38 / 63
38話 怨刀対子
しおりを挟む「貴様……デビスに続きファナにまで手を出すとは……必ずあの娘と同じく絶望を見せてやる」
呪縁魔法にかけられているとはいえ、赤髪を振り乱すように鞭打つエマの姿に俺は狂気すら覚えた。
「――ファナ大丈夫? 今お母さんがこのクズ執事から解放してあげるからね」
うって変わって自分の娘には優しい口調で話すのが尚更怖い。
「――ええ。お母様早くこの出来損ない執事を懲らしめていただきませんと……。ノーデンタークの名にかけて」
えええ。
演技だとはいえんなんかショックだな……。
「――シュント君。私をお母様の方向に突き飛ばしていただけませんか?」
ファナはエマに聞こえない音量でぼそっと呟く。
「――! いいのか? 俺は出来損ないの役立たずなのに」
自分でも憎たらしい口調でファナをからかう。
「拗ねてるんですか……? 5歳児相手に拗ねるなんて男らしくも大人げもないですね」
実は28歳なんて口が裂けても言えない俺はファナの作戦に素直に従う。
「エマ! こいつが返して欲しけりゃくれてやる! デビスと同じく全くの役立たずだったんでな!」
ファナの首根っこを掴んでエマに向かって放り投げる瞬間、膨れたファナと目が合った。
「――シュント君酷いです」
「お互い様だ」
放り投げられたファナは書斎に綺麗な放物線を描きながらエマの胸元に着地する。
「き、貴様! 高貴であるノーデンタークの人間を投げるとはなんと無礼な……!」
キッと睨む目にはあのパーティーの時の優しさは微塵も無く、ただただ憎むべきヴァニラの側近である俺を蔑視していた。
エマは電流を帯びた鞭を構えて攻撃体勢に入る。
まずい。
さっきの攻撃で腕が痺れて【沈黙魔杖】の照準がうまく定まらない……。
その瞬間エマの後ろに立つファナと再度目線が合致した。
「――シュント君! 窓から飛び降りて大広間に逃げてください!」
「氷層結止!!」
詠唱と共にエマの足元1メートル四方は瞬時に凍てつく氷で固められる。
「――な!! ファナあなた何を!?」
突然愛する娘からの制限魔法をかけられたエマは動揺を隠せない。
「ごめんなさいお母様。全てにけりがついたら何度でも謝罪いたします。ですがファナは……いえ、ファナ達はお姉様を愛しています……!」
「あ、あなたなんで!」
「シュント君早く!」
俺は指示通り2階の窓を突き破って地上に着地。
《高濃度MPポーションを使用しますか?》
YES
やっとMPを回復できた俺は、痺れた右腕を押さえながらファナに言われた通り大広間に向かって走り出す。
「――ファナ!」
「シュント君。ファナの『氷層結止』ではお母様を足止めできる時間はせいぜい1分です。そのうちに傷の手当てを」
いつも食事をしている巨大な長机がある大広間。
その机を囲むように大理石で出来た骨董品置きがあり、様々な美術品が並ぶ。
「障害物が多数あるここならばお母様の【雷電鞭】によるロングリーチ攻撃に多少制限がかけることが出来ます」
「ああ。たしかにそうだな」
さすがはファナ。
『スレイブ・フロンティア』において重要なのはいかに相手の土俵では無く自分達に有利な環境で戦闘が行えるかが重要になってくる。
エマの書斎のように障害物がなく逃げ道が少ない場所での戦闘では攻撃力が勝る俺でも苦戦を強いられるのだ。
「異常解除」
ファナの状態回復魔法で腕の痺れは完全に消え去った。
「よし。サンキュー」
「どうです? 全くの役立たずに治療される気分は」
ニヤリと笑うファナ。
「はいはい。すげーよお前は」
「あ、また……!」
しかし、この時俺は階段をツカツカと降りてくる小さな足音に集中していた。
一歩また一歩と足音が大きくなっていき、俺達が隠れる大広間でピタッと歩を止める。
足音の主は明かりのない暗闇でも邪悪なオーラを放つ双剣を両手に持ちながら項垂れるように立っていた。
「あ、あれは……怨刀対子……!」
0
あなたにおすすめの小説
社会の底辺に落ちたオレが、国王に転生した異世界で、経済の知識を活かして富国強兵する、冒険コメディ
のらねこま(駒田 朗)
ファンタジー
リーマンショックで会社が倒産し、コンビニのバイトでなんとか今まで生きながらえてきた俺。いつものように眠りについた俺が目覚めた場所は異世界だった。俺は中世時代の若き国王アルフレッドとして目が覚めたのだ。ここは斜陽国家のアルカナ王国。産業は衰退し、国家財政は火の車。国外では敵対国家による侵略の危機にさらされ、国内では政権転覆を企む貴族から命を狙われる。
目覚めてすぐに俺の目の前に現れたのは、金髪美少女の妹姫キャサリン。天使のような姿に反して、実はとんでもなく騒がしいS属性の妹だった。やがて脳筋女戦士のレイラ、エルフ、すけべなドワーフも登場。そんな連中とバカ騒ぎしつつも、俺は魔法を習得し、内政を立て直し、徐々に無双国家への道を突き進むのだった。
捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ
月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。
こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。
そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。
太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。
テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした
藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると
土地を蝕む邪気となって現れる。
それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。
派手な奇跡は起こらない。
けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。
――その役目を、誰一人として理解しないまま。
奇跡が少なくなった。
役に立たない聖女はいらない。
そう言われ、私は静かに国を追放された。
もう、祈る理由はない。
邪気を生み出す原因に目を向けず、
後始末だけを押し付ける国を守る理由も。
聖女がいなくなった国で、
少しずつ異変が起こり始める。
けれど彼らは、最後まで気づかなかった。
私がなぜ祈らなくなったのかを。
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる