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第01章 最低な始まり

06 接触

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 俺を奴隷商に売り払ったクソ野郎、腹立たしいことに冒険者としてもうまくやっているようだ。
 そんなやつが今、依頼を受け街の外に出ようとしていた。

「俺も出る必要があるな」

 というわけで、俺もやつらを追い街の外に向かうことにした。
 おっと、その前にやることがあったな。
 そういうわけで、寄り道をしつつ相変わらずザルの防壁を飛び越えて街の外に出る。



はぁはぁはぁよっととぁすたっとふぅ



 さてと、奴らはどこかな?

 そう思いながらメティスルの権能マップを脳内に表示させる。
 すると、いまだ白地図の場所に赤い点が1つ浮かんでいた。
 この点こそ奴の居場所だ。
 マップの機能に探知魔法との連動を説明したと思うが、これも同じようなもので、特定の人物の魔力波長さえ分かれば、こうしてマップに表示させることができる。

「あっちか」

 マップに表示されている点に向かって走る。



たったったったっはぁはぁふぅたったっはぁはぁはぁはぁはぁはぁ



 ヤバイ、走ったらかなりやばい、ちょっと休憩しないとまずい。

 自分の体力のなさにあきれつつも、仕方ないとも思う、あんな生活してたらそりゃぁそうだよ。
 ほんと、あの野郎、ざけやがって。
 自分の体力のなさから、ますます奴への怒りがこみあげてくる。
 まぁ、それもあと少しで晴らせるだろうさ……おっと、あそこか。

 息を切らしながら走った甲斐があってやつらを発見。
 どうやら、現在ゴブリンと戦っているらしい。


「任せろ!」
「……『ウィンドカッター』、ブレンそっちお願い」
「そっち行ったぞ。リーナ」
「ええ」

 ガタイのいい少年がゴブリンの攻撃を受け、魔法使いの少女が風魔法でゴブリンを切り刻みつつ、残りをクソ野郎に頼む。そのクソ野郎もゴブリンを切り捨てながらもシスターの少女にそっちに向かったと注意を促す。
 見たところゴブリン程度だしな、危なげなく討伐しそうだった。
 そうして木の陰から見ているとすぐにゴブリンを殲滅できたようだ。
 まぁ、3年はやってるはずだからな、あれぐらいは出来て当然だろうな。
 とはいえ俺は戦闘に関してはある程度はわかるが、ド素人、あれがどの程度なのかはわからないがな。
 さてっと、そろそろ行くかな。

 俺は深呼吸しつつ頭の中で何度かシミュレーションした通り、奴らの前に出る。
 俺みたいな人間は話す前には、何度もシミュレーションをしないとできないからな。

「ちっ、まだ、いやがったのか」

 俺の姿を認めたタンク役の少年がすぐさま反応し、俺に向かって突っ込んできた。
 どうやら、俺をゴブリンの生き残りと思ったようだ。
 まぁ、身長的には同じぐらいだし、黒っぽいローブを身にまといフードをかなり目深にかぶっているからな。
 ちなみに、このローブはドロッペインを脱出する際、奴隷商の店で見つけそれ以来身にまとっている。
 その下は奴隷のボロだしな。

 まぁ、それはともかく突っ込んできたタンクの少年には悪いが邪魔なので、風魔法の”ガースト”を放った。
 ガーストっていうのは簡単に言えば突風、ただ強風を出すだけの魔法だ。
 尤も、まだ魔力制御がうまくいかない俺が使えばガタイのいい少年でも吹っ飛ぶんだけどな。
 実際、まともに食らったタンク少年は背後の木に背中を打ち付けて気を失ったようだ。

「ドリット!! くそっ」
「待って!」

 仲間をやられたとクソ野郎が剣を抜き俺に斬りかかろうとしたところで、ようやく魔法使いの少女が待ったをかけた。

「なんだよ。エリサ」
「よく見て、ゴブリンじゃない!」
「なんだって」

 魔法使いの少女の指摘を受けてクソ野郎はようやく俺をまじまじと見てきた。
 さて、すぅー、はぁー、よしっ、やるか。
 声を出す前に深呼吸をする。

「よぉ、久しぶりだな」
「えっ?!」
「しゃべった!」
「まさか、人間? で、でも……」

 俺がさべったことで、俺が人間であると理解したようだが、同時に俺の身長から子供だとわかる。だとすればなぜこんな場所にいるのか、そんな疑問が出てきたようだ。

「というか、今、久しぶりって言わなかった。ブレン、あなたの知り合い?」
「い、いや、知らない。誰かと間違えているんじゃないか」
「そ、そうよね。ねぇ、あなた、この人はブレンって名前だけど、あってる?」

 魔法使いの少女は俺が誰かと間違えているのではないかと腰を落とし、目線を合わせるようにそう尋ねてきた。

「いや、間違えてない。俺を覚えているだろう」

 そういって、俺は目深にかぶっていたフードを外し顔を出す。

「っ!!」

 少女2人は俺の顔を見て息をのむ、思ってはいたが、実際に幼い子供だったことで驚いているのだろう、つまり、奴とは違いこの2人は善良らしい。
 それだけに残念だ。

「まさか、忘れたとは言わせねぇぞ。まぁ、忘れたってんなら、教えてやるよ」

 といって俺は自分の過去をすべて話すことにした。
 そう、幼いころ両親を失った俺を引き取り、一家そろってこき使い、あまつさえ奴隷として売り払ったことをな。

「……俺を地獄に突き落として、てめぇは、ずいぶんと楽しそうじゃなぇか」

 俺の説明を聞き、少女2人は口を押えているうえ、シスターの少女に至っては涙すら流していた。

「どうだ、思い出したか?」
「……」

 俺の問いにさっきからクソ野郎は一言も話さない。

「ちょ、ちょっと、ブレン、あなた……」

 クソ野郎といい仲となっていた魔法使いの少女はいつまでも答えないクソ野郎に、恐る恐るといった感じに俺の言ったことの真意を尋ねた。

「だんまりか、まぁいい、俺が聞きたいのは、俺の名だ。お前らは俺の名を呼ばなかったからな、おかげで俺は自分の名前を知らないんだよ。だからこうして、会いたくもないてめぇに会いに来たんだ。さっさと教えろ」

 俺は半分威嚇するようにそういったが、それを聞いた少女2人はさらにあまりのことにもはや言葉すら出なくなっていた。

「どうなんだ?」

 俺はもう一度訪ねた。

「……し、知らない。お前なんて、ぼ、僕は知らない!」

 ようやくしゃべったかと思ったら、俺のことを知らないとのたまいやがった。

「知らねぇだと」
「あ、ああ、知らない!」

 語気を強めてそういうが動揺しているのが明白だ。
 つまり、知っているのに、知らないと言い張っているってことだな。

「ぶ、ブレン?」

 その動揺は当然少女2人にも伝わっているようだ。

「この期に及んでまだ知らねぇっていうか、なら」

 そういって、俺はどこからともなく金属のインゴットを取り出す。
 どこから出したかというと、簡単に言えば空間魔法の”収納”という魔法だ。
 これは、いわゆるマジックバックとかアイテムボックスとかいうようなもので、俺の魔力が許す限りどこまでも荷物をしまえる魔法となる。まぁ、ぶっちゃけ俺の魔力は無限近くあるから、ほぼ無限にしまえる便利魔法だ。
 ちなみに、俺はこの”収納”に食料なども仕舞っている。

 そんな場所から取り出した金属のインゴットは俺が以前大地魔法の”素材化”で素材としておいた元鉄格子だ。
 そして、それをどうするかというと、今度は大地魔法の”錬成”を使う。
 この”錬成”は金属をはじめ様々なものをイメージ通りに変化させることができる。
 っで、それで変化させるものはというと、一振りの刀だ。
 まぁ、刀といっても長刀は今の俺だと当然振れないので、脇差ぐらいの大きさしかないけどな。
 それでも、重いな。しかたない身体強化もしよう。

