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第04章 奴隷狩り
17 洗礼からのプロポーズ
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ウルベキナ王国を出国した俺たちは現在、シムサイト商業国へ入国するために歩いている。ここは国境にあるいわゆる緩衝地帯で、いうなればどの国でもない場所となる。
そんな場所を歩くこと1分ほど、目の前にそびえる巨大な門である。といっても俺たちが通るのはこの門ではなく、その隣に設置されている小さな出入り口となっている。この門は主に王族などが利用するらしい。
「はい、お次の方どうぞ」
シムサイトに入国する人はそれなりにいるようで、門の手前から順番に並んでいたために俺たちも例にもれず並んでいると、すぐに俺たちの順番がやってきた。
「身分証はありますか?」
「いや、ないな。俺たちは旅人なんだ」
「そうですか。では、通行料を支払っていただきますがよろしいですか?」
「ああ、そのつもりだ」
これまでこういった場所にいるのは国境警備兵といった兵士が普通だが、シムサイト商業国では普通の人だった。なんでも、商業国には軍が存在せずこういった業務は民間に委託しているらしい。だからだろうか、受付をする人物は普通だが、俺たちを囲むように配置されているのは明らかに強者、多分委託されている民間商人が雇った私兵だろう。
「では、男性は2500ドリアス、そちらのお子さんは2000ドリアス、女は5000ドリアスとなり、合計で9500ドリアスとなります」
受付はしれっとした顔でそういったが、本当に女に厳しい国だな。
「それじゃ、これな」
「はい、確かに、どうぞ。お通りください」
受付はダンクスだけを見ながらそう言った。シムサイトにおいては男だけが普通に対応されるが、俺みたいな子供は男でも付属物扱いで、シュンナのような女性となると完全に商品でも見るような目を向けている。
尤も、シュンナはいつもの認識疎外が付与されているフード付きマントを身に着けているために体格しかわからないから、受付もシュンナの品定めに失敗しているようだ。なぜ、シュンナがそうしているのかというと、知っての通りシュンナは絶世の美少女、そんなシュンナであれば、こいつらシムサイトの商人からしたら高額商品。変に目をつけられても面倒なためにこうしているというわけだ。
「やっぱり、高いな」
「ほんとね。ていうかあの受付あたしの顔をじっと見てきたんだけど、ちゃんと隠れているよね」
「そのはずだよ。じっと見たのもいくら見ても認識できないからだろ」
「だろうな。もし認識してたら、騒ぐだろ」
「俺もそう思う」
「そうかな。まぁ、いいけど、それで、どっちに向かうの」
「そうだな。奴らの資料によると、サカリームって街に金を送っているようだったから、とりあえずそこに行ってみるか」
「そうだな。そこから探っていくか、んで、そのサカリームはどこにあるんだ」
「さぁ、ダンクスちょっと聞いてきてよ」
「ったく、しゃぁねぇなぁ」
いつもならこういったとき聞きに行くのはシュンナの役目だが、シムサイトにおいてはそれは悪手となり誰も答えてくれないと思われる。そこで、この国では唯一普通に扱ってもらえるダンクスに任せることにした。ちなみに、先ほどもそうだったがこの国においては財布はダンクスが持つことになっている。もちろん、使い方はシュンナの指示に従うんだけどな。
というわけで、俺とシュンナが待つ中ダンクスがあたりにいる商人に聞きに行った。
「ほぉ、マントで隠しているようだが、なかなかいい体をしているではないか、どうだ、わしのところにこんか」
ダンクスが少し離れただけでいきなりおっさん商人に絡まれたんだけど。
「お断りよ」
