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第04章 奴隷狩り
18 盗作疑惑
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シムサイトに入国し最初の街ナンベルへとやってきた俺たちであったが、なんとダンクスがいきなり逆プロポーズされた。
「え、ええと、あなた本気で言っているの?」
シュンナが少女に恐る恐るそう尋ねた。
「はい、本気ですわたし」
少女はそう言ってきかない、ちょっと意味が分からないんだけど。
「ごめん、ちょっと詳しく聞かせてくれないかな。どうして、これに?」
シュンナはダンクスを指さしてこれ呼ばわりしながらも少女に尋ねた。
「これって、お前な」
「あっ、え、えっと、ごめんなさい。でも、私も後がなくって」
「あと?」
今さっきプロポーズしたダンクスがシュンナにこれ呼ばわりされたにもかかわらず、そこに触れずに少女は謝ってから少々暗い表情で言った。あとがないって言っているけどどういうことだろうか。
「どういうことだ?」
ダンクスも気になり尋ねている。
「そのですね……」
少女、名前はテリーヌがいうにはこの国の女性たちの事情が理由だった。以前この国の女性たちの将来は結婚するか使用人となるか娼婦となるかしかないと説明したが、テリーヌが言うにはまさにそれしかないそうだ。そして、娼婦は言うまでもなくなりたくないという、それはそうだろう普通なりたいと思うものは少ない。まぁ、もちろん中にはそういったことが好きで進んでなりたいものもいるだろうし、その職業についている人だって、中には誇りをもって仕事をしている者たちもいよう。しかし、テリーヌ自身は絶対に嫌だと力強く言った。では、使用人はとなると、こちらは普通に主、つまり商人となるわけだがそれに仕え身の回りの世話をしたりする。いわゆるメイドってわけだ。
「それはだめなのかしら?」
話を聞く限り問題ないように思う、ていうか商人によってはそれなりに給料はもらえるそうだしな。まぁ、それでも男性使用人よりも明らかに安いらしいが。
「は、はい、知り合いがその使用人になったんですけど、その、運が悪かったというか、相手が悪かったというか、ひどい扱いを受けてて」
テリーヌが少し言いよどみながらそう言っているが、その際俺の顔を見ている。話の内容から考えるに俺が幼い子供であり、その子供に聞かせていいのかということだろう。
「大丈夫よ。スニルはこう見えて12歳だから」
シュンナはそういうが、いやいや普通12歳相手だって話せることではない気がするんだが、まぁ、中身はおっさんだからいいんだけどね。
「えっ、そ、そうなんですか。わたしてっきり……」
「てっきり?」
「い、いえ、えと、それで、知り合いに聞いたところほかにも同じようにひどい扱いを受けている人がいるらしくって、だから使用人にはなりたくないんです」
だからこそ、結婚をするしか道はないという、しかしその結婚も相手によっては結局ひどい目に合う、幸いテリーヌの父親は母親を大事にしてくれているそうだが、中にはたとえ妻であっても奴隷のように扱う奴もいるらしい、この国では長いこと女性を軽く見ていることが浸透しており、さも当たり前のようにそうなっているという。
「……そ、それはひどいわね」
「全くだな」
「はい、だから私たちも必死なんです」
女性たちは幸せになるために、自分を大切にしてくれる伴侶を必死になって探しているが、この国ではそう簡単に見つからない。テリーヌも幼いころから付き合いのある少年がいるらしいが、その少年も幼いころは分け隔てなく付き合ってくれたが、最近ではそっけなくなり話しても意地悪ばかりしてくるようになったそうだ。
でも、幸いというべきかこの街は隣国であるウルベキナ王国に近い街、そのためこの街の男にはウルベキナからやってきた者たちもいるためにそこから探しているという。
そんな中で、女であるシュンナ相手に対等に扱うどころか、むしろ逆に尻に敷かれているような状況を見て、ダンクスなら自分を幸せにしてくれるのではないかという思いに至った。なるほど、それで思い余って逆プロポーズに踏み切ったというわけか。
「ごめんなさい、わたし自分のことでいっぱいで、ダンクスさんなら2人目でも大丈夫と思って、ごめんなさい」
しきりに謝るテリーヌ、……んっ? 2人目?
