不滅のティアラ 〜狂おしいほど愛された少女の物語〜

白銀一騎

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〜兄弟の絆〜

消えたティアラ

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 リンは焦っていた。市場の中をどうして良いか分からずウロウロするしか無かった。

 時刻は昼に差し掛かろうとしていたため、朝よりも人通りは随分と少なくなっていたが、市場の中は広くテントもあちこちにあり巨大迷路のようになっていた。

 それでも市場のテントは等間隔に設置されていたので、人を探そうとすればすぐに見つかるはずなのにいくら探してもティアラは見つからなかった。

 少し買い残したものがあるから待っていてほしい、と頼まれて待っていたが、いつまで経っても一向にティアラは現れなかった。

 リンは居ても立っても居られず市場の奥へとティアラを探しに向かった。途中でティアラと合流できると思っていたが、市場の端についてもティアラはどこにも居なかった。

(え? どこに行ったのかしら? 気が付かないうちにすれ違っていた?)

 ふと現実逃避したい思いが頭をよぎったが、そんなことは無いに等しいのは自分が一番分かっていた。リンはティアラと別れた場所まで戻った。もしかしたらティアラはすでに合流地点で待っているかもしれないと思い戻ってみたが、やはりティアラの姿はどこにもなかった。

(どうしよう……、どこに行っちゃったんだろう?)

 リンが途方に暮れているとリンを呼ぶ声が聞こえてきた。

(……? ティアラ?)

 リンは声のする方へ急いで駆け寄っていった。

「リーーン! リーーーーン!」

 カイトとロイが自分を見つけて走ってきた。

 テイアラは市場に行ってる間にカイトが家に帰って来て自分がいなくなっていると心配するからと言い、置き手紙を書いていた。

 カイトとロイは家の置き手紙を見て心配になり飛んできたようだった。

「ティアラはどうした? どこにいる?」

 カイトはすぐに聞いてきた。

「そ……それが……。見失ってしまって……どこにいるかわからないんです」

「なに? どういうことだ!」

「う……嘘だろ……」

 二人はショックで混乱していたが、すぐに真顔になった。

「とりあえず三人で手分けして探そう!」

 三人は必死でティアラを探した。

 ◇

 私はすぐに怪しいエルフの男たちが消えた路地に向かった。

 少し時間が経っていたので、もう会えないかと心配したが男たちはまだ路地の入り口付近で歩いていた。

 市場の地面は歩きやすいように舗装されていたが、路地裏は舗装も何もされていないデコボコ道で、しかも昨夜に降った雨により大きな水たまりがあちこちにできていてとても歩き難かった。

 男たちは水たまりを難なく飛び越えながらずんずん細い路地を進んでいった。私は水たまりを避けるために道を右往左往しながら見つからないように慎重に尾行した。

 人通りも路地に入ったばかりの頃はまばらだったが、奥に進むにつれて歩いている人はほとんど居なくなっていった。周りを見ても私のような少女が一人で歩いているのは非常に目立った。

 おそらく少女一人で歩いて良いところでは無いと思いかなり怖くなったが、カイトの喜ぶ顔が見たいと思えば恐怖心も無くなった。

 ドンドン奥に進むにつれて鼻をつく匂いが増していった。おそらく市場から出た残飯をこの辺りで処理しているのだろう、残飯を入れていたであろうボロボロになった木箱が道の脇に積み上げられていた。その積み上げられた木箱に隠れて男たちを見ていると一軒の大きな家の中に入って行った。

 私は持っていた魚の鱗を剥がして木箱に貼り付けると男たちの入って行った家の前で立ち止まった。その大きな家には、これまた大きな鉄製の門があり上下それぞれ十センチだけ鉄格子になって、そこから家の中が覗けた。上の鉄格子は高くて覗けないので、しゃがんで水たまりに手を突っ込んで泥だらけになりながら下の格子から中を覗いた。

 門の中の左右は壁になって広い廊下のようになっていた。三十メートルほど進んだ奥には倉庫のようなこれまた大きな扉があった。男たちはその倉庫のような建物の中にゾロゾロと入って行くのが見えた。