 こうして、準備を整えた俺は、切っ先をクソ野郎へと向ける。

「まだ、しらを切るか?」
「知らないものは、知らない」

 強情な野郎だ。だったら、俺にも考えがある。

「そうか……」

 俺は黙って刀を振り下ろす。

「うぎゃぁぁぁぁ!!!」

 振り下ろした刀は、まっすぐクソ野郎の右腕を斬り落とす。

「ぶ、ブレン!!」

 腕が切り落とされたことで絶叫をあげるクソ野郎と、そんなクソ野郎をなんともいえない表情で見つめる少女たち。
 ちなみにだが、ここまで俺を知らないと言い張るこの野郎が、実は別人だった。なんて落ちはありえないとだけは言っておこう。間違いなくこいつは、幼いころから散々俺をこき使い、殴ってきた上に、俺を銀貨1枚で奴隷商に売り払ったクソ野郎だ。
 もちろんそれには根拠はある。
 まず1つ目の根拠はあの面、なんだかんだで一緒に暮らしており、俺を散々殴って来たんだ。その面を見間違うなんてことはありえない。
 尤も、これだけだと他人の空似ってこともある。
 だが、2つ目の根拠、先ほどから奴の仲間が呼んでいる奴の名前だ。
 俺自身は名を呼ばれたことがないために自分の名前は知らないが、奴は違う家では奴は当然名を呼ばれていた。
 その名は、確かに、奴の仲間が呼んでいた名前だった。
 忌々しいので俺は呼びたくないけどな。
 っで、最後の根拠は、鑑定だ。
 鑑定というのはスキルでもあるんだが、このスキルの場合そのレベルにもよるが、名前と種族、性別ステータス、最高レベルで取得スキルを見ることができる。
 しかし、俺の鑑定はそれらに加えて、そのものの説明を見ることができる。
 例えば、どこで生まれたとかと言った来歴なども見える。
 とはいえ、その説明も相手が開示しないとみることができない。
 どういうことかというと、現在のこいつの説明を簡単にだが見てみる。

『〇〇村出身の冒険者、幼いころから〇〇を虐待して冒険者になる際に奴隷として売った』

 もちろん、これ以外にも書かれているが要点を抜粋するとこんな感じだ。
 っで、幼いころからという部分は先ほど俺の話を聞いてやつが動揺した時点で表示された。
 それまでは〇の羅列だったんだけどな。
 もし、奴が本当に別人で心当たりが全くなかったら、このように表示されることはない。
 なにせ、これはやつ自身の情報であり、俺の願望ではないからだ。
 そんなわけで、こいつで間違いない。

「もう一度聞くぞ。俺の名を言え」

 クソ野郎に改めて俺の名を言うように言った。

「うっ、くぅ」

 クソ野郎は痛みでまだしゃべれないようだ。しかたない。
 それをみた俺は回復魔法の”キュア”をかけてやる。
 といっても、かなり弱く若干の血止めと軽い痛み止めでしかないけどな。
 それでも、放すことぐらいはできるはずだ。

「答えないのか? だったら、もう一本もらうぞ」

 そういいつつ俺は再び刀を構える。

「……し、しらない、知らないんだ」

 ようやくしゃべったかと思ったら、また知らないという。

「そうか、なら……」
「知らないんだ。ぼ、僕も、な、名前は、し、知らないんだ」

 やっと、俺の質問に答えたかと思ったら、知らないと言い出しやがった。
 まぁ、ある程度の予想はしてたけどな。
 なにせ、俺はこいつにも名を呼ばれたことなんてないんだからな。
 それに、こいつが今嘘を言っていないことは鑑定で分かっている。

「知らないだと」

 だが、俺も怒りがあるので凄みを効かせて、さらに刀を向けた。

「ほんとうだ。父さんも、母さんも教えてくれなかったんだ」

 必死にそういうクソ野郎をみた俺は思った。まぁ、このぐらいでいいだろうと。

「なら、村の名と場所を教えろ、村長なら知っているだろうからな」
「わ、わかった。ゾーリン村、場所は、テッカラから、西の街道を進んでいけば、か、看板がある」

 なるほど、ゾーリン村、それが俺が生まれた村か。

「そうか」

 俺はそれだけを言って奴らに背を向けて、歩き出した。
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