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第02章 旅立ちと出会い

12 完成と試運転

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 翌日。

 昨日に引き続いて、朝から倉庫にきていた。
 もちろん、ここに来るまでにいったんゾーリン村へ行き、村人たちを連れて孤児院まで行ってきた。

「さてと、続きだな。えっと、昨日はかまど、というかコンロを作ったから、あとはベルトコンベアかな」

 コンロで調理したものを、1人分に小分けにしてからフリーズドライの魔道具にかけるわけだが、そこまでは工業機械らしくベルトコンベアで運んでもらおうと思っている。
 今日はそのベルトコンベア部分を作っていきたいと思うわけだが、さてどんな風に作っていくか。

 一応、昨晩寝る前に少し考えたんだが、まだ考えがまとまっていない。
 イメージするものはゴム、だがこの世界にゴムなんてものはない。
 となると、金属しか思いつかないんだよな。
 でも、魔鋼ばかりってのもなぁ。
 何かないものか。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 しばし考えた。

 考えたが、駄目だ。

 食品を扱う場合よく樹脂製が使われていると聞いたことがあるが、残念ながら俺はその樹脂の作り方なんてものもは知らないし、この世界にも存在しない。
 となると、やっぱり金属で作るしかないんだよな。
 あっ、そういえば昔は、銀をを使って毒とかの検知をしていたというし、最近滅菌っていうと銀イオンって聞くよなぁ。
 銀イオンが何かというのはよくわからないが、銀でも滅菌ができるかもしれない、となると銀か、でもそれだとここじゃ手に入らないな。
 でも、ミスリルはどうだ、魔力をふんだんに含んだ銀、当然普通の銀よりも産出量は少ないが、銀は大体貨幣などに変えられて、一般人ではそう手に入らないらしい、でもミスリルなら鍛冶素材となるために、一般でも手に入れることができる。だったな。んで、俺はそのミスリルを少量とはいえ手に入れている。
 これを薄く延ばしてやれば、足りるだろ。

 導線して使う分を除いても、何とかベルトコンベアにできる分だけありそうだ。
 といっても、ミスリルだけだとちょっと足りなくなるから、魔鋼を下地にミスリルを表層に張る感じにするか。


 という考えをまとめたところでさっそく”収納”からミスリルを取り出し”錬成”、続いて魔鋼を”錬成”して、ベルトコンベアを完成させた。

「あとは、こいつを動かす仕掛けを作ってっと……」


 それからの作業は昨日作ったコンロの背面に壁を作り、そこから幅50cmほどの台を2m作る。
 あとは、新たに作った台のコンロから10cmほど離れた場所に縦5cmX横30cmの横長の穴を”掘削”で開けていく、続いて同じような穴を反対側にも開けていく。
 これで、この穴に先ほど作ったベルトコンベアをセットしていくってわけだ。
 もちろん、ただベルトを通しただけでは意味がない。
 そこで、よいしょっと台の中に入り込み、ってせまっ!

 幅が50cmといっても、魔鋼製、厚さがあり、台の中は30ちょっとぐらいしかない。
 いくら俺の体が小さいからといっても、これは狭いそれでも無理矢理に入って、ベルトコンベアを動かすギミックを作っていく。

「ふぅ、やっとできたぁ」

 何とか作り上げて台の中から出てきた。

「って、考えてみたら、こっち側をあとで作ればよかったんじゃねぇか!」

 作業が終わったところで、まず上部と左右のどちらかを作り、横から作って最後にふさげばよかったといまさらながらに気が付いてしまった。
 まぁ、俺は前世も含めてものづくりの素人、そんな俺が最初からうまくできるわけがない。
 こういう失敗をして、次に生かせればそれでいいさ。
 とまぁ、そんなことを考えつつ、次の作業に入るわけだが、次こそこの魔道具のメイン、これまでの作業はそのおまけに過ぎない。
 そう、フリーズドライである。

 といっても、これは今までで最も簡単なものだ。
 なにせ、先ほど作ったベルトコンベアの最後部に箱を作り、その中を料理が入ったところでフリーズドライの魔法を発動するように作ればいいからだ。

 というわけで、さっそく魔鋼でベルトコンベアより少し大きめの立方体の側面と上面を作り、正面と背面は上部を少しだけ、底面はない。
 そんな箱を作り、正面すぐの場所に物理結界を張る魔石を設置。
 これは、ものが当たるとすぐに壊れるが、またすぐに張るようにした。
 これが、いわゆるセンサーの代わりになるわけだ。
 そして、それに連動してフリーズドライの魔法を使う魔石を設置し、その箱をベルトコンベアに設置してやれば出来上がりってわけだ。

「よっしゃ、これで、大体できたな。あとは、試したいところだが……」
「スニル君、ご飯よ」

 ここでシエリルがそう言って倉庫にやってきた。
 どうやら、昼飯の時間らしい。
 昨日は孤児院で食べたが、今日は店で食べることになっている。
 

「わかった」

 俺はそう返事してから倉庫を出て店へと向かった。


「魔道具のほうはどう?」

 昼飯を食べ始めたところで、シエリルが進捗具合を尋ねてきた。

「一応、1つ完成したとこ」
「もう、できたの! 早いのね」

 昨日の午後から初めて、今日の午前中で1つできたことに驚いていた。
 後で聞いたことだが、魔道具職人と呼ばれる人が、小さな魔道具を1つ作るだけでも数時間、俺が今回作るような大物となると、数か月はかかるらしい。まじか! かかりすぎだろ。
 どうして、そんなに時間がかかるかというと、それは簡単で魔石に刻む魔法式がいくつも組み合わせたりしないとならないためにとてつもなく複雑になり、複数の魔石に刻まないといけないうえに、まとめるのが大変だかららしい。
 だが、俺の場合時間がかかるのはハードで、ソフトは簡単なものにできるためにあっという間にできる。
 まぁ、そのハードも普通よりも圧倒的に早いんだけどな、なにせ大地魔法を使うためにイメージするだけで形ができるんだからな。

「魔法で、形を作って、魔石に魔法式を刻むだけだから」

 やっぱり、シエリルとワイエノが相手だと、若干人見知りが発動するな。
 これでも、ちょっとは慣れたと思うんだが、まぁ、こればかりは仕方ない、性分みたいなものだからな。

「ほんと、すごいよなぁ、普通そんな簡単にはいかねぇぞ。なんだっけ、メティスルだっけ、すげぇよなぁ」
「そうね。なにせ、賢者や大賢者よりも上位のスキルなんでしょ。賢者だって持ってる人、めったにいないんでしょ」
「ああ、少なくともこの辺りにはいないよな。あったことないぜ」
「シュンナとダンクスも言ってた」
「だろうな。いたら大騒ぎだろうしな」

 2人によると賢者スキルですら騒ぎとなり下手をすると王都から呼び出しが来て、囲い込まれる可能性があるという。

「場合によっては、宮廷魔導士にされるかもな」
「あり得るわね。確か東側と戦争してるみたいだし」
「駆り出されるだろうな」
「そうね」
「それは、困る」
「そうだな。それにスニルの場合魔道具もあっという間に作っちまう、これは国としてはのどから手が出るほど欲しがるだろうな」

 そんな話が出たわけだが、それを聞いたとき俺が思ったのは、今後はあまり魔法をポンポン使わないほうがよさそうだってことだ。もちろん、魔道具もホイホイ作らないようにしないとな。
 だが、そうなるといろいろ不便だ。となると、何とかごまかせる方法を考える必要がありそうだな。
 まぁ、それはおいおい考えるとするか。

「あまり、使わないほうがいいか」
「まっ、それがいいだろうな」
「そうね。あっ、それでスニル君、魔道具が1つできたってことだけど、この後はどうするの。確か、全部で3つ作るって言ってたよね」

 シエリルが言ったようにフリーズドライの工業魔道機械は3つ、つまり生産ラインを3つにするつもりだ。

「その予定、ただちゃんとできたか確かめる必要がある」
「ああ、確かに、となると、調理する必要があるのよね」
「……」

 シエリルの言葉に俺は黙ってうなずく。

「だったら、私が手伝うわ。実際に使う人が試したほうがいいでしょう。それに、危ないしね」

 シエリルの話も尤もだ。俺は製作者であり使用者ではないからな。俺が気が付かないところにシエリルが気が付いてくれるかもしれないからな。

「わかった。そのほうがいい」

 ということで、午後はシエリルを伴って倉庫にやってきた。

「さっきもみたけど、ほんとにすごいわね。こんな大きいものどうやってスニル君1人で作ったのかしらね」

 シエリルは先ほど、俺を呼びに来た時に見たが改めて見るとすごいと感心してくれたようだ。
 すぅ、はぁ。
 深呼吸を1つしてから、説明を始める。

「えっと、そこが調理台」
「ここね。あらっ、これ何かしら?」

 昨日かまどを作った際、同時に向かって背面部分に調理台を作ったわけだが、その際に作った水場であるシンクの前にある。日本だったら当たり前にあるものを、シエリルが不思議そうに見ながら聞いてきた。

「それは、蛇口、水が出る」
「ジャグチ、お水、どういうこと?」

 シエリルは俺の簡単な説明に疑問符を浮かべていた。
 まぁ、そうだろうと思い、改めてちゃんと説明を始めた。

「昨日”探知”で地下を探って、街で使ってる井戸よりも深い場所にも水脈、水が流れていることがわかって、魔法を使って掘ったんだ」
「掘ったって、井戸よりも深いところを、そんな簡単に掘れるものなの。確か井戸を掘るのもかなり苦労したって聞いたわよ」

 蛇口の説明のためにまず経緯から説明を始めたわけだが、井戸よりも深く穴を掘ったと聞いて驚いている。

「それは、井戸だから、広く掘る必要がある。でも、今回は管1つ分の穴があれば十分だったから。それに早く掘れるようにしたから」

 いくら俺でも井戸と同じ幅で穴を掘れば数日はかかるだろうが、実際に掘った穴は水道の幅、大体直径2cmほどであり、なにより”掘削”の魔法式を改造して先をドリルのようにしたからその分かなりの速さで掘れたわけだ。

「え、えっと、す、すごいわねぇ」

 シエリルはただそれだけを言った。
 まぁ、いきなり言われてもわからんよなぁ。

「そこにあるつまみを手前にひねってみて」
「これ?」

 俺が蛇口についているハンドルをひねるように言うと、シエリルは言われた通りにハンドルに手をかけてひねった。

「わっ、わっ、水、うそっ、水が出た!」

 生まれて初めて蛇口から水が出る光景を見た人はこんなリアクションをするんだなぁ。

「す、すごい、スニル君、水、お水が出たわ!!」

 よほど感動したのか、シエリルはかなり興奮しはしゃいでいる。
 まぁ、わからんでもない、この世界で水というのは、魔法で出すか共有の井戸まで行って水を釣瓶で汲んで、せっせと重い思いをしながら運ぶわけだからな。それがひねるだけで大量の水が出れば誰だって感動するだろう。
 まぁ、日本にいた俺にとってはこれが当たり前の光景だけどな。
 でも、この世界では存在しないものだ。

「うん、その水を使えば、大鍋もすぐにいっぱいになる」
「ええ、ええ、そうね。私もお水はどうしようかって思ってたし、やっぱり井戸からいっぱい運んでこないとって思ってたから、こんなに楽になるなんて、ありがと、スニル君。でも、これ、うちにもほしいわ」

 いうと思った。誰だって楽したいしな。俺としてもぜひシエリルには楽をしてもらいたいとも思う。
 だからといって、おいそれと設置できないんだけどな。

「下手なことはできないから」
「そうなのよねぇ」

 下手に設置して誰かに見つかり、出所を探られたら、それはそれで面倒ごとになりかねない。
 それでなくとも、この倉庫にあるフリーズドライの魔道具だけでも大変だと思う。

