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第04章 奴隷狩り
16 いざシムサイト商業国へ
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奴隷狩りの拠点を襲撃し奴隷狩りどもを殲滅し、捕まっていた人々を救出した。
「それで、こいつらどうする?」
ダンクスが救出した人々を指してそういった。
「そうだな。さすがに放置ってわけにもいかないだろうな」
「それはそうでしょ。だからといってあまり世話をするのも、あたしたちのことを知られることになるし厄介よ」
「だな。となると、首輪を外してラハイエートまで送って、あとは騎士や兵士に任せるしかないか」
「だな」
ということで、さっそく捕まっていた人たちの奴隷の首輪に対して”範囲指定”してから”解呪”を静かに発動した。これにより全員の首輪がポロっと外れたのだった。
「えっ?」
「どうして?」
「な、なんだ?」
突然首輪がはずれたことで困惑している面々であったが、それに答えることなく”大規模転移”を発動した。ちなみにこの魔法は”転移”の上位魔法で、転移よりも広範囲を指定をすることが楽なんだ。実はこの魔法の存在に気が付いたのは最近だったりする。もしカリブリンにいた時に気が付いていればもっと楽に村人たちを運べたんだけどな。まぁ、終わったことは仕方ないというわけで、やってきましたラハイエートの門前。
「な、なにごとだっ!!」
「なんだ、お前たちは、どこから現れた!」
俺たちが突然門前に現れたことで慌てたのは門を守る兵士と、その門の前に集まって夜営している連中だ。
「ああ、怪しい物じゃないわよ。この人たちはある連中に拉致されていた被害者なのよ」
「俺たちはそいつらを襲撃して助けたってわけだ。というわけでこいつらを頼んだぜ。家に帰してやってくれ」
「それじゃ、お願いね」
シュンナとダンクスがそう言って簡単に説明したのち、俺はすぐに”転移”を発動しその場から姿を消した。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
「ふぅ、あの人たち大丈夫かしらね」
「さぁな。大丈夫だろ、彼らが被害者であることは事実だし、多分だけど中には街の住人とかもいるだろうし」
「だな、そいつが何らかの説明をするだろ」
「あたしたちを追ってこないよね」
「それはないだろうし、無理だな」
俺たちは認識疎外を付与したフード付きマントを身に着けており、顔は認識されていない。せいぜい巨漢と巨乳の女、あとは子供という体格ぐらいだろうしそんな組み合わせは確かに俺たちぐらいしかいないだろうとは思うが、でもそんなものを知っているやつもそういないからな。
「ところでここどこ?」
”転移”で逃げたために俺以外どこにいるのかもわからないわけだしな。
「王都の東門から少し離れた場所だな」
俺の”マップ”は基本言ったところしか詳細表示されず、詳細表示されている場所にしか”転移”できない。しかし、行ったところといっても俺を中心に範囲200mほどはカバーされているために東門の側に行けば200m離れた場所にも”転移”で飛べるようになるというわけだ。
「どうして、東門?」
「なんとなくだな。西だとディームたちと出くわしちまうだろ」
「まぁ、それもそうか」
「とりあえず、テント出すぞ」
「おう」
「お願い、休みたいわ」
そんなわけで、”収納”からテントを取り出し設置した。
テントを出したことですぐさまテント内に入りリビングでまったりとすることとなった。
「そういえばシュンナ、奴らの資料はどのくらい奪えたんだ」
「あったものは全部持ってきたけど見る?」
「いややめとこう、今日は疲れたし風呂入って寝るよ」
「俺も酒飲んで寝るわ」
「そうね。あたしも今日は早めに寝ようかしら」
そういうわけで今日は早々に寝ることになったのであった。
翌日。
俺たちは、朝からシュンナが獲ってきた資料を読み漁っていた。といっても俺はぱらぱらとめくっているだけなんだけどな。あとは”メティスル”が演算し整理して”森羅万象”に情報として収めてくれるからな。