「んっ?」
「2人目って?」
テリーヌの言葉に俺たちはあたりを見渡してみた。テリーヌが2人目なら1人目は一体。もしかしてほかにもダンクスに目を付けた人物がいるのだろうか、全く気が付かなかったんだけど。
「え、えっと、その」
俺たちの行動を不思議そうに見ながらシュンナをちらっと見た。あっ、まさか!
「えっ、もしかしてあたし! いやいや、違うわよ。あたしとダンクスは仲間であってね」
「お、おう、そうだぞ。俺たちはそういう関係じゃないからな」
シュンナとダンクスも思い至ったようで必死になって否定してる。そういう行動すると余計に怪しまれると思うんだがな。まぁいいけど。
「えっ、そうなんですか!」
2人の否定を聞いたテリーヌは驚愕しているが、驚いたのは俺たちだ、どうしたら2人が夫婦と思ったんだろうか。シュンナとダンクスは確かに仲はいいが、それはあくまで仲間として、友人としてでしかない。でもまぁ、それは俺がいつもそばで2人を見ているからだろうか、はた目から見たら夫婦に見えるのかもしれないな。そんな思いに2人も思い立ったのか、愕然としていた。
「だったら私と……」
「ああ、えっと、悪いけど俺は今こいつらと旅をしている最中でな。そういったことは考えてないんだよ」
「そ、そうですか、ごめんなさい」
テリーヌはそう言ってあっさりと引き下がり去っていった。
「……行っちゃったわね」
「お、おう、そうだな」
「断ったこと後悔してるんじゃない、こんなことめったにないわよ」
「んなわけあるかよ。でも、あの娘どうすんだろうな」
「さぁ、でも大丈夫じゃないか」
「どういうこと?」
ダンクスはあの娘がこの後変な奴にでも同じことしないか心配しているようだが、俺の勘では大丈夫だと思う。
「さっきの話の中で出てきた幼馴染だよ」
「ああ、最近そっけなくなったとか、意地悪してくるとかの」
「そうそう、男って素直じゃないからな。好きだからこそってこともあるんだよ」
「へぇ、2人とも覚えがあるの」
「俺にはないな」
「俺にもないけど、前世の世界ではよくある話として知られていたからな。といっても、それをやるのは主に小学生……俺より少し年下ぐらいの精神が未熟なやつだけどな」
「確かに言われてみると、孤児院にもそういう奴がいたな。なるほど、あいつそういうことだったのか」
ダンクスが孤児院にいたころを思い出して何かに納得したようだった。おそらく、孤児院にも同じ行動をとっていた奴がいたということだろう。
「まぁ、なんにせよ。この国の女性たちがひどい扱いを受けているというのは事実みたいね」
「ああ、でもこうしてみる限りだとそこまでひどい扱いを受けているとは思えないんだけどな」
ダンクスの言う通り、街を歩いている限りそういった扱いを受けている女性の姿というものは見ていない。まぁ、外に出ていないだけで内部ではって可能性もあるが。
「そこらへんはこれからこの国を歩いていけばわかるだろ」
「そうね」
「そうだな」
「あ、あの、すみません」
さて、街歩きを再開しようと1歩踏み出したところで、また少女に声をかけられた。
「な、なんだ?」
少女の見ている先はやはりダンクス。
「私と付き合ってください」
「……」
「……」
……、またか! つい先ほど断ったと思ったらまた、ダンクスに言い寄ってきた少女が現れた。言っておくがテリーヌではないぞ。
「ああ、えっと、悪いけど」
「そうですか。残念です」
その少女もダンクスが断るとあっさりと帰っていった。
「もしかして、ほんとに手当たり次第なのかな」
「……そうじゃないと信じたいが」
「ダンクスに声をかける時点でそうじゃないか」
「確かに、この顔と図体じゃねぇ」
「悪かったな」
それからも幾度となくダンクスは声をかけられ続けたのだった。ほんとなんなんだろうな。
そうして、いたたまれなくなった俺たちはぶらつきもほどほどにして、次の日には街を出たのだった。
3日後、俺たちは次の街であるブロッセンへとたどり着いていた。
「この街でも絡まれんのか?」
「多分な」
「それは間違いないわね」
「はぁ、勘弁してほしいぜ」
「まっ、仕方ないって」
俺とシュンナはそう言ってダンクスを慰めながら街の中に入ったのだった。
「腹減ったな」
「そうね。今昼だし、どっかで食べよっか」
「そうだな」
昼時ということで昼飯を食うためにどこかで食べようとあたりを見渡してみた。
「あそこでいいんじゃない、なんだかおいしそうなにおいするし」
「ほんとだ。確かにいい匂いだな」
「確かにな」
というわけで、いいにおいを漂わせている店に入ることにした。
「いらっしゃい。どうぞ適当なところにお座りください」
店に入ると若い男から声がかかった。よく見ると給仕はみな男で女性は1人もいなかった。
「ここにするか」
「ええ」
「何食う?」
「そうだな。なぁ、何が美味いんだ」
「プリアルスがおすすめですよ。こちらは当店発祥の料理なのです」
「へぇ、そりゃぁいいな。それを3つ頼むぜ。お前らもそれでいいだろ」
「ああ」
「ええ」
「かしこまりました」
給仕は最初からダンクスしか見ていない、俺も一応男だからかちらっと見て会釈程度はしてきたが、シュンナに至っては俺たちと一緒に椅子に座ったことに顔をしかめていた。
それからしばし適当に会話をしていると先ほどとは違う給仕が注文の料理を運んできたわけだが、それを見て俺たちは驚いた。
「なぁ、これって」
「これ、あれよね」
「ピザ、だな」
そう給仕が持ってきたこのプリアルス、どこからどう見てもピザであった。まさか、こんなところにもあるとはな。エイルードでリーラが作った時も驚いたものなんだけど、まさか、そこまで離れていない場所でも生まれているとはな。でも、ほんとにそうなんだろうか、なんか引っかかるんだよな。
「リーラパンだよな。これ、なんでこんなところにあるんだ。ていうか、プリアルスってなんだよ」
「知らないわよ」
「なぁ、聞いていいか?」
「はい、なんでしょうか」
「この料理っていつからあるんだ。それとついでに聞くがプリアルスってのはどういう意味なんだ?」
ダンクスも気になったようで、給仕に聞いてみるようだ。
「こちらは半月ほど前よりご提供させていただいておりまして、プリアルスという当店主人の弟君がご考案された料理でございます」
人の名前だったようだ。そりゃぁ意味のない言葉だよな。それはともかく半月前か。
「半月、へぇずいぶんと最近なんだな」
「はい、ですがすでにここブロッセンでは一番人気の料理でございます」
「ほぉ、そいつはすげぇな。それで、そのプリアルスってやつはどこにいんだ。奥か? 会ってみたいものだな」
ダンクスの言う通りもしいるのならあってみたい、尤もなんとなく会えない気がするが。
「申し訳ありません。ただいまプリアルスはウルベキナ王国へ出向いたしておりまして、こちらにはおりません」
思った通りいないらしい。というかウルベキナ王国か、んっ、ウルベキナ王国、プリアルス。なんだか、この組み合わせに覚えが……そう思った俺は”森羅万象”に検索をかけてみる。
この”森羅万象”は文字通りというべきか、あらゆる情報がデーターベース化されて整理されている。その情報源は当初は神様からの物だけだったが、そこに俺が見聞きしたものも追記されている。つまり、俺自身の記憶にはなくとも、例えば人物の情報も記載されているというわけだ。というわけで検索結果。
「あっ」
「どうしたのスニル」
俺が突然声を出したものだから隣にいたシュンナがどうしたのかと聞いてきた。
「ヒットした。エイルードの商人ギルドギルドマスターだ」
「エイルード? ……ああ、そういえば」
シュンナも思い出したようだ。
「おおう、あいつか」
「おや、皆様はプリアルス様をご存じですか」
「ああ、俺たちはウルベキナから来てるんだが、道中エイルードに立ち寄ったからな」
エイルードは飯が美味いということで有名な街だ。
「そうでございましたか、しかし、プリアルス様はギルドマスターです。どのようにしてお会いになったのでしょうか?」
給仕が言うように確かに普通なら俺たちのような旅人が、商人ギルドのギルマスの会うなんてことは不可能といってもいいだろう。
「いや、俺たちは別に会ったわけじゃなくて、見かけただけでな」
「左様でしたか」
「ああ、2か月ほど前にエイルードで料理大会があってな。それの審査員として紹介されてたんだ」
「なるほど、確かにそのようなことがあったと聞き及んでおります」
まぁ、どうやらここはあのギルマスの実家みたいだからそれぐらいのことは伝わっているだろう。だが、ここで問題が出てくる。そう、ピザ、リーラパンのことである。
「だとしたらおかしいな」
「何がでしょうか?」
「さっきも言ったように俺たちは料理大会を見ていたんだよ。そんで、決勝戦でリーラって女料理人が作ったものが、これと同じでな。これがどういうことかわかるか」
「えっ?」
ダンクスがそういうと、給仕はまさに狐につままれたように驚いている。
「おいおい、どういうことだ?」
そんな会話を聞いていたのは当然周囲にいた客たち、彼らも持っているフォークを置いて固唾をのんで聞いていた。
「お、お客様、ご冗談はおやめください。それ以上は営業妨害で訴えさせていただきますよ」
営業妨害ってこの世界にもあるんだな。まぁ、商業の国だから余計にあるのかもな。
「事実だ。もし疑うってんなら、エイルードの料理人ギルドか領主にでも確認してもらってもいいぞ。大会の主催はギルドだし、領主も審査員として参加してたしな」
「そ、そんな馬鹿な。これはプリアルス様の考案されたもので」
「だから言ったろ、そのプリアルスが審査員を務めた大会の決勝で作られた料理がこれだって」
ダンクスがそう言い切ったものだから周囲で聞いていた客たちもどういうことだと言いあう始末となった。
「なんの騒ぎだ!」
「会長!」
すると騒ぎを聞きつけた会長が奥から出てきた。こいつがプリアルスの兄ってことだろうか。
「これは一体どうしたことか、説明しろ」
「はい、実は……」
給仕は会長に事の仔細を説明し始めた。
「ほぉ、それは本当の話か? 裏は取れているんだろうな」
「い、いえ、ですがこの方たちはそう言っております」
「事実だぜ。嘘だと思うならエイルードの料理人ギルドか領主にでも確認してみたらわかることだ。ああ、間違っても商人ギルドには聞くなよ。さっきの話からして本当のことを話すとは思えないからな」
ダンクスは少々怒っているようだな。まぁ、ダンクスは元騎士だけあってこういうことが嫌いだからな。俺としてはここまで大事にするつもりはなかったんだが、だからといって止める気はないけど……。
「え、ええと、あなた本気で言っているの?」
シュンナが少女に恐る恐るそう尋ねた。
「はい、本気ですわたし」
少女はそう言ってきかない、ちょっと意味が分からないんだけど。
「ごめん、ちょっと詳しく聞かせてくれないかな。どうして、これに?」
シュンナはダンクスを指さしてこれ呼ばわりしながらも少女に尋ねた。
「これって、お前な」
「あっ、え、えっと、ごめんなさい。でも、私も後がなくって」
「あと?」
今さっきプロポーズしたダンクスがシュンナにこれ呼ばわりされたにもかかわらず、そこに触れずに少女は謝ってから少々暗い表情で言った。あとがないって言っているけどどういうことだろうか。
「どういうことだ?」
ダンクスも気になり尋ねている。
「そのですね……」
少女、名前はテリーヌがいうにはこの国の女性たちの事情が理由だった。以前この国の女性たちの将来は結婚するか使用人となるか娼婦となるかしかないと説明したが、テリーヌが言うにはまさにそれしかないそうだ。そして、娼婦は言うまでもなくなりたくないという、それはそうだろう普通なりたいと思うものは少ない。まぁ、もちろん中にはそういったことが好きで進んでなりたいものもいるだろうし、その職業についている人だって、中には誇りをもって仕事をしている者たちもいよう。しかし、テリーヌ自身は絶対に嫌だと力強く言った。では、使用人はとなると、こちらは普通に主、つまり商人となるわけだがそれに仕え身の回りの世話をしたりする。いわゆるメイドってわけだ。
「それはだめなのかしら?」
話を聞く限り問題ないように思う、ていうか商人によってはそれなりに給料はもらえるそうだしな。まぁ、それでも男性使用人よりも明らかに安いらしいが。
「は、はい、知り合いがその使用人になったんですけど、その、運が悪かったというか、相手が悪かったというか、ひどい扱いを受けてて」
テリーヌが少し言いよどみながらそう言っているが、その際俺の顔を見ている。話の内容から考えるに俺が幼い子供であり、その子供に聞かせていいのかということだろう。
