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第02章 旅立ちと出会い

11 工業魔道機械

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 昼飯を食ってからの午後。

「スニルはこの後何をするの?」

 昼飯を食った後、ちょっとのんびりしていると、ポリーが聞いてきた。

「この後か? この後はワイエノの店に戻って魔道具作りだな」
「魔道具って、そのなんだっけ、フリーなんとかってものを作る?」
「フリーズドライな、そう、それを加工する魔道具、っていうか魔道機械ってとこか」

 より正確にいうなれば、工業魔道機械ってところだろうか。

「へぇ、がんばってね。あの子たちの収入になるでしょ」
「ああ、そうだな」
「スニル、迎えに来たぜ」

 ポリーと話していると、ワイエノが孤児院にやってきた。
 今日の午後は店に戻る予定にしていた。その際、俺としては特に1人でも良かったんだが、子供が一人で貧民街を歩くのは危険だといわれ、ワイエノが迎えに行くという話になったのだった。

「今、行く」

 ワイエノがおじのような存在だといわれても、人見知りの俺にはまだちゃんと話すことはできない。

「それじゃ、スニルまたあとでね」
「ああ」

 こうして、俺はワイエノとともに店へ戻った。




てくてくてくてくてくてくてくてくふぅてくてくてくてくてくてくてくふぅ



 店への道中、俺とワイエノの間に会話はほとんどなかった。
 まぁ、人見知りで人と話すのが苦手な俺では、ワイエノとの会話なんてものはないからな。

「この倉庫を使え、俺は店に行っているから、何かあればいうようにな」

 ワイエノはそう言ってから倉庫を出ていった。
 ワイエノが出ていったことで、この倉庫には俺1人となった。
 これには、単純に俺1人のほうがいいと、ワイエノとシエリルに話したからだ。
 俺みたいな男は何か作業をする場合1人のほうが楽なんだよな。

 さて、とにかく作業を始めようと思うわけだが、まずは材料の確認だな。

 一応事前にどんな魔道具にするかということは考えてきている。
 そして、これも事前にだが鍛冶屋のドワーフからどんな素材がいいかということを聞いていた。
 それによると、俺が孤児院の門でも使用した魔鋼は魔力のおかげか錆びるなどの変化が起きない。
 また、こめられた魔力量にもよるがかなりの強度を得ることもできるし、熱にも冷気にも強いそうだ。
 尤も、比重が高く重いのが難点といえば難点となるが、俺が作ろうとしているのは動かすことがない工業魔道機械、重いほうが盗まれるといったことがなくなるので良い。

 んで、その魔鋼は午前中に門を作った際に余ったものが多少ある。

「どう考えても、これじゃ足りんな」

 ”収納”から魔鋼を取り出し、眺めながらそうつぶやく。
 取り出したのはインゴットが8個しかない。

「鋼はもうないし、となると買ってくるしかないか」

 俺が持っていた鋼は鍛冶屋でもらってきた鋼のくずを集めたもので、門を作った際にほとんど使ってしまっていた。
 まぁ、俺はものづくりなんて前世でもしたことないし、どのくらい材料があればいいのかなんてことは分からないから、適当な量しかもらってないからな。

「まぁ、とりあえず鋼を買いに行ってくるか、一応シュンナから金はもらってきてるしな」

 もともとは俺の金だが、現在はシュンナに全部預けているため、俺が使いたいときはシュンナに許可を得る必要があった。

「えっと、まずは一応ワイエノたちに伝えたほうがいいだろうな」

 ワイエノたちは時々様子を見に来るといっていた、まぁ、さっき戻ったばかりだからすぐに来るとは思えないけど、一応様子を見に来た時俺がいないと面倒になる可能性があるからな。
 というわけで、店に向かうことにした。

 向かうといっても、すぐだけどな。

「あら、スニル君じゃない、どうしたの?」
「おう、何かあったか?」

 俺が顔を出すとすぐにシエリルとワイエノが気が付いてたずねてきた。

「材料が足りないから、鍛冶屋に行ってくる」
「おう、そうか、ついて行ってやろうか?」
「大丈夫、すぐそこだから」

 ここから鍛冶屋へはほんとにすぐだし、通る場所も特に裏通りとかそういった場所でもないので、俺みたいな子供でも1人で問題ない。

「まぁ、確かにすぐそこだからね。でも、気を付けてね」
「わかった」

 こうして、俺は1人店を出て鍛冶屋へと歩き出した。


 数分後、俺の目の前には俺たちの武器を注文したドワーフがいる鍛冶屋がある。
 鋼のくずもここでもらったものだ。

「いらしゃい、おや、君は、スニル君だったかな」
「……ああ」
「今日は、どのようなご用件かな」

 店主は俺に目線を合わせるように腰を落として尋ねてきた。

「鋼が欲しい、買いに来た」

 俺の人見知りは今世での出来事が原因か悪化している。前世ではこう言ったときではちゃんと話すことができたんだがな。
 尤も、言葉は少なくなったけど、それが今ではより少なくなった。
 まぁ、見た目のおかげで、そこまでおかしくないのが救いなのかもしれないが、これもいつかは治ってくれることを祈りたいな。