シュンナは当然のごとく断っている。そりゃぁそうだ。
「なにっ、貴様、女の分際で……」
商人は断られるとは思っていなかったのか、憤慨しているが。分際って、ほんとこの国では差別がひどいんだな。こんなこと地球で発言しようものなら一斉にたたかれるよなぁ。なんてことを考えながら傍観する俺である。
「このわしを誰だと思って居る。ラリアリト商会会長たるわしにそのような口をききただで済むと思うな!」
また面倒な奴に絡まれたな。ていうか知らねぇよ。ラリアリト商会ってなんだよ。
「おあいにく様。そんな商会なんて知らないわ」
「なっ、なんだとっ!! 貴様ぁ、おい、お前たち」
「おう、待たせたなって、なんだこいつら」
「知らないわよ」
商人が周囲にいた屈強な連中、にシュンナをどうにかするようにと命じた時にダンクスが戻ってきた。
「おう、てめぇら、俺の連れに何か用か? 何なら俺が聞くぜ」
ダンクスは指をコキコキ鳴らしながら凄みを聞かせてそう聞いている。
「ヒィツ」
「なっ、なんだお前は?」
ダンクスの凄みにビビった商人が悲鳴を上げたが、屈強な護衛たちは一瞬ひるんだもののすぐに腰に差した剣を抜き放ってダンクスに何者か尋ねてきた。
「聞こえなかったのか、こいつらの仲間だよ」
「い、いやいや、まさか、このような人物がいようとは、どうでしょう私の元で護衛などをして頂けませんか、もちろん給料は弾ませていただきますよ」
ダンクスが男たちに答えていると、我に返った商人がいきなりダンクスを勧誘し始めた。ていうか、シュンナに対する態度とはほんと違うな。
「あん、何言っているんだ」
「会長!?」
商人の突然の行動に困惑するダンクスであった。
「よくわからないけど、行きましょ」
「だ、だな」
シュンナが早くこの場から去りたいというので、俺たちもそれに同意しこの場を離れることにした。
「ま、待て!」
俺たちが去ろうとしていると、商人がそう言って引き留めてきた。
「悪いが、俺たちは旅の途中だ。そういう話なら断るぜ。じゃぁな」
ダンクスは振り返りながら商人の勧誘を断ったのだった。そのあと商人たちが何やら言っているが俺たちは無視してその場を後にしたのだった。
「本当にこの国って女性を下に見てるのね」
「みたいだな」
「ああ、それにしても入ってすぐっていきなりすぎないか」
「ほんとにね」
入国してすぐに絡まれたからな。
「はぁ、まぁいいわ。覚悟はしてたから、それでダンクスどうだったの?」
シュンナとしては思うところがあるだろうが、それに関しては国に入る前に知らされていたことから覚悟はしていたしあまり気にしないようにしたようだ。まぁ、それよりもダンクスが聞いてきたことのほうが重要だ。
「おう、聞いてきたぜ。サカリームって街はここから北に3つ目の街だそうだ」
「3つ目かぁ、それならそんなに離れてないな」
「1週間もあればつけそうね」
「だな、ああ、でも、どの街もいつものように2・3日は滞在したいから、その分伸びそうだが」
俺たちの旅の目的は、俺があちこちを見てわまりたいという願いからのものだ。そのため、一応どの街も数日は滞在したい。奴隷狩りどもも許せる連中ではないが、急ぎたいわけではないからな。まぁ、尤も遅れれば遅れるほど被害者が増える気はするし、助けられる奴もいるかもしれないけど。
まぁ、だからどうしたってわけでもないが、どうしようもないのも事実、助けられなかった連中には運がなかったとあきらめてもらうさ。
というわけで、俺たちはさらに次の街を目指してきたに向かって歩き出した。
「それにしても、やっぱりこれが原因かな」
しばらく歩いたところでシュンナが若干下を向きながらそう言った。その手は胸に当てられており、俺とダンクスもシュンナが何を言っているのかがすぐに理解できた。
「だろうな」
「そればかりは隠せないからな」