そんな俺とは違いシュンナとダンクスは必至に資料を眺めている。俺がまとめてしまえば楽なんだが、それだとよくないと2人ともがんばっているというわけだ。まぁ、シュンナもそれなりに実力のある冒険者だったし、ダンクスも騎士、こういった資料を読み込むことは苦手ではないからな。むしろ”メティスル”を使わなかったら俺ではまちがいなくかなわないだろう。
さて、それで資料から得た情報だけど。
「ほとんどが、使えないわね。でも、ところどころシムサイトの名を見かけるわね」
「ああ、おそらくだがシムサイトに本拠地があるか、重要拠点があるかだな」
「もしくは、中継拠点か、まぁ、なんにせよ。行ってみれば何かわかるかもしれないが」
「そうね。っで、行くの?」
「俺としては行きてぇけどなぁ。これはスニル決めてくれ」
「俺がか? そうだなぁ」
シムサイト、正式にはシムサイト商業国といい、かの”奴隷の首輪”を製造販売している国となる。この国がどういう国なのかということは正直わからない。まぁ、商業国と名乗っているからには商業が盛な国ということなのだろう。んで、その国に行くかどうかだけど、その前に少し深く考えてみよう。
今回アルムを助けたのも奴隷狩りの拠点を襲撃したのも、ひとえに気が向いたからでしかない。でも、さすがに今回は気が向いたからというわけにはいかない。なにせ、シムサイトに行けば間違いなく奴隷狩りどもとの対決をすることになる。他国に手を伸ばしているうえに、高額の”奴隷の首輪”をあんなに大量に入手していることからそれなりにでかい組織であることは間違いないだろう。ということでまず奴隷について考えるてみようと思う、奴隷というと元地球の日本人としてはあまりいいイメージはない。実際俺も奴隷だったからわかるがまさに生き地獄のような状態だった。でも、奴隷制度自体は悪いものではないというのが俺の考えだ。もちろんそれはコルマベイントとウルベキナの2国の奴隷制度しか知らないからだけど、この2国の制度では奴隷になるのは基本犯罪を犯したものか、返せないような高額の借金をした愚か者だけとなっている。なぜならこれらは自業自得というものだからだ。特に犯罪に関しては加害者によって被害者が地獄を見たわけだからその償いとして加害者も地獄を見るべきだからだ。
実は俺は前世での日本をはじめとした、多くの国々で行ている刑務所の在り方には思うところがあった。確かに犯罪者と言えど人間であり、更生ののちの未来があるし、国としてはその人物が国に多少なりとも利益をもたらす存在だ。保護するのもわかる。でも、被害者やその家族からしたらどうだろう、自分たちを地獄に落とした奴が刑務所から出てのうのうと生きている。これはふざけるなって思うだろう。それを考えるとやはり俺にとって犯罪者に人権はいらない。そう考えたくなる。だからこそこの人間を人間とも思わない奴隷制度は悪いことではないというわけだ。尤も、ダンクスのように罪を押し付けられたり、シュンナのように数人分の借金を押し付けられたり、俺のように売られたりして奴隷になる場合もあり、これは気に入らないけどな。
んでだ、それらを踏まえたうえで奴隷狩り、こいつらは俺にとっては完全に犯罪者、売られたことのある俺としては許せる連中ではないだろう。そこら辺を歩いている普通のなんでもない奴、そいつを拉致って勝手に首輪をつけて奴隷として売り払う、ふざけた連中だ。
とまぁ、あれこれ考えたがうん、決まりだな。
「行こう」
「ふっ、そう来なくっちゃな」
「そういうと思ったわ。それじゃ、次の目的地はシムサイトね」
というわけで、俺たちの次なる目的地はシムサイトととなった。
「そんじゃ、今から行くか?」
「そうしよう」
「わかったわ。じゃぁ、準備してくる」
「おう」
俺とダンクスはいつでも準備は万全だが、シュンナは女だけあって準備が必要らしく自室へと向かっていった。
それから、少ししてシュンナが出てきたことで俺とダンクスも武器を装備してテントを出たのであった。
「それで、どっちだ?」
「さぁ」
「資料には場所までは書かれていないものね」
さていよいよ出発と思ったが、俺たちはシムサイト商業国がどこにあるのか知らない。
「しかたない、王都に戻って情報を集めるか」
「そうね。そうしましょうか」
「ああ」
そんなわけで俺たちは再び王都へと足を踏み入れたのだった。
