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第04章 奴隷狩り

15 拠点襲撃

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 110万4千ドリアスでシュンナがアルムを落札した。
 こう聞くと、なんだか危ない話に聞こえる。まずは人身売買、これは現代地球では全面的に禁止されている悪行だ。しかも、シュンナという絶世の美少女が男を買ったというのがまた、下手したらシュンナの名誉が危なくなる。しかし、安心しほしいアルムは人間ではあるが奴隷の首輪をつけられ、法律上人間ではなく物という扱いになるために人身売買にはならない。そして、シュンナが買った理由も何もシュンナが楽しむためではなく、パルマーの願いとちょっとした打算を合わせて俺の指示で落札しただけでしかない。

 さて、それはいいとして俺たちは今、オークションで落札したものを受け取りにやって来ている。

「127番の方ですね。少々お待ち下さい」

 シュンナから番号札を受け取った受付が手持ちの紙を確認している。

「ありがとうございます。本日落札された商品はドワーフ作の剣1振り、ピンクサファイアのネックレス1点、奴隷1点ですね」
「ええ、そうよ」
「では、こちらのお値段ですが、剣、25万3千ドリアス、ネックレス、32万6千ドリアス、奴隷、110万4千ドリアスとなりますので、計168万3千ドリアスとなりますがよろしいでしょうか?」

 受付がそれぞれの落札額とその合計を伝えてきたが、俺たちの計算でも同じで間違いないと確認する。

「ええ、それでいいわ」
「お支払い方法はいかがいたしますか?」

 この世界の支払い方法は2つあり、1つはいつも俺たちがやっている現金払い。
 もう1つは、引き落としという方法となる。といってもこの世界にはまだ銀行はない、ではどこからというと、各ギルドとなる。冒険者ギルドを例として挙げると、冒険者が依頼を達成して報酬を受け取る際、駆け出しであれば現金をそのままもらえばそれでいいかもしれないが、ある程度稼ぐようになる冒険者では現金をそのままもらっても財布に収まらない。そこで、ギルドが銀行のように金を預かってくれる。しかもその金は別のギルドでもギルドカードがあれば引き出すことができるそうだ。そして、今回のように支払いで引き落としということもできる便利な機能である。ほんと銀行みたいだよな。まぁ、俺たち旅人にはそんなギルドはないので、現金を支払うしかないんだけどな。

「現金で払うわ」
「かしこまりました」

 受付はそう言ってトレーを出してきた。こういうのは地球と変わらないんだな。そんなことを考えているとシュンナが財布から金を出していく。

「えっと、これでいいかしら」

 シュンナはトレーに金貨を1枚と大銀貨を6枚、銀貨9枚を出した。

「失礼します。では、169万ドリアスお預かりしまして、こちら大銅貨7枚のお返しいたします」
「……失礼いたします」

 大銅貨7枚のお釣りを受け取ったところで、ちょうどノックがしたと思ったら部屋にシュンナが
落札した商品を持った者たちが入ってきた。

「……! ?!!!!」

 その中にはアルムの姿があり、何やら言っているが口に布を巻かれてしゃべれずにいるらしい、こう見るとまるで、犬が無駄吠えしたり嚙みついたりするのを防ぐのに使うマズルってやつだよな。あれもこうして人間にしているのを見ると、犯罪めいているよな。まぁ、それはともかくアルムだけど、最初はたぶん文句を言いたいようだったけれど、自分を購入したのがシュンナのような美少女でまんざらでもないとでも思っているんだろうな。表情がそれを物語っている。しかし、残念だったな、この後のことを考えると少しだけアルムに同情してしまうな。

「お買い上げになった商品はこちらでよろしいでしょうか?」
「ええ、間違いないわ」
「では、どうぞ」

 ということで購入した商品を受け取りこれにて取引は終了である。



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 オークション会場を出た俺たちは街を連れ立って歩いていた。

「それにしても、シュンナにしては思い切ったよな」
「まぁね。一目ぼれしちゃったんだよね」
「なるほどねぇ」

 俺たちが話している内容は、当然シュンナが落札したネックレスのことだ。
 実はシュンナ、女らしく装飾品が好きでこれまでも街によるたびに買える範囲ではあるが買い込んでいた。その結果それなりに量となっているために、装飾品専用のマジックポーチを作ってやったほどだ。それで、そこから毎日気分によって選び出したものを身に着けている。しかし、俺たちは旅人とはいえいつ戦闘がおこるかはわからないから、普段は動きの邪魔にならない小ぶりの物しかつけていない。
 しかし、今回シュンナが買ったネックレスは俺の手のひら程度の大きさはある。これじゃ戦闘などの際に邪魔になるだろう。それに、金で苦労したシュンナが買う装飾品は基本安い物ばかり、シュンナ曰くいかに安くかわいいものを買うことが楽しいそうだ。にもかかわらず今回30万もするものを買ったわけだが、これはシュンナにとってはかなり思い切ったことだった。尤も、オークションが始まる際俺たちはそれぞれ40万までという上限を設けており、シュンナはそれ以下で落札したので全く問題ない。ちなみに、落札できなかったものは40万を超えてしまったためにあきらめたわけだ。

「……」

 一方アルムだが、何やら顔を赤くしている。……ああ、あれはたぶん何か勘違いしているな。俺たちの会話にはネックレスという言葉を使っていないからな。まぁ、いいや。俺は見なかったことにした。


 それから俺たちはディームたちと待ち合わせをしている場所へ向かうために王都西門へと向かい、特に問題なく王都を出たのであった。そうして歩くこと1時間ほどしたところで事前に決めていた目印が見えてきた。

「ここか?」
「そうみたいね」
「?」

 俺たちが突然森の中に入るので何も知らないアルムの頭には疑問符が浮かんでいた。余談だがアルムが何もしゃべらないのは今を持っても口に布を巻いているからだ。その理由は単純にそれを取ったらうるさくなりそうだからである。おとなしくさせるには真実を話せばいいのではと思うかもしれないが、それはちょっと面倒だし何より話す時間と場所がなかったからだ。というわけで、やってきた森の中にはテントが張られており、ディームたちの姿が見えた。

「!!?」

 ディームたちの姿を見たアルムが静かに驚愕している。

「よぉ、待たせたか?」
「んっ、おう来たかって、アルム、お前心配させやがって、この野郎」

 俺たちの背後に見えたアルムに、ディームがそう言いながら近づきその背中をたたいた。

「なに、アルムだとっ……アルム!」

 そんなディームの声を聴いたパルマーが飛んできた。

「ほんとだ。アルム心配したぞお前」

 ジェニスもやって来てアルムの肩をたたく。

「……?!!」

 一方でなぜここにディームたちがいるのか理解できず困惑しているアルムであった。

「ていうかなんでお前、そんなもんつけてんだよ」

 ここでようやくパルマーがアルムの口についている布を取り払った。

「な、な、なんで兄貴たちがいんだよ!!」

 布が取れたことでようやくアルムがそう叫んだ。

「なんでも何もねぇよ。まぁ、これからは俺がお前をこき使ってやるからな覚悟しろよ」

 パルマーがそう言ってアルムの肩をたたく、その表情は冗談めかしているが、若干嬉しそうなものであった。

「そうそう、アルムは僕たちの奴隷になるからな」
「違いないな」

 ジェニスとディームもそれに続いてそういった。

「ああ、悪いけど俺はこの人の奴隷に……」
「あっ、そういうのはいいから」

 アルムがシュンナを指さしながら言おうとしたらすげなくシュンナからそう言われてしまっている。哀れな……

「ぎゃははははっ、振られてやんの」
「あはははっ、あはははははははっ」
「がははっ、お前馬鹿だろっ。シュンナは俺たちの代わりにお前を落札してくれたんだよっ」
「んだとっ」

 やはりアルムは勘違いをしていたようだが、兄たちから真実を告げられて顔を真っ赤にしている。

「だから言ったろ、お前はこれから俺の奴隷としてこき使うって」
「ふざけんな。なんで俺が兄貴の奴隷にならなきゃいけねぇんだよ」

 弟という存在はえてして、兄の奴隷である。これはよくある話で、弟妹という存在はなぜか兄姉からこき使われる運命にあるらしい。でも、さすがに兄の文字どおりの奴隷はない。というわけで俺はさっさと”解呪”をかけてやる。
 空気を読めだって、いや、俺はむしろ空気を読んでの行動だ。
 というわけで指をぱちりと鳴らして”解呪”を発動、この魔法もすでに5回目、さすがに慣れてきてもはやこれだけで発動させることが可能だ。まぁ、実際には指を鳴らす必要もないんだけどな。これはなんだ、きっかけみたいなものだな。

 とまぁ、とにかくこれでアルムの首についていた奴隷の首輪がはずれたのだった。

「てめぇ……えっ!」
「あはははっ、んっ!」
「って、なんではずれてんだよ」
「?!」

 突然前触れもなく奴隷の首輪がはずれたことで驚愕する4人である。

「さすがね。スニル」
「全くな」
「えっ、ちょっとまて、今のこのガキがやったってのかよ」

 ダンクスとシュンナの言葉を受けて、アルムが俺を指さしてそういった。

「そうよ。スニルの魔法はすごいからね。このぐらいは簡単なのよ」

 なぜかシュンナが得意げにそう言った。

「まじかよっ。確かに、スニルはお前らより強いって言ってたけど、こういうことか?」
「まぁな。接近でもそれなりに強いが、こいつの真の強さは魔法だからな。奴隷の首輪をはずことぐらいは簡単なんだよ」
「あっ、でもこれは内緒にしておいてよね。あまり知られると面倒だしね」
「おっ、おうわかったぜ。しかし、俺たちはお前らにとんでもない恩を受けたってことだよな。どうやって返せばいいんだよ」

 ディームがそう言いながら頭を抱え始めた。それはそうだろう、俺たちはディームたちが払えなかったアルムの金を肩代わりし、その首についている奴隷の首輪を外してやったわけだからな。

「気にすんな。俺たちとしてはアルムお前から情報を得られればそれでいいんだよ」
「そうそう、最初からそのつもりだったしね」
「……」

 そもそも俺たちがこいつらを助けた理由はただ単に、アルムが持っているであろう情報を得るためである。

「情報? いったいどんなもんだよ」
「俺たちが知りたいのは奴隷狩り、アルムお前その奴隷狩りにつかまったんだろ」

 元奴隷として気になる連中だからな。

「あ、ああ、確かに俺はそいつらにつかまったよ。でも俺が話せることなんてそんなないぞ」
「構わない」
「だな」
「わかった……」

 その後アルムは自身がつかまってからのことを話してくれた。その内容からわかったことは奴隷狩り連中の拠点の場所であった。

「……なるほどな。そんなとこにあったのか」

 アルムの話から推測し”マップ”と照らし合わせて大体の場所が分かった。

「こんなこと聞いてどうするんだお前ら?」
「ちょっとした興味よ」
「興味だとっ! どういうことだよ」
「以前にもお前らみたいに奴隷狩りにあったって娘を助けたことがあってな。またとなると興味も出るだろ」
「あの時もダンクスが誘拐犯と間違われたっけ」
「悪かったな。悪人面でよ」

 そう言って俺たちは笑いあった。

「まぁ、そういうことだから気にすんな。じゃぁ、俺たちは行くぜ」
「お、おうってもう行くのか?」
「ああ、まぁな」
「それじゃね」

 というわけで俺たちはあっさりとその場を後にしたのだった。


「んで、どうすんだスニル」

 ある程度離れたところでダンクスが聞いてきた。

「そうだなぁ。一応つぶしておくか、アルムの奴を買った金を回収したいし」
「そうね。110万はさすがに高いからね」
「だな。ああいう奴らを放置すると、また誰かが犠牲になるからな」

 ダンクスだけは相変わらず元騎士らしく正義感があるんだよな。
 ま、俺もダンクスほどではないが多少はあるつもりだから、言いたいことは分かるんだけどな。
 それじゃ、なぜ俺が奴隷狩りの連中のためにここまで金を使ったりしたのかというと、これはディームたちにも言った通り興味本位ということも事実だが、何より奴隷狩りというものがそこら辺を歩いているなんでもない普通の人間を拉致って、奴隷の首輪をはめて奴隷とする。というふざけた連中だということが腹立たしいこともある。
 俺をはじめシュンナとダンクスも正当ではなく、不当に奴隷にされた経緯を持っているから余計に腹立つんだろう。だからその奴隷狩りとかいう連中はつぶしておきたい。アルムから聞き出した拠点がどういう存在かはわからないが、多分そこに行けば何かわかるだろうし、もしわからなくともとりあえずその拠点で捕まっている連中は助けることができるからな。

「そんじゃ、転移するぞ」
「おう」
「了解よ」

 というわけで、”マップ”に記した奴隷狩りの拠点と思わしき場所からほど近い場所へと転移した。



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「さて、どうする。今から乗り込むか?」
「うーん、それもよさそうだけど、下手したら奴隷にされた人を盾とかにしそうじゃない」
「それはまずそうだな」
「いや、まずいだろ」

 俺が2人に今から乗り込んでみるかと聞いたところ、シュンナが奴隷にされた人たちが盾として使われる可能性を指摘してきた。なるほど、確かにそれはまずいか。

「となると、夜になるのを待って侵入してみるってとこか」
「だな、それで奴隷を救出してから殲滅ってとこか」
「でも、それだと効率悪そうだし、というかあたしとスニルはともかくダンクスだと目立つでしょ」

 俺とシュンナは小柄だがダンクスは巨漢、なるほど目立つな。

「だったら、俺とシュンナで侵入、俺が奴隷を見つけて転移で逃がして、シュンナは何か資料とかを盗む、ダンクスは陽動ってとこか」
「それが妥当ね」
「よっしゃ、それでいいいぜ」

 作戦も決まったところで俺たちはまず夜まで待つために、適当な場所にテントを設置して過ごすことにした。


 そうして、夜となりあたりは真っ暗闇となっている。といっても俺たちは”暗視”という光魔法を使っているために全く問題ない。

「そろそろ行くか」
「おう、陽動は任せな」
「ああ、任せた。といってもまずはっと」

 俺は”探知”を発動させる。これによって奴隷狩りどもの拠点の全容がわかるようになるからだ。

「えっと、ああ、セオリー通り奴隷は地下かな。多くの人間が集まってる。それもあまり魔力が強くないし小部屋に詰め込んでいるって感じだからな」
「そりゃぁ、間違いないな」
「そうね。それじゃ、スニルは地下ね」
「そうなるな。それで、シュンナはたぶんこの一番奥か」

 俺の”マップ”は空間に表示させることもできるために、こういう時3人で情報を共有できるのはありがたい。

「だろうな。構造的に考えても一番重要そうな場所だし」
「そうね。それじゃあたしはここまで行ってみるわ」
「おっしゃ、それじゃ、俺はお前らが突入したら適当に表で暴れるぜ」
「ああ」
「ええ」

 そんなわけで俺たちはさっそく動くことになったわけだが、先ほども言ったように拠点は洞窟、出入り口は1つしかなく、そこには当然見張りが立っていた。

「そんじゃ、まずはあいつらを黙らすか」
「了解、あたしとスニルで行くよ」
「おう」

 シュンナの指示により俺は見張りの右側に素早く駆け寄り、物陰から風魔法の”ウィンドカッター”を放つ、その瞬間見張りの首がポロっと落ちたのだった。
 そして同時、シュンナが目にも止まらなぬ速さをもって、左側の見張りに接近し首筋をかき切った。まるで暗殺者みたいだ。

「じゃ、行ってくる」
「気をつけろよ」
「わかってるって」

 ダンクスを残し俺とシュンナは”マップ”に従い、奥へと進んでいく、もちろん時々”探知”を使い敵の位置を確認しながらだけどな。
 そうして進んでいると、分かれ道となりそこから右へ行くと地下への道となるためにシュンナとはここで別れる。

 地下へと続く道、進んでいくと前方に敵が一人。”探知”で確認したところそいつ1人だけ、しかもちょうどそのころダンクスが動き出していることもあり、俺は堂々と敵の前に姿を現した。

「なっ、なんだてめっ」

 しかし見張りの男が発したことはバそれだけ、なにせ俺は姿を現したと同時走り出し、男を斬り捨てていたからだ。

「ふぅ、まっ、こんなもんか」

 そのあとは何とか拉致された人たちを見つけてから、まずは拠点の外へと転移したのだった。
 それから少しして、拠点からシュンナとダンクスが出てきたことで、俺たちの拠点襲撃は終えたのだった。
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