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33話 共謀する天才

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「――ファ、ファナか!? よくやった!!」

「――粉塵の霧!!」

 ファナが唱えた隠魔法と俺の放った『風突』の衝撃波によって舞い上がった土煙で訓練場内の全ての人間から視界を奪った。

 はずだった。

「なんだ!? 雑魚執事の仕業か!?」
「これは隠遁魔法……!? 突風魔法だけでなくこのレベルの魔法まで使用できるというの……!?」

 突然視界が無くなった性悪親子は状況の整理が追いついていない。

 しかしそれは俺も同じだった。

 くそ……! 
 今の障壁魔法は後衛魔法が得意なファナの仕業だろう……!

 デビスの双剣は打ち砕いたとはいえ、残りMPが10も無いこの状況でHP、MPともに満タンのファナとエマを同時に相手をするのは正直厳しい。

 どうする。
 ここまでしたんだ、このままアイツらが簡単に俺を見逃すはずもないし、なによりまたヴァニラを危険に晒してしまう。

 突然のファナ参戦に頭をフル回転させていたその時。

「――シュント君これはファナの隠遁魔法なので安心してください。この隙にお姉様を担いで逃げますよ」

 砂塵の中から小さな幼声が聞こえた。

「――! お前はファナ……? なんでお前が俺の味方に……?」

「話はあとで。お姉さまはどこにいらっしゃいますか?」

 正直このトンデモ状況に頭は完全に置き去りにされているがヴァニラと俺を逃すってんなら乗るしかない。

 しかし砂塵でゼロ視界となり方向感覚も無い今。
 MPは勿体無いがこれしかない方法がない。

「方位磁針」

《方位磁針を使用しますか?  消費MP3》

 YES

《測定成功  西南西に特定の反応あり》

「シュント君『方位磁針』使えるのですね。それでは測定結果をファナに教えてください。ファナは自発魔法である粉塵の霧の効果を受けません」

「ああ。西南西に反応がある。案内を頼めるか?」

 『方位磁針』の測定結果をファナに告げ、手を引いてもらいながら砂塵の中に居るはずのヴァニラを探す。

「――いた……! シュント君早く担いでください。あと30秒でお母様とデビスの視界が戻ってしまいます」

「この真上に外窓があります。ファナがそれを開けるのでシュント君はお姉さまと一緒に間髪入れずに飛び出てください……!」

 ファナと俺は殺した声で作戦を確認する。

「分かった」

 俺が足元に横たわるヴァニラの小さな体をお姫様抱っこすると、外窓が開く。

「よし!」

 推しヒロインをお姫様抱っこしながら窓の外にダイブし草むらに不時着。
 こんなものアクション映画の主人公でもそうそう出来る体験じゃない。

「ふぅ。なんとか助かった……」

 安堵のため息を一つ吐いたのも束の間、元々高いはずの幼声より更に1オクターブ高くしたファナの叫び声が聞こえた。

「きゃーー! お母様デビスー! 雑魚執事に連れ去られるー! たすけてー!」

 人生経験が乏しいからか俺と同じく先天性のものなのか、ファナの演技はそれはそれは酷いものだった。

「走りますよシュント君!」

 コンマ数秒後窓から飛び出したファナは即窓を閉めると、学生時代『3罰』と罵られてきた運動音痴の俺にダッシュを強要する。

「――はぁはぁはぁ。葡萄畑に逃げ込みましょう! 陽が沈んだ畑には誰も近寄らりません!」

 ヴァニラよりも一回りも小さい5歳児は的確な指示を出しながら全力疾走していく。

「――ふふ」

 月明かりに照らされながら揺れる白銀のロングヘアーはお姉ちゃんそっくりであり、ふとヴァニラが5歳の頃はこんな感じだったのかなと笑みが溢れる。

「はぁ。この状況でまだ笑える余裕があるとはさすがデビスを一蹴しただけはありますね……。まぁそれだけの人じゃないとお姉様を救えないのですが」

 溜息混じりの呆れ声もヴァニラそっくりだ。
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