「商業国っていうぐらいだし、商人なら何か知っているかもな」
「そうでしょうね」
「となると、商人ギルドでも行くか?」
「そうするか」
そうと決まればと商人ギルドへと向かった。
「いらっしゃいませ、本日はいかがいたしました」
商人ギルドに入ると受付がおりそう聞いてきた。
「ちょっと聞きたいことがあってきたんだけどいいかしら」
「はいどうぞ、なんでしょうか?」
「あたしたちちょっとした用があって、シムサイト商業国に行きたいんだけど、名前は知っているけれど場所までは知らないのよね。知っていたら教えてほしいのよ」
「シムサイト商業国ですか、どのようなご用件かは存じませんが、あまり女性にはおすすめできませんよ」
「どういうこと?」
受付が言った言葉の意味が分からない、女性には勧められないってどんな国だ。
「かの国には我々商人ギルドの統括組織である商業総合組合があり、当ギルドを含め各ギルドマスターはそこからの出向となっております」
驚いた。商業国のことを聞くためになんとなく商人ギルドにやってきたら、まさかの商業国と深いつながりのある組織だったなんてな。
「へぇ、そうなのね。だったらついでだしどんな国かおしえてもらってもいいかしら」
渡りに船とはこのこととばかりにシュンナは受付にシムサイトがどんな国か尋ねるのであった。
「私にお話しできる程度でよろしければお教えいたします」
そう言って受付はシムサイト商業国について話してくれた。
それによると、商業国の起こりは商人たちが寄り集まり組合を作ったのが始まり、この組合が大きくなり国を形成したという。そして、この組合こそが商業総合組合といい、その代表が商業国の首相であり、この首相は定期的に選挙による決まるという。なるほど、でも考えてみるとどの街でも商人をやるには商人ギルドに加盟しなければならない、そしてその商人ギルドを統括しているのが商業国、そう考えるとこの世界の商人たちはすべて商業国の管理下にあるといっても過言ではないのかもしれないな。
概要としてはこのぐらいで、問題はなぜ女性には勧められないのかというと、実はこの国女性差別というか蔑視がひどいらしい。そのため、かの国に生まれ落ちた女性たちは大人になると、結婚し子供を作るか男たちの性処理を行う娼婦、各家に仕える使用人にしかなれないのだという。
「……そ、それはまた……」
「な、なによそれ!」
「……馬鹿らしいな」
俺たちは話を聞きそれぞれそんな感想を述べたのだった。
「はい、ですのであまり女性が赴くことはお勧めできないのです」
「なるほどね。まぁ、話は分かったわ。でも、行かないといけないのよね」
「そうですか、それでは場所をお教えいたしますね」
受付は少し考えたのちシムサイト商業国の場所を教えてくれた。
「シムサイト商業国はここウルベキナ王国の北西に隣接しておりますから、王都からですと北門から出て、北上し途中で東へ向かわれるといいと思います。ですが、私も正確な道順は分かりかねますので、お立ち寄りの街で都度お聞きいただくとよろしいと存じます」
「そう、ありがと、あっ、これ情料よ取っておいて」
「ありがとうございます」
シュンナは受付に情報料として大銅貨3枚3000ドリアスを渡したのだった。
それから俺たちは北門を出るのであった。
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王都を出てからの俺たちは立ち寄る街を堪能しながらも、着々とシムサイト商業国へと近づいていた。まぁ、立ち寄ってばかりのおかげ一か月以上の時が経ってしまったけどな。でも、特に急ぐ旅でもなく、とりあえず行ってみようと思っただけでもあるために全く問題ない。
さて、そんな道中ではあるが、道々シムサイトの情報はある程度得ている。
それによると、シムサイトは本当に女性に対してはひどい扱いをしている国で、シムサイトで生まれた女性は基本国を出ることが許されないという、ていうか国どころか街すら出れないらしい。しかも聞いた話によると他国から入国した女性も一度入ったら二度と出ることができないうえに同国の女性たちと同様の扱いになるらしい。尤もこれはあくまで噂でしかないんだけどな。さすがに他国の女性たちまでそんな扱いはないだろう。ていうかそんなことしたら、普通に戦争になる。だが、火のない所に煙は立たぬという言葉があるように、何かがあるというのは間違いないだろう。
「シュンナはどうする」
「もちろん行くわよ」
国境へとやってきたところでシュンナにシムサイトに入るかどうかを尋ねた。先も言ったように女性差別のある国にシュンナを連れていくと、あまりいい気分には慣れないと思ったからだ。しかし、シュンナは即答で行くと答えた。まぁ、実際俺たちもシュンナを置いていくという考えはないんだけどな。ていうか奴隷狩りの施設に潜入するのに俺とダンクスだけではやはり難しい正面突破なら問題ないんだけど、さすがにそれは目立つし何より下手したらこっちが手配されちまう。というのも聞いた話によると、シムサイト商業国では俺がされたようにいらない子供やさらった人間を奴隷にするのは合法、つまり奴隷狩り事態が合法ということになり、そんな連中の施設に堂々と乗り込むわけにはいかないから忍び込むしかない。そして、シュンナはその小柄な体と素早い動きでもってこういうことが得意でもあるからだ。もちろん俺もできるが1人より2人のほうがいいからな。
「そうか、まぁ、そういうだろうとは思っていたけど、何言われても気にすんなよ」
「大丈夫よ」
ということで、俺たちはまずはウルベキナ王国を出るために出国門へと近づいていった。
「んっ、お前たちシムサイトに行くのか?」
「ええ、そうだけど」
「聞いていないのか、あの国では女性はひどい目にあうぞ」
「大体聞いているわ。でもまぁ、この2人もいるし大丈夫よ」
「ああ、まぁ、確かにそいつがいれば大丈夫だと思うが、ていうかそっちの子供も危ないからな気をつけろよ」
門のところにいた国境警備兵が俺とシュンナを見ながらそう言った。
「ええ」
「おう、悪いな。でも、大丈夫だぜこいつらもつえぇからな。下手な奴が来ても問題ない」
「そうか、わかっているなら通ってもいいぞ」
そう言って国境警備兵は門を開けてくれたのだった。
「ああ、そうそう向こうでは通行料がかかるから金を用意しておけよ」
「ええ、わかったわ」
門を抜けようとしたところで国境警備兵がそんなことを教えてくれた。そういえば出国には金は要らないんだな。なんてことを考えながら俺たちはシムサイト商業国の国境へと向かっていったのだった。
「それで、こいつらどうする?」
ダンクスが救出した人々を指してそういった。
「そうだな。さすがに放置ってわけにもいかないだろうな」
「それはそうでしょ。だからといってあまり世話をするのも、あたしたちのことを知られることになるし厄介よ」
「だな。となると、首輪を外してラハイエートまで送って、あとは騎士や兵士に任せるしかないか」
「だな」
ということで、さっそく捕まっていた人たちの奴隷の首輪に対して”範囲指定”してから”解呪”を静かに発動した。これにより全員の首輪がポロっと外れたのだった。
「えっ?」
「どうして?」
「な、なんだ?」
突然首輪がはずれたことで困惑している面々であったが、それに答えることなく”大規模転移”を発動した。ちなみにこの魔法は”転移”の上位魔法で、転移よりも広範囲を指定をすることが楽なんだ。実はこの魔法の存在に気が付いたのは最近だったりする。もしカリブリンにいた時に気が付いていればもっと楽に村人たちを運べたんだけどな。まぁ、終わったことは仕方ないというわけで、やってきましたラハイエートの門前。
「な、なにごとだっ!!」
「なんだ、お前たちは、どこから現れた!」
俺たちが突然門前に現れたことで慌てたのは門を守る兵士と、その門の前に集まって夜営している連中だ。
「ああ、怪しい物じゃないわよ。この人たちはある連中に拉致されていた被害者なのよ」
「俺たちはそいつらを襲撃して助けたってわけだ。というわけでこいつらを頼んだぜ。家に帰してやってくれ」
「それじゃ、お願いね」
シュンナとダンクスがそう言って簡単に説明したのち、俺はすぐに”転移”を発動しその場から姿を消した。
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「ふぅ、あの人たち大丈夫かしらね」
「さぁな。大丈夫だろ、彼らが被害者であることは事実だし、多分だけど中には街の住人とかもいるだろうし」
「だな、そいつが何らかの説明をするだろ」
「あたしたちを追ってこないよね」
「それはないだろうし、無理だな」
俺たちは認識疎外を付与したフード付きマントを身に着けており、顔は認識されていない。せいぜい巨漢と巨乳の女、あとは子供という体格ぐらいだろうしそんな組み合わせは確かに俺たちぐらいしかいないだろうとは思うが、でもそんなものを知っているやつもそういないからな。
「ところでここどこ?」
”転移”で逃げたために俺以外どこにいるのかもわからないわけだしな。
「王都の東門から少し離れた場所だな」
俺の”マップ”は基本言ったところしか詳細表示されず、詳細表示されている場所にしか”転移”できない。しかし、行ったところといっても俺を中心に範囲200mほどはカバーされているために東門の側に行けば200m離れた場所にも”転移”で飛べるようになるというわけだ。
「どうして、東門?」
「なんとなくだな。西だとディームたちと出くわしちまうだろ」
「まぁ、それもそうか」
「とりあえず、テント出すぞ」
「おう」
「お願い、休みたいわ」
そんなわけで、”収納”からテントを取り出し設置した。
テントを出したことですぐさまテント内に入りリビングでまったりとすることとなった。
「そういえばシュンナ、奴らの資料はどのくらい奪えたんだ」
「あったものは全部持ってきたけど見る?」
「いややめとこう、今日は疲れたし風呂入って寝るよ」
「俺も酒飲んで寝るわ」
「そうね。あたしも今日は早めに寝ようかしら」
そういうわけで今日は早々に寝ることになったのであった。
翌日。
俺たちは、朝からシュンナが獲ってきた資料を読み漁っていた。といっても俺はぱらぱらとめくっているだけなんだけどな。あとは”メティスル”が演算し整理して”森羅万象”に情報として収めてくれるからな。
そんな俺とは違いシュンナとダンクスは必至に資料を眺めている。俺がまとめてしまえば楽なんだが、それだとよくないと2人ともがんばっているというわけだ。まぁ、シュンナもそれなりに実力のある冒険者だったし、ダンクスも騎士、こういった資料を読み込むことは苦手ではないからな。むしろ”メティスル”を使わなかったら俺ではまちがいなくかなわないだろう。
さて、それで資料から得た情報だけど。
「ほとんどが、使えないわね。でも、ところどころシムサイトの名を見かけるわね」
「ああ、おそらくだがシムサイトに本拠地があるか、重要拠点があるかだな」
「もしくは、中継拠点か、まぁ、なんにせよ。行ってみれば何かわかるかもしれないが」
「そうね。っで、行くの?」
「俺としては行きてぇけどなぁ。これはスニル決めてくれ」
「俺がか? そうだなぁ」
シムサイト、正式にはシムサイト商業国といい、かの”奴隷の首輪”を製造販売している国となる。この国がどういう国なのかということは正直わからない。まぁ、商業国と名乗っているからには商業が盛な国ということなのだろう。んで、その国に行くかどうかだけど、その前に少し深く考えてみよう。
今回アルムを助けたのも奴隷狩りの拠点を襲撃したのも、ひとえに気が向いたからでしかない。でも、さすがに今回は気が向いたからというわけにはいかない。なにせ、シムサイトに行けば間違いなく奴隷狩りどもとの対決をすることになる。他国に手を伸ばしているうえに、高額の”奴隷の首輪”をあんなに大量に入手していることからそれなりにでかい組織であることは間違いないだろう。ということでまず奴隷について考えるてみようと思う、奴隷というと元地球の日本人としてはあまりいいイメージはない。実際俺も奴隷だったからわかるがまさに生き地獄のような状態だった。でも、奴隷制度自体は悪いものではないというのが俺の考えだ。もちろんそれはコルマベイントとウルベキナの2国の奴隷制度しか知らないからだけど、この2国の制度では奴隷になるのは基本犯罪を犯したものか、返せないような高額の借金をした愚か者だけとなっている。なぜならこれらは自業自得というものだからだ。特に犯罪に関しては加害者によって被害者が地獄を見たわけだからその償いとして加害者も地獄を見るべきだからだ。
実は俺は前世での日本をはじめとした、多くの国々で行ている刑務所の在り方には思うところがあった。確かに犯罪者と言えど人間であり、更生ののちの未来があるし、国としてはその人物が国に多少なりとも利益をもたらす存在だ。保護するのもわかる。でも、被害者やその家族からしたらどうだろう、自分たちを地獄に落とした奴が刑務所から出てのうのうと生きている。これはふざけるなって思うだろう。それを考えるとやはり俺にとって犯罪者に人権はいらない。そう考えたくなる。だからこそこの人間を人間とも思わない奴隷制度は悪いことではないというわけだ。尤も、ダンクスのように罪を押し付けられたり、シュンナのように数人分の借金を押し付けられたり、俺のように売られたりして奴隷になる場合もあり、これは気に入らないけどな。
んでだ、それらを踏まえたうえで奴隷狩り、こいつらは俺にとっては完全に犯罪者、売られたことのある俺としては許せる連中ではないだろう。そこら辺を歩いている普通のなんでもない奴、そいつを拉致って勝手に首輪をつけて奴隷として売り払う、ふざけた連中だ。
とまぁ、あれこれ考えたがうん、決まりだな。
「行こう」
「ふっ、そう来なくっちゃな」
「そういうと思ったわ。それじゃ、次の目的地はシムサイトね」
というわけで、俺たちの次なる目的地はシムサイトととなった。
「そんじゃ、今から行くか?」
「そうしよう」
「わかったわ。じゃぁ、準備してくる」
「おう」
俺とダンクスはいつでも準備は万全だが、シュンナは女だけあって準備が必要らしく自室へと向かっていった。
それから、少ししてシュンナが出てきたことで俺とダンクスも武器を装備してテントを出たのであった。
「それで、どっちだ?」
「さぁ」
「資料には場所までは書かれていないものね」
さていよいよ出発と思ったが、俺たちはシムサイト商業国がどこにあるのか知らない。
「しかたない、王都に戻って情報を集めるか」
「そうね。そうしましょうか」
「ああ」
そんなわけで俺たちは再び王都へと足を踏み入れたのだった。
「商業国っていうぐらいだし、商人なら何か知っているかもな」
「そうでしょうね」
「となると、商人ギルドでも行くか?」
「そうするか」
そうと決まればと商人ギルドへと向かった。
「いらっしゃいませ、本日はいかがいたしました」
商人ギルドに入ると受付がおりそう聞いてきた。
「ちょっと聞きたいことがあってきたんだけどいいかしら」
「はいどうぞ、なんでしょうか?」
「あたしたちちょっとした用があって、シムサイト商業国に行きたいんだけど、名前は知っているけれど場所までは知らないのよね。知っていたら教えてほしいのよ」
「シムサイト商業国ですか、どのようなご用件かは存じませんが、あまり女性にはおすすめできませんよ」
「どういうこと?」
受付が言った言葉の意味が分からない、女性には勧められないってどんな国だ。
「かの国には我々商人ギルドの統括組織である商業総合組合があり、当ギルドを含め各ギルドマスターはそこからの出向となっております」
驚いた。商業国のことを聞くためになんとなく商人ギルドにやってきたら、まさかの商業国と深いつながりのある組織だったなんてな。
「へぇ、そうなのね。だったらついでだしどんな国かおしえてもらってもいいかしら」
渡りに船とはこのこととばかりにシュンナは受付にシムサイトがどんな国か尋ねるのであった。
「私にお話しできる程度でよろしければお教えいたします」
そう言って受付はシムサイト商業国について話してくれた。
それによると、商業国の起こりは商人たちが寄り集まり組合を作ったのが始まり、この組合が大きくなり国を形成したという。そして、この組合こそが商業総合組合といい、その代表が商業国の首相であり、この首相は定期的に選挙による決まるという。なるほど、でも考えてみるとどの街でも商人をやるには商人ギルドに加盟しなければならない、そしてその商人ギルドを統括しているのが商業国、そう考えるとこの世界の商人たちはすべて商業国の管理下にあるといっても過言ではないのかもしれないな。
概要としてはこのぐらいで、問題はなぜ女性には勧められないのかというと、実はこの国女性差別というか蔑視がひどいらしい。そのため、かの国に生まれ落ちた女性たちは大人になると、結婚し子供を作るか男たちの性処理を行う娼婦、各家に仕える使用人にしかなれないのだという。
「……そ、それはまた……」
「な、なによそれ!」
「……馬鹿らしいな」