「鋼かい、昨日結構くずを持って行ったけど、足りなかったのかい」

 昨日くずをもらった際、孤児院の支援のためということを伝えてある。
 そんな俺が昨日の今日でやってきたとあれば、足りなかったと思っても仕方ないだろう。

「……」

 俺はいつものように黙ったままうなずく。

「そっか、どのくらい必要なんだい」

 店主は黙ったままの俺に対しても、客として普通に接してくれる。

「えっと……」

 しまった、どのくらい必要なのか考えてくるのを忘れていた。
 さて、どうしたものか。
 俺はこの場で考え込んでいた。
 その様子はまさにフリーズ、店主は不思議そうに俺を見つめてきた。

「……たくさん?」

 あんまりな答えを出してしまったよ。

「たくさん? えっと、何をしようと思っているのかな。それによって、大体の量を算出するよ」

 店主がそう言ってくれたので、俺は作ろうとしている工業魔道機械の大きさなどを説明した。
 すると、店主はすぐに必要量を算出してくれ、その分の鋼を売ってくれた。
 もちろん、それだけでは不安なのでちょっと多めに買った。

 それから、鍛冶屋を出た後店の倉庫へと戻ってきた。
 その際、当然ながらシエリルたちに帰った報告をしてきた。

「さてと、さっそく魔鋼に変えるか」

 鋼のままでは機械にできない、なにせただの鋼だと錆びるからな、食品を扱う以上衛生上よろしくない。
 それにたいして、魔鋼とすると錆びなくなるし丈夫になる、こういったものに向いた金属になるってわけだ。
 というわけで、さっそく買ってきた鋼を取り出し魔力を注入する。

「おしっ、こんなもんか、あとは形を変えるわけだが、まず何を作るか……」

 できた魔鋼を前にまず何をするべきか考えるがちょっと思いつかない。
 そこで、俺が考えたフリーズドライの工程を確認してみる。

「そうだなぁ、えっと、まずは用意した食材を大鍋で調理して、それを1人分ずつに小分けして、フリーズドライをかける。ってとこか、あとは、それを包装と行きたいけど、これはさすがに無理があるな」

 1つ1つ機械で包装する、日本では当たり前の技術だが、魔道具でそれを再現するのは無理だ。
 そうなってくると、ここは人の手でやってもらうしかないだろうな。
 まぁ、その分人を雇えると考えれば、それはそれでいいんだけどな。
 実は、このフリーズドライの工場、孤児院出身でいまだ仕事につけていないものや、これから孤児院を出る子供たちを優先的に雇い入れることになっている。

 とまぁ、工程としてはさっき考えた通りとして、となると工程通りの順番に作っていくとするか。

 となると、最初に作るのは調理をするための大鍋、ではなくそれを設置するかまどだな。
 大鍋については、街の金物屋で市販品を購入した。
 というのも、鍋というものは使っていけばいつかは破損する可能性が高い、その際買い替えるわけだが、俺が適当に作ったものでは、その時にちょうどいい大きさのものを探すのに一苦労してしまうからだ。
 それに、俺が作るよりちゃんとしたプロが作ったほうがいいのは当たり前だからだ。
 そんなわけで、かまど作りである。

 この世界にきて俺が見てきたかまどといえば、薪による昔ながらのものだ。
 これは火加減が難しく、そもそも火をつけることすら素人じゃできない。
 少なくとも俺にはできないからな。
 ここで働くのは孤児院で育った者たち、中にはかまどを使った経験のある者のいるだろうが、孤児院では基本子供にかまどのそばに行かせることはまずない。
 そうなると、ほとんどの従業員がかまどの使い方を知らない者ということになる。
 まぁ、家庭では基本それなんで、この際に覚えるっていうのも悪くないが、下手をして火事にでもなったらどうしようもない。
 一応、倉庫には火避けの結界でも張っておくけど、それでも火事にならないようにする必要がある。
 となると、ここは魔道具を使おうと思う。
 といっても、IHのように火のないかまどにするわけじゃなく、ガスコンロみたいなものにしようと思う。
 これは、事前にシエリルからどっちにするかを聞いたところ、火がないと熱している気がしないし、消し忘れたり、ふとした時に触ったりしたら危険だからという理由からだ。
 確かに、俺も前世でガスコンロからIHに変えた時、なんか落ち着かなかったんだよな。
 ほんとに熱しているのかってな。もちろん、実際に触ったことはないが、衝動にかられたのは確かだ。
 俺の場合、その時すでに大人だったから自制できたけど、子供の中にはできない場合もあるからな。
 そんなわけで、実際に火が出るコンロを作りたいと思う。