シュンナが言っているのは、先ほど商人から絡まれたことだ。顔は認識疎外で見ることはできないが、体格、特にシュンナの胸はマントで覆ってはいるが、盛り上がっているせいでほとんど隠せていない。実は以前、その胸を隠せないかと認識疎外を魔法をかけてみたことがあったが、無理だった。
そもそも認識疎外は小規模範囲にしか効果がないもので、もしシュンナの胸がもう少し小さければできたかもしれないが、でかすぎて範囲からわずかにはみ出ていた。そのため、シュンナが動くと瞬間瞬間胸が飛び出すという逆に目立つことになっていた。
「そうなんだよね。うーん、何かで締め付けてみようかな」
「やめとけって、それすると苦しいっていうぞ。それに締め付けたところで無駄だろ」
「そうなんだよね」
前世で聞いた話として大きな胸を押さえるためにさらしなどを撒くという話を聞いたが、当然それをやると苦しいとも聞いたし、何よりシュンナの大きさでそれをやってもあまり意味がないと思う。
「でも、これって戦闘では結構邪魔なのよねぇ。できれば小さいほうがよかったわよ」
「それ、ほかの女たちの前でいうなよ」
世の中の女たちはもっと胸が大きくと願ている中、小さいほうがいいというのは、明らかに喧嘩を売っているようなものだからな。
「でも、以前よりは楽になったんだろ」
「スニルのおかげでね」
どういうことかというと、この世界のブラは形状こそ同じだが胸を押さえるという効果はほとんどないらしく、あまり激しく動くと思いっきり揺れてしまい痛いそうだ。そこでシュンナのような戦闘職についている女性は胸当てなどの鎧で無理矢理抑えているそうだ。もちろん、胸当ては金属が使われているために長時間は持たないという。そのため、女性の中には胸が大きくなったから引退するというものも少ないくないとシュンナから聞いた。
それを聞いた俺はシュンナにスポブラというものを教えた。といっても男の俺が知るのは、太めの肩ひもと胸の下部分で胸を押さえる効果があるということだけ。それを聞いたシュンナはさっそく作り身に着けて現在は愛用しているようだ。ちなみに、そのブラはカリブリンにいるときに作ったわけだが、それはシエリルが独占販売しており、女性冒険者によく売れたらしい。
「俺はそういうのがあるっていっただけだけどな」
その後も俺たちはいつものようにたわいのないことを話しながら、道中で出会う魔物などを討伐しながら進んでいったのだった。
そうして歩くこと3日、俺たちの目の前には街が見えてきた。
「あれが最初の街か」
「なんて街?」
「確か、ナンベルって名前だったぞ」
「おいしいものあるかな」
「商人の街なわけだし、あるんじゃないか、競争とか激しそうだし」
「かもな」
ということでナンベルへと入っていくわけだが、この際の通行料はやはりシュンナの料金はダンクスの倍近い値段だった。ていうか、普通に考えても俺とダンクスの値段もちょっと高い気がする。
「まずはこの国の通貨に両替してから、宿を取りましょ」
「だな、国境では出来なかったしな」
国境に両替所的な場所がなかったのでこの街でするしかないので、俺たちはまず両替商の元へと向かったのだった。
「これはこれはいらっしゃいませ。本日はいかがいたしましょう」
相変わらず男のダンクスが相手だと、商人らしく応対しているがシュンナに対してはちらっと見ただけだった。
「こいつをこの国の通貨に両替してくれ」
ダンクスはそう言って財布から、金貨を含むいくつかの通貨を取り出して両替を頼んだ。
「かしこまりました。では、少々お待ちください」
その後両替商はすぐに計算を初めてこの国の通貨シムスへと替えたくれたわけだが、ちょっと待った。
「減ってる」
この国の通貨はシムス硬貨というもので、単位もそのままシムスという。そのレートはトラムを1とすると1.654となっている。そして、ダンクスが渡したトラムは、5,785,000トラム、それをレートに合わせて計算すると、9,568,390シムスとなるはずだ。となると金貨9枚、大銀貨5枚、銀貨6枚、大銅貨8枚、銅貨3枚、鉄貨9枚となるはずだ。しかし、今目の前にあるのは、金貨9枚、大銀貨4枚、銀貨5枚、大銅貨8枚、銅貨3枚、鉄貨幣9枚となっている。つまり、大銀貨と銀貨が1枚ずつ足りない。
「ほんとだ、ちょっとどういうこと」
「チツ」
俺とシュンナがそう言うと商人は舌打ちしながらそっぽを向きやがった。多分俺たちが計算できるとは思わなかったんだろう。
「おいっ、どういうことだ。俺たちを馬鹿にしてんのか」
「えっ、いえ、そ、その」
だがダンクスが文句をつけるとしどろもどろとなっている。
「いかがいたしました」
ダンクスの怒鳴り声を聞いたのか奥から別の人間が出てきた。
「か、会長!」
出てきたやつはどうやらこの両替商の商会長みたいだ。
「両替を頼んだんだが、この野郎ごまかしやがったんだ。この落とし前はどうつけてくれるんだ」
「なっ、なんですと。おいお前、それは本当か」
「い、いえそんな私はそんなことは、この者たちが難癖をつけてきただけです」
そう言って俺とシュンナを指さした。
「おいおい、ふざけんなよ。俺が計算できないとでも思っているのか、どう見ても大銀貨と銀貨が1枚ずつ足りねぇじゃねぇか」
商会長が俺とシュンナをにらみつけたのを見たダンクスがそう言って俺たちの前に出た。ダンクスは元騎士、こういった計算は問題なくできるし、俺と一緒に旅をするようになったことで俺が前世から持ち込んだ計算といった知識を教えているためにそれなりにできるんだよな。
「失礼……!! た、大変申し訳ありません」
商会長はダンクスに言われて自ら確認したところ、間違いないことに気が付きすぐに謝罪してきた。
「んで、どうすんだ?」
「も、申し訳ありません。おい、貴様は下がっていろ」
「は、はい」
商会長は俺たちの応対をしていたものを下がらせたが、あの様子からすると多分元からこいつの指示によるものだな。おそらくダンクスの様子を見てごまかせると思ったんだろうが、見込み違いだったというわけだ。
さて、どうするつもりなんだろうな。
「申し訳ありません、こちら正確に計算して両替をいたします。また、こちらはお詫びとして差し上げます」
そう言って商会長は銀貨を1枚プラスしてきた。1枚って、いや、まぁそれでも1万ってことだけど、まぁいいか。
「行こう」
「ああ」
俺たちはその銀貨を含めた金を受け取り両替商を後にしたのだった。
「いきなり、これぞ商業国って感じだったな」
「まさか、ごまかしをしてくるなんて思わなかったわよね」
「苦情に対しても金だったしな」
「ホントにな」
嘆息する俺たちであった。
それから俺たちは気を取り直してナンベルの街を堪能したのだった。
そうして、翌日である。
「あ、あの、すみません」
街をぶらついていると背後からそんなか細い声が聞こえてきた。
「んっ、なんだ」
声をかけてきたのは1人の少女、シュンナと同じくらいだろうか。
「あ、あの私とけ、結婚してください!」
「……はっ?」
それは本当にいきなりだった。少女はいきなりダンクスに向かってプロポーズしてきたのだ。いや、意味が分からん。
「え、えっと、どういうこと、ダンクス、この子に何かした?」
「いや、してねぇよ。ていうか昨日からずっと一緒だったろ」
いつもなら別行動をする俺たちであったが、シムサイトでそれをすると面倒ごとになるような気がしたので、一緒に行動していた。だから、ダンクスが俺たちに隠れてこの少女とかかわることは不可能。
「な、なぁ、誰かと勘違いしてないか。ていうか今初めて会ったよな」
ダンクスは確認するようにそう聞いた。
「は、はい、ですが私昨日から見ていました。勘違いじゃないです」
どういうことだろうか?
