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第06章 獣人の土地

10 集落案内

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 俺のうっかりから、父さんと母さんがゾーリン村へと帰ってきている。その2人は現在村長宅でいろいろな説明と謝罪を受けていることだろう。その間俺とポリーはその場にはいないほうがいいと思って外に出たのだった。

「スニルのお母さん、かわいい人だったね」
「まぁ、年は2つ下だしな」

 ポリーからしたら年下であり、身長も低いからそう思ってもちっともおかしくない。

「それで、スニルどこ行く? 私は今スニル達がいるところに行ってみたいんだけど」

 ここで、ポリーから獣人族の集落へ行きたいとのリクエストが上がった。

「獣人族のか? そう言えば手紙にもそう書いてあったな」
「うん、だめ?」

 そんな目で見られてもな。もしこれが上目遣いなら撃ち抜かれていたかもしれないが、残念俺よりポリーのほうがでかいんだよな。まぁ、それでもなぜか俺はこの目に弱い。

「はぁ、まぁ少しだけなら大丈夫だろ。村長たちの話もそう長くはないだろうし」
「やったね」

 嬉しそう俺の腕にしがみついて喜ぶポリーである。そのおかげか、最近シュンナほどではないにしろ、それなりの大きさになってきたその胸が押し付けられている。考えてみると、俺は前世を含めてもこういう状況に出会ったことがなかったな。おかげでポリー相手に若干緊張するんだが……
 それはともかく、獣人族の集落に向かうとしよう。

「そんじゃ行くけど、その前に集落に着いたら俺から離れたり勝手な行動はするんじゃないぞ。手紙にも書いたけど、獣人族は俺たち人族を敵視している」
「う、うん、ど、奴隷だっけ」

 ポリーは奴隷という言葉を言いよどんだが、これは別に14歳の少女としての反応ではなく、俺がかつて奴隷として売られた事実を知っているからである。

「ああ、人族が信仰している宗教の教義、まぁ、教えのせいでな。人族以外は人間ではない、俺からしたらあほらしい話だけど、連中は長いことこの教えに従って獣人族を始め他種族を貶めてきたんだ。その被害を前線で受け続けたのがこれから行く獣人族たちの集落だからな。今は俺がいろいろやったから何とか俺たちは受け入れられるようになってきたけど、まだ中には警戒しているやつもいるからな」
「う、うん、わかった」
「まっ、そこまで緊張しなくても俺の側にいれば大丈夫だろ」

 俺の話を聞いて緊張の面持ちだったポリーも、続いての言葉で若干それがほぐれたようだ。

「それじゃ、そろそろ行くか」
「うん」

 そう言うことで”転移”で獣人族の集落へと向かったのだった。



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「ここが、集落?」
「ああ、まぁ見た感じはほぼ変わらないからな」

 獣人族の集落といっても結局は人間の住処、ゾーリン村とそれほど変わりがあるとは思えない。

「そうだね。それで、どこを案内してくれるの」
「そうだな。まずは一応族長に話を通しておいた方がいいだろう」
「族長?」
「村長みたいなものだな」
「へぇ、それじゃぁ挨拶しないとね」

 というわけで俺たちは族長の元へと向かうことにした。

「ここだ。ああええと、ポリー」
「わかってる。私に任せて」

 さすが俺のことを良くわかっている。人と話すことができない俺の代わりにポリーがいろいろ話をしてくれるようだ。

「あらっ、スニル君じゃない。それにあなたは?」

 族長の家をノックすると中から出てきたのは族長の奥さんでメリルさん。年のころなら50代前半ぐらいで柔和な表情を浮かべて微笑んでいる。実はこのメリルさんはかなり変わっており、この集落でも唯一最初から俺たちを受け入れてくれた人物でもある。そう、あのサーナの祖母であるミサも早い段階で俺たちを受け入れたがあれはあくまでサーナを通しての信用だった。それに対してメリルさんは何もなく信用してくれた人だ。それで大丈夫なのかと思ったが、なんでもメリルさんは人の悪意などを見抜く目を持っているらしく、たとえ俺たちが人族でも関係はないようだ。ちなみに、俺たちがこの集落でレベルで収まっているのが彼女のおかげといってもいいだろう。彼女が俺たちを信用してくれているからこそ、彼女の能力を知る獣人たちが俺たちをこの程度まで信用してくれたというわけだ。もし彼女が俺たちを拒否していたら、多分俺たちの願いは聞き入れられず追い出されるか、最悪殺されていた可能性がある。