 アジトはここで間違いない、そう確信した私は再び魚の鱗をとって門に取り付けた。

「おい!! そこで何している?」

 いきなり後ろから声を懸けられたので、びっくりして持っていた赤マスを泥だらけの地面に落としてしまった。ゆっくりと振り向くと二メートルはあるのではないかと思うほど大きな坊主頭のエルフが立っていた。

 私は落とした赤マスを拾いながらさっさと帰ろうとしたが男に腕を掴まれた。

「聞こえなかったか? ここで何をしている?」

「い……いえ、あの……知り合いが居たような気がして……勘違いだったようです……」

 ごめんなさい、と言ってその場をやり過ごそうとしたが、男は腕を離さなかった。その太い腕を見るとサソリのタトゥーがあった。

(この男もあいつらの仲間にちがいない)

「あ……あの……、離してもらえますか?」

 男の顔を見ると睨んでいた顔がニタァーと不気味に笑っていった。これはまずいと思い大声をあげようとしたがすぐに口を大きな手で抑えられたかと思った瞬間、私の体が宙に浮かんで軽々と担ぎ上げられた。

 私はなんとか逃れようと左右の腕で大男の腕を振りほどこうとしたが、二メートルを超える男になすすべなく捕まってしまった。なんとかリンに気づいてもらえるように腰につけたかばんの蓋を開け中の物を落とした。大男の肩に担がれながら道路に瓶や注射器が落ちているのを見ることしかできなかった。

(カイトごめんなさい)

 カイトの悲しむ顔を想像して自分の浅はかな行動を悔やんだ。

 私は何の抵抗もできずにそのまま倉庫の中に連れていかれた。

 ◇

 カイトは市場の中を必死で探していた。仕事終わりで疲れていたが、そんなことを感じている余裕は無かった。テントに座っている露店の店主にティアラのことを聞いて回ったが、フードを被った小柄な少女を見たとの情報は得られなかった。

(何かおかしい)

 市場が広いとはいえ三人で分かれて探しても見つからないということは考えられない。これだけ探しても見つからないのは誰が考えてもおかしかった。

(ティアラはこの市場の中には居ない)

 市場の真ん中で三人が集まった時、三人とも同じ考えだった。

「リン、確かティアラはまだ買い残した物があると言って市場の奥に向かったんだな?」

「ええ。あっちの方向へ行ったわ」

 カイトたちはティアラがいなくなった市場の奥に入って行った。百メートルほど進むと市場の端に着いたので、カイトはそこから外の住宅街の方を見た。すると向かいの家の壁になにか光るものが見えたので、急いでその壁に向かった。

 家の壁の下にちょうど壁に立てかけるようにして小瓶が置いてあった。

「これは?」

 カイトは小瓶を手に取ると、間違いなくティアラの物だ、と言った。

「ティアラが持っているポーチに入っていた小瓶だ、この中にペストの抗体を入れていたんだ」

 そこから周りを見ると向かいの壁に少しキラリと光るものが見えた。近づいて見ると丸いプラスチックのような物が壁に張り付いていた。

「これは?」

「魚の鱗ですね」

「魚の鱗! 確かティアラに赤マスを買って渡したんだよな!」

「ええ。間違いないわ、これは赤マスの鱗よ」

「そうか! さすがティアラだ! あいつ居場所がわかるように目印を付けてるぞ」

「カイト隊長! あっちの壁にもありますよ」

「よし、これを辿っていけば見つけられるかもしれない!」

 カイトたちは色めき立った。

「こ……この先は……」

 リンが険しい顔をして呟いた。

「どうした? この路地の先に何かあるのか?」

「え……ええ、この先は貧民街で治安が悪いことで有名な場所です」

「な……何だと? は……早く急ごう! 嫌な予感がする」

「そ……そうですね。早くティアラと合流しましょう」

 そう言うとカイトたち三人は魚の鱗を頼りに路地を進んだ。

(ティアラ、絶対に見つけてやるからな!)

 カイトはそう心に誓った。
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