 まず作るのはコンロ本体、イメージとしては日本において俺が子供ころ家で使っていたようなガスコンロ、といってもあれじゃ大鍋は設置できないので大きめに作る必要がある。

「鍋をかき混ぜる必要もあるしな、えっと、このぐらいか?」

 俺は、大鍋を実際に身体強化をしてから持ち上げて、大体の高さ(上部が90cmほどになるように)を割り出しその高さの箱を魔鋼で作る。
 そこから、さらに鍋を囲むような壁を左右に立ち上げる。
 これは、鍋をかき混ぜながら火力調整やオンオフのスイッチを置くためだ。
 下に置くより上にスイッチを置いたほうがやりやすいからな。

「そんじゃ、次はこれを調整してっと」

 箱ができたら、左右の壁手前側に穴をあける。
 この際使う魔法は”掘削””変形”、掘削でもって穴をあけて、変形で形を整えるというわけだ。

「よしっと、あとは、ここにミスリル線を通してっと」

 魔道具にも電気機械でいう導線に相当するものがある。
 俺が今回作るような、スイッチと可動部が離れている場合に必要になる部材となる。
 魔鋼でも作ることはできるが、周囲も同じく魔鋼製なので、ここは少量手に入ったミスリルを使うことにした。
 ミスリル、異世界ファンタジーの世界において有名な金属でこの世界にも存在しているようだ。鍛冶屋によると、流通は結構あり、どんな街でもある程度は手に入れることができるものらしい。
 まぁ、それでも高いんだけどな。
 ミスリルの性質は、とにかく軽くて丈夫、魔力伝導率がめちゃくちゃ高いってことだ。
 魔力伝導率が高いということは、導線としても向いている金属だということだ。
 そんなわけで、ミスリルを加工して細い線として、魔鋼製の箱の中を通していく。
 この時、ミスリル線に魔力を通すことで、思う通りに動かすことができてコンロ本体、バーナー部分に開けた穴から出すことができた。

「よし、これで両方通ったな。あとは魔石に魔法式を刻んでっと」

 ミスリル線が左右の壁の中を通り、バーナー部分から2本出てきたところで”収納”から、魔石を取り出す。
 魔石というのは、魔物が体内で生成する赤い宝石のような石のことで、”森羅万象”によると魔物が取り込んだ魔素(魔力の素となる物質)の余剰を結晶化させたものだという。
 つまり、魔石とは魔素の塊というわけである。
 これに魔法式を書き込むことで、魔道具にすることができるわけだが、俺はこれまでいくつか魔道具を作ってきたわけだけど、その魔石をどうやって手に入れていたかというと、単純に道中に倒した魔物や実家においてあったものを使った。
 例えば、村に作った倉庫や俺が使っているマジックテントに使った魔石は、実家にあったちょっと大きめの魔石を使用している。
 多分、俺の両親や祖父母が討伐したかして手に入れたものだと思う。
 使ってしまってもよかったのかと思うが、まぁ両親も祖父母もすでにいないし、使えるものは使ったほうがいいだろう。
 さて、過去に使った魔石はいいとして、今回俺が取り出した魔石は冒険者ギルドから融通してもらったものだ。
 冒険者が魔物を討伐して手に入れた魔石は基本ギルドに売って金に換える。
 ギルドは、この魔石を魔道具ギルドに販売することで収益を得ているらしい。
 そんな魔石を俺が譲り受けて大丈夫なのかと思わなくもないが、なんでも俺が作るフリーズドライはギルドに大いなる収益をもたらすから問題ないらしい。
 ちゃんとした説明を受けたわけではないが、どうやらワイエノとギルドでそうなるような契約を交わしたそうで、そのために必要な魔石だからと先行投資として譲ってくれたらしい。

