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第01章 最低な始まり

13 旅立ちの準備

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 俺を虐待していたクソ一家が村を追放され、昨晩俺を襲ってきた連中は現在、それぞれの親や奥さんから厳しく説教されている。
 まぁ、俺としては実害がなかったから、特に気にはしていないが、それは俺が前世の記憶を持ち、その前世が大人だったらだ。でも、村人たちは知らない、彼らにとって俺は、幼いころより虐待を受けていた子でまだ12歳の子供に過ぎない。そんな子供を襲撃するなど、許されないのだろう。

「……スニル君、ごめんなさい」

 一方の俺はというと、さっきから、村人たち全員から謝罪を受けていた。
 彼らにしても、村長と同じく俺が陰で虐待を受けていたことに気が付けなかったことが許せないのであろう。

「いや、もう、終わったことだから」

 そう、奴らが追放されたことで、すべては終わったことなんだ。

 尤も、それだけで納得できるはずもなく、結局小一時間かけて村人たちからの謝罪を受けたのであった。

 ふぅ、なんか妙に疲れたな。

「ふふっ、お疲れ様」

 俺が疲れた顔をしていると、ノニスがそういってねぎらってくれた。
 それから、俺は一旦村長宅へと戻ったのであった。

「さてスニル、改めて、すまなかった。村長として、村を代表するものとして改めて謝罪させてほしい」

 そういって、村長が改めて俺に頭を下げ、デリク、ノニス、ポリーもそれに倣い、深々と頭を下げた。
 俺としては、そんなに頭を下げられても困るんだが、ここはあえてその謝罪を受け入れた。

「村長、謝罪は十分もらったよ」
「そうか、本当にすまない」

 村長は最後にもう一度、そういってから頭をあげてくれた。

「ふぅ、しかし、朝から疲れたの」
「ほんとに」
「お義父さん大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。心配ない、それでも、村人を追放することになるとは、私は村長失格だな。そろそろ、お前に譲るか」

 村長は自嘲気味にそういった。

「父さんが失格なら、私も同じだよ。私だって、ギブリのことに気が付かなかったんだから、それに、父さんはよくやってるよ」

 デリクはそんな弱気となった村長を励ましている。
 まぁ、これは俺が介入することではないからほっておく。

「ええ、そうですね。スニル君のことだったら、わたしだって、気が付かなくて、ほんとミリアに会わせる顔がないわ」

 なんだか、村長一家が全体的に暗くなってきたな。
 それだけでも、この一家が良い人間たちだとわかる気がするな。

「おじいちゃんも、お父さんも、お母さんも、元気出して、そうだ、ねぇ、スニルは、旅に出るんだよね」
「んっ、ああ、そのつもりだよ」

 実は、俺はこの後村を出て旅に出ようと考えている。
 それを昨日の夜話したわけだが、当然の如くノニスから反対された。
 でも、いくつかの条件付きで何とか納得してくれたわけだ。
 それで、その条件というのは、数日はこの村に滞在すること、旅に出た後は手紙を書くこと、たまにでいいから村に帰ってきて元気な顔を見せることであった。

「そっか、寂しくなるなぁ、せっかく、同じ年なのに」

 ポリーによれば、この村の子供は幼いか年上ばかり、しかも、年上はもうほとんどが成人しており遊んでもらえなくなっているし、幼い子供たちは遊べるが、当然遊んであげている状態となっているという。
 だから、対等の立場で遊べる俺という存在がポリーにとってはうれしかったらしい。
 まぁ、中身はおっさんだけどな。
 ちなみに、クソ一家にいたガキは年が近かったらしいが、性格的に合わずほとんど一緒に遊んではいなかったらしい、まぁ、生まれたときから俺という物があったやつだからな、かなり歪んでいただろうさ。

「そうね。でも、まだ少しの間は、村にいてもらうんだから、その間に一緒に遊べばいいのよ。ねぇ、スニル君」
「あ、ああ、まぁ、そうだな」
「うん、そうだね」

 ポリーはそう言って笑顔を向けてきた。

「ふふっ、それじゃ、さっそくスニル君採寸させてね」
「あ、ああ、わかった」

 採寸というのは、俺の体のサイズ、なんでも俺の服を作ってくれるらしい。
 というのも、本来子供の服を作るのは母親の仕事だそうだが、俺の母さんはいない、そこでノニスが代わりに作ってくれるようだ。
 そんなわけで、俺は服を脱ぎ肌着のみとなる。

「じっとしててね」

 それから、ノニスはひもを取り出し、サイズを図っていく、どうやらメジャー替わりらしい。

「……えっと、あとは……」

 俺はただじっとしているだけだった。
 こうして、数分の間じっとしたところで、ようやく解放されたのだった。

「うん、それじゃ、スニル君楽しみに待っててね」
「ああ、わかったよ」
「ああ、それと、例のことお願いね」
「わかった」

 例のことというのは、俺の魔法である”収納”の改造である。
 実は、昨日の夜、俺はポロっとうっかり自分のことを話してしまった。
 その際に、”収納”の欠点、時間経過を失くせるとつぶやいたのが聞かれてしまった。
 その結果、ノニスによりあるありがたい提案がなされた。

「おいしい物、いっぱい作るからね」

 おいしい物、つまり料理だが、なんでもどこまでも入る上に時間も止まるとなれば、料理をいっぱい作ってもそれを納められるし、いつでも作り立てを食べられるというわけだ。

 それから、俺は実家に戻り魔法の改造にいそしんだわけだが、さすがはメティスル、数分で出来たよ。


 次の日

 朝起きると、外からポリーがかけてくる様子が見えた。

「スニルー、朝だよー」
「おう、起きてるよ」

 俺は着替えながら返事をするが、ポリーは遠慮せずに扉をあけ放つ、まぁ、俺が昨日開けていいって言ったからなんだがな。

「もう、朝ごはん出来てるよ」
「わかった、今行く」

 というわけで、今日も村長宅で朝食を食べるわけだが、なにやら広場が騒がしいな。

「?」

 俺が首を傾げつつ集まった村人たちを眺めていると、ポリーが教えてくれた。

「みんなで、スニルの服とか、料理とか作ることになったのよ」
「えっ! なんで?」

 ポリーによると、昨日俺が魔法の改造や、そのほかにも色々実家で引きこもってやっている時、村の女性たちが村長宅に集まってきて、俺に何かできないかと尋ねてきたらしい、そこで、ノニスが俺の旅に使う服や料理を作ることを聞いた女性陣が、自分も自分もと手をあげた結果、村をあげてそれぞれ班分けをしつつ作ってくれることとなったらしい。
 なんか、大事になってない。

「……一体、どんだけ、服と料理を作るつもりだ」
「さぁ、一杯だって、言ってた。ああ、私も手伝うことになったから」
「えっ、そうなの」
「うん、私もそろそろできるようになっとかないと、将来困るからって」

 まぁ、確かに子供の服を母親が作るということを考えると、ポリーもいつかはそうなるわけで、その時できませんじゃ話にならないからな。

「そうか、まぁ、頑張ってくれ」
「うん、任せて」
「ああ、じゃぁ、あれを渡しておいた方がいだろうな」
「あれ?」

 それから、俺は村長宅に行き、朝食を食べつつ、ノニスにある物を渡した。
 それは、大量の布だった。多分、母さんが俺や父さんの服を作ろうと大量に買い込んでいたものだろう、それを実家の納屋で見つけたので一応”収納”に入れておいたのだった。

「いいの?」

 ノニスは、ちょっと遠慮していたが、俺と同じ意見、つまり母さんが使おうとしていたことに思い至り、遠慮なく使わせてもらうと言っていた。

 とまぁ、こうして、俺の旅の準備は、俺だけでなく村人全員で行われることとなってしまった。
 あれ? 男どもはとなるかもしれないが、それは問題ない、男たちもやることはある。例えば、足りない食材などを購入するためにテッカラに行ったり、森に狩に出かけたりと結構忙しい。
 また、俺の頼みで倉庫を建ててもらった。
 どうして倉庫を作ってもらったのかというと、まぁ、一言でいうといろいろやってもらっていることに感謝のしるしとして、村に贈ろうと考えたからだ。
 っで、なにをかっていうと、それは空間魔法により、見た目より大量に入り、扉を閉めると時間経過がなくなるという、いうなればマジックバックの倉庫版、マジックストレージってところだ。
 もちろん、扉を閉めたとしても、中に生命体があった場合どうあっても閉まらないようにしたし、そもそも、虫や獣が入り込まないように結界も張って、安全対策も万全だ。
 こういったものを魔道具と呼び、村長たちによるととんでもなく高価なものだそうだ。まぁ、自作できる俺にとっては知ったことじゃないけどな。
 ちなみに、俺が作った倉庫は、国宝級といってもいい代物となったらしいけどな。知らん、そんなもの。



△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△



 こうして数日、村をあげてされた準備は整い、ついに俺は村を旅立つときがやって来た。

「スニル君、ちゃんとお手紙書くのよ」
「スニル、元気でな」
「よい旅路を祈っているぞ。また、よき出会いをのぉ」
「ああ、行ってくるよ」
「スニル、ちゃんと帰ってきてよ」

 ノニス、デリクに続いて村長が見送ってくれる中、ポリーは泣きそうになっている。

「ああ、転移魔法もあるし、適当なときに帰ってくるよ」
「きっとよ」
「まぁ、さすがにしょっちゅうは無理だけどな」
「ふふっ、それじゃ、旅に行ったとは言わないものね。でも、何かあったら、帰ってきてね」
「ああ、それじゃ、行ってくる」
「行ってらっしゃい」

 こうして、俺は村人たちにも見送られ故郷、ゾーリン村を旅立った。
 良い村だった。最悪なことはあったけど、そう思う、ゾーリン村、今世の俺の故郷か、帰るべき場所だな。
 まさか、俺にそんな場所ができるなんてな、思わなかったよ。
 そう思いながら、俺は振り向き、いまだ手を振っている村人たちに片手をあげて、再び歩き出した。





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 これにて第1章は終了です。
 また、今日は閑話としてもう1話あります。
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