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第06章 獣人の土地

03 ハンター

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 翌日

「それじゃ、行ってくる」
「サーナのことお願いね」
「任せて、行ってらっしゃい」

 今日はエイパールへと向かう、しかしそこに行くのは俺とシュンナ、ダンクスだけで、父さんと母さん、サーナはここ聖都で留守番することになっている。
 というのも、これから行くエイパールは獣人族などを狩る組織であるハンターたちの巣窟、そんな場所に赤ん坊であるサーナを連れていくわけにもいかないし、もしサーナの正体がばれでもしたら最悪なことになりかねない。まぁ、それに関しては聖都も同じなんだが、ここのほうが幾分かましだというわけでサーナを置いていくこととなった。父さんと母さんはその御守りと同時に、なんだかんだで2人はまだ12歳の子供、いくら中身が大人でも実年齢を考えると連れていくわけにはいかない。それを言ったら俺も同じなんだけど俺が行かないわけにはいかない理由がある。

「スニルも気を付けていってらっしゃい」
「ああ、そっちも何かあったらテント使って」
「わかっている。こっちのことは俺たちに任せておけ」

 父さんと母さんにはテントを渡してある。もしサーナの正体がばれたりでもしたら、聖都を出てテントで過ごしてもらうように手筈を整えている。
 尤も、おそらくその手を使うことはないと思う、俺が作った変装の魔道具はそうそう壊れないし。ただ、この世に絶対なんてものはないので一応念のためだ。

「じゃぁ、行ってくるよ」
「いってらー」

 というわけで、居残り3人の見送りを受けてエイパールへと向けて出発したのだった。


「こうして、3人でってのも久しぶりね」
「そうだなぁ。サーナを拾ってからはずっとサーナがいたしな」
「それに父さんと母さんまで増えてな」
「そうね。ほんとあの時は驚いたよね」
「確かに」

 両親と再会したときは本当に驚いた。なにせ普通なら二度と会えるわけがない存在だからな。ほんと神様には感謝しかない。

 そうこうしているうちにあっという間に国境へとやって来た。これまで通ってきた国境と言えば、間に緩衝地帯が存在していたが、この両国間にはそんなものはなく、ただ門がそこにあるだけで門番すらいない。どうしてかというと、いらないからというのが理由だ。なにせ、エイパールにいるのはほとんどがハンターという、獣人族の土地へ獣人たちを狩る連中ばかり、そいつらがミザークレスへ向かうことはないし、そもそもエイパールという国は国民がほとんどいないそうだ。ハンターと呼ばれる連中も国民ではなくただギルドに所属しているだけで、別の国の所属となるとなるらしい。まぁ、これは冒険者でも同じで、例えばコルマベイントの冒険者は別の国へ行ったとしても、その国へ帰化しない限りコルマベイントの国民ということになる。

 だからだろう、俺たちは誰にとがめられることもなくあっさりとエイパールへと入国することができた。

「まずはギルドへ加入だろ」
「そうだな。できればしたくはないが」
「しょうがないわよ。しないと向こうに渡れないんだもの」
「そうなんだよなぁ」

 獣人族の土地へ渡るには、聖都やエイパールに隣接している川を渡らなければならない。しかしこの川対岸がかなり先に見えるほどにでかい、日本の川しか知らない俺からしたら、湖? って思うほどだ。ていうか俺がしている湖でも対岸はしっかり見えるからな。んで、その川は結構流れが速い上に深く自力で渡るのが不可能と来ている。しかもエイパールも聖教国も、ともに法律で勝手に対岸へ渡ることを良しとしていない。尤も俺たちがその法律に従う必要はないんだが、下手にトラブルを起こしても仕方ないので、ここは正規の方法で獣人族の地へ向かうことにしたというわけだ。それで、その方法というのがハンターとなりギルドが運営する船で川を渡るというものだ。

 そうこうしているうちに目の前にハンターギルドと書かれた建物が見えてきた。

「あれがギルドか。なんか冒険者ギルドと似てるな」
「やってることは最低だけどね」
「違いないな。まっ、なんにせよ入るか」

 ギルドというものはどこも似た建物なのか、俺たちがこれまで見てきた冒険者ギルドと建物がよく似ていた。しかし、シュンナが言うようにやっていることは善良な獣人族をかっさらって、奴隷の首輪をはめ込む奴隷とするという最低最悪な悪行だ。しかも、ハンター連中はそれが悪いことであるという自覚が全くない。いうなれば、シカやイノシシを狩りに行くような感覚だ。そんな連中と冒険者が一緒というのはどうかと思う。しかし、残念ながら当の冒険者たちもキリエルタ教、つまりハンターの活動を悪いことだという認識がないんだよな。まぁ、それはともかくさっさとギルドの入ろう。

 ガチャっと扉をあけ放った瞬間に漂ってくる酒臭……くせぇな。

「かなり匂うわね」

 シュンナはそれなりに酒を飲むが、この漂う臭いには顔をしかめている。

「さすがに俺でも、この匂いはきついぜ。ていうかこいつらどんだけ飲んでるんだよ」

 ダンクスほどの酒好きでもよほどきついにおいが漂っているようだ。ほんと、どんだけ飲んでやがんだこいつら。
 俺たちは呆れつつも何とかギルド内へと入っていった。

「おいおい、見ろよ」
「ガキかよ。ここはいつ託児所になったんだ」
「ひゅ~、見ろよ。すげぇいい女だぜ」
「まじかよ。お前、声かけろよ」

 入るとさっそくヤジが飛んできた。

「粗暴な連中だとは聞いていたけど、すげぇな」
「ほんとね。まさかダンクスがいるのにね」

 こういう場所に来ると大体俺とシュンナがやじられるのは分かっていたが、これまではそばにダンクスがいたためにそれがなかった。しかし、このギルドではダンクスが見えないのかヤジが飛んできた。

「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか」

 ヤジを聞きつつ受付に向かうと、受付嬢がそう聞いてきた。

「登録したいんだけど、いいかな」

 いつものようにシュンナが話しかけた。

「登録ですか? それは構いませんが、その、そちらの子は?」

 ギルドとしてはシュンナとダンクスの登録は問題ないがどう見ても子供である俺は無理だということだろう。

「大丈夫よ、登録は14歳でもできるでしょ。こう見えても14歳だから問題ないわよ」
「えっ、14歳、ですか? いえ、さすがにそれは?」
「おいおい、聞いたかよ。あのガキ14とか言ってるぜ」
「嘘ついてんじゃねぇよ。ぎゃはははっ」

 誰も信じてはくれないらしい。まぁ、この見た目じゃ仕方ない、これまでだって誰一人信じてくれなかったしな。

「それは、本当ですか。ですが、それが本当だとしてもハンターは獣人族などとの戦闘が発生する場合があります。ですのでそのたとえ14歳としても、戦闘ができなければ登録はできません」
「ひゃはははははー、そりゃぁそうだぜっ。獣人どもを狩るってのに、そんな餓鬼に何ができるってんだぁ。ヒャッハー」

 なんとも気になる言葉が聞こえたために思わず振り返ってしまった。

「なっ!」

 振り返るとそこにいたのは上半身裸に革の鎧、なんだかとげとげしい肩パットをつけたモヒカンがそこにいた。しかも、その周囲には似たような恰好をしたスキンヘッドなんかもいた。まじか、まさか世紀末がこんなところに。

「なんだ、あいつら」
「さぁ、変な格好してるけど、なに?」

 俺が振り向いたことでシュンナとダンクスも振り向き、世紀末共を不思議そうに見ている。

「ヒャッハー、まじかよ。すげぇいい女じゃねぇかよ。ヒャッハー」

 ヒャッハーってうるせぇな。そう思っているとふいに世紀末たちが近づいてきた。

「よぉ、ねぇちゃんそんな奴らじゃなくて俺たちと一緒に狩ろうぜ。ヒャッハー」

 ほんとうるせぇ奴らだな。言葉にいちいちヒャッハーって入れなきゃ気が済まないのか。

「悪いけど、あんたたちみたいなのと一緒に居たくないわ。それに、言っておくけど、この子はあんたたちよりはるかに強いわよ」

 シュンナはすぐさま連中の誘いを断った。それはそうだろう、誰だってこんな奴らと一緒に居たいと思わないだろう。

「おいっ、聞いたかよ。このガキが俺たちよりも強いだってよ。ヒャッハー」
「ヒャッハー、ありえないっしょ。ひゃはははは」

 なんかうるさいなほんと、仕方ない。そう思った俺は指をぱちりと鳴らした。

「あんっ、な……」

 するとどうでしょう、世紀末連中の周りに透明の幕が形成され連中が閉じ込められてしまった。しかも、連中は突然のことに声を出しているが残念声がまったく聞こえない。

「これで、静かになったな」
「ええと、スニルなにしたの?」
「えっ!」

 シュンナも突然のことに戸惑いを隠せず聞いてきて、それを聞いた受付嬢が俺を凝視している。

「結界に閉じ込めたんだ。あっ、でもちゃんと空気は通ってるから呼吸はできるぞ」

 結界に閉じ込めてそこで窒息死はさすがにやりすぎだからな。

「えっ! 結界? えっ!」

 受付嬢は俺が言った結界という言葉に驚愕している。

「こいつは、近接もそれなりにできるが、一番得意なのは魔法なんだよ」

 そんな受付嬢にダンクスが補足で説明した。

「それで、どんな結界なんだ?」
「ああ、ちょっと最近思いついてな。見ての通り物理だから対象を閉じ込めることができる上に魔法にも対応させているから中から破壊することもできない。また、声も遮断する遮音もつけておいたんだ」
「すごいわね。それで、効果はどのぐらいなの」
「そうだな。1週間ってとこか」
「ずいぶんと長いわね」
「あ、あの、それはそれで困るんですけど」

 俺たちの会話を聞いてきた受付嬢が困り顔でそう言った。

「大丈夫。あれは俺たちへの悪意を持ったものしか効果が出ないから、俺たちに悪意が無くなればすぐに出られる」

 そう、これがこの結界の特徴だ。

「悪意、ですか」
「そういうこと、試してみるといい」
「わ、わかりました」

 受付嬢はそう言って結界に恐る恐る触れようと手を伸ばした。すると結界をするっと抜けて世紀末連中に触れることができた。

「えっ、ほんとだ。通り抜けました」
「すげぇな」
「またとんでもない魔法を考えたわね」

 ダンクスとシュンナも結界に手を出し入れしながら呆れつつ感心している。

「まっ、それはともかく登録」
「ああ、そうだな。姉ちゃん頼めるか」
「えっ、あっ、はい、すみません」

 何度も結界に手を出し入れしていた受付嬢もダンクスに言われて慌てて返事をして、受付へと戻ったのだった。

「と、登録ですね。登録には……」

 受付嬢の説明によると、ハンターとして登録するには試験を受ける必要があるとのことだった。その内容は戦闘と拘束術、冒険者であればただ討伐すればいいが、ハンターというのは獣人族などを倒すのではなく摑まえる仕事となるために、まず獣人族よりも強くなければならない。戦闘の試験ではこれを見るらしい。そして、その獣人族に奴隷の首輪をつけるためには拘束術も必須となる。まぁ、確かにその通りだな。

「ええと、それで登録はお3人ともでよろしいのですか?」
「ええ、もちろん」
「だな。俺たちは3人だからな」
「畏まりました。では、さっそく試験を行いますので、訓練場へとご案内します」
「ええ、お願い」

 それから俺たちは結界に閉じ込められた連中を放置して受付嬢とともに訓練場へとやって来たのだった。


「お前らか、なるほど確かにその男なら問題ないだろうな」

 訓練場にやってくるとそこには1人の男が立っていた。ていうか、こいつダンクス並みにでかいな。まぁ、それでもダンクスのほうがでかいんだけど。

「それで、リラその嬢ちゃんとガキもか」
「はい、お願いしますリュータさん」
「はぁ、遊びじゃないんだけどなぁ。まぁいい、それじゃ、まずはガキからやるか。おい、お前戦闘はできるんだよな」

