不滅のティアラ 〜狂おしいほど愛された少女の物語〜

白銀一騎

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〜シンデレラガール〜

ダンジョンの死闘

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 エリカは薄暗い洞窟の中を急いで走った。

 足元が見えないため躓いて何度も転んでしまった。気がつけば膝から血が出ていたが、今はそんなことを気にしている余裕はない、なんとしても応援を呼びに行かなくては、必死の思いがエリカを奮い立たせていた。

 ようやくダンジョンの出口が見えて来た時、『グォオオオーー!!』という叫び声を上げながら何かが後ろから追いかけて来るのが分かった。

 エリカが驚いて後ろを振り返ると、ゴブリンソルジャーが追いかけてきた。しかも先程ティアラたちを襲ったゴブリンソルジャーとは大きさも色も違っていた。

(別のゴブリンソルジャー? 二体もいた? そんなことはありえないわ)

 エリカは自分の目を疑った。こんな町の近くのダンジョンで超危険な魔物が二体も潜んでいるなんて冗談にもならない。

 エリカはダンジョンを飛び出た。近くに隊列を組んだ騎士科の生徒がいたので急いで助けを求めた。



「ゴブリンソルジャーだと?!!」

 騎士科の先生はエリカの報告に驚いた表情を見せた。ゴブリンソルジャー一体で1個小隊に匹敵する力を持つといわれている。城に援軍を呼ぶしかなかったが、そうするとダンジョンの中にいる生徒の命がなくなるだろう。

 どうしようか迷っていると、生徒の一人が、何かダンジョンから出てきました、と叫んだ。騎士科の生徒が指差した先にゴブリンソルジャーがいた。

「ほ……本当に、ゴブリンソルジャーがいるのか」

 騎士科の先生は信じられないと言った顔をして、生徒に声をかけた。

「A級騎士の者は隊列を組んでアイツを足止めするぞ! B級騎士の者は別れて仲間を呼んできてくれ、大丈夫日頃の訓練どおりやればなんとか時間稼ぎにはなるだろう」

 そう言うと隊列を組んでゴブリンソルジャーに立ち向かっていった。エリカは助けを呼びに行く生徒を捕まえた。

「レンは? 金の飾緒しょくしょの付いた校章の生徒はどこにいますか?」

 エリカはレンなら助けてくれるのではないかと思った。

「あっちだ! レンは近くの森にいる」

 一緒に馬に乗って行こう、騎士科の生徒はそう言って馬に乗るとエリカに手を伸ばした。エリカと騎士科の生徒は一緒に馬に乗ってレンの元に急いだ。

 ◇

「何だと? どこだ! 案内しろ!!」

 レンは馬にまたがると怒鳴りながらエリカに近づいてきた。教官は慌ててレンを制した。

「まて、ゴブリンソルジャーが相手では、お前でも無事ではすまないぞ」

「それがどうした! どけ!」

「一人では行かせられない! 援軍が来るまで待つんだ!」

「うるさい! オレ一人で十分だ! こうしている間にもティアラやアルフレッド王子の身に危険が迫っているんだぞ! エリカ俺をダンジョンまで案内しろ!」

「わ……分かった。ここに居る者だけでも助けにいこう」

 教官はレンの剣幕に押されて渋々助けに向かった。

 ◇

  騎士科の生徒たちは必死でゴブリンソルジャーに立ち向かっていたが、まるで刃が立たなかった。ゴブリンソルジャーの一撃で枯れ葉のように簡単に吹き飛ばされた。誰もがこのままでは全滅になると思っていた時に『ヒヒーーーン!』ダンジョンの入口近くの丘の上から一頭の黒馬が現れたと思ったらいきなり丘の上から飛び降りてきた。

 黒馬の上にまたがっていたレンはすぐに黒馬から飛び降りるとゴブリンソルジャーと対峙した。

「誰だあれは?」

「レンだ! 特待生のレンだ!」

「レンが来てくれた!」

 騎士科の生徒は色めき立った、今やレンは騎士科の生徒から絶大な信頼を置かれていた。

 レンは背中に背負っていた大剣を柄から取り出すとすぐに走って敵に突っ込んだ。

「どけーーー!!」

 大剣を頭上に高々と振り上げてゴブリンソルジャーの頭からそのまま大剣を叩きつけたが、ゴブリンソルジャーは手に持っていた鉄棒でレンの攻撃を弾き返した。

 攻撃を弾かれて体制を崩したレンの脇腹にゴブリンソルジャーの振り払った鉄棒が体にめり込み、レンは吹き飛ばされた。遠くの大木の幹に激突して口から血が大量に溢れ出た。

「レンでも歯がたたないのか?」

「レンを守るぞーー!!」

 騎士科の生徒たちはゴブリンソルジャーからレンを助けようと隊列を組んで行く手を阻んだが、ゴブリンソルジャーの攻撃になすすべなく次々に吹き飛ばされていった。

 レンの目にその光景が映った。

(俺はこの程度の力しかないのか……、こんなモンスター一体も倒せないなんて……、こんなことで好きなやつを守れるのか?、もう二度とあいつの前で負ける自分を見せたくない……)

 レンは自分が不甲斐なく思い、目から涙が出た。涙でいっぱいになった目で自分の大剣を見た時に王宮騎兵団のゴルドンの言ったことを思い出した。

『神経を極限まで研ぎ澄ませ! 自分を信じろ! 限界を超えられる者は自分を信じることのできる者だけだ!! 俺はお前を信じてる。己を信じればお前の剣で切れぬものはない!!』

(悪いな……ゴルドンのおっさん。小さい頃から札付きの悪だった自分を信じることなんて俺にはできないんだよ…………。でもティアラと出会って、あいつを守りたいというこの気持ちだけは信じることができる……だから……)

「俺はティアラを守りたい。この気持には絶対揺るがない自身がある!! 俺自身を信じて命をかけるよりも、ティアラを失いたくないこの気持に、この思いにだったら、俺は命をかけることができる!!」

 ゆっくりと立ち上がって大剣を両手で握りしめると力が溢れて来るのが分かった。

「もう二度と負けることはできないんだよ! 俺は折れない! 二度と……二度と折れるわけにはいかないんだよーーーー!!!!」

 そう言うとレンの体から赤い気が溢れ出した。やがて全身を赤い炎のような気の塊に包まれた。どんどん赤いオーラーがレンの体から溢れ出すとやがて赤から黒い色に変化した。

「なんだ? あれは? ま……まさか?」

「せ……先生! レンの体のあれはなんですか?」

「あ……あれは、かつて剣聖と呼ばれた者にだけまとうことができる漆黒のオーラかも知れない」

「なんですかそれは?」

「私にもわからない。このダグラス大陸の長い歴史の中でも剣聖と呼ばれたのは、剣聖エナジーだけだ。言い伝えによるとエナジーは漆黒のオーラを纏いあらゆる魔物を一撃で倒したとされる伝説の人物だ」

「レンの体から出ている漆黒のオーラが剣聖のオーラですか?」

「はっきりと断定はできないが……そうとしか思えない。剣聖エナジーはその漆黒のオーラを体に纏って戦ったことから別名漆黒のエナジーと呼ばれていた」

 騎士科の生徒たちの前で黒いオーラに包まれながらレンはゆっくりと立ち上がった。

 レンは覚醒していた。呼吸の一つ一つが辺りの自然に溶け込んでいく、騎士科の生徒たちのはく息の音や鼓動までが鮮明に聞こえてきた。今なら遠くで針を一本落としてもはっきりと落ちる音が聞こえるだろう、それほど神経が研ぎ澄まされて行くのを感じていた。

「この振り下ろす一撃に俺のすべてをかける!」

 そう言うと再びゴブリンソルジャーに突っ込んでいった。

「うぉぉおおおおおおーーーーーー!!!」

 大剣を頭上に高々と振り上げてゴブリンソルジャーの頭からそのまま大剣を叩きつけた。ゴブリンソルジャーは頭の上で防御しようと鉄棒を横にしたが、レンの攻撃で鉄棒は真っ二つに切れ、そのまま肩から袈裟斬りに切られた。

「ギャーーー!!!」

 ゴブリンソルジャーは断末魔の悲鳴を上げて吹き飛ばされた。2つの肉塊となったゴブリンソルジャーはその場で絶命した。

「う……うそだろ……」

「あのゴブリンソルジャーを一撃で………」

 あまりの出来事にその場にいた騎士科の生徒たちは声が出なかった。騎士科の先生も目の前の光景が信じられなかったが、確かなことを生徒たちに伝えた。

「やはり伝説は間違っていなかった。今日お前たちは歴史的な光景を目にした。剣聖の誕生だ! 漆黒のレンが誕生した」

「うおおおおおお~~~~~!!!!」

 生徒たちは腕を振り上げてゴブリンソルジャーを倒したレンに最大の賛辞を示した。レンはゴブリンソルジャーの死体を尻目に早く行くぞ!、と唖然としているエリカに声をかけた。

 エリカはすぐにレンを見るとは……はい、と言って二人はティアラ達を助けるためにダンジョンに入った。
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