不滅のティアラ 〜狂おしいほど愛された少女の物語〜

白銀一騎

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〜兄弟の絆〜

仲間たちの絆

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 ギルディア国のグラナダという場所にヒロタ川という大きな川が流れている。この川の北側にギルディア、南にルーン大国が広がり、両国は些細ささいなことから敵対して長年戦争状態が続いている。

 月の輝く夜にはヒロタ川のほとりに小さい青い光が一晩中輝いていた。この光の正体はギルディア側はエルフ族のマルクス、その向こう岸のルーン大国側には、人間族のミラが立っていた。二人は周りがうらやむほどに仲がよく、出会ってすぐに恋に落ちた。しかし今は南北に引き裂かれ、こうして月の輝く夜にお互いの光を確認することしか叶わない。いつしか二つの光は決して触れ合うことのできない恋人たちの悲しみを表しているように見え、月の輝く夜の川岸で、ただひっそりと光を灯していた。

 今夜は生憎あいにくの雨の中、マルクスはルーン大国のミラが持っているであろう、対岸の光を見ていた。そこに彼女がいると思うだけで、暖かくて優しい気持ちが広がり、少しだけ心が満たされていった。

(ミラは今どんな顔をして、こちらを見ているのだろう? 会って話がしたい。あの細い体を力いっぱい抱きしめたい)

 そう思えば思うほど会いたい気持ちが段々と心に積もっていく、こんなにも愛しているのに彼女に会えない境遇きょうぐうを恨んだ。少し前まではお互いに会って話ができたのに、今は遠くの光だけで彼女だと思い込むことしかできない。

「ミラ。君に会えなくなって、側にいることがどんなに幸せだったのか、気づくことができたよ。君に降りかかる雨に傘を差してあげることすらできない俺を許してくれ」

 冷たい雨の中、マルクスの顔に雨のしずくが滴り落ちた。雨の雫と思っていたが、だんだんと視界がぼやけているのに気づくと改めて自分が涙を流している事を知った。

 それは逆にルーン大国側からマルクスの光を見ているミラも同じだった。たとえ顔は見えなくてもそこに笑顔でたたずんでいる彼を想像するだけで少し幸せな気持ちになった。大声で彼の名前を叫びたいが、そんな事をした瞬間、見張りの兵士に気づかれてしまい、二度とここに近づくことすらできなくなってしまう恐れがあり、怖くてそれはできなかった。

(早く会いたい。危険な任務にんむに日々命を削っているであろう最愛の人に、はげましの言葉をかけることすら許されないなんて……)

 そんな事を思っているといつしかミラの両目からも大粒の涙が流れていた。二人とも会いたいと、ただそれだけを思いながら決して叶わない日々を過ごしていた。

 ◇

畜生ちくしょう! 見ていられねえ!!」

 ルディーは数人の仲間とともに毒づいた。

「本当に! 辛すぎて見てらんねえな!」

 ルディーとその仲間たちは、グラナダの森の中にある今は使われていない倉庫に集まっていた。

「どうにか二人を会わせてやれないのか?」

「駄目だ、ルーン大国側の見張りが24時間ずーっと、川岸に張り付いてやがる!」

 それを聞いたルディーは再び毒づくとイライラしながら床に転がっていた小石を蹴り飛ばした。小石は勢いよく倉庫にあった暖炉だんろの壁に激突すると粉々に砕け散った。

「畜生!!」

 そう言うとルディーは床の上にドカッと座り込んだ。床の上のホコリが舞って視界が少し曇った。苦虫を噛み潰したような顔で、あぐらをかいていると、仲間が恐る恐るルディーを呼んだ。

「おい。ルディー」

「何だよ。今の俺は気が立ってるんだ、しばらくそっとしといてくれよ!」

「いや。あれを見ろよ」

 仲間が暖炉の中をしきりに指さした。ルディーも暖炉の方に目をやると、先程、蹴り飛ばした石が暖炉の壁に当たって弾け飛んだと思っていたが、弾け飛んだのはどうやら暖炉の壁の方だったことに気がついた。自分の蹴った石が暖炉の壁に当たり、その壁が崩れてポッカリと穴が空いているのが見えた。