 どうやら俺から始めるようだ。試験官の男は俺を見てつまらなそうにそういったので、俺はいつものようにうなずいた。

「なら、そこに立ってかかってきな」

 そう言われたので、遠慮なく言われた場所へと向かった。

「スニル、適当にね」
「ああ」

 シュンナの言う適当というのは、適度に手加減をしろということだろう。見たところ確かに結構強そうだが、俺でも本気を出すと後の試験ができなくなりそうだからな。

「よし、来な」

 来いと言われたので、左手に持った木刀を手に持ち下段の構えを取り、一気に駆け出し距離を詰める。間合いに入ったところで、切り上げるが、これは男に止められてしまう。しかしこれは織り込み済み、素早く刀を引いて今度は横なぎに切り払いながら一歩前に出たが、これも防がれた。そこで今度は木刀を持つ力を緩めて刃を下へ落とすと、素早く手首を返して、今度は斬りつけた。

「へぇ、やるなぁ。ガキだと思ったが、攻撃がおめぇ。身体強化を使ってやがるようだが、まだまだ軽いぜ」

 なんてことを言ってきたので、身体強化の力を少しだけ強めつつ、重力魔法を軽く発動、これにより木刀の重量が上がる。だからと言って俺が重くて持てないということはなく、俺自身が感じる重さは全く同じだ。というわけで、先ほどよりも早い速度で男の元へと迫ったところで、飛び上がり振り下ろした。

「ほらよっ」
「ふん、速さが増し……なに? ぐっ、ぐがぁ」

 俺の攻撃が思った以上に重かったからだろう、男は受け止めようとした剣ごと頭を打ちぬいた。

「終わりだな」

 最後に木刀を突きつけたところで終了となる。

「あ、ああもっくなく合格だ。ていうかなんだ今のは、すげぇ痛かったんだが」

 男がそう言って頭をさすっているが、実は俺は直前に衝撃を軽くしたために男にとっては少し痛い程度で済んだはずだ。尤も、それはこの男がそれなりの実力者だからであり、普通なら気を失いかねないぐらいの力は込めてある。

「おい、まじかよあのガキ、エドワルドさんが手も出せなかったぞ」
「いや、あれはガキだからってことで油断しただけだろ」
「で、でも合格って、すごくない。あの子」

 俺が合格したことで周囲にで見ていた連中が口々にそう言って騒いでいる。

「よしっ、次だな。次はそこの嬢ちゃん」
「ええ」
「シュンナも適当にな」
「任せて」

 それから、シュンナの戦闘試験が始まった訳だが、これまたあっという間に終わった。というか、シュンナが目にも止まらない速さでエドワルドという試験官に迫ったかと思ったら、その首元に木製のダガーが突きつけられていた。何があったか多分ほとんどの奴らが見えなかったと思う。俺だって魔力を追うことでかろうじてわかった。ていうか目では全く見えなかった。

「さすがにはぇな。全く見えなかったぜ」

 隣でダンクスもそう言っている。どうやら、ダンクスにも見えなかったらしい。まぁ、それでもダンクスなら勘で対応してしまうんだけどな。

「すげぇ。おい、いま何があったんだ」
「わ、わからねぇ」
「ていうか、いつの間に移動したんだよ」
「……まったく、みえなかった……」

 見ていた観客たちも口々にそう言って驚いている。

「そんじゃ、最後は俺だな」

 シュンナが終わったところで今度はダンクスの番だが、まぁ、ぶっちゃけダンクスもあっという間だった。別にこの試験官が弱いわけじゃなく、俺たちが強すぎるだけ、いや、俺たちというよりシュンナとダンクスがだな。その後行われた拘束術試験も難なく合格した。まぁ、俺が結界で簡単だし、ダンクスは元騎士だったので習得しているし、シュンナは冒険者として盗賊たちを捕縛するための技術として学んでいた上にダンクスからも教わっていたので全く問題なかったわけだ。
 こうして、俺たちは無事ハンターとなれたのであった。
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