7 / 13
7
しおりを挟む
今日は土曜日、俺は朝からバイトに励み、パートのおばさま方と仕事に励んでいた。
俺を訪ねて、もの凄い美人がやってきたと店中では噂になっていた。
噂好きのパートのおばちゃん達はもちろん、俺にその話題を尋ねてくる。
「次郎君次郎君!」
「え、なんですか?」
「この前お店に彼女来たんでしょ?」
「あぁ……えっと、まぁ……はい」
「すっごい美人だったって皆言ってたわよ~やるわね~」
「あははは……そうですかね?」
ニコニコ楽しそうに俺に言ってくるパートのおばちゃん。
あんまり話しを広めないで欲しいのだが、遅かった様子だ。
その後も、入れ替わりでシフトに入ってくる人全員に、先輩の事を言われ、俺は毎回愛想笑いを浮かべる。
忙しくなるお昼時、ついに愛実ちゃんがやってきた。
「おはようございます」
「あ、あぁ……おはよう」
彼女はバイトに入るなり、何故か俺をジーッと見てくる。
何も言わずに見つめられ続けるので、なんだか気まずい。
「えっと……どうかしたの?」
思わず俺は彼女に尋ねる。
すると愛実ちゃんは、若干目を細めて口を開く。
「彼女さんだったんですね、この前来た人」
噂はもちろん愛実ちゃんの耳にも届いている様子だった。
なんだか機嫌が悪そうだ、一体どうしたんだろう?
付き合っている事を隠していたからだろうか?
しかし、なんでそんな事で愛実ちゃんが怒るんだ?
そんな事を考えていると、愛実ちゃんは口を開いた。
「先輩、騙されてたりしません?」
「へ? 急にどうしたの?」
「あの女にですよ!!」
騙されたりはしていないと思うが、先輩からは良いおもちゃぐらいに思われているのかもしれないと思うことが多々ある。
まぁでも、俺以外の人の前では猫を被っている訳だし、俺以外の人が騙されているという見方も出来るのかもしれない。
「えっと……なんでそう思うの?」
「なんか、猫被ってる感じがして……女の勘ですけど」
女の勘すげーな……。
「い、いや……でもあの人はそう言う人じゃない……よ?」
「じゃあ、なんで後半疑問系なんですか……」
そんな事を話している間に、店は混み出してしまった。
「ほら、仕事仕事!」
「う……また後で聞きますからね!」
そう言って愛実ちゃんはレジに向かって行った。
あれ? なんで俺、愛実ちゃんに怒られてるんだろ?
俺はそんな事を考えながら、いつものようにハンバーガーを作る。
*
「あぁ……疲れた~」
バイトが終わり、今は夕方の16時。
俺はスタッフルームのパイプ椅子に座って、机に突っ伏していた。
早く帰りたいのだが、愛実ちゃんに呼び止められてしまい、俺は帰れず、着替えを済ませて待っていた。
「はぁ……なんで愛実ちゃんが色々言ってくるんだ?」
まぁ、確かに先輩と付き合う前は何回も先輩の事で相談したりはしたが、何がそこまで気にくわないのだろう?
そんな事を考えていると、スタッフルームのドアが静かに開いた。
「すいません、待たせてしまって」
「あ……いや、大丈夫だよ。早く着替えてきなよ」
「はい、もう少し待っててください」
入って来たのは愛実ちゃんだった。
愛実ちゃんもお疲れのようで、表情が疲れていた。
愛実ちゃんはスタッフルームの奥にある、更衣室に入って行った。
もう少し待つ事になり、俺はスマホを取り出して、通知が来ていないかを確認する。
「先輩からのメッセージばっかりかよ……」
スマホを開いた途端、先輩からの山のようなメッセージの通知が、俺のスマホの画面を隠す。
メッセージの内容はほとんど「いつ帰ってくる?」「帰りにアイス買ってきて」みたいな物ばかりだった。
「はぁ……仕方ない……なにが、良いですか? っと……」
俺は先輩にアイスの種類を確認するメッセージを送る。
返事は数秒で返ってきた。
「いつも早いなぁ……」
俺はその返事に「了解」と返信を打つ。
すると、それと同時に愛実ちゃんが更衣室から出てきた。
「すいません、お待たせしました」
「あぁ、大丈夫大丈夫、それで……えっと……なんで怒ってるの?」
「怒ってません!」
「怒ってるじゃん……」
あまり怒るような子では無いと思っていたのだが、今日の愛実ちゃんは凄く恐い。
俺、何か愛実ちゃんにしたっけ?
先輩の事で何か愛実ちゃんが怒るようなことは……あ、先輩の態度か?!
いや、でも愛実ちゃんはそんな事で怒るような子じゃ……。
「先輩……」
「はい!」
考え事をしていると、愛実ちゃんは正面に座って俺に話しかけてくる。
「……彼女って……いつからですか?」
「えっと……一週間前かな?」
「………そうですか……」
あれ? 怒ったと思ったら、今度はなんでこんなに落ち込んでいるのだろう?