「まぁ、それはおいおいとして、これって飲んでみていい?」
「……」

 シエリルもよくわかっているためにそれ以上蛇口のことは言わず、いまだ出ている水を飲んでみてもいいかと聞いてきたので黙ってうなずいた。
 すると、シエリルは家から持ってきていた深皿に水を入れて1口。

「おいしい!」

 水のおいしさに驚いたようだ。
 実は、俺が掘り出したこの水、深いところにあるからなのか、よくは分からないが井戸水よりも圧倒的にうまい。俺も昨日試しに飲んでみてびっくりしたほどだ。
 ちなみに、俺の前世の記憶にあるどんな水よりもうまかったのは言うまでもないだろう。例えば、水道水は比べようがないだろう。ミネラルウォーターだってこれには劣ると思う。
 まぁ、高い水は飲んだことないから知らないけどな。

「それを使えば、うまくなると思う」
「それは、間違いなわね。それじゃ、さっそく作ってみようかしら」

 そう言ってからシエリルは調理台に向かい料理を始めたのだった。
 それを見ていた俺は、ただ見ているだけじゃ手持無沙汰のためにその間2機目に取り掛かった。
 もちろん、作る際にはシエリルに使い勝手などを訪ねながらだったけど、それがまた大変だった。
 普通に聞けばいいじゃないかって思うかもしれないが、それができたら苦労はしない。
 俺みたいな男には、毎回準備が必要だからだ。

 とまぁ、こうして2個目のかまどを作っているとシエリルから料理ができたという知らせが届いた。

「スニル君、料理ができたけどこれでどうすればいいの?」
「つぎは、この器に小分けにして、ここに置いていく」

 俺が出したのは1人前分が入る皿、素材はもちろん魔鋼製だ。

「ここね」

 シエリルは、俺のつたない言葉でも理解できるようですぐに俺が差し出した皿にできたばかりの料理、まぁスープだが、を入れて俺が示した通りベルトコンベアの上に乗せた。

「動いていると、ちょっと置きづらいわね」

 ベルトコンベアは常に動いている。その速度は遅く(回転寿司レーンの約半分ぐらい)俺にとっては問題ないが、ベルトコンベア自体初めて見るシエリルには少々扱いづらいようだ。

「すぐになれると思う」

 こればかりは慣れてもらうしかない。

「そうね。まぁ、早いわけでもないし、すぐになれると思うわ。あっ、箱に入った!」

 ベルトコンベアはそこまで長くないために、置くとすぐにフリーズドライの魔道具の箱に入っていく。

「もう、できたはず」

 そう言いながら箱の向こう側までシエリルを伴って向かったわけだが、はてさてどうだろうか。
 大丈夫だと思いながらも多少の不安を持ちつつ見てみると、そこには先ほどシエリルがスープを作って入れた皿と、その中にフリーズドライされたスープが入っていた。
 どうやら、成功したらしい。

「すごい、もうできてるのね」
「……あとは、これをとって包めば出来上がり」

 俺は黙ってうなずいた後、フリーズドライを手に持ちシエリルに言った。

「す、すごい、思っていたより簡単ね。ねぇ、お湯をかけてみてもいいかな」
「うん」

 シエリルはさっそく湯をかけて元に戻して、味を試してみるつもりのようだ。

「それじゃ、さっそく」

 そう言いつつ、いつの間にか手に持っていたポットからお湯をさらにそのまま注いだ。
 すると、あっという間にスープへと戻った。
 それを、恐る恐るシエリルがこれまたいつも間にか持ってきていたスプーンですくって飲んでみる。

「うん、おいしい、スニル君も食べてみる」

 シエリルがそう言って俺にもスプーンをわたしてきたので俺も食べてみる、うん、うまいな。

 どうやら思っていた以上にうまくいったようだ。
 まぁ、それは何よりというわけでそのあと残りもさっさと完成させたのは言うまでもないだろう。
 尤も、3機作り上げたのはそれから、2日後のことだったけどな。
 これには、ほかにもいろいろとやることがあったからなんだけどな。
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