そんな場所を歩くこと1分ほど、目の前にそびえる巨大な門である。といっても俺たちが通るのはこの門ではなく、その隣に設置されている小さな出入り口となっている。この門は主に王族などが利用するらしい。
「はい、お次の方どうぞ」
シムサイトに入国する人はそれなりにいるようで、門の手前から順番に並んでいたために俺たちも例にもれず並んでいると、すぐに俺たちの順番がやってきた。
「身分証はありますか?」
「いや、ないな。俺たちは旅人なんだ」
「そうですか。では、通行料を支払っていただきますがよろしいですか?」
「ああ、そのつもりだ」
これまでこういった場所にいるのは国境警備兵といった兵士が普通だが、シムサイト商業国では普通の人だった。なんでも、商業国には軍が存在せずこういった業務は民間に委託しているらしい。だからだろうか、受付をする人物は普通だが、俺たちを囲むように配置されているのは明らかに強者、多分委託されている民間商人が雇った私兵だろう。
「では、男性は2500ドリアス、そちらのお子さんは2000ドリアス、女は5000ドリアスとなり、合計で9500ドリアスとなります」
受付はしれっとした顔でそういったが、本当に女に厳しい国だな。
「それじゃ、これな」
「はい、確かに、どうぞ。お通りください」
受付はダンクスだけを見ながらそう言った。シムサイトにおいては男だけが普通に対応されるが、俺みたいな子供は男でも付属物扱いで、シュンナのような女性となると完全に商品でも見るような目を向けている。
尤も、シュンナはいつもの認識疎外が付与されているフード付きマントを身に着けているために体格しかわからないから、受付もシュンナの品定めに失敗しているようだ。なぜ、シュンナがそうしているのかというと、知っての通りシュンナは絶世の美少女、そんなシュンナであれば、こいつらシムサイトの商人からしたら高額商品。変に目をつけられても面倒なためにこうしているというわけだ。
「やっぱり、高いな」
「ほんとね。ていうかあの受付あたしの顔をじっと見てきたんだけど、ちゃんと隠れているよね」
「そのはずだよ。じっと見たのもいくら見ても認識できないからだろ」
「だろうな。もし認識してたら、騒ぐだろ」
「俺もそう思う」
「そうかな。まぁ、いいけど、それで、どっちに向かうの」
「そうだな。奴らの資料によると、サカリームって街に金を送っているようだったから、とりあえずそこに行ってみるか」
「そうだな。そこから探っていくか、んで、そのサカリームはどこにあるんだ」
「さぁ、ダンクスちょっと聞いてきてよ」
「ったく、しゃぁねぇなぁ」
いつもならこういったとき聞きに行くのはシュンナの役目だが、シムサイトにおいてはそれは悪手となり誰も答えてくれないと思われる。そこで、この国では唯一普通に扱ってもらえるダンクスに任せることにした。ちなみに、先ほどもそうだったがこの国においては財布はダンクスが持つことになっている。もちろん、使い方はシュンナの指示に従うんだけどな。
というわけで、俺とシュンナが待つ中ダンクスがあたりにいる商人に聞きに行った。
「ほぉ、マントで隠しているようだが、なかなかいい体をしているではないか、どうだ、わしのところにこんか」
ダンクスが少し離れただけでいきなりおっさん商人に絡まれたんだけど。
「お断りよ」
シュンナは当然のごとく断っている。そりゃぁそうだ。
「なにっ、貴様、女の分際で……」
商人は断られるとは思っていなかったのか、憤慨しているが。分際って、ほんとこの国では差別がひどいんだな。こんなこと地球で発言しようものなら一斉にたたかれるよなぁ。なんてことを考えながら傍観する俺である。
「このわしを誰だと思って居る。ラリアリト商会会長たるわしにそのような口をききただで済むと思うな!」