「えっと……愛実ちゃんどうしたの? 変だよ?」
「……先輩」
「何かな?」
「私の事どう思ってます?」
いきなりどうしたんだろうこの子は、もしかして学校で何かあったのだろうか?
俺はとりあえず、今愛実ちゃんに対してどう思っているかを素直に言う。
「えっと、可愛いし仕事も出来るし、俺は凄く良い子だと思ってるよ」
「そうじゃなくて!」
突然の愛実ちゃんの大声に、俺は思わず目を見開く。
何かまずい事を言っただろうか?
本当に何かあったのだろうか?
俺はどんどん、目の前の様子がおかしい後輩の事が心配になっていった。
「そうじゃないって……どういう?」
「……すいません、突然大きな声を出して……」
「あ、いや全然! それより、本当にどうしたの? 俺で良かったら相談に乗るよ?」
「………じゃあ、聞いてもらえますか?」
「うん、俺も前は悩みを聞いてもらってたし、どんどん話してよ」
「そうですか……なら……」
そう言って彼女は顔を上げ、ゆっくりと話し始めた。
「私……失恋したんです」
「え! そ、それは……なんて言うか……」
「良いんです、ぐずぐずして行動を起こさなかった私が悪いんですから……」
そうか、だから愛実ちゃんは、俺に彼女が出来た噂を良く思っていなかったのか。
確かに、自分が不幸な時にそんな惚気話は聞きたくないよな……。
「そっか……でも、相手の人ももったいないね、愛実ちゃんみたいな良い子を…」
「……そう思いますか?」
「うん、だって愛実ちゃん可愛いし」
愛実ちゃんはきっと、自分に自信が無いハズだ。
ここはなるべく愛実ちゃんの良いところを言ってあげるのが一番だ。
俺を訪ねて、もの凄い美人がやってきたと店中では噂になっていた。
噂好きのパートのおばちゃん達はもちろん、俺にその話題を尋ねてくる。
「次郎君次郎君!」
「え、なんですか?」
「この前お店に彼女来たんでしょ?」
「あぁ……えっと、まぁ……はい」
「すっごい美人だったって皆言ってたわよ~やるわね~」
「あははは……そうですかね?」
ニコニコ楽しそうに俺に言ってくるパートのおばちゃん。
あんまり話しを広めないで欲しいのだが、遅かった様子だ。
その後も、入れ替わりでシフトに入ってくる人全員に、先輩の事を言われ、俺は毎回愛想笑いを浮かべる。
忙しくなるお昼時、ついに愛実ちゃんがやってきた。
「おはようございます」
「あ、あぁ……おはよう」
彼女はバイトに入るなり、何故か俺をジーッと見てくる。
何も言わずに見つめられ続けるので、なんだか気まずい。
「えっと……どうかしたの?」
思わず俺は彼女に尋ねる。
すると愛実ちゃんは、若干目を細めて口を開く。
「彼女さんだったんですね、この前来た人」
噂はもちろん愛実ちゃんの耳にも届いている様子だった。
なんだか機嫌が悪そうだ、一体どうしたんだろう?
付き合っている事を隠していたからだろうか?
しかし、なんでそんな事で愛実ちゃんが怒るんだ?
そんな事を考えていると、愛実ちゃんは口を開いた。
「先輩、騙されてたりしません?」
「へ? 急にどうしたの?」
「あの女にですよ!!」
騙されたりはしていないと思うが、先輩からは良いおもちゃぐらいに思われているのかもしれないと思うことが多々ある。
まぁでも、俺以外の人の前では猫を被っている訳だし、俺以外の人が騙されているという見方も出来るのかもしれない。
「えっと……なんでそう思うの?」
「なんか、猫被ってる感じがして……女の勘ですけど」
女の勘すげーな……。
「い、いや……でもあの人はそう言う人じゃない……よ?」
「じゃあ、なんで後半疑問系なんですか……」
そんな事を話している間に、店は混み出してしまった。
「ほら、仕事仕事!」
「う……また後で聞きますからね!」
そう言って愛実ちゃんはレジに向かって行った。
あれ? なんで俺、愛実ちゃんに怒られてるんだろ?
俺はそんな事を考えながら、いつものようにハンバーガーを作る。
*
「あぁ……疲れた~」
バイトが終わり、今は夕方の16時。
俺はスタッフルームのパイプ椅子に座って、机に突っ伏していた。
早く帰りたいのだが、愛実ちゃんに呼び止められてしまい、俺は帰れず、着替えを済ませて待っていた。
「はぁ……なんで愛実ちゃんが色々言ってくるんだ?」
まぁ、確かに先輩と付き合う前は何回も先輩の事で相談したりはしたが、何がそこまで気にくわないのだろう?
