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53話 もう一人のヒロイン
しおりを挟む「あははー。多分君が思っている事がそのまま正解だよ! パッパの血統譲りのシルバーヘアは僕も気に入っているよー」
「――! あ、そうか君にはヴァニラリアとお揃いって言った方が分かりやすいねー。ヴァニラリアの執事見習いのシュントきゅん」
「なんで。俺の名前を……」
目の前の美少女はおっとり笑う。
「さぁーーねぇーー。君たちがせっかくのもてなした温泉を逃げ出したりするから興味持っちゃった? なーんてねー」
どこまでも飄々としたこの態度。
オタク歴21年の俺の勘とアニメ知識が告げている。
コイツは確実に強者ポジションだ……!
元々ヴァニラの存在で勘違いしていたが、ゲームやアニメで白系統の髪色キャラが強いってのは、◯ヴァの時代から決まっている。
しかし、そんなデタラメな世界に迷い込んだ以上そうとも言っていられない……。
俺は右手の杖を彼女目がけて構える。
「――へぇ。いい杖だね。それ」
感心したように頷く女。
隠蔽を解除した状態で敵と戦うのは初めてだが、色々と知っていそうなコイツをここで逃すわけにもいかない。
「覚悟しろよ。狐女」
「おいで……」
女は弓矢を軽く構える。
人二人がやっとすれ違うことができるほど狭い幅の地下道。
左右の動きで弓矢を避ける事は不可能か……。
それなら……!
《火散弾を使用しますか?》
YES
《隠蔽魔法は付与しますか?》
NO
高火力かつ広範囲魔法で一気にケリをつける……!!
しかし、構えた杖先からはいつもの爆炎がいつまでたっても姿を現さない。
「ええっとぉー。あんなに見え切ったのに大丈夫―?」
《発動エラー MPが足りません》
こんな時にMP切れ……!?
どうする!
コイツは見るからに中遠距離攻撃が得意な弓装者だ。
はっきりとは見えなかったがさっきの技をやられたら俺に避ける術はない……。
かと言って反対に攻撃しようと通常攻撃を試みてもそれこそ格好の餌食だ。
「あちゃーどうしようかねぇー。パッパからはシュントきゅんにはまだ手を出すなって言われてるしなぁー。でもなー、殺てみたいなー……」
女はブツブツと何か言いながら薄オレンジに輝く弓身を構える。
「ま、いっか。謝ればー」
「――神楓弓技 『矢風糸』」
構えられた矢は弓身とは反対に青緑色に輝く。
「――死なないでね……シュントきゅん」
「伏せて! チビ!!」
矢が放たれるコンマ数秒前。
背後から聞こえる聞き覚えのある攻撃的な声色。
俺の体は咄嗟に指示通り体を地面に叩きつける。
「――水鷹!!」
甲高い鳴き声を響かせながら鷹を模した水鳥が俺の頭上スレスレを飛行し、狐目女が放った矢と激突した。
弾け飛ぶ水が赤く染まった俺の顔面を綺麗に洗い流してくれた。
「――あの技って……」
「そこのチビ……無事?」
聞き覚えのあるクールな声色とこの薔薇の如く刺々しい言葉選び。
間違いない。
恐る恐る背後に視線を持っていく。
「――なんでここに居る……アスナカーレ・グランフィリア……!」
「――? なんで私を……?」
『スレイブ・フロンティア』が現実世界であそこまで大人気になった理由。
それはストーリー進行上選択可能な美しき二大ヒロイン制にあった。
その議論は国内外でも激しく議論されるほどであり、オタク界におけるミレニアム懸賞問題と呼ぶものも居たほど。
純粋無垢で誰にでも太陽のように明るく実直に接する弱者の姫であり、無才能でありながら自分の運命に必死に争う姿を応援したくなる『ヴァニラリア・サラ・ノーデンターク』をこよなく愛する『ヴァニラ派』。
そしてもう一つ対となるヒロイン。
それが今、俺の背中に立つクールな毒舌優等生ヒロインをこよなく愛する『アスナカーレ派』だ。
魔導の才に恵まれた冷静沈着な天才美少女。
真面目で何事にも手を抜かない彼女は主人公が産まれた街では有名な魔導師であったが、とにかく性格がツンツンツンツンデレ。
素直に喜ばない。
いや、恥ずかしくて喜べない。
素直に人を誉めることが出来ない。
いや、一生懸命誉めているつもりだがいつも言葉の棘を抜き忘れてしまう。
そんな彼女が見せる一筋のデレに心を鷲掴みにされたモンスターオタクと何度物販で揉めただろうか。
しかし、そんな事を言う俺も対になるヒロインがヴァニラじゃなかったら、もしかしたらその一派の片翼を担い、モンスターオタクと揶揄した奴らと酒を酌み交わしていたかもしれない。
「何? そんなに見られると吐き気がするんだけど」
クラスの一軍女子の冷たい口調を思い出し、先ほどまでの威勢を完全に失った俺は子犬のようにしょんぼりする。
「第一」
「?」
「魔導師ならMP残量をチェックしながら戦うのが基本鉄則。何? 馬鹿なの?」
仮にも初対面の人間にここまで高圧的に行ける精神が分からん。
俺は何回も告ってきた大人のお前をフってきたんだぞ! と言ってやりたい。
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