「大丈夫よ。スニルはこう見えて12歳だから」
シュンナはそういうが、いやいや普通12歳相手だって話せることではない気がするんだが、まぁ、中身はおっさんだからいいんだけどね。
「えっ、そ、そうなんですか。わたしてっきり……」
「てっきり?」
「い、いえ、えと、それで、知り合いに聞いたところほかにも同じようにひどい扱いを受けている人がいるらしくって、だから使用人にはなりたくないんです」
だからこそ、結婚をするしか道はないという、しかしその結婚も相手によっては結局ひどい目に合う、幸いテリーヌの父親は母親を大事にしてくれているそうだが、中にはたとえ妻であっても奴隷のように扱う奴もいるらしい、この国では長いこと女性を軽く見ていることが浸透しており、さも当たり前のようにそうなっているという。
「……そ、それはひどいわね」
「全くだな」
「はい、だから私たちも必死なんです」
女性たちは幸せになるために、自分を大切にしてくれる伴侶を必死になって探しているが、この国ではそう簡単に見つからない。テリーヌも幼いころから付き合いのある少年がいるらしいが、その少年も幼いころは分け隔てなく付き合ってくれたが、最近ではそっけなくなり話しても意地悪ばかりしてくるようになったそうだ。
でも、幸いというべきかこの街は隣国であるウルベキナ王国に近い街、そのためこの街の男にはウルベキナからやってきた者たちもいるためにそこから探しているという。
そんな中で、女であるシュンナ相手に対等に扱うどころか、むしろ逆に尻に敷かれているような状況を見て、ダンクスなら自分を幸せにしてくれるのではないかという思いに至った。なるほど、それで思い余って逆プロポーズに踏み切ったというわけか。
「ごめんなさい、わたし自分のことでいっぱいで、ダンクスさんなら2人目でも大丈夫と思って、ごめんなさい」
しきりに謝るテリーヌ、……んっ? 2人目?
「んっ?」
「2人目って?」
テリーヌの言葉に俺たちはあたりを見渡してみた。テリーヌが2人目なら1人目は一体。もしかしてほかにもダンクスに目を付けた人物がいるのだろうか、全く気が付かなかったんだけど。
「え、えっと、その」
俺たちの行動を不思議そうに見ながらシュンナをちらっと見た。あっ、まさか!
「えっ、もしかしてあたし! いやいや、違うわよ。あたしとダンクスは仲間であってね」
「お、おう、そうだぞ。俺たちはそういう関係じゃないからな」
シュンナとダンクスも思い至ったようで必死になって否定してる。そういう行動すると余計に怪しまれると思うんだがな。まぁいいけど。
「えっ、そうなんですか!」
2人の否定を聞いたテリーヌは驚愕しているが、驚いたのは俺たちだ、どうしたら2人が夫婦と思ったんだろうか。シュンナとダンクスは確かに仲はいいが、それはあくまで仲間として、友人としてでしかない。でもまぁ、それは俺がいつもそばで2人を見ているからだろうか、はた目から見たら夫婦に見えるのかもしれないな。そんな思いに2人も思い立ったのか、愕然としていた。
「だったら私と……」
「ああ、えっと、悪いけど俺は今こいつらと旅をしている最中でな。そういったことは考えてないんだよ」
「そ、そうですか、ごめんなさい」
テリーヌはそう言ってあっさりと引き下がり去っていった。
「……行っちゃったわね」
「お、おう、そうだな」
「断ったこと後悔してるんじゃない、こんなことめったにないわよ」
「んなわけあるかよ。でも、あの娘どうすんだろうな」
「さぁ、でも大丈夫じゃないか」
「どういうこと?」
ダンクスはあの娘がこの後変な奴にでも同じことしないか心配しているようだが、俺の勘では大丈夫だと思う。
「さっきの話の中で出てきた幼馴染だよ」
「ああ、最近そっけなくなったとか、意地悪してくるとかの」
「そうそう、男って素直じゃないからな。好きだからこそってこともあるんだよ」
「へぇ、2人とも覚えがあるの」
「俺にはないな」
「俺にもないけど、前世の世界ではよくある話として知られていたからな。といっても、それをやるのは主に小学生……俺より少し年下ぐらいの精神が未熟なやつだけどな」
「確かに言われてみると、孤児院にもそういう奴がいたな。なるほど、あいつそういうことだったのか」
ダンクスが孤児院にいたころを思い出して何かに納得したようだった。おそらく、孤児院にも同じ行動をとっていた奴がいたということだろう。
「まぁ、なんにせよ。この国の女性たちがひどい扱いを受けているというのは事実みたいね」
「ああ、でもこうしてみる限りだとそこまでひどい扱いを受けているとは思えないんだけどな」
ダンクスの言う通り、街を歩いている限りそういった扱いを受けている女性の姿というものは見ていない。まぁ、外に出ていないだけで内部ではって可能性もあるが。
「そこらへんはこれからこの国を歩いていけばわかるだろ」
「そうね」
「そうだな」
「あ、あの、すみません」
さて、街歩きを再開しようと1歩踏み出したところで、また少女に声をかけられた。
「な、なんだ?」
少女の見ている先はやはりダンクス。
「私と付き合ってください」
「……」
「……」
……、またか! つい先ほど断ったと思ったらまた、ダンクスに言い寄ってきた少女が現れた。言っておくがテリーヌではないぞ。
「ああ、えっと、悪いけど」
「そうですか。残念です」
その少女もダンクスが断るとあっさりと帰っていった。
「もしかして、ほんとに手当たり次第なのかな」
「……そうじゃないと信じたいが」
「ダンクスに声をかける時点でそうじゃないか」
「確かに、この顔と図体じゃねぇ」
「悪かったな」
それからも幾度となくダンクスは声をかけられ続けたのだった。ほんとなんなんだろうな。
そうして、いたたまれなくなった俺たちはぶらつきもほどほどにして、次の日には街を出たのだった。
3日後、俺たちは次の街であるブロッセンへとたどり着いていた。
「この街でも絡まれんのか?」
「多分な」
「それは間違いないわね」
「はぁ、勘弁してほしいぜ」
「まっ、仕方ないって」
俺とシュンナはそう言ってダンクスを慰めながら街の中に入ったのだった。
「腹減ったな」
「そうね。今昼だし、どっかで食べよっか」
「そうだな」
昼時ということで昼飯を食うためにどこかで食べようとあたりを見渡してみた。
「あそこでいいんじゃない、なんだかおいしそうなにおいするし」
「ほんとだ。確かにいい匂いだな」
「確かにな」
というわけで、いいにおいを漂わせている店に入ることにした。
「いらっしゃい。どうぞ適当なところにお座りください」
店に入ると若い男から声がかかった。よく見ると給仕はみな男で女性は1人もいなかった。
「ここにするか」
「ええ」
「何食う?」
「そうだな。なぁ、何が美味いんだ」
「プリアルスがおすすめですよ。こちらは当店発祥の料理なのです」
「へぇ、そりゃぁいいな。それを3つ頼むぜ。お前らもそれでいいだろ」
「ああ」
「ええ」
「かしこまりました」
給仕は最初からダンクスしか見ていない、俺も一応男だからかちらっと見て会釈程度はしてきたが、シュンナに至っては俺たちと一緒に椅子に座ったことに顔をしかめていた。
それからしばし適当に会話をしていると先ほどとは違う給仕が注文の料理を運んできたわけだが、それを見て俺たちは驚いた。
「なぁ、これって」
「これ、あれよね」
「ピザ、だな」
そう給仕が持ってきたこのプリアルス、どこからどう見てもピザであった。まさか、こんなところにもあるとはな。エイルードでリーラが作った時も驚いたものなんだけど、まさか、そこまで離れていない場所でも生まれているとはな。でも、ほんとにそうなんだろうか、なんか引っかかるんだよな。
「リーラパンだよな。これ、なんでこんなところにあるんだ。ていうか、プリアルスってなんだよ」
「知らないわよ」
「なぁ、聞いていいか?」
「はい、なんでしょうか」
「この料理っていつからあるんだ。それとついでに聞くがプリアルスってのはどういう意味なんだ?」
ダンクスも気になったようで、給仕に聞いてみるようだ。
「こちらは半月ほど前よりご提供させていただいておりまして、プリアルスという当店主人の弟君がご考案された料理でございます」
人の名前だったようだ。そりゃぁ意味のない言葉だよな。それはともかく半月前か。
「半月、へぇずいぶんと最近なんだな」
「はい、ですがすでにここブロッセンでは一番人気の料理でございます」