俺たちは話を聞きそれぞれそんな感想を述べたのだった。
「はい、ですのであまり女性が赴くことはお勧めできないのです」
「なるほどね。まぁ、話は分かったわ。でも、行かないといけないのよね」
「そうですか、それでは場所をお教えいたしますね」
受付は少し考えたのちシムサイト商業国の場所を教えてくれた。
「シムサイト商業国はここウルベキナ王国の北西に隣接しておりますから、王都からですと北門から出て、北上し途中で東へ向かわれるといいと思います。ですが、私も正確な道順は分かりかねますので、お立ち寄りの街で都度お聞きいただくとよろしいと存じます」
「そう、ありがと、あっ、これ情料よ取っておいて」
「ありがとうございます」
シュンナは受付に情報料として大銅貨3枚3000ドリアスを渡したのだった。
それから俺たちは北門を出るのであった。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
王都を出てからの俺たちは立ち寄る街を堪能しながらも、着々とシムサイト商業国へと近づいていた。まぁ、立ち寄ってばかりのおかげ一か月以上の時が経ってしまったけどな。でも、特に急ぐ旅でもなく、とりあえず行ってみようと思っただけでもあるために全く問題ない。
さて、そんな道中ではあるが、道々シムサイトの情報はある程度得ている。
それによると、シムサイトは本当に女性に対してはひどい扱いをしている国で、シムサイトで生まれた女性は基本国を出ることが許されないという、ていうか国どころか街すら出れないらしい。しかも聞いた話によると他国から入国した女性も一度入ったら二度と出ることができないうえに同国の女性たちと同様の扱いになるらしい。尤もこれはあくまで噂でしかないんだけどな。さすがに他国の女性たちまでそんな扱いはないだろう。ていうかそんなことしたら、普通に戦争になる。だが、火のない所に煙は立たぬという言葉があるように、何かがあるというのは間違いないだろう。
「シュンナはどうする」
「もちろん行くわよ」
国境へとやってきたところでシュンナにシムサイトに入るかどうかを尋ねた。先も言ったように女性差別のある国にシュンナを連れていくと、あまりいい気分には慣れないと思ったからだ。しかし、シュンナは即答で行くと答えた。まぁ、実際俺たちもシュンナを置いていくという考えはないんだけどな。ていうか奴隷狩りの施設に潜入するのに俺とダンクスだけではやはり難しい正面突破なら問題ないんだけど、さすがにそれは目立つし何より下手したらこっちが手配されちまう。というのも聞いた話によると、シムサイト商業国では俺がされたようにいらない子供やさらった人間を奴隷にするのは合法、つまり奴隷狩り事態が合法ということになり、そんな連中の施設に堂々と乗り込むわけにはいかないから忍び込むしかない。そして、シュンナはその小柄な体と素早い動きでもってこういうことが得意でもあるからだ。もちろん俺もできるが1人より2人のほうがいいからな。
「そうか、まぁ、そういうだろうとは思っていたけど、何言われても気にすんなよ」
「大丈夫よ」
ということで、俺たちはまずはウルベキナ王国を出るために出国門へと近づいていった。
「んっ、お前たちシムサイトに行くのか?」
「ええ、そうだけど」
「聞いていないのか、あの国では女性はひどい目にあうぞ」
「大体聞いているわ。でもまぁ、この2人もいるし大丈夫よ」
「ああ、まぁ、確かにそいつがいれば大丈夫だと思うが、ていうかそっちの子供も危ないからな気をつけろよ」
門のところにいた国境警備兵が俺とシュンナを見ながらそう言った。
「ええ」
「おう、悪いな。でも、大丈夫だぜこいつらもつえぇからな。下手な奴が来ても問題ない」
「そうか、わかっているなら通ってもいいぞ」
そう言って国境警備兵は門を開けてくれたのだった。
「ああ、そうそう向こうでは通行料がかかるから金を用意しておけよ」
「ええ、わかったわ」
門を抜けようとしたところで国境警備兵がそんなことを教えてくれた。そういえば出国には金は要らないんだな。なんてことを考えながら俺たちはシムサイト商業国の国境へと向かっていったのだった。
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