づけてきた。

 私はこのままクリスにキスされるの? 私は初めてのキスにどうしていいか分からなくなった。鼓動が激しくなってクリスに聴かれるんじゃないかドキドキした。もう少しでクリスの唇がつく寸前で私はクリスから顔を背けてしまった。

「待って。ごめんなさい」

 クリスは心配した表情で私を見ていた。

「私……初めてで……どうしていいか分からないの……」

「い……いいんだよ。僕のほうこそごめん。泣いている君がとても愛おしくて、つい……」

 私たちは暫く無言のままその場に座っていた。暫くして使用人が来て私たちを呼んだ。

「お坊ちゃん方帰りの準備が整いました。こちらにいらしてください」

 私とクリスは来た時と同じように二人でニトに乗って帰った。

 ◇

 私たちは馬車に乗り私の家へと帰っていた。二人とも昼間のことがあり気まずい雰囲気のまま馬車に揺られていた。私はこんなことならキスしてればよかったと後悔した。

 あと少しで家に着くと思った時、いきなり馬車の前に男が飛び出してきた。私たちの乗っていた馬車の馬がびっくりして急停車した。使用人はいきなり出てきた男に罵声を浴びせていたが、男は何食わぬ顔で立っていた。私は馬車の窓から男を見ると私やクリスと同い年くらいの若い男で身長が高く体はがっしりしていた。

 クリスが馬車から出て男に話しかけた。

「君は誰だ? 私に何か用事があるのか?」

「俺の名前はレンだ。この前俺の仲間に手を出したのはお前か?」

 クリスが仲間?、と不思議に思っていると、この前私たちに因縁をつけてきてクリスに返り討ちにあった二人組の男が路地から出てきてレンという男に話した。

「レンの兄貴、こいつだぜ。俺たち二人をやりやがったのは!」

 クリスは二人の男を見て思い出したようだった。

「君たちは……、そうか君が彼らの頭なのか?」

「そういうことだ! この俺が仲間の借りを返してやるよ!」

 レンという男はそう言うとクリスに突っ込んできた。クリスは男の攻撃を躱して反撃しようとしたが、クリスの攻撃もレンという男は躱していた。レンは頭というだけあってこの前の二人組みと違ってかなり喧嘩慣れしているようだった。レンはクリスの攻撃を防ぐとクリスの腹に目掛けてボディーブローをした。

 レンの拳がクリスの腹にヒットしてクリスはそのままうずくまってしまった。レンはそのままうずくまって動かなくなったクリスの顔面に蹴りを入れるとクリスは道路脇の水田に吹っ飛んだ。

 私はすぐに馬車から降りるとクリスを助けようと水田に入っていった。レンは私の姿を見て驚いた表情を見せた。私はクリスの顔を両手で抱えるとレンを睨みつけた。

「なんで! こんなひどいことをするの?!」

「俺の仲間に手を出したからだ」

「クリスは、私のためにあの人たちと戦ってくれたのよ!!」

「何? お前たちが先に喧嘩を吹っかけてきたんじゃないのか?」

「違うわ! 先にあの人たちが私のことを侮辱したからクリスが庇ってくれたのよ!」

「なんだと!!」

 レンは仲間の二人を睨みつけて、この女の言ったことは本当か?、と問いただした。二人組の男は、い……いや……そ……そいつらがイチャイチャしてたから……つい、と言った瞬間、二人の男はレンにぶっ飛ばされていた。二人組の男は顔を腫らして逃げていった。

「悪かったな……」

 レンという男はそう言うとゆっくりと去っていった。

 私は水田の中で泥だらけになりながらクリスに肩を貸して歩いて水田を出た。幸い自宅の近くだったので、クリスに自宅の風呂を貸そうとしたが、クリスは無言で断った。

 私たちは昼間の気まずい雰囲気のまま別れた。
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