「ほぉ、そいつはすげぇな。それで、そのプリアルスってやつはどこにいんだ。奥か? 会ってみたいものだな」
ダンクスの言う通りもしいるのならあってみたい、尤もなんとなく会えない気がするが。
「申し訳ありません。ただいまプリアルスはウルベキナ王国へ出向いたしておりまして、こちらにはおりません」
思った通りいないらしい。というかウルベキナ王国か、んっ、ウルベキナ王国、プリアルス。なんだか、この組み合わせに覚えが……そう思った俺は”森羅万象”に検索をかけてみる。
この”森羅万象”は文字通りというべきか、あらゆる情報がデーターベース化されて整理されている。その情報源は当初は神様からの物だけだったが、そこに俺が見聞きしたものも追記されている。つまり、俺自身の記憶にはなくとも、例えば人物の情報も記載されているというわけだ。というわけで検索結果。
「あっ」
「どうしたのスニル」
俺が突然声を出したものだから隣にいたシュンナがどうしたのかと聞いてきた。
「ヒットした。エイルードの商人ギルドギルドマスターだ」
「エイルード? ……ああ、そういえば」
シュンナも思い出したようだ。
「おおう、あいつか」
「おや、皆様はプリアルス様をご存じですか」
「ああ、俺たちはウルベキナから来てるんだが、道中エイルードに立ち寄ったからな」
エイルードは飯が美味いということで有名な街だ。
「そうでございましたか、しかし、プリアルス様はギルドマスターです。どのようにしてお会いになったのでしょうか?」
給仕が言うように確かに普通なら俺たちのような旅人が、商人ギルドのギルマスの会うなんてことは不可能といってもいいだろう。
「いや、俺たちは別に会ったわけじゃなくて、見かけただけでな」
「左様でしたか」
「ああ、2か月ほど前にエイルードで料理大会があってな。それの審査員として紹介されてたんだ」
「なるほど、確かにそのようなことがあったと聞き及んでおります」
まぁ、どうやらここはあのギルマスの実家みたいだからそれぐらいのことは伝わっているだろう。だが、ここで問題が出てくる。そう、ピザ、リーラパンのことである。
「だとしたらおかしいな」
「何がでしょうか?」
「さっきも言ったように俺たちは料理大会を見ていたんだよ。そんで、決勝戦でリーラって女料理人が作ったものが、これと同じでな。これがどういうことかわかるか」
「えっ?」
ダンクスがそういうと、給仕はまさに狐につままれたように驚いている。
「おいおい、どういうことだ?」
そんな会話を聞いていたのは当然周囲にいた客たち、彼らも持っているフォークを置いて固唾をのんで聞いていた。
「お、お客様、ご冗談はおやめください。それ以上は営業妨害で訴えさせていただきますよ」
営業妨害ってこの世界にもあるんだな。まぁ、商業の国だから余計にあるのかもな。
「事実だ。もし疑うってんなら、エイルードの料理人ギルドか領主にでも確認してもらってもいいぞ。大会の主催はギルドだし、領主も審査員として参加してたしな」
「そ、そんな馬鹿な。これはプリアルス様の考案されたもので」
「だから言ったろ、そのプリアルスが審査員を務めた大会の決勝で作られた料理がこれだって」
ダンクスがそう言い切ったものだから周囲で聞いていた客たちもどういうことだと言いあう始末となった。
「なんの騒ぎだ!」
「会長!」
すると騒ぎを聞きつけた会長が奥から出てきた。こいつがプリアルスの兄ってことだろうか。
「これは一体どうしたことか、説明しろ」
「はい、実は……」
給仕は会長に事の仔細を説明し始めた。
「ほぉ、それは本当の話か? 裏は取れているんだろうな」
「い、いえ、ですがこの方たちはそう言っております」
「事実だぜ。嘘だと思うならエイルードの料理人ギルドか領主にでも確認してみたらわかることだ。ああ、間違っても商人ギルドには聞くなよ。さっきの話からして本当のことを話すとは思えないからな」
ダンクスは少々怒っているようだな。まぁ、ダンクスは元騎士だけあってこういうことが嫌いだからな。俺としてはここまで大事にするつもりはなかったんだが、だからといって止める気はないけど……。
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