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7話 沈黙魔杖と足音

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ジメジメっとした地下階段を降りていく。
 うわー。やっぱり仮想現実とリアルだとここまで変わるのか。
 ぬるい湿気と換気されていない空気に混じるカビ臭さがなんとも気持ち悪い。

 そんな不衛生な環境を一人嘆いていると、階段が終わり地下通路と2つの地下室の扉が見えた。

 黄金に輝く扉からはいかにもRPGでよくある特別な宝が眠っていますよ感を感じる。

「ええと……こっちにあったはずだよな」

 脳内に残る全クリ後の記憶を頼りに目当ての部屋の扉を見つける。

 そして錆びついたドアノブをそろりと開ける。

 そこには大量の宝物や無数の書物などが無造作に積み上がり散らばっていた。

「ビンゴだ。散らばった部屋から目当ての物を探し出すなんて朝飯前すぎて夕飯だな」

 半ニート実家暮らしの28歳オタクの俺は、基本的にただリモコンを探すだけでも決死の大捜索をしなければならなかった。

「ええーーーと……どこだぁー……?」

 その時、積み上げられた宝の山の中に見覚えがある黒く四角い箱が視界に入る。

「――! あった! 絶対あれだ」

 俺は小さな体を目一杯伸ばし山の頂上にある目当ての箱を手にする。

「――ふふ、今だけは昔の油ギトギトの体が恋しくなったな……」

 俺が手に入れたのは、一見するとただの黒い長方形の箱。
 しかし、この中に俺が恋焦がれるアイテムが眠っている。
 俺は短くなった蝋燭をその辺に置き、俺は埃被った蓋をそろりと開ける。

 その中には当然何も入っていない。

 普通ならば目当てのお宝が眠るアイテムボックスをオープンして空箱だったならば、膝から崩れ落ちる事間違いなしだろう。

 しかし、ゲームクリア並びに全アイテム入手を達成した俺は一切動じる事はない。

 そのまま空箱の中に手を伸ばす。

《アイテム【沈黙魔杖】を手に入れますか?》

[YES]      [NO]

 当然前者。

《アイテム【沈黙魔杖】を手に入れました。装備しますか?》

「YES」      [NO]

《装備完了》

《隠蔽魔法 不可視擬 習得完了》

 おお……!
 見えないけど掴んでる感覚がある……!!

「――さすがは最強の隠蔽魔導が仕込まれた魔導武器……」

 正直なところ主人公は剣士だったし、クリア後は主人公とヴァニラ以外のパーティーメンバーは同行させてなかったから、この武器の詳細な性能は分からないが、オタク仲間のメンフィス太郎さん(木村さん)からこの魔導武器について熱弁された記憶があったのだ。

「ステータスビジョン オン」

《シュント(8) 魔導師 種族不明》

【レベル】      8

【HP】      30/30

【MP】      28/28

【攻撃】       393

【防御】       13

【装備】     武器 沈黙魔杖 

《習得魔法》    

 火散弾     消費MP4
 風突      消費MP5
 不可思議    消費MP2

 レベルアップまで15EX

 やっぱり全クリ後にしか獲得出来ない魔導武器は上昇する攻撃力の桁が違う。
 しかし、この武器の性能は攻撃力がメインでは無い。

「装備詳細スクリーンON」

《【沈黙魔杖】 性能特性》

 攻撃力 371
 防御力  0

【永久的に沈黙の呪いがかけられた姿無き魔導武器。この魔導武器を装備しながら放たれる魔法は姿無く発動される。魔導師のみ装備可能。装備した際に不可視擬を習得する】


「――きた……これだ!!」


 カツカツカツカツ

 その時、誰もいないはずの地下通路から革靴の足音が聞こえてきた。
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