そんな事を考えていると、スタッフルームのドアが静かに開いた。
「すいません、待たせてしまって」
「あ……いや、大丈夫だよ。早く着替えてきなよ」
「はい、もう少し待っててください」
入って来たのは愛実ちゃんだった。
愛実ちゃんもお疲れのようで、表情が疲れていた。
愛実ちゃんはスタッフルームの奥にある、更衣室に入って行った。
もう少し待つ事になり、俺はスマホを取り出して、通知が来ていないかを確認する。
「先輩からのメッセージばっかりかよ……」
スマホを開いた途端、先輩からの山のようなメッセージの通知が、俺のスマホの画面を隠す。
メッセージの内容はほとんど「いつ帰ってくる?」「帰りにアイス買ってきて」みたいな物ばかりだった。
「はぁ……仕方ない……なにが、良いですか? っと……」
俺は先輩にアイスの種類を確認するメッセージを送る。
返事は数秒で返ってきた。
「いつも早いなぁ……」
俺はその返事に「了解」と返信を打つ。
すると、それと同時に愛実ちゃんが更衣室から出てきた。
「すいません、お待たせしました」
「あぁ、大丈夫大丈夫、それで……えっと……なんで怒ってるの?」
「怒ってません!」
「怒ってるじゃん……」
あまり怒るような子では無いと思っていたのだが、今日の愛実ちゃんは凄く恐い。
俺、何か愛実ちゃんにしたっけ?
先輩の事で何か愛実ちゃんが怒るようなことは……あ、先輩の態度か?!
いや、でも愛実ちゃんはそんな事で怒るような子じゃ……。
「先輩……」
「はい!」
考え事をしていると、愛実ちゃんは正面に座って俺に話しかけてくる。
「……彼女って……いつからですか?」
「えっと……一週間前かな?」
「………そうですか……」
あれ? 怒ったと思ったら、今度はなんでこんなに落ち込んでいるのだろう?
「えっと……愛実ちゃんどうしたの? 変だよ?」
「……先輩」
「何かな?」
「私の事どう思ってます?」
いきなりどうしたんだろうこの子は、もしかして学校で何かあったのだろうか?
俺はとりあえず、今愛実ちゃんに対してどう思っているかを素直に言う。
「えっと、可愛いし仕事も出来るし、俺は凄く良い子だと思ってるよ」
「そうじゃなくて!」
突然の愛実ちゃんの大声に、俺は思わず目を見開く。
何かまずい事を言っただろうか?
本当に何かあったのだろうか?
俺はどんどん、目の前の様子がおかしい後輩の事が心配になっていった。
「そうじゃないって……どういう?」
「……すいません、突然大きな声を出して……」
「あ、いや全然! それより、本当にどうしたの? 俺で良かったら相談に乗るよ?」
「………じゃあ、聞いてもらえますか?」
「うん、俺も前は悩みを聞いてもらってたし、どんどん話してよ」
「そうですか……なら……」
そう言って彼女は顔を上げ、ゆっくりと話し始めた。
「私……失恋したんです」
「え! そ、それは……なんて言うか……」
「良いんです、ぐずぐずして行動を起こさなかった私が悪いんですから……」
そうか、だから愛実ちゃんは、俺に彼女が出来た噂を良く思っていなかったのか。
確かに、自分が不幸な時にそんな惚気話は聞きたくないよな……。
「そっか……でも、相手の人ももったいないね、愛実ちゃんみたいな良い子を…」
「……そう思いますか?」
「うん、だって愛実ちゃん可愛いし」
愛実ちゃんはきっと、自分に自信が無いハズだ。
ここはなるべく愛実ちゃんの良いところを言ってあげるのが一番だ。
0
あなたにおすすめの小説
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。
雪の日に
藤谷 郁
恋愛
私には許嫁がいる。
親同士の約束で、生まれる前から決まっていた結婚相手。
大学卒業を控えた冬。
私は彼に会うため、雪の金沢へと旅立つ――
※作品の初出は2014年(平成26年)。鉄道・駅などの描写は当時のものです。
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
課長と私のほのぼの婚
藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。
舘林陽一35歳。
仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。
ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。
※他サイトにも投稿。
※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。
27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?
藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。
結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの?
もう、みんな、うるさい!
私は私。好きに生きさせてよね。
この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。
彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。
私の人生に彩りをくれる、その人。
その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。
⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。
⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。
皇帝は虐げられた身代わり妃の瞳に溺れる
えくれあ
恋愛
丞相の娘として生まれながら、蔡 重華は生まれ持った髪の色によりそれを認められず使用人のような扱いを受けて育った。
一方、母違いの妹である蔡 鈴麗は父親の愛情を一身に受け、何不自由なく育った。そんな鈴麗は、破格の待遇での皇帝への輿入れが決まる。
しかし、わがまま放題で育った鈴麗は輿入れ当日、後先を考えることなく逃げ出してしまった。困った父は、こんな時だけ重華を娘扱いし、鈴麗が見つかるまで身代わりを務めるように命じる。
皇帝である李 晧月は、後宮の妃嬪たちに全く興味を示さないことで有名だ。きっと重華にも興味は示さず、身代わりだと気づかれることなくやり過ごせると思っていたのだが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる