不滅のティアラ 〜狂おしいほど愛された少女の物語〜

白銀一騎

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〜lovin’ you〜

タイヤとサスペンション

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 アスペルド教団との戦争を回避した私は無事家に帰った。

 家の玄関を開けると母親が心配した顔で私の帰りを待っていた。

「ティアラ無事だったのね」

「ええ。心配かけてごめんなさい」

 心配した母親は私の無事を喜んでくれた。

「戦争は回避できたのね?」

「ええ。でも、1ヶ月後にガンドールというアスペルド教団の町に行くことになったわ」

「ガンドール? どうしてそこに行かなくては行けないの?」

「アスペルド教団の生誕祭があって、そこで今回の私が行った医療行為がアスペルド教団の思想に反していないか説明する事になったの」

「そ……そうなの? 分かったわ。お母さんはティアラを信じているから、あなたのやったことは教団の思想には背いていないわ。だってあなたのおかげで多くの人が助かったんだもの」

「ありがとう。それで……? お父さんは?」

「それが……、ベッドで横になっているわ」

「え? どこか体が悪いの?」

「ええ。少し腰を悪くしたみたい」

「え? 腰を? どうして?」

「昔から辻馬車で生計を立てている人は腰を悪くする人が多いのよ。ずっと馬車の硬い椅子に乗っているから腰を悪くするのは職業病のようなものね」

「そ……そんな……」

 私はすぐに父の部屋に様子を見に行った。

 父はベッドに寝ていたが私に気づくと上体を起こそうとしたのですぐに止めた。

「無理しないで」

「あぁ。大丈夫だよ、気にしないでいいよ」

 腰に分厚い布を巻きつけていて、とても痛そうに見えた。

「戦争は回避できたのか?」

「ええ。なんとか収まったわ」

「そうか。それは良かった」

 私は父にガンドールに行くことを話した。

「ガンドールか。遠いな……」

「そんなに遠いの?」

「ああ。順調に行っても一週間はかかるだろう」

「そんなに……遠いね……」

「ああ。俺の腰がこうじゃなければ連れていってやれるのに……」

「大丈夫よ。無理しないで。でも……、いつから腰を悪くしていたの? 全然気づかなかったわ」

「ああ。いつというのはわからないんだよ。どんなに気を使っても長年馬車に乗っているとこうなってしまう。どうも腰だけはどうやっても守ることができないみたいだ」

「そんな……」

「大丈夫だよ。この仕事は私が好きでやっている仕事だからね。ティアラが思い悩む事はないよ」

 私は馬車の硬い椅子にずっと座って家族のために働いてきた父を不憫に思った。私達家族はこの父の犠牲の上に安定した生活を送ることができると改めて感じた。

 こんな近くに苦しんでいる人がいたのに気づかなかった自分を責めた。

 そして私の頭の中である思いが浮かんできた。

 よし。今度は腰に負担を掛けない様に乗り心地の良い馬車を作ろう。どんなに遠くても何時間でも乗っていられるそんな馬車を作ろうと思った。

 私は馬車の車輪を木製の車輪からゴムをつけたタイヤに変えようと思い、ゴムの木を探した。ゴムの木は近くの川沿いにたくさん生えていたのを見つけたので、その木の幹を少し削ってゴムの樹脂を取り出した。大量に使用するためバケツ一杯になるまで取り出した。

 次に取り出したゴムの樹脂だけでは柔らかすぎてすぐに切れてしまうので、酢を入れて火にかけて混ぜ合わせた。

 次にタイヤには外皮と内皮があって外皮はかなり固くする必要があるので、エリカに頼んでタイヤの形をしたワイヤーを作ってもらった。それを型枠の中に入れてそこに酢を混ぜ合わせたゴムの樹脂を入れて固めるとゴムタイヤの外皮と内皮ができた。

 タイヤが作成できたと同時にエリカが家にやってきた。

「テイアラ様、お約束の物ができました」

「本当? ありがとう」

 私はエリカに2つの物を注文していた。一つはゴムタイヤを取り付けられる車輪の作成である。 

 流石に木の車輪にそのままタイヤを固定することはできないので、タイヤが固定できるようにリムが付いた鉄製の車輪を作成してもらった。私は早速車輪のリムにゴムタイヤのビード部をはめ込んでゴム製の馬車のタイヤを作ることに成功した。

 2つ目に注文した物はこのゴムタイヤに空気を入れるための空気入れを作成してもらった。

「ティアラ様、これでよろしいですか?」

「うわ! すごい! こんなに立派なもの作成してくれてありがとう」

 空気入れのピストンのハンドルを動かすとシリンダーに付いた管から空気が勢いよく出てきた。

 私は空気入れの作りに感動した。私が知る限り前世の世界でもこれほどしっかり合製できている空気入れは見たことがなかった。それほどしっかりとした作りだった。

「すごいわ。これほど合製がしっかりした空気入れは見たことがないわ」

「ありがとうございます。ティアラ様にそう言っていただけて祖父も喜びます」

「祖父? エリカのおじいさんが作ってくれたの?」

「ええ。そうです」

「おじいさん凄腕の職人さんですね」

「そんな大げさですよ」

「本当よ! お世辞じゃないわ、すごい技術力だわ」

 私がそう言うとエリカはすごく喜んだ。私は空気入れをまじまじと見た。前世の空浮き入れはピストン部に付いたゴムで空気を押し出していたが、この世界にそんな物はなく鉄の合製だけで空気を送り込む構造になっていた。そのためピストン部とシリンダー内部に隙間ができないようにピッタリと作られていた。

 これほどの技術があるなら、この空気入れを少し工夫すれば自動車にも使われていたサスペンションが作れるのでは?と思った。

 空気入れのピストン部の中に太いスプリングを入れて馬車のシャフトと車輪に固定すれば振動を大幅に軽減できると思った。

 私はエリカに鉄製の大きいスプリングの作成と空気入れの改造を頼んでこの日は別れた。エリカの祖父の技術力に期待した。

 それから数日後にエリカがサスペンションを持ってきた。私は早速クリスのパープル商会に頼んで荷台が鉄製の馬車を譲ってもらいそれをエリカの家が運営している製錬所へ運ぶと馬車にタイヤとサスペンションを取り付けてもらった。

 私はこの世界にゴムのタイヤとサスペンションを取り付けた、乗り心地が最高の馬車を開発することに成功した。ただ一つ残念なのはショックアブソーバーも作成しようとしたが、オイルを密閉できるような精密な技術は流石にできなかったので断念した経緯があった。それでも空気の入ったタイヤとサスペンションのスプリングの効果で悪路でも振動を吸収してしまうので馬車の乗り心地は桁違いに良くなった。

 私は早速父にこの馬車の乗り心地を試してもらった。

「こ……これは! こんなに揺れの少ない馬車に乗ったのは初めてだよ! これは本当に馬車なのか?」

 父は心底驚いた表情で馬車を操舵していた。また嬉しいことにクリスがこの馬車を父にプレゼントしてくれた。

「本当に良いの?」

「良いんだよ。君が作ったんだ。その権利があるさ」

「ありがとう、クリス」

 私は嬉しくてクリスの横顔を見つめていた。クリスは良いんだよ、と言いながら真剣な目で私を見ると話題を変えた。

「そういえばガンドールに出発する日が決まったよ」

「え? いつに行くの?」

「明後日には出発するみたいだよ」

「そ……そう。分かったわ。準備しないとね」

「ああ、僕も一緒に行くから心配しないでいいからね」

「え? クリスも一緒に来てくれるの?」

「当たり前だよ。君のお父さんはまだ回復していなんだから、ガンドールまでは連れていけないだろ。うちのパープル商会が責任を持って君を贈り届けるから心配しないで」

「うん。ありがとう」

「いいんだよ」(僕も一緒にいれて嬉しいよ)

「うん? なにか言った?」

「い……いやぁ、な……何も、こ……こっちの話だよ」

「そう?」

 私はこの馬車で長旅をするのは少し不安に思ったが、耐久性も実験ができるいい機会だと思うことにした。


 私達は明後日ガンドールに向けて出発した。
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