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39話 形勢逆転

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「――! デビス……でも先ほどよりも様子がおかしいような……」

 項垂れたように大広間の入り口に立つデビスからは一切正気を感じない。
 ただ両手に持った双剣の重みを支えるだけの傀儡にさえ見える。

「やはり怨刀対子か……」

「――怨刀対子……? 何ですかそれは……?」

 博識なファナでも知らない双剣。
 しかし知らないのも無理もない。
 この双剣はエリクスの書斎にて厳重に保管されている曰く付きの宝刀だからだ。 

「デビスの様子もそうですが、双剣から放たれている禍々しいオーラは一体……?」

 ランプに火が灯されていない暗い大広間では、神域を描いた荘厳なステンドグラスをすり抜けた月明かりのみが唯一の光源。
 そしてその月明かりに照らされた双剣はまるで邪悪で澱んだオーラを自ら蒸発しているようにも見えた。

「デビス! 正気を戻して! お姉様がファナ達に何をしたって言うの!?」

 ファナの叫びは自我を失ったデビスに届くはずもなく虚しく大広間を反射する。

「――龍炎虎徹……」

【怨刀対子】は空中に黒く邪悪な剣跡を残しながら猛々しく燃え盛る龍虎を勢いよく放つ。

「――! ファナ俺の後ろに隠れろ! あと――」

「分かってます! 『サラビアの盾』!!」

 俺の眼前に現れた障壁魔法と燃え盛る龍虎が激しくぶつかる。

「――な! なにこの力……いつもと全……然」

 しかし獰猛な龍虎はファナが放った『サラビアの盾』はいとも簡単に喰い千切り、俺たちに襲い掛かる。

「ぐぁぁぁ!!」
「――シュント君!」

 なんとか後ろに隠れたファナへの突撃は阻止したものの、HPの半分以上が持って行かれた。

「な、なんでいきなりデビスにあんな力が……!? ファナの強化魔法もなしに『サラビアの盾』を破壊するなんて……」

「――くっ……。あれは禁断刀剣だ」

「禁断刀剣……ですか?」

「ああ、禁断刀剣とは圧倒的力を発揮する一方で術者に甚大な被害を被る武器だ。文字通り使用を禁止されている。そしてデビスが持つ【怨刀対子《えんとうといつ》】は術者の身体を内部から蝕む代わりに攻撃力を極限まで高める……」

「それって……。じゃあデビスはこのままだと」

「――確実に死ぬ。それも龍炎虎徹のような大技を使い続ければ5分と持たない」

 くそっ!!
 完全に俺の油断だ……。
 あれの存在を知りながらデビスの双剣を破壊したのは失敗だった。

 エリクス不在と強力な呪縁魔法にかかったこの状況ならば禁断武器に手を出してもなんらおかしくない。

「――くっ……!」

 咄嗟に【沈黙魔杖】を庇ったせいで火傷のダメージを逃せなかったな……。

「シュント君! い、いま完全治癒で……!」

「完全――」

 ファナが回復魔法を唱える瞬間だった。

「――させないわよ。ファナ」

 雷電の鞭がファナの小さな体に巻きつき電撃をくらわせる。

「――きゃゃあぁぁ!!」
「ファナ!!」

 吹き抜けになった大広間の2階部分。
 そこ伸びる鞭の先に立つ女のシルエットが優しい月明かりに照らされる。

「――シュント君。早くヴァニラを差し出しなさい。これはお願いじゃなく……命令よ」
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