また面倒な奴に絡まれたな。ていうか知らねぇよ。ラリアリト商会ってなんだよ。
「おあいにく様。そんな商会なんて知らないわ」
「なっ、なんだとっ!! 貴様ぁ、おい、お前たち」
「おう、待たせたなって、なんだこいつら」
「知らないわよ」
商人が周囲にいた屈強な連中、にシュンナをどうにかするようにと命じた時にダンクスが戻ってきた。
「おう、てめぇら、俺の連れに何か用か? 何なら俺が聞くぜ」
ダンクスは指をコキコキ鳴らしながら凄みを聞かせてそう聞いている。
「ヒィツ」
「なっ、なんだお前は?」
ダンクスの凄みにビビった商人が悲鳴を上げたが、屈強な護衛たちは一瞬ひるんだもののすぐに腰に差した剣を抜き放ってダンクスに何者か尋ねてきた。
「聞こえなかったのか、こいつらの仲間だよ」
「い、いやいや、まさか、このような人物がいようとは、どうでしょう私の元で護衛などをして頂けませんか、もちろん給料は弾ませていただきますよ」
ダンクスが男たちに答えていると、我に返った商人がいきなりダンクスを勧誘し始めた。ていうか、シュンナに対する態度とはほんと違うな。
「あん、何言っているんだ」
「会長!?」
商人の突然の行動に困惑するダンクスであった。
「よくわからないけど、行きましょ」
「だ、だな」
シュンナが早くこの場から去りたいというので、俺たちもそれに同意しこの場を離れることにした。
「ま、待て!」
俺たちが去ろうとしていると、商人がそう言って引き留めてきた。
「悪いが、俺たちは旅の途中だ。そういう話なら断るぜ。じゃぁな」
ダンクスは振り返りながら商人の勧誘を断ったのだった。そのあと商人たちが何やら言っているが俺たちは無視してその場を後にしたのだった。
「本当にこの国って女性を下に見てるのね」
「みたいだな」
「ああ、それにしても入ってすぐっていきなりすぎないか」
「ほんとにね」
入国してすぐに絡まれたからな。
「はぁ、まぁいいわ。覚悟はしてたから、それでダンクスどうだったの?」
シュンナとしては思うところがあるだろうが、それに関しては国に入る前に知らされていたことから覚悟はしていたしあまり気にしないようにしたようだ。まぁ、それよりもダンクスが聞いてきたことのほうが重要だ。
「おう、聞いてきたぜ。サカリームって街はここから北に3つ目の街だそうだ」
「3つ目かぁ、それならそんなに離れてないな」
「1週間もあればつけそうね」
「だな、ああ、でも、どの街もいつものように2・3日は滞在したいから、その分伸びそうだが」
俺たちの旅の目的は、俺があちこちを見てわまりたいという願いからのものだ。そのため、一応どの街も数日は滞在したい。奴隷狩りどもも許せる連中ではないが、急ぎたいわけではないからな。まぁ、尤も遅れれば遅れるほど被害者が増える気はするし、助けられる奴もいるかもしれないけど。
まぁ、だからどうしたってわけでもないが、どうしようもないのも事実、助けられなかった連中には運がなかったとあきらめてもらうさ。
というわけで、俺たちはさらに次の街を目指してきたに向かって歩き出した。
「それにしても、やっぱりこれが原因かな」
しばらく歩いたところでシュンナが若干下を向きながらそう言った。その手は胸に当てられており、俺とダンクスもシュンナが何を言っているのかがすぐに理解できた。
「だろうな」
「そればかりは隠せないからな」
シュンナが言っているのは、先ほど商人から絡まれたことだ。顔は認識疎外で見ることはできないが、体格、特にシュンナの胸はマントで覆ってはいるが、盛り上がっているせいでほとんど隠せていない。実は以前、その胸を隠せないかと認識疎外を魔法をかけてみたことがあったが、無理だった。
