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〜兄弟の絆〜
近衛兵のダンテ
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『サラサラ』と水の流れる音で私は目覚めた、辺りを見渡しても真っ暗な闇が広がっていた。まだ暗闇に眼が慣れていない中で自分が何処にいるのか探った。
ゆっくりと眼が暗闇に慣れていき目の前に大量の水が流れていることに気づいた。ここはどこかの川岸のようだった。少し前にも同じ光景を見たことを思い出し、ここが何処なのか分かった。ここはルーン大国とギルディアを分けるヒロタ川だった。
ヒロタ川の水の流れはこれまで見たことが無いほど穏やかだった。水面には月の光が反射してゆらゆらと揺れて、川辺にはホタルのような虫がひらひらと無数に飛んでいて、幻想的な雰囲気を醸し出していた。
そんな幻想的な川辺に二人の男が立っていた。二人の男を見た途端私は二人が誰なのかすぐに分かった。その光景は私が心から望んだ光景だったからだ。一人は金のロングヘヤーを風になびかせて立っている、カイトの兄のマルクスだった。本人に会ったことは無いが、カイトの部屋で見た兄の絵にそっくりなので間違いない。そしてもう一人は私をギルディアで救ってくれたカイトだった。
二人はヒロタ川の川辺で立っていた。
(カイト。再会できたのね)
私は心から二人の再会を喜んで、祝福しようと近づいたときなんとも言えない違和感に立ち止まった。月明かりに照らされたカイトの顔は涙で溢れていた。最初は久しぶりに会えたことに感動して泣いていると思ったが、近づくにつれて嬉しくて泣いているのではなく、悲しくて泣いているように見えた。マルクスの方を見ると泣き崩れるカイトを無表情に見つめていた。
その顔には感情が無い。
(どうして?)
なんとも言えない不安が襲った。夢にまで見た二人の再会なのに何かが違う。
(カイト!)
私は泣き崩れているカイトに向かって叫んだ。
「カイト!!」
「何だ? いきなりびっくりした!」
目を空けると木目の天井が見えた。
(ここは……どこ? あれは? 夢?)
気がつくと私は布団の中にいた。横には男の人が心配そうに見ていた。男は少し癖のある黒髪でルーン大国の兵士のような格好をしていた。
(この人は? ダンテだったか……、私を解放するように交渉してくれた人?)
「何か、夢を見ていたのか? 随分うなされていたようだが?」
「あ、え……ええ。すごく嫌な夢でした」
私はまだあの夢の嫌な感覚が残っていた、なんとも言い難い不安な気持ちが心を支配していく、部屋には私とダンテの二人だけだった。
「あの、ここはどこですか?」
武家屋敷とも思ったが、作りが民家のような感じだったので、疑問に思って聞いてみた。ダンテはニッコリと笑うと額の汗を拭きながら答えた。
「ああ。ここはあの時の婆さんの家だよ。なんでも香具師の元締めらしいぜ、人は見かけによらないとはよく言ったもんだな」
「そうなんですか。でも……あ、あなたも助けてくれてありがとうございます」
「ん? あ、ああ、別に気にしなくていいよ。それよりも……」
ダンテは私の側に近づいてきた。
「君はギルディアから来たんだって? あっちはどうだった?」
「どう? というのは?」
「いや、君は人間だから、その……ギルディアでは迫害されなかったかな? と思って……」
「あ、ああ。でも、私はあるエルフの方に匿っていただいたので大丈夫でした」
「へえーーー? そんな物好きなエルフもいるいんだ? そのエルフの名前は? わかる?」
「ええ。カイトというエルフです」
「カイト!!」
ダンテは私がカイトと言った瞬間、驚いた表情で肩を両手で鷲掴みにした。
「そ、そいつは、まさかマルクスの弟のカイトか?」
「え……ええそうです。ダンテさんはカイトをご存知ですか」
「ああ。会ったことは無いが、名前は知っている」
「そ、それじゃ。マルクスさんの居場所を知っていますか? カイトはマルクスさんと会いたがっているんです。お願いです居場所を教えて下さい!」
必死でダンテにお願いした。
「マルクスの居場所は……、残念だが知らない」
もしかしたらと淡い期待が高まっていたぶん、ダンテの言葉を聞いてがっかりした。
「カイトはマルクスに会いたがっているのか?」
「はい。ものすごく会いたいと言っていました。私はカイトにマルクスさんに会わせてあげると約束してここに来ました。どうかマルクスさんを探してもらえませんか?」
ダンテはしばらく考えたあと、残念だがそれはできない、ときっぱりと断ってきた。この人はルーン大国の兵士ではあるけれど、私を助けてくれたので、夜叉神将軍の意向に反して協力してくれるのでは? と少し期待したのでショックだった。
「マルクスを探すのは協力できないが、他のことなら何でも言ってくれ。俺に会いたくなったらダンゾウに言ってくれればすぐに駆けつけるよ」
ダンテはそれだけ言うと申し訳無さそうに帰った。私は折角のマルクスさんへの大きな手がかりを無くした。
やっぱりダンゾウさんに頼るしか無い、本当に夜叉人将軍の意向を無視して私の願いを聞き入れてくれるのか不安に思ったが、今はダンゾウさんを信じるしかない。
これからすぐにダンゾウさんの武家屋敷に帰って、二人でマルクスさんを探しに行かなくては、と思っていると、お婆さんが部屋に入ってきた。
「おばあさん!」
「やあ。気がついたのかい?」
「はい。ありがとうございます。傷の手当までしていただいて」
「良いさね、そんなことは、それよりも自己紹介がまだだったね。アタイの名前はゼンナギという者で、このあたりで香具師を営んでいるもんさ」
自己紹介をされたので、私は改めてゼンナギというおばあさんにお礼を言うとにっこり笑った。
「それよりもティアラちゃんはダンテ様と知り合いなのかい?」
「いいえ。初めてお会いしました」
「そうなのかい?」
「はい。あの方はどういった方なのですか?」
「ああ。あの方は夜叉神将軍の近衛兵を仰せつかっているダンテという人です。」
「近衛兵ですか?」
「ええ。まあ早い話が、夜叉神将軍を側で守るボディーガードと言った方がわかりやすいかな」
「ボディーガード? ということは強いんですか?」
「ああ。強いなんてものじゃないよ。この国で一二を争うほどの強者だよ」
私はそうですか、と力なく返事をすると肩を落とした。夜叉神将軍の息はかかっていないと思った人物が、残念ながら側近中の側近だったとは我ながら人を見る目がなさすぎである。
「何か、ダンテ様から言われたのかい?」
「そ……それが……私は、ある人物を探してます」
「へえーー。人を探しているのかい?」
「はい」
「それで? ダンテ様はなんと言ったんだい?」
「それが……、知らないと言われました」
「へえ。そうかい、それは残念だったね。それで誰を探してるんだい?」
「マルクスというエルフの男の人なんですが? 誰に聞いても知らないという返事しか返ってこなくて……」
寂しそうにうつむくと、ゼンナギさんは笑い飛ばした。
「ハッハッハーー。いや笑い飛ばして悪かったね。ティアラちゃん安心しな、アタイラここらではちょっとは顔の知れた香具師一家だからね、何百人という的屋の仲間がいるから人探しはお手のもんだね」
「ほ、本当ですか?」
「ああ本当さ。的屋はね。いろんな町や村を転々とする商売だからね、必ず仲間の誰かは居場所を知っている奴がいるかもね」
そう言うと声を張り上げてヘイジ!、ヘイジ!、こっちにおいでと名前を呼んだ。
「へい。姉さん何か御用でしょうか?」
背の高い男がのそっと部屋に入ってきた。
「ある人物を探してもらいたい。マルクスと言う名前のエルフの男だ。すぐに情報を知ってるやつを捕まえてここに連れてくんだよ」
「エルフの男ですね。分かりやしたすぐに見つけて来やす」
そう言うとヘイジと呼ばれた男は部屋を出ていった。それから本当に一時間もしないうちにヘイジという男は小柄な男を連れて部屋に入ってきた。
「姉さん、こいつがそのエルフの居場所を知っているようです」
ヘイジの隣に気の弱そうな男が緊張して座っている。どうやら隣のヘイジよりもゼンナギさんに対して緊張しているように見えた。私には優しいおばあさんだがやはりその筋の人には恐れられているのが男の態度でひしひしと伝わってきた。
「あんたが知っていることを全部この子に聞かせておくれよ」
「は……はい」
男は、ますます緊張した心持ちでゆっくりと話し始めた。
「ロビナスという大きな川と滝がある場所に何年か前から天狗が住み着いたと言う噂が立ちまして……」
「天狗? それがエルフだと?」
「は……はい」
「はい……って。天狗とエルフでは全く話が違うじゃないか」
「いえそれが、私の仲間がちょうどロビナスを通っている時に誤って、川に落ちてそのまま滝壺に呑まれまして、もうだめだと覚悟したところでその天狗に助けてもらったと言うんです」
「それで? 早く言いなよ」
「その時、天狗だと思っていた男が、よく見るとエルフの男だったそうです」
「なに? それじゃロビナスにエルフの男が居るってんだね」
「はい。あの……でも……」
「でも、なんだい?」
「はい……その……仲間が言うには、そのエルフに俺がここに居ることを誰かに喋ったら、お前を殺すと脅されたそうです」
「なに? それは穏やかじゃないね」
ゼンナギさんはそう言うと黙って考え出した。私はその沈黙を破るように声を出した。
「あの……」
「ん? なんだいティアラちゃん?」
「私、行きます」
「え?」
「私、そのロビナスに行きます」
「んー。でも、その男はちょっと危なそうだね」
ゼンナギさんはしばらく考え込んだ後、ヘイジと言った。
「あんたとヘイロクとユウジンの三人でティアラちゃんをロビナスに連れて行ってやんな。いいかいティアラちゃんにもしものことがあったら、ただじゃ置かないからね」
「へい。姉さん、任せて下さい」
「そんな。これ以上甘えて良いんですか?」
「何言ってんだい。これぐらいどうってこと無いさね。それよりもはやく目的の人物と会えること願っているから無事に返ってくるんだよ」
「はい。ゼンナギさん本当に何から何までありがとうございます」
私はヘイジとヘイロクとユウジンたち四人でマルクスらしきエルフのいる、ロビナスへ向かった。
◇
ティアラ達が旅立った半日後にダンテが再びゼンナギのいる問屋に立ち寄った。
「ティアラはまだ寝てるのか?」
ダンテは女将のゼンナギ婆さんを見つけるとティアラのことを聞いた。
「ティアラちゃんはロビナスに向かいましたよ」
ゼンナギは軽く答えたつもりだったが、ロビナスという地名を聞いた瞬間、ダンテの顔から笑みが消えた。
「ロビナスだと! どうしてティアラはそこに行ったんだ?」
「ティアラちゃんが探している人物が居るという情報があったから……」
ゼンナギ婆さんが最後まで言い終わるうちにダンテはゼンナギの襟首を掴んだ。
「馬鹿野郎、ロビナスにいるエルフは、あいつの探しているマルクスじゃない」
「え? ダンテ様はロビナスにいるエルフをご存知なんですか?」
「ああ。あのエルフにマルクスなんて言ってみろ。すぐに殺されるぞ!」
「で、でも大丈夫ですよ、腕利きの用心棒が三人護衛していますんで……」
「バカヤローーー!! 訓練も受けてない兵士が敵う相手じゃない! あいつは俺よりも遥かに強い」
「そ……そんな……」
ゼンナギはうろたえた。
「出発してどれぐらい経つ?」
「は……半日は経ったかと」
「す、すぐに俺も助けに行こう」
そう言うとダンテはティアラを追いかけるようにロビナスに向かった。
ゆっくりと眼が暗闇に慣れていき目の前に大量の水が流れていることに気づいた。ここはどこかの川岸のようだった。少し前にも同じ光景を見たことを思い出し、ここが何処なのか分かった。ここはルーン大国とギルディアを分けるヒロタ川だった。
ヒロタ川の水の流れはこれまで見たことが無いほど穏やかだった。水面には月の光が反射してゆらゆらと揺れて、川辺にはホタルのような虫がひらひらと無数に飛んでいて、幻想的な雰囲気を醸し出していた。
そんな幻想的な川辺に二人の男が立っていた。二人の男を見た途端私は二人が誰なのかすぐに分かった。その光景は私が心から望んだ光景だったからだ。一人は金のロングヘヤーを風になびかせて立っている、カイトの兄のマルクスだった。本人に会ったことは無いが、カイトの部屋で見た兄の絵にそっくりなので間違いない。そしてもう一人は私をギルディアで救ってくれたカイトだった。
二人はヒロタ川の川辺で立っていた。
(カイト。再会できたのね)
私は心から二人の再会を喜んで、祝福しようと近づいたときなんとも言えない違和感に立ち止まった。月明かりに照らされたカイトの顔は涙で溢れていた。最初は久しぶりに会えたことに感動して泣いていると思ったが、近づくにつれて嬉しくて泣いているのではなく、悲しくて泣いているように見えた。マルクスの方を見ると泣き崩れるカイトを無表情に見つめていた。
その顔には感情が無い。
(どうして?)
なんとも言えない不安が襲った。夢にまで見た二人の再会なのに何かが違う。
(カイト!)
私は泣き崩れているカイトに向かって叫んだ。
「カイト!!」
「何だ? いきなりびっくりした!」
目を空けると木目の天井が見えた。
(ここは……どこ? あれは? 夢?)
気がつくと私は布団の中にいた。横には男の人が心配そうに見ていた。男は少し癖のある黒髪でルーン大国の兵士のような格好をしていた。
(この人は? ダンテだったか……、私を解放するように交渉してくれた人?)
「何か、夢を見ていたのか? 随分うなされていたようだが?」
「あ、え……ええ。すごく嫌な夢でした」
私はまだあの夢の嫌な感覚が残っていた、なんとも言い難い不安な気持ちが心を支配していく、部屋には私とダンテの二人だけだった。
「あの、ここはどこですか?」
武家屋敷とも思ったが、作りが民家のような感じだったので、疑問に思って聞いてみた。ダンテはニッコリと笑うと額の汗を拭きながら答えた。
「ああ。ここはあの時の婆さんの家だよ。なんでも香具師の元締めらしいぜ、人は見かけによらないとはよく言ったもんだな」
「そうなんですか。でも……あ、あなたも助けてくれてありがとうございます」
「ん? あ、ああ、別に気にしなくていいよ。それよりも……」
ダンテは私の側に近づいてきた。
「君はギルディアから来たんだって? あっちはどうだった?」
「どう? というのは?」
「いや、君は人間だから、その……ギルディアでは迫害されなかったかな? と思って……」
「あ、ああ。でも、私はあるエルフの方に匿っていただいたので大丈夫でした」
「へえーーー? そんな物好きなエルフもいるいんだ? そのエルフの名前は? わかる?」
「ええ。カイトというエルフです」
「カイト!!」
ダンテは私がカイトと言った瞬間、驚いた表情で肩を両手で鷲掴みにした。
「そ、そいつは、まさかマルクスの弟のカイトか?」
「え……ええそうです。ダンテさんはカイトをご存知ですか」
「ああ。会ったことは無いが、名前は知っている」
「そ、それじゃ。マルクスさんの居場所を知っていますか? カイトはマルクスさんと会いたがっているんです。お願いです居場所を教えて下さい!」
必死でダンテにお願いした。
「マルクスの居場所は……、残念だが知らない」
もしかしたらと淡い期待が高まっていたぶん、ダンテの言葉を聞いてがっかりした。
「カイトはマルクスに会いたがっているのか?」
「はい。ものすごく会いたいと言っていました。私はカイトにマルクスさんに会わせてあげると約束してここに来ました。どうかマルクスさんを探してもらえませんか?」
ダンテはしばらく考えたあと、残念だがそれはできない、ときっぱりと断ってきた。この人はルーン大国の兵士ではあるけれど、私を助けてくれたので、夜叉神将軍の意向に反して協力してくれるのでは? と少し期待したのでショックだった。
「マルクスを探すのは協力できないが、他のことなら何でも言ってくれ。俺に会いたくなったらダンゾウに言ってくれればすぐに駆けつけるよ」
ダンテはそれだけ言うと申し訳無さそうに帰った。私は折角のマルクスさんへの大きな手がかりを無くした。
やっぱりダンゾウさんに頼るしか無い、本当に夜叉人将軍の意向を無視して私の願いを聞き入れてくれるのか不安に思ったが、今はダンゾウさんを信じるしかない。
これからすぐにダンゾウさんの武家屋敷に帰って、二人でマルクスさんを探しに行かなくては、と思っていると、お婆さんが部屋に入ってきた。
「おばあさん!」
「やあ。気がついたのかい?」
「はい。ありがとうございます。傷の手当までしていただいて」
「良いさね、そんなことは、それよりも自己紹介がまだだったね。アタイの名前はゼンナギという者で、このあたりで香具師を営んでいるもんさ」
自己紹介をされたので、私は改めてゼンナギというおばあさんにお礼を言うとにっこり笑った。
「それよりもティアラちゃんはダンテ様と知り合いなのかい?」
「いいえ。初めてお会いしました」
「そうなのかい?」
「はい。あの方はどういった方なのですか?」
「ああ。あの方は夜叉神将軍の近衛兵を仰せつかっているダンテという人です。」
「近衛兵ですか?」
「ええ。まあ早い話が、夜叉神将軍を側で守るボディーガードと言った方がわかりやすいかな」
「ボディーガード? ということは強いんですか?」
「ああ。強いなんてものじゃないよ。この国で一二を争うほどの強者だよ」
私はそうですか、と力なく返事をすると肩を落とした。夜叉神将軍の息はかかっていないと思った人物が、残念ながら側近中の側近だったとは我ながら人を見る目がなさすぎである。
「何か、ダンテ様から言われたのかい?」
「そ……それが……私は、ある人物を探してます」
「へえーー。人を探しているのかい?」
「はい」
「それで? ダンテ様はなんと言ったんだい?」
「それが……、知らないと言われました」
「へえ。そうかい、それは残念だったね。それで誰を探してるんだい?」
「マルクスというエルフの男の人なんですが? 誰に聞いても知らないという返事しか返ってこなくて……」
寂しそうにうつむくと、ゼンナギさんは笑い飛ばした。
「ハッハッハーー。いや笑い飛ばして悪かったね。ティアラちゃん安心しな、アタイラここらではちょっとは顔の知れた香具師一家だからね、何百人という的屋の仲間がいるから人探しはお手のもんだね」
「ほ、本当ですか?」
「ああ本当さ。的屋はね。いろんな町や村を転々とする商売だからね、必ず仲間の誰かは居場所を知っている奴がいるかもね」
そう言うと声を張り上げてヘイジ!、ヘイジ!、こっちにおいでと名前を呼んだ。
「へい。姉さん何か御用でしょうか?」
背の高い男がのそっと部屋に入ってきた。
「ある人物を探してもらいたい。マルクスと言う名前のエルフの男だ。すぐに情報を知ってるやつを捕まえてここに連れてくんだよ」
「エルフの男ですね。分かりやしたすぐに見つけて来やす」
そう言うとヘイジと呼ばれた男は部屋を出ていった。それから本当に一時間もしないうちにヘイジという男は小柄な男を連れて部屋に入ってきた。
「姉さん、こいつがそのエルフの居場所を知っているようです」
ヘイジの隣に気の弱そうな男が緊張して座っている。どうやら隣のヘイジよりもゼンナギさんに対して緊張しているように見えた。私には優しいおばあさんだがやはりその筋の人には恐れられているのが男の態度でひしひしと伝わってきた。
「あんたが知っていることを全部この子に聞かせておくれよ」
「は……はい」
男は、ますます緊張した心持ちでゆっくりと話し始めた。
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「天狗? それがエルフだと?」
「は……はい」
「はい……って。天狗とエルフでは全く話が違うじゃないか」
「いえそれが、私の仲間がちょうどロビナスを通っている時に誤って、川に落ちてそのまま滝壺に呑まれまして、もうだめだと覚悟したところでその天狗に助けてもらったと言うんです」
「それで? 早く言いなよ」
「その時、天狗だと思っていた男が、よく見るとエルフの男だったそうです」
「なに? それじゃロビナスにエルフの男が居るってんだね」
「はい。あの……でも……」
「でも、なんだい?」
「はい……その……仲間が言うには、そのエルフに俺がここに居ることを誰かに喋ったら、お前を殺すと脅されたそうです」
「なに? それは穏やかじゃないね」
ゼンナギさんはそう言うと黙って考え出した。私はその沈黙を破るように声を出した。
「あの……」
「ん? なんだいティアラちゃん?」
「私、行きます」
「え?」
「私、そのロビナスに行きます」
「んー。でも、その男はちょっと危なそうだね」
ゼンナギさんはしばらく考え込んだ後、ヘイジと言った。
「あんたとヘイロクとユウジンの三人でティアラちゃんをロビナスに連れて行ってやんな。いいかいティアラちゃんにもしものことがあったら、ただじゃ置かないからね」
「へい。姉さん、任せて下さい」
「そんな。これ以上甘えて良いんですか?」
「何言ってんだい。これぐらいどうってこと無いさね。それよりもはやく目的の人物と会えること願っているから無事に返ってくるんだよ」
「はい。ゼンナギさん本当に何から何までありがとうございます」
私はヘイジとヘイロクとユウジンたち四人でマルクスらしきエルフのいる、ロビナスへ向かった。
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ティアラ達が旅立った半日後にダンテが再びゼンナギのいる問屋に立ち寄った。
「ティアラはまだ寝てるのか?」
ダンテは女将のゼンナギ婆さんを見つけるとティアラのことを聞いた。
「ティアラちゃんはロビナスに向かいましたよ」
ゼンナギは軽く答えたつもりだったが、ロビナスという地名を聞いた瞬間、ダンテの顔から笑みが消えた。
「ロビナスだと! どうしてティアラはそこに行ったんだ?」
「ティアラちゃんが探している人物が居るという情報があったから……」
ゼンナギ婆さんが最後まで言い終わるうちにダンテはゼンナギの襟首を掴んだ。
「馬鹿野郎、ロビナスにいるエルフは、あいつの探しているマルクスじゃない」
「え? ダンテ様はロビナスにいるエルフをご存知なんですか?」
「ああ。あのエルフにマルクスなんて言ってみろ。すぐに殺されるぞ!」
「で、でも大丈夫ですよ、腕利きの用心棒が三人護衛していますんで……」
「バカヤローーー!! 訓練も受けてない兵士が敵う相手じゃない! あいつは俺よりも遥かに強い」
「そ……そんな……」
ゼンナギはうろたえた。
「出発してどれぐらい経つ?」
「は……半日は経ったかと」
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