 また、魔石に刻む魔法式についてだが、魔法式というのは魔法を行使する際にも使っているもので、コンピューターでいうところのプログラムと思えばわかりやすいだろう。

 ここで、ちょっと蛇足ながら魔法について説明しようと思う。
 簡単に言えば魔法というのは、魔力を魔法式に通して事象を改変する技術となる。

 魔力というのは、空気中に漂う魔素という物質を体内に取り込み変換した力のこと。
 ここまでは、一般的にも知られていることだが、実は魔法式というものはあまり知られていないらしい。
 では、一般の人がどうやって魔法を行使しているのかというと、それこそ呪文の詠唱である。
 詠唱とは、魔法式の構築を簡易的にできるようにした技術だ。
 これにより、魔法式を知らなくても魔力操作ができて、呪文を知っていれば魔法を行使することができる。
 逆に言えば、呪文を知らなければその魔法の行使ができないというわけだ。
 んで、俺みたいに”詠唱破棄”を持っているってことは、魔法式の構築を直接行っているから、改造も自由にできるというわけだ。
 ちなみに、”詠唱破棄”を持つのは俺のメティスルだけじゃなく、賢者や大賢者といったスキルでも持っている。
 といっても、俺みたいに魔法式をちゃんと理解できているスキルはメティスルのみで、賢者や大賢者は単に魔法式をスキルが記憶しているだけで、それを読み込むことで行使ができるようだ。

 さてと、そんな魔法についてはここら辺にするとして、実際に魔道具として使う魔法式はというと、これにつては、多くの魔道具職人がそれぞれの師匠から魔法式を教わるらしい。尤も、理解しているわけではなく、この作用をするのはこの魔法式だと記憶しているだけだそうだ。
 つまり、俺にとって魔法式は理解するものであるのにたいして、一般的には記憶するものという認識だ。
 このことからわかるように、俺ならどんな魔法式でも自由自在にできるわけで、魔法の改造も魔道具の幅もかなり広くできる。

「さってと、さっさと魔法式を刻むか、えっと、まずはバーナーだな」

 バーナーの魔法式を考える。といっても、かなり単純なものにするけどな。
 まず、魔法式の基本である魔法陣、円形で中央に六芒星、周囲に二重の円というよくある魔法陣(もちろんほかにも複雑なことが描かれているが割愛)だが、ここの中央六芒星の中に魔法属性を指示する。これは魔法文字というメティスルというとんでもスキルを持つ俺でも、こういうものだということしかわからない記号のような文字で”炎”と刻む。
 そして、周囲の二重丸の中に適度に部屋を刻みそこに魔法の作用を書いていく。
 今回は、ただ炎を出すだけなので火力調整などの制御を刻んでいく。

 バーナーの魔石を作ったところで、今度はそれに付随する魔石を作っていく。
 といっても、それはより単純で、バーナーを起動する魔石と火力を調整する魔石となる。
 それらに属性はないので、中央には何も刻まず、作用のみを刻んでいく。

「よっしゃ、あとはこれをそれぞれに設置してっと」

 できた魔石、起動の魔石を左側から出ているミスリル線に”接合”という魔法でつなげて、用意したスイッチの箱の中に収めて設置する。
 続いて、右側に火力調整の魔石を同じように設置し、最後にバーナーの魔石を設置して、魔石の設置は完了である。

「あとは、こいつの確認をしてっと」

 壁の左側にあるスイッチに触れて魔力を通す、するとボッっと音を立ててバーナーから炎を飛び出した。

「よし、成功だな。あとは調整か」

 ということで、今度は右側に設置したつまみを手に持ち左右に動かしてみる。
 すると、炎が大小と変化した。

「これも成功だな。あとは、なんだっけ、あれ、ああ、そうそう確かごとくとかいうやつ、あれを作ってバーナーのところに設置してっと」

 それから、ごとくと呼ばれる、鍋を直接置くあれを作ってバーナーのところに置く。

「これで、窯部分は終わったな。あとは……」
「スニル、あっ、いたいたそろそろご飯よ」

 次の作業に取り掛かろうとしたら、シュンナが呼びに来た。
 どうやら、思ったよりもかまどの製作に時間がかかったようで、すでに夕飯の時間となっていた。

「それが、フリーズドライの魔道具、なんかかまどみたいだけど」

 かまどを見たシュンナがそんなことを言い出した。

「そりゃぁ、これはかまどだからな。ここで調理をして、それを小分けしてから、フリーズドライにするんだよ」
「ああ、そういうこと、それじゃ、これまだ途中なんだ」
「そういうこと、時間みたいだし、今日はここまでだな」
「そうね。今日はもうご飯食べて、行くり休みましょ」

 というわけで、俺はシュンナとともに倉庫を出て、孤児院に向かったのだった。
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