「ん? 何だあれは?」

 ルディーはゆっくりと立ち上がると暖炉の壁に近づいた。床にしゃがみこんで小さく空いた壁の中に指を入れてみたが、何も指に触れ無かった。かなり大きな空洞が壁の中に広がっているようだ。次に壁に空いた穴から中を覗き込んでみたが真っ暗で何も見えない。ルディーは再び小さい穴に指を突っ込むとそのまま壁のブロックをつまんで引きがした。暖炉の壁はボロボロと崩れ落ちてあっという間に向こう側があらわになった。近くにあった松明に火をつけて真っ暗な中を覗き込むと壁の中の空洞くうどうの床に大きな穴が空いていた。松明で穴の中を照らして見たが、穴の中には何も無いように見えた。

「なんでこんなところに隠し穴があるんだ?」

「誰が作ったんだ?」

「さあ? 知らねえな」

「どうする?」

「とりあえず下に何かあるかもしてないから、降りてみようぜ」

 仲間の一人が言いだした。とりあえずルディーと下に降りようと言った仲間の二人で穴の中に入ることになった。早速ロープをらすと二人で穴の中にゆっくりと入っていった。

「誰がこんな穴をほったんだ?」

「さあな? 下に降りれば何か見つかるかもしれん」

 二人はそう言いながら穴の下まで降りた。

 穴の下に降りた二人は周りを見渡して見たが、やはり何も見つけることはできなかった。

「やはりただの穴だな」

「ああ。宝物でも埋めようとしたのかな? どうでもいいが気味が悪い、早く上に上がろう」

 ルディーはそう言いながら降りてきたロープをつかんで上に登ろうとした時、一緒に降りてきた仲間に呼び止められた。

「ルディー」

「何だよ?」

「これを見ろよ!」

 仲間の一人は持ってきた松明を穴の壁に近づけてしきりに壁の土を手で触っていた。

「何だよ? ただの土だろ、何か特別な土なのか?」

「俺の出身地がイシュリってことは知ってるよな?」

 イシュリという地域はギルディアの山岳地帯さんがくちたいにあり、炭鉱たんこうが有名だった。

「ああ、それがどうしたんだよ?」

「小さい頃から親父に炭鉱に連れて行かれて、子供の頃からの遊び場が炭鉱の穴の中だったからわかるんだよ」

「わかるって? 何が?」

「見てみろよ。かた岩盤がんばんのローム層の下に黒ボク土くろぼくどがあるのが見えるだろう」

 そう言いながら仲間は壁に指を指して説明したが、ルディーは早くこの暗い穴から出たくて仕方がなかった。

「それがどうしたって言うんだ? 勿体もったいつけないで教えろよ!」

 なかなか本題にいかない仲間の話しに、ルディーはいい加減イライラしてきた。

「この黒ボク土っていうのは、トンネルを掘るのに最適の土なんだよ」

「なに? どういうことだ?」

「この穴の高さは10メートルはあるだろう。一方でこの近くのヒロタ川の水深は深いところでもせいぜい5メートルも無い。壁を見てみると8メートルの場所に硬い岩盤のローム層があるので、これで川の水をせき止めて、その下の黒ボク土は柔らかくて掘りやすい土だからそこを掘り進んでいけば簡単にルーン大国へ続くトンネルを掘ることができる」

「なんだと? それは本当なのか?」

「ああ、本当だ。この俺が保証する!」

 ルディーはマルクスにミラを会わせてやることができるかもしれないという思いに嬉しくなった。マルクスの喜ぶ顔を想像すると心がはずんだ。すぐに穴から出ると近くにいる仲間たちにトンネルを掘ることを提案をした。

「よし、やろう! 俺達でマルクスにミラを会わせてやろう!」

「よし、すぐに道具を取ってこよう!」

 仲間たちは二つ返事で了承してくれた。意気揚々いきようようと倉庫を出ようとしたところで、ルディーは仲間たちを呼び止めた。

「ちょっと待て!」

「ん? 何だよルディーまさかこの期に及ごにおよんで、やめるとか言い出すんじゃないよな?」

「そうじゃない。良いか、このことは俺たちだけの秘密にしよう」

「え? どうして?」

「ルーン大国に行くためのトンネルを掘っているなんて上層部にバレてみろ、厄介やっかいなことになるだろ。良いか? 絶対に俺たち以外に話すんじゃないぞ! 親兄弟も駄目だ! 良いか?」

 ルディーの言葉に、その場の全員が了承した。

 その日からルディーたちは忙しい合間をって、時間を見つけては倉庫に集まってトンネルを掘るのが日課になった。マルクスに早く喜んでもらいたい一心で全員が一丸となり掘り進んだ結果わずか二週間という短い期間でルーン大国に続くトンネルが開通した。
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