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12話 プレゼントとレベル上げ
しおりを挟む「――できた……。でもよろこんでくれるかヴァニラちょっぴり不安……」
ごちゃごちゃになった二人だけのしか居ないキッチンでヴァニラは不安と期待を織り交ぜる。
「必ず喜んでくれますよ! 僕がもらう側だったら泣いて喜びます!」
いや、バレンタインは母と姉以外からもらったことの無い悲しき童貞人生を送った俺がこんな事言っても少しも参考にはならないかもしれない。
それを聞いたヴァニラはワクワクした様子で出来上がったそれを袋に包む。
しかし、この時俺の心は激しく動揺していた。
――「シュント君。ヴァニラちゃんに今日のパーティーで旦那様に何か渡すか聞いといてくれないかしら……?」――
――「もし渡すならデビスとファナが渡すタイミングで一緒に渡したいの。私はあの子に嫌われてるし唯一心を開いているアナタから伝えて欲しいの……」――
おかしいんだ。
あの女はヴァニラを恨むどころか自分の子供を後継者に選ばせようと領民を扇動した悪女のはず。
でも……あの悲しそうな表情はまさに母親のそれだった。
その日の夕食はいつもと違う緊張感が食卓を包んでいた。
俺、マリナさん、ミルボナさんの使用人に加えてノーデンターク家全員が食卓を囲む異常事態。
派手に装飾されたはずの大きな長机にはさらに豪華な施しがなされており、食事もいつも食べている料理の何倍も美味しそうに盛り付けられている。
小さいながらも緑のドレスを着てお気に入りの髪飾りを可愛く付けてもらったヴァニラは緊張しているのかどこか落ち着かない様子。
俺のような中流一般家庭で育った人間ならば親と一緒に食卓を囲むなど当たり前のことだが、やはりこの家ではそうではないようだ。
「エリクス様。この度は41歳のお誕生日誠におめでとうございます」
メガネをかけた嫌味男が先陣を切り、皆も呼応するように頭を下げる
「ああ。これからもノーデンタークの為に忠義を尽くし、この土地を民を守ってくれ」
ワインを舐めながらエリクスは一応の感謝を伝える。
「ええ……。あ、そうだアナタ。これは私からのプレゼントよ」
パーマがかった赤髪、端正な小さな顔とモデルのような体型の女性は隣に座るエリクスに金のネックレスを手渡す。
「この子達もアナタにプレゼントがあるみたい」
膝に乗った双子は無邪気に笑いながらエリクスの似顔絵を手渡す。
「ああ。もらっておく……」
「ふふ……アナタ。子供からプレゼントを貰っておいてそんな反応されたらこの子たちがかわいそうですよ?」
エマは少しからったように笑う。
「……ヴァニラちゃん。ヴァニラちゃんもお父さんに渡す物あるんだったよね……?」
さっきとは違う何とか取り繕った笑顔で話しかけるエマにヴァニラはコクリと頭を縦に振る。
「さぁ、ヴァニラ様。きっと喜んでいただけますよ」
ヴァニラは緊張気味でエリクスに近づき、プレゼントを差し出す。
「お、お父様。クッキーを焼きました……! どうか受け取ってください……」
エリクスは表情一つ変えずに包装の袋を開けると一口だけ齧り、そのまま無言で咀嚼する。
「……うむ。食えんことはない」
正直娘からもらったクッキーを食べてそのリアクションは薄すぎるが、こいつにとってはこれが精一杯の感情表現なのかもしれない。
席に戻ったヴァニラはそれは嬉しそうに俺を見つめる。
「よかったですね。旦那様も内心は大変喜ばれていることでしょう」
「うん!」
しかし、この幸せな空間に水を刺す男が一人。
「――お誕生日お祝い中大変心苦しいのですが、先日から続くエリーモア森林での魔獣騒動についてお話しさせていただいてもよろしいでしょうか?」
メガネをクイっと上げる仕草がなんとも憎たらしい。
「よかろう」
「はい。昨日よりエリーモア地方で農作物を荒らすイノディクトが出現すると領民から報告がありまして、彼らは早急の対応を求めています」
イノディクト。
一体だけならば初心者の冒険者でも倒せる猪のような低級モンスター。
RPGである『スレイブ・フロンティア』ではある地域に留まりひたすら経験値効率の良いモンスターを倒し続けるレベル稼ぎが重要となる。
レベルが上がると各種ステータス向上や魔法・技の習得が可能になるからだ。
そしてこのイノディクトはゲーマー界隈でも経験値効率が非常に高いと有名なモンスターだった。
「そうか……ならばヴァニラを討伐に向かわせろ」
「――!? アナタ! あの子は……その……」
思わず口籠るエマ。
「お前に口を出す権利はない。マリナ、一応お前も剣技武装しそこのガキと一緒に同行しろ」
ガキとして指さされる俺。
「かしこまりました」
「かしこまりました」
よしよしよし。
これはいい流れだ……!
雑魚モンスターだがここでやっとレベル上げ&ヴァニラの力も皆に知らしめる事が出来る……!
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