不滅のティアラ 〜狂おしいほど愛された少女の物語〜

白銀一騎

文字の大きさ
46 / 117
〜兄弟の絆〜

抑えきれないこの思い

しおりを挟む
 その日から何故か少しカイトを意識するようになった。

 顔を見て話すことができない。カイトも少し動揺しているのか目を合わせて話をしなくなった。そうされると余計に意識するようになってしまった。

 そんな生活が一週間ほど続いたある日、帰宅したカイトがソワソワしているのを感じた。

 いつもは無言で美味しそうに私の作った手料理を食べているのにその日は何か落ち着かない様子だった。

「な……何か? ありました?」

 私は気になってカイトに聞いてみた。

「い……いや、その……」

 しばらくの間バツが悪そうに言いよどんでいたが、覚悟を決めて話し始めた。

「この前お前が治療した人達を覚えているか?」

「ええ。確かロイさんとマチルダさんとセナさんでしたよね?」

「そうだ。その3家族がお前にお礼がしたいそうなんだ」

「ええ!? お礼?」

「そ……そうだ。お礼として俺たちをホームパーティーに招待したいそうだ」

「ええ……。そうなんですか?」

「行きたいか?」

「ええ。楽しそうなんで行きたいですが……、出席したら私の正体がバレてしまうんじゃないでしょうか?」

「そう。だからずっと断っていたんだが……、その……どうしても来てほしいと懇願されてな……どうだろう?」

「どうだろう? と言われても……。カイトさんはどうしたいんですか?」

「え? お……俺は……」

「私をカイトさんのなんと説明します?」

「え? お前を?」

「そうですよ。私と一緒に住んでいることはあの人達は知っています?」

「い……いや? 知らないと思う」

「私はどこに住んでることにします?」

「そ……そうだな……どこにするか? この辺りに空き家は無いし、そもそも台帳のどこにもティアラという名前が見つからない」

 私達が今住んでいるギルディアは隣のルーン大国と戦争をしていた。そのため人の出入りが厳しく管理されていた。台帳を確認されれば一瞬でバレる。

 招待している彼らはギルディアの国のギルティーと呼ばれる戦士達なので台帳の閲覧はいつでもできるため下手に嘘はつけなかった。

「この際、恋人ということにします?」

「?!……こ……恋人だと!!」

「そうですよ。恋人だったら一緒に住んでいる説明がつきますけど……どうします?」

「う……うーん。その方が変に怪しまれないか……」

「遠くに大きい病院のある街はありますか?」

「ん? 確か……ショランゴという遠くの街に大きな病院がある」

「じゃ、私はそこから来たということにしましょう」

「え?」

「長期休暇が取れたので、その病院からこの町の恋人の家に遊びに来ているという設定にしましょう」

「お……おお。そうだな、うん。それでいこう!」

 カイトはそう言うとテーブルに置いてあった私の手に自分の手を重ねてきた。私はびっくりして手を引っ込めた。

「な……何をするんですか!?」

「こ……恋人ということにするんだから、手ぐらい握れるようにしておかないとすぐにバレるだろ!」

「そ……それもそうですね……」

 私はそう言うとカイトの手を両手で包んだ。

「うっ!」

「どうしました?」

「な……なんでも無い……」

 カイトは顔を真赤にした。色が白いからよく分かる。

「フ……フフッ……」

 いたずらっぽく笑うと怒ったのかますます赤くなった顔で睨みながら立ち上がって、笑っている私の横に座ると肩に手を掛けてきた。

「ど……どうしたんですか?」

 私の顔をじっと見ながら少しづつ顔を近づけてきた。私はキスされると思い目を閉じた。どんどんカイトの顔が近づいて来るのが分かった。顔に鼻息が掛かるほど近づいた瞬間、嫌と小さい声で囁いて顔をそむけた。

 しばらくそのままで硬直していたが、肩に置かれたカイトの手が小刻みに震えて居ることに気がついてそっと目を開けると、声を押し殺して笑ってるカイトの顔が見えた。

 私はすごくバカにされた思いと少し期待していた自分が許せなくなり、肩の手を払いのけると立ち上がった。

「ひどいです! 人のことを笑って!」

「ワッハッハー、だってすごく嫌そうにしてたから」

「そ……そんな……」

「何もキスまでしろとは言わないから安心しろ」

 カイトはそう言うと自室に戻っていった。私はカイトが居なくなるのを確認すると指でそっと唇に触れた。


 カイトは自室の扉を閉めるとドアに背中を押し付けてその場で膝から崩れ落ちた。まだドキドキが止まらなかった。ティアラが小さい声で、嫌と言わなかったらそのままキスしていただろう。あの場面で自分を取り戻せたことが奇跡だと思った。キスしたい衝動を抑えるのがこんなにも辛いものだとは思わなかった。

 カイトは自室の部屋の中を見渡した。部屋の至る所に絵が飾ってあった。その絵はどれも自分が描いた絵であった。

 カイトは絵を描くのが好きだった。兄と一緒に住むことになったは良いが、兄は仕事が忙しく家に帰らない日が続いた。そんな寂しくなった時でも絵を描いていれば忘れることができた。自分が描いた兄の絵を見れば寂しさが少しは紛れるように思った。

 カイトは目の前の額縁に飾られている絵を見た。その絵には兄のマルクスとその横で微笑んでいる女性が描かれていた。その女性は兄の恋人のミラだった。二人は仲睦まじく描かれていた。

 カイトは初めて感じる感情に動揺していた。

(何だこの感情は? 俺が人間などという下等生物を愛してしまったのか? 兄ちゃん……兄ちゃんも同じだったのか?)

 カイトは絵の中のマルクスの隣で嬉しそうに微笑んでいるミラを見た。ミラの耳は伸びていなかった、ミラはルーン大国の人間だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

【完結】異世界リメイク日和〜おじいさん村で第二の人生はじめます〜

天音蝶子(あまねちょうこ)
ファンタジー
壊れた椅子も、傷ついた心も。 手を動かせば、もう一度やり直せる。 ——おじいさん村で始まる、“優しさ”を紡ぐ異世界スローライフ。 不器用な鍛冶師と転生ヒロインが、手仕事で未来をリメイクしていく癒しの日々。 今日も風の吹く丘で、桜は“ここで生きていく”。

黒騎士団の娼婦

イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

処理中です...