不滅のティアラ 〜狂おしいほど愛された少女の物語〜

白銀一騎

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〜シンデレラガール〜

ダンジョンの死闘②

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 私とアルフレッドは首にストールを巻いたまま大岩の影に隠れていた。

 このストールは気配を消してくれる効果があったが、二人で使用するには短すぎたため、アルフレッドの顔のすぐ横に私の顔が密着するような格好になりすごく恥ずかしかった。だが今はそんなことを気にしている場合ではなかった。

「このままここに隠れてやり過ごそう」

 アルフレッドが耳元で囁いた。少しびっくりして声が出そうになったが、堪えて首を縦に振って了解の意思表示をした。

「あいつ匂いで俺たちを探しているみたいだな」

 アルフレッドに言われてゴブリンソルジャーを見ると確かに鼻をヒクヒクさせて私たちを探しているように見えた。

「まずいなこのままでは見つかるのは時間の問題だな」

「そんなに鼻がいいの?」

「確かブタ並みに嗅覚が優れていると聞いたことがある」

「ブタ並み?」

 確か犬よりも特定の匂いを感じる力は優れていると聞いたことがあった。それが本当ならばアルフレッドが言ったように見つかるのは時間の問題だろう。

 私は道具箱から出したガソリンの入った瓶を握りしめてアルフレッドに言った。

「アルフレッドお願いがあるの。私がこの瓶をあいつにぶつけるから当たったらファイアーボールを当ててほしいの」

「ああ、そんなことならお安い御用だ」

「それと、ファイヤーボールを打った後はすぐにこの場から離れてほしいの」

「そ……そんなに? その瓶に入っているものはすごいのか?」

「ええ、洞窟のような閉鎖された場所で使うものではないわ」

「お前がそこまで言うんなら、そうなんだろうな。わかったファイアーボールを打ったらすぐに一緒に避難しよう」

 ゴブリンソルジャーはゆっくりと確実にこちらに近づいてきた。

 私が岩陰から顔を出した時、ゴブリンソルジャーと目が合った。目が一瞬輝いたと思ったら咆哮を上げてこちらに突進してきた。

「気づかれたわ!」

 私は手に持っていたガソリンの入った瓶をゴブリンソルジャーに投げつけた。

 瓶がゴブリンソルジャーに当たると瓶の蓋が外れてガソリンまみれになったのを確認するとアルフレッドに合図をした。

「今よ!! ファイヤーボールを打って!!」

 アルフレッドがファイヤーボールを放つとゴブリンソルジャーはあっという間に炎に包まれた。

「ギャーーーー!!!!」

 業火に包まれながら苦しそうにのたうち回るゴブリンソルジャーを置いて私たちは洞窟の出口へと急いだ。

 私は時々振り返りながら後ろを確認してゴブリンソルジャーが追いかけてこないか心配していた。誰も追いかけてこないところを見ると炎で倒したのかもしれない。私がそう思っていると前方から『グォオオオーーーー!!」という咆哮と共に一際大いゴブリンが現れた。

「そ……そんな……」

「グォオオオオオオオーーー!!!」

「なんだあれは?」

 前方に現れたゴブリンはそれまでの奴とは体の大きさが大きいだけではなく、身につけている装備も桁違いに洗練されていた。

「あ……あれは、まさか? ゴ……ゴブリンロード?」

「ゴブリンロード? ゴブリンの王ということ?」

「そ……そういうことだ……畜生、生きてここから出られる気がしなくなってきた」

 ゴブリンロードは私たちを見つけるとゆっくりとこちらに近づいてきた。

 私はあまりの怖さに足がガクガクと震えて動かなかった。震えて動かない足を懸命に動かして精一杯逃げようとしたが、すぐにゴブリンロードに追い詰められた。

 怪物は私の前に仁王立ちになるとずっと私を見ていた。

「どけー!!」

 アルフレッドが叫び声を上げながら、ゴブリンロードに攻撃したが、片手で弾き返された。私を守るために攻撃をしていたが、全く歯が立たない。次第に疲れて攻撃ができなくなったところでゴブリンロードに吹き飛ばされて洞窟の壁に強か体をぶつけて気を失って倒れた。

「もうやめてーーー!!」

 私が叫ぶと怪物はこちらをみて再びゆっくりと近づいてきた。

 ゴブリンロードは私の前まで来ると手を伸ばして私の道具箱を強引に引っ張ると取って中を見た。ガソリンの入った小瓶を取り出すと蓋を開けて匂いを嗅いだ瞬間驚いた表情で私を見た。

「グォ! グォ!」

 瓶を指差して、次に私を指差した。これはお前が作ったものなのか?と聞いているようだったので、私はうなずいた。

 ゴブリンロードは瓶の蓋をして道具箱の中にしまうと私に返そうとしたが、すぐにまた道具箱を引き寄せてじっと道具箱を見ていた。

 私が道具箱に書いた絵をじっと見ているようだった。しばらくの沈黙の後、水滴が私の手の上に落ちてきた。私は何かと思って上を見上げるとゴブリンロードが私の絵を見て泣いているのが分かった。

 怪物は泣きながらゆっくりと屈むと手を伸ばしてきた。私が怖くて固まっていると怪物は大きな手で顔を優しくなでてきた。私は何故か怪物の手に触ってみたくなり怪物の大きな手を触った。大きな手はゴツゴツとしていたが触ると怖さが和らいでいくのが分かった。怪物の目を見ると優しい目をしていた。

 しばらくの間そうしていたが、突然洞窟の奥から咆哮が聞こえて心臓が口から飛び出そうなほど驚いた。

「グォオオオオオーーーー!」

 突然洞窟の奥から咆哮とともにゴブリンソルジャーが姿を表した。私がガソリンで攻撃した奴だった。

 体が黒焦げになったゴブリンソルジャーは私を見つけると勢いよく走って来た。

「キャーー!」

 私が襲われると思った瞬間、ゴブリンロードは剣を取り出してソルジャーの首をはねた。ものすごい早業で目に見えなかった。ソルジャーは一瞬で力なく床に転がった。

「助けてくれたの?」

 私が怪物に声をかけると一瞬笑ったように見えた。

「そこから退けーーーー!!」

 何かがゴブリンロードに襲いかかった。ゴブリンロードはすごい速さで剣を交わすと何者かと対峙した。

「ティアラ大丈夫か? 怪我はないか?」

「ええ。大丈夫よ」

 声の主はレンだった。私が返事をするとエリカがティアラ様ーー、と言って抱きついて来た。

「心配しましたーー」

「ありがとう。エリカ、私は大丈夫よ」

 エリカは私に抱きつくとエンエンと泣いていた。私はレンを見てびっくりした。全身に何か黒いオーラのようなものを身にまとっていた。

「レンやめて! そのゴブリンは私を助けてくれたのよ」

「なに? 本当か?」

 レンは半信半疑といった様子だったが剣を下げるとゴブリンロードも剣を下げて戦うのをやめた。私がほっとしているとゴブリンロードは私をみて微笑むと走って洞窟の外へ出ていってしまった。

「待って!!」

 私が止めるのも聞かずに走っていきゴブリンロードの姿はすぐに見えなくなってしまった。
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