不滅のティアラ 〜狂おしいほど愛された少女の物語〜

白銀一騎

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〜兄弟の絆〜

貧民街の倉庫

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 カイト達三人は市場の近くの貧民街の中に入って行った。

 貧民街の路地は狭く昼間でも薄暗くてジメジメしていた。所々にボーッとただ空を見つめている人や小さい子供がボロボロの身なりでただ呆然と座っていた。

 戦争で家や家族を失って働く気力もなく呆然としている人のようだった。カイトたちは戦争で両親も亡くなり孤児が増えていると聞かされていたがこれほど多いとは思わなかった。

 貧民街の中心に行くにつれて家も簡素な物が多くなっていった。強風が吹けば崩れそうな家々の脇を、ティアラが目印に残してくれた魚の鱗を頼りに進んでいくと大きな鉄の門のある家の前にたどり着いた。

「ん? こ……これは?」

 ロイが道のあちこちに落ちている物に気がついた。

 カイトが落ちていたものを手に取るとそれは割れた小瓶や注射器の破片だった。そして周りを見るとぬかるんだ地面に足跡がいくつもあった。鉄の扉には泥の手形が着いていた。その泥の手形は子供のように小さい手形だった。

 カイトはその小さい手形を愛おしそうに触ると拳を握りしめて怒りに震えた。

 地面にあるいくつもの足跡とこの手形を見るだけで、ここでティアラが何者かに襲われたことが容易に想像できた。

「こ……この手形は?」

「ああ。間違いないティアラのだ!」

「隊長! あそこ!」

 鉄の門の上部の格子から中を覗いていたロイが指を指しながら叫んだ。

 指している先を見ると門の中の左側の壁に同じ形の手形がはっきりと確認できた。

「ティアラはこの建物の中に連れて行かれたようだな」

「た……隊長……」

「お前たちはここで待機しろ」

「は……はい。わかりました!」

 ロイはすぐに返事をして震えながら後退すると、妻のリンの腕を掴んだ。

「え? ちょ……、いくらカイト隊長でも一人で乗り込むのは危険じゃないかしら? 相手は何人いるのかわからないのよ」

 リンは不服そうに夫のロイに訴えたが、ロイは震えながら言った。

「隊長がギルティーに入隊したのが15歳の時なんだ」

「え? そんなに若くしてギルティー入隊するのは無理よ」

「そうだ、いくら才能がある人間でも20歳前にギルティーに入隊することは不可能と言われていたが、隊長は最年少記録を5歳も引き下げた。それはあるスキルを開眼したからだとされている」

「あるスキル? カイト隊長は何のスキルを持っているの?」

「この世界の魔法属性最強のスキル雷帝の称号を隊長は持っている」

「ら……雷帝! し……神格スキルってやつ?」

「そうだ、この世界にある4つの神格スキル、勇者・剣聖・聖女・雷帝の雷帝だ」

 リンはカイトを見た。目の前にいるカイトは徐々に髪が逆立っていき体から雷のような電撃がいくつも走っいていった。それに呼応するようにだんだんと空が曇っていき、気がつけば空いっぱいに雷雲が広がっていった。

「スキルで天候も変えてしまうの?」

「ああなった隊長には誰も近づけない。近くにいるだけで電撃に当たって危険だ。もう誰にも隊長を止めることはできない」

『ドーーーーーーーーーン!!!!』

 眩しい光が走ったと感じた瞬間、数百キロは優に超えていただろう鉄の門は跡形もなく吹き飛んでいた。カイトの周りに稲妻のような電撃が無数に走る。そのままゆっくりとカイトは一人家の中に入って行った。

 ◇

 大きな倉庫のような建物の中に様々なものが所狭しと置かれていた。二メートルもある大きな仏像や様々な武器や防具や民芸品のような置物が置いてあった。エルフの男たちは荷物を運んだり、品物をチェックしているようだった。

 大男は私を担いだまま倉庫に入っていった。途中で私に気づいた何人かの男に声を掛けられていた。

「ああ、ガルボさん。ん? そ……その抱えてるのは誰ですか?」

 ガルボと言われた大男は何も答えないまま私を抱えながらズカズカと倉庫の中心に私を連れて行くと私を倉庫の床にそっと下ろした。

 男たちは作業の手を止めて一斉に私を見た。

「誰ですか? その女の子は?」

「さあな? 知らん、でも外からこの家を覗いていた」

「え? この家を?」

 男たちは怪しいものを見るように一斉にこちらを睨んできた。男たちの鋭い目つきに目をそらした。

「お嬢ちゃん、どうしてこの家を見ていたんだ?」

 ガルボの質問に答えないで目をそらした。

「もっと顔を見せろ!」

 ガルボはいきなりフードを掴むと後ろに引っ張った。

「なに? こ……こいつは……」

 私はフードを剥がされ頭があらわになった。すぐにあらわになった耳を手で隠したが、時すでに遅く、私がエルフでないことが、ここにいる全員に分かってしまった。

「なんで? ルーン大国の人間がここに?」

「お前、どうやってここに来た?」

 私は観念してすべてを正直に話すことにした。

「私はルーンの国の人じゃないです。手違いでここに居ます」

「ルーンの人間じゃないのか?」

「はい。違います」

「どうやってここに来た?」

「飛行船の中に誤って入ってしまって……」

「ああ。ギルティーの船に乗ってきたのか」

「はい。あ……あの……、私を殺します?」

「は?」

「私のことが憎いんじゃないですか?」

 恐る恐る男たちに聞いてみた。するとガルボと呼ばれた男は大声で笑い出した。

「ガハハハ!!。俺たちはルーンの兵士に対しては恨みを抱いているが、人間全員が憎い訳じゃない」

「え? 本当ですか?」

「ああ。俺たちはルーン大国と闇で取引をしているくらいだからな」

「おいバカ! 喋りすぎだ」

 喋った男はバツが悪そうに舌を出しておどけた。

「それで、お前はここに何をしに来た?」

「あの……マルクスさんという人を探してるんです。あなた達が誘拐犯だと思って……」

「は? 誘拐犯? マルクス? 何を言ってんだ?」

「ガハハハ!!!」

 ガルボは私の言ったことを聞いて再び爆笑した。

「俺達はルーン大国と裏で密輸をしているだけで、誘拐はしていないよ」

「え? その腕のサソリの入れ墨は?」

「ああこれか、これは信仰上のおまじないだよ」

「じ……じゃあ、マルクスさんていう人は?」

「そんな奴は知らないよ」

 私は心の底からガッカリした。うつむいて元気を失った私にガルボが声をかけようとした瞬間倉庫の入り口が光った。

『ドーーーーーーン!!!』

 轟音と共に倉庫の入り口の扉が吹き飛んだかと思うとものすごい速さで誰かが倉庫に入ってきて私の頭の上まで飛んできた。

「そこまでだーーーー!!!」

 頭上から声がしたので見ると金色の髪を逆立てて全身に雷を纏ったカイトが居た。

「え? カイトなの?」

「ティアラ、もう心配するな」

 カイトはそう言うとゆっくりと頭上から降りてきて私の前に立った。

「あ……あんた、誰だ?」

「ギルティークラウンだ!」

 そう言うとガルボのすぐ脇に電撃が走ったかと思うと、轟音とともにガルボの巨体が二メートルほど吹き飛んだ。雷が落ちた地面は真っ黒く焦げて大穴が空いていた。

「ヒィー! あ……あんた、まさか雷帝かよ!」

 雷帝と聞いて男たちは一斉に物陰に隠れた。

「俺を知っているのか?」

「ギルティークラウンの中で一番やばい奴だっていうのは知っているよ」

「知ってるなら話が早い、お前達覚悟しろよ!」

「ちょ……ちょっとまってくれ……、俺達はそのお嬢ちゃんに何もしていないよ」

「何だと? 嘘を付くな!」

 カイトは怒りに我を忘れている様子だったので見かねて声を掛けた。

「カイト、本当よ」

 私はカイトを止めた。

「なに? 本当か?」

「ええ。まあ無理やりここに連れてこられたのはあるけど、それは私が勝手に家の中を覗いていたからで……」

「無理やり連れ込まれたのか!」

 カイトは再びガルボに向き直った。ガルボはカイトに睨まれれてヒィー、と顔を引きつらせた。

「でも、連れてこられただけで危害は加えられていないの信じて……」

「お……お前がそう言うなら……」

 カイトは私の言うことを信じて落ち着きを取り戻した。しばらくすると雷が消えて逆だっていた髪の毛も元に戻った。

 その様子を見たガルボが恐る恐る私達に話しかけて来た。

「どうして、人間とギルティーが一緒にいるんだ?」

「そ……それは……」

 どう説明すれば良いのか悩んでいた。

「何か訳がありそうだな……、どうだ良ければそこのお嬢さんをルーン大国に連れて行ってやるぞ」

「なに? 冗談を言うな」

「冗談?」

「そんなことできるはずないだろ」

 ガルボはしばらく悩んだ末カイトに説明を始めた。

「ギルティーの旦那よ、周りをよく見てみろよ」

 カイトは倉庫にある品々を見た。確かに倉庫の中にはルーン大国の民芸品や武器や防具が所狭しと置かれていた。

「俺達はルーン大国との間で密輸をしている」

「密輸だと? やっぱり犯罪者じゃないか!」

 カイトが身構えるとガルボは狼狽えた。

「ま……待ってくれ。密輸しているおかげでそのお嬢ちゃんを安全にルーン大国に連れて行ってやれるんだぞ」

「そ……それは……」

「お嬢ちゃんもここにいるよりは、ルーン大国に行ったほうが命の危険は無いんじゃないか?」

 カイトは何も言わずに黙り込んだ。確かにこのままギルディアに居れば人間のことをよく思っていない者に命を狙われる危険が常に付きまとう、そのために自由に外出もさせてやれない。

(ティアラのことを思えばその方が良いのかもしれない)

 カイトがしばらく黙っているとガルボの方から提案してきた。

「別に無理にとは言わないよ、三日後にここから幌馬車が出るからルーン大国に行きたければそれに乗せてやるよ」

「本当に安全なんだろうな!」

「ああ。今まで何百回と取引してるけど、一度も危険な目にあったことは無いよ」

「少し考えさせてくれ」

「ああ良いぜ。3日間あるんだ。じっくり考えればいいよ」 

 私達はその後ガルボのいる倉庫を後にして家路についた。
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