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11話 最強への錯覚
しおりを挟む――訓練場の重い扉をこっそりと開け中を確認する。
幸い訓練中のエリクスはこちらに背を向けていたのであっさりと侵入できた。
「立て。もう一度火炎魔法を唱えてみろ」
そこには膝に手をつきながら息を切らすヴァニラの姿が。
「はぁはぁ。はい……」
小さな女の子は息を整え杖を構え直す。
「火散弾!」
気持ちのこもった魔法詠唱だったが、ボロボロになった杖の先から出てきたのは微量の火の粉のみ。
「貴様……何度言ったら分かる……!」
憤慨したエリクスはまたも娘の頬を叩く。
「ごめんなさい……」
「もう一度だ」
「――はい」
そして姿無き俺は、ヴァニラの背後に静かに回り込む。
ヴァニラは頬を抑える事もなく再度魔法詠唱の体勢になる。
「はぁ、はぁ……はぁ。」
背後の俺も右手に持った【沈黙魔杖】の先をヴァニラの杖先の位置を合わせる。
「――火散弾!!」
《火散弾を使用しますか? 消費MP2》
[YES]
《隠蔽魔法効果を付与しますか?》
[NO]
次の瞬間、ヴァニラの杖先から業火と化した火弾が次々と現れ、エリクス目掛けて勢い良く射出される。
「――え……?」
「――!! 水装斬撃!」
エリクスが繰り出した最高位クラスの水魔法は【スピリア】の剣身を包み火弾の一つ一つを正確に切り裂く。
そして切り裂かれた大量の火玉達は激しい水蒸気に姿を変え、訓練場中に噴き上がる。
「――なに……今の……?」
呆然と杖先を眺めることしかできないヴァニラ。
すると、水蒸気の中から驚きを含んだ低い声が聞こえてくる。
「お、お前……なぜいきなりここまでの火炎魔法を……!? もしや今まで手を抜いていたのか……!?」
「ち、ちがいます! ヴァニラにも分かりません!」
突然の出来事に混乱するヴァニラとエリクス。
さすが最強魔導アイテムの【沈黙魔杖】……!
レベル8俺でもあの威力の魔法が打てるなんて……!
やっぱり全クリ後に手に入る超レアアイテムの名は伊達じゃない。
「まあいい……もう一度打ってみろ」
その後も俺は、ヴァニラの魔法詠唱に合わせて何度も火散弾を打ち込み続ける。
その度に轟音を鳴らし噴き上がる水蒸気の熱が俺たちを襲い、身体中から汗が滲み出る。
しかし俺もだんだん隠蔽魔法のコツを掴んできたぞ。
【沈黙魔杖】から繰り出された魔法は姿無く発動する事も出来るが、今のように可視化した状態で発動する事も出来るらしい。
「はぁ……はぁ……」
水蒸気に包まれた訓練所に静けさが戻る。
「MPが切れたか。もういい今日の訓練はここまでだ、部屋に戻っていいぞ」
「――はい」
MPを使い切ったヴァニラが汗を拭いながら訓練場を後にしようとしたその時。
「――ヴァニラ……今日はよくやった。ノーデンターク家としてこのまま精進しろ」
おそらく初めて言われたであろう賞賛の言葉に一瞬キョトンとしながらも、ヴァニラは込み上げてくる嬉しさを満面の笑顔に変えて答えた。
「はい……! ヴァニラがんばります……!」
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