「私はスニルと同じ村のポリーって言います。今日はスニルに無理言って連れてきてもらったんです」
「あらあら、そうなの。それは遠いところよく来たわねぇ」

 メリルさんはそう言ってポリーを歓迎したことに俺は分かっていたことではあるが若干安堵していた。

「さぁ、どうぞ中に入って頂戴」
「はい」

 そう言うことで俺たちは族長の家へと入っていったのだった。

「……というわけで、連れてきてもらったんです」
「ふむ、話は分かった。まぁ、村を見て回るというだけなら問題ないだろう。ただし、そこにいるスニルの側を離れないようにな。まだ、村のものの中にはお前たちを良く思っていないものもいる」
「はい、スニルにも言われているので少しだけ見て回って今日は帰るつもりです」
「それがよかろう」

 という俺を除外したものたちでの会話が行われた。

 そうして、族長の家を辞したのち、集落内の案内を始めるのだった。

「あんな言って行ってもそこまで見せるものもないと思うけど、まずはそうだな。それでも見ておくか」

 俺が指示したのは集落の中央に鎮座している魔石とその台座である。

「これは?」
「これが、俺が作った結界の中心になっているんだよ」
「それって、手紙書いてあったものだよね。確か獣人族とかほかの種族の人たちには効果がないけど、人族にはその中を見ることも認識もできないって」

 ポリーにもすでに手紙で説明しているので知っている事実となる。

「そういうこと」
「私にはよくわからないんだけど、どういうことなの」
「そうだなぁ。あっ、そうだポリーならわかるな」
「?」

 俺が作った結界は人族以外の種族と俺たちに効果が出ないというものだ。この俺たちというのは俺とシュンナ、ダンクス、父さん、母さんとなる。つまりポリーは含まれていない。

「前世の世界には百聞は一見に如かずって言葉があってな。100回聞くより1回見たほうが早いという意味なんだけど、つまりだ”転移”」

 しゃべりながら”転移”して、集落の外へと飛んだのだった。

「えっ? なに? ここどこ?」

 いきなり俺が”転移”したものだからポリーは困惑しあたりを見渡している。

「集落の外に出たんだよ。そうしないとポリーは結界に阻まれて出れないからな」

 俺が作った結界は当然ながら双方向となっており、俺たち以外の人族は通り抜けることも認識することもできない。つまり、ポリーでは村の外に出ることができず閉じ込められている状態となってしまうというわけだ。

「そうなの?」
「そっ、それで見てみな。こっちに集落があるんだ」

 俺は目の前にある集落を指さしてポリーに知らせた。

「えっ? 何もないよ」

 しかし、ポリーにはただの森にしか見えないはずだ。

「それが認識疎外の結界の効果だよ。そこにあるのに認識することができない。実際こっちに向かって歩いてみな」
「う、うん」

 俺はポリーに結界に向かって歩くように言ってみた。それを聞いたポリーが歩いていると、結界に近づいた瞬間方向が変化した。しかし、ポリーは全く気が付いていない。

「ポリー」

 ポリーがある程度結界から離れたところで声をかけてみた。

「なに、あれっ、スニルどこ?」

 ポリーが振り返ったところに俺がいなかったからか俺を探しているが、少しあたりを見渡したのち俺を見つけようだ。

「なんで、スニルそこにいるの」
「なんでも何も、俺は全く動いていないぞ。ポリーが途中で曲がったんだよ」
「えっ、そうなの。私全く気が付かなかったんだけど」
「結界の効果だな。結界にぶつかる直前に歩く方向が若干変わるようになっているんだ。こうすることで相手にここに何かあるということを認識させないってわけだな」
「へぇ、なんかすごいね。それ」

 ポリーは素直に感心している。

「とりあえず。そろそろ戻るか」
「うん」
「あれっ、スニル、どうした。って、ポリーちゃんか?」
「ほんとだ。ポリーちゃん来てたんだ」
「あっ、ダンクスさんとシュンナさん……って、シュンナさんかわいいです」
「ありがと」

 ”転移”で集落へ帰ろうとしたところで、背後からダンクスとシュンナを含めた獣人族の戦士たちが戻ってきた。
 ダンクスたちは現在、この戦士という集落を守るためにハンターたちと戦うものたちとともに、一緒に活動をしている。どうやらその休憩に戻ってきたようだ。

「どうしたんですか。それ、それに、その、ダンクスさんも」

 やはりポリーからしてもダンクスの姿が異様に見えているようだな。まぁ、これを異様と言わずなんという気もするが。

「ふふっ、あたしたちは獣人族としてハンターたちと戦っているからね。あっ、ハンターっていうのは分かる?」
「はい、スニルから聞いてますから」
「ハンターたちと戦うのに俺たちが人族のままだと面倒だからな。だから最初からこの格好でやっているってわけだ」
「なるほど、そういうことなんですね」
「似合ってないだろ」
「え、ええと、その」