そもそも認識疎外は小規模範囲にしか効果がないもので、もしシュンナの胸がもう少し小さければできたかもしれないが、でかすぎて範囲からわずかにはみ出ていた。そのため、シュンナが動くと瞬間瞬間胸が飛び出すという逆に目立つことになっていた。
「そうなんだよね。うーん、何かで締め付けてみようかな」
「やめとけって、それすると苦しいっていうぞ。それに締め付けたところで無駄だろ」
「そうなんだよね」
前世で聞いた話として大きな胸を押さえるためにさらしなどを撒くという話を聞いたが、当然それをやると苦しいとも聞いたし、何よりシュンナの大きさでそれをやってもあまり意味がないと思う。
「でも、これって戦闘では結構邪魔なのよねぇ。できれば小さいほうがよかったわよ」
「それ、ほかの女たちの前でいうなよ」
世の中の女たちはもっと胸が大きくと願ている中、小さいほうがいいというのは、明らかに喧嘩を売っているようなものだからな。
「でも、以前よりは楽になったんだろ」
「スニルのおかげでね」
どういうことかというと、この世界のブラは形状こそ同じだが胸を押さえるという効果はほとんどないらしく、あまり激しく動くと思いっきり揺れてしまい痛いそうだ。そこでシュンナのような戦闘職についている女性は胸当てなどの鎧で無理矢理抑えているそうだ。もちろん、胸当ては金属が使われているために長時間は持たないという。そのため、女性の中には胸が大きくなったから引退するというものも少ないくないとシュンナから聞いた。
それを聞いた俺はシュンナにスポブラというものを教えた。といっても男の俺が知るのは、太めの肩ひもと胸の下部分で胸を押さえる効果があるということだけ。それを聞いたシュンナはさっそく作り身に着けて現在は愛用しているようだ。ちなみに、そのブラはカリブリンにいるときに作ったわけだが、それはシエリルが独占販売しており、女性冒険者によく売れたらしい。
「俺はそういうのがあるっていっただけだけどな」
その後も俺たちはいつものようにたわいのないことを話しながら、道中で出会う魔物などを討伐しながら進んでいったのだった。
そうして歩くこと3日、俺たちの目の前には街が見えてきた。
「あれが最初の街か」
「なんて街?」
「確か、ナンベルって名前だったぞ」
「おいしいものあるかな」
「商人の街なわけだし、あるんじゃないか、競争とか激しそうだし」
「かもな」
ということでナンベルへと入っていくわけだが、この際の通行料はやはりシュンナの料金はダンクスの倍近い値段だった。ていうか、普通に考えても俺とダンクスの値段もちょっと高い気がする。
「まずはこの国の通貨に両替してから、宿を取りましょ」
「だな、国境では出来なかったしな」
国境に両替所的な場所がなかったのでこの街でするしかないので、俺たちはまず両替商の元へと向かったのだった。
「これはこれはいらっしゃいませ。本日はいかがいたしましょう」
相変わらず男のダンクスが相手だと、商人らしく応対しているがシュンナに対してはちらっと見ただけだった。
「こいつをこの国の通貨に両替してくれ」
ダンクスはそう言って財布から、金貨を含むいくつかの通貨を取り出して両替を頼んだ。
「かしこまりました。では、少々お待ちください」
その後両替商はすぐに計算を初めてこの国の通貨シムスへと替えたくれたわけだが、ちょっと待った。
「減ってる」
この国の通貨はシムス硬貨というもので、単位もそのままシムスという。そのレートはトラムを1とすると1.654となっている。そして、ダンクスが渡したトラムは、5,785,000トラム、それをレートに合わせて計算すると、9,568,390シムスとなるはずだ。となると金貨9枚、大銀貨5枚、銀貨6枚、大銅貨8枚、銅貨3枚、鉄貨9枚となるはずだ。しかし、今目の前にあるのは、金貨9枚、大銀貨4枚、銀貨5枚、大銅貨8枚、銅貨3枚、鉄貨幣9枚となっている。つまり、大銀貨と銀貨が1枚ずつ足りない。
「ほんとだ、ちょっとどういうこと」
「チツ」
俺とシュンナがそう言うと商人は舌打ちしながらそっぽを向きやがった。多分俺たちが計算できるとは思わなかったんだろう。
「おいっ、どういうことだ。俺たちを馬鹿にしてんのか」
「えっ、いえ、そ、その」
だがダンクスが文句をつけるとしどろもどろとなっている。
「いかがいたしました」
ダンクスの怒鳴り声を聞いたのか奥から別の人間が出てきた。
「か、会長!」
出てきたやつはどうやらこの両替商の商会長みたいだ。
「両替を頼んだんだが、この野郎ごまかしやがったんだ。この落とし前はどうつけてくれるんだ」
「なっ、なんですと。おいお前、それは本当か」
「い、いえそんな私はそんなことは、この者たちが難癖をつけてきただけです」
そう言って俺とシュンナを指さした。
「おいおい、ふざけんなよ。俺が計算できないとでも思っているのか、どう見ても大銀貨と銀貨が1枚ずつ足りねぇじゃねぇか」
商会長が俺とシュンナをにらみつけたのを見たダンクスがそう言って俺たちの前に出た。ダンクスは元騎士、こういった計算は問題なくできるし、俺と一緒に旅をするようになったことで俺が前世から持ち込んだ計算といった知識を教えているためにそれなりにできるんだよな。
「失礼……!! た、大変申し訳ありません」
商会長はダンクスに言われて自ら確認したところ、間違いないことに気が付きすぐに謝罪してきた。
「んで、どうすんだ?」
「も、申し訳ありません。おい、貴様は下がっていろ」
「は、はい」
商会長は俺たちの応対をしていたものを下がらせたが、あの様子からすると多分元からこいつの指示によるものだな。おそらくダンクスの様子を見てごまかせると思ったんだろうが、見込み違いだったというわけだ。
さて、どうするつもりなんだろうな。
「申し訳ありません、こちら正確に計算して両替をいたします。また、こちらはお詫びとして差し上げます」
そう言って商会長は銀貨を1枚プラスしてきた。1枚って、いや、まぁそれでも1万ってことだけど、まぁいいか。
「行こう」
「ああ」
俺たちはその銀貨を含めた金を受け取り両替商を後にしたのだった。
「いきなり、これぞ商業国って感じだったな」
「まさか、ごまかしをしてくるなんて思わなかったわよね」
「苦情に対しても金だったしな」
「ホントにな」
嘆息する俺たちであった。
それから俺たちは気を取り直してナンベルの街を堪能したのだった。
そうして、翌日である。
「あ、あの、すみません」
街をぶらついていると背後からそんなか細い声が聞こえてきた。
「んっ、なんだ」
声をかけてきたのは1人の少女、シュンナと同じくらいだろうか。
「あ、あの私とけ、結婚してください!」
「……はっ?」
それは本当にいきなりだった。少女はいきなりダンクスに向かってプロポーズしてきたのだ。いや、意味が分からん。
「え、えっと、どういうこと、ダンクス、この子に何かした?」
「いや、してねぇよ。ていうか昨日からずっと一緒だったろ」
いつもなら別行動をする俺たちであったが、シムサイトでそれをすると面倒ごとになるような気がしたので、一緒に行動していた。だから、ダンクスが俺たちに隠れてこの少女とかかわることは不可能。
「な、なぁ、誰かと勘違いしてないか。ていうか今初めて会ったよな」
ダンクスは確認するようにそう聞いた。
「は、はい、ですが私昨日から見ていました。勘違いじゃないです」
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