 ダンクスに問われてポリーは遠慮がちに答えにくそうにしている。その時点では答えは分かるんだけどな。

「ここは正直に言って大丈夫だよ。ていうかあたしたちですらかなり怖いぐらいだし」

 シュンナの言う通り、ダンクスのけもみみ姿は俺もビビったから、ポリーが怖いといっても全く問題ない。

「いや、まぁ、そんなことよりさっさと集落に入ろうぜ。連中はすでに入っちまったし、ここに居ても仕方ねぇし」
「そうね。入りましょ2人とも」
「ああ、といってもポリーはこれ越えられないから”転移”だけどな」
「あっ、ああ、そうか、これって俺たちだけだっけ」
「そうそう」
「それじゃぁ、あたしたちは先に行ってるから、サーナはテントだよね」

 シュンナがそういうが、そういえば2人に話していないな。

「いや、今父さんと母さんはゾーリン村に行っているからミサのところに預けてあるんだよ」
「ゾーリン村に?」
「ああ、もしかしてやったの」
「まぁ、そんなところだ」

 俺の口がポロっと言ってしまうということはシュンナたちも知っており、今回のこともいつかはポロっと言ってしまうかもしれないことを事前に話していたし2人の予想はしていた。それでも2人とも若干呆れている。

「それじゃぁ、今ミリアとヒュリックは大変ってことね」
「う、うん、今頃お爺ちゃんたちがいっぱい謝っていると思うから」

 今現在父さんと母さんは俺のことや過去父さんが受けたことなどについて、村長たちから盛大に謝罪を受けていることだろう。

「そっか、それでポリーちゃんはスニルとここに来たってわけね」
「はい、スニルが今過ごしているところを見たかったのと、ほかの種族の人がどんな生活しているのか興味があって」
「なるほどねぇ」
「おい、それよりもさっさと入ろうぜ」
「あ、ああ、そうだったな」

 いつまでも集落の外で話をしていても仕方ないし、ハンターや魔物がやってきても面倒なのでいい加減種楽に入ろうと思う。

「じゃっ、あとでな」
「おう」

 ダンクスとシュンナは集落の中へと入っていった。

「えっ、消えた?!」

 そんな2人を見送っていたポリーは突如消えた2人に驚愕しているが、これもまた結界の効果であり、俺にはちゃんと普通に歩いている後姿が見えている。

「消えたわけじゃなくて結界の中に入っただけだ。それより俺たちも集落に戻るぞ」

 そう言ってから”転移”を発動して集落へと戻ったのだった。


「あっ、戻った」

 俺たちが戻ってきたのは集落の中心にある結界の魔石がある場所だ。

「それじゃ、次の案内をしておくか」
「うん」

 それから、俺はポリーを連れて集落内の案内を再開したのであった。といっても、ほかに案内するところなって物はほとんどない。なにせ、結局はただの集落だからだ。

「……こんなところだな。どこも似たようなものだろ」
「そう? 確かに似てるけどやっぱり違うよ」

 ポリーはこれでも村長の孫だから、俺とは見るところが違うのかもしれない。

「そうか、まぁなんにせよ。そろそろ帰った方がいいと思うけど、最後にサーナにあっていくか」
「あっ、うん、会いたい」

 というわけで俺たちはサーナに会うためにガルミドの家へと向かった。

「ここって、スニル達が住んでるテントの隣のお家だよね」
「ああ、ここはサーナの母親の実家なんだよ」
「ここが……」

 ポリーはニーナのことを知っているために少し感傷的になってしまっている。

「まっ、とにかく入ろう」
「う、うん」

 それから俺はガルミドの家の扉をノックした。すると中からシュンナが出てきた。

「案内終わったんだ」
「ああ、そんなに案内するところなんてないからな。それにそろそろ村に帰る必要があるしな」
「そっか、それは残念ね。まっ、とにかく入ってサーナもポリーちゃんに会いたがってるから」
「はい」

 どうやらシュンナはすでにサーナにポリーが来ていることを話しているようだ。

「あらあら、その子がスニル君のお友達、初めましてサーナちゃんの祖母でミサよ。よろしくね」
「はい、ポリーです。よろしくお願いします」
「シュンナちゃんから聞いているわ。あなたもサーナちゃんの面倒をいろいろ見ていてくれていたのよね。ありがとう」
「いえ、サーナちゃんはいい子で私もとても楽しかったですから」

 ミサからお礼を言われたポリーは、少し顔を赤らめながらそう答えた。
 それから、ポリーはサーナといくらか遊んだ後、俺とともに”転移”してゾーリン村へと帰ったのであった。
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