若い聖女が現れたから私はお役御免！？それならこっちから婚約破棄します！ ～今更私の力に気づいて戻ってきてと言ってももう遅いです～

アルマと黒い服の人

家を出て、町に出る。
キョロキョロと辺りを見回してみるけれど、ムルのは姿は見えず
気配も感じられない。
「やっぱり……森の方かしら……」
そう呟いて、私はさっきの森の方へと向かった。
「ムル……！？」
大きな声でムルの名前を呼ぶ。
けれど、森の中に響くだけで、何も返ってくることはなかった。
やっぱり、この森にはいないのだろうか……
「何処なのムル……」
不安で押し潰されそうになる。
もしかしたら、もう二度と会えないのでは……
「ううん、きっと大丈夫……きっと……」
自分に言い聞かせるようにそう言った。
きっと、大丈夫……きっと……
もしかしたら、違う所にいるのかもしれない。
「他の所を探してみよう……」
そう、呟いて私は森を後にした。
森を歩いている途中、遠くから微かに物音が聞こえて立ち止まった。
音を立てないように、静かに耳を澄ます。
すると、微かに話し声のような物が聞こえる。
その、話している内容を聞き取ろうと集中する。
すると、聞き覚えのある声が耳に入ってきて、思わずハッとする。
「アルマ様の声……？」
なんで、アルマ様がこんな所に……？ 疑問を抱きつつも、そのまま会話を聞いていることしかできなかった。
どうやら、アルマ様は一人ではないみたいだ。
それに、もう一人の男性の声は聞いたことがない。
誰だろう……？ その事がとても気になるけれど、今はまだ動くことができない。
もう少し、話を聞かないと……
それから、二人の会話を盗み聞くように聞いていた。
『……ルカの事はどうなったんだ？』
『安心してください、罠は仕掛けました。そして……この子もね』
『む～～！！離して！！』
その声が聞こえた時私は
全身の血が引いていくような感覚を覚えた。
嘘だ……どうして、あの子がここに居るの？ 
どうにかして、助けないと……
けれど、今飛び出してもきっと捕まるだけだ……
せめて、犯人の顔だけでも……と木の影に隠れて様子を伺った。
そして、そーっと相手の顔を見た時私は息を飲んだ。
「黒い服…………」
やっぱり、アルマ様はあの人と繋がっていたんだ。
でも、そうなるとあそこで何をしていたんだろう……
『この子？何もいないじゃないか』
『貴方には見えないんですね、まぁ……いいでしょう』
二人はそんな会話をしながら、この場から去って行った。
私も、すぐにその場を離れ、急いで家に帰った。
自分の部屋に戻り、ベッドの上に倒れ込む。
あの子は、あの二人に捕まった……
きっと、あの子を使って何かをするつもりなんだろうけれど
でも、一体何を……
考えていると、だんだん頭が痛くなってきた。
きっと、疲れているからだ。
少し休めば治るはず……そう思って目を閉じた。
しばらく、眠っていたのかもしれない。
目が覚めた時には、窓の外は暗くなっていた。
まだ、頭痛が残っている。
きっと、考えすぎていたせいですね……
そう思いながら、起き上がってキッチンへと向かう。
何か、温かいものでも飲もう……そうすれば、落ち着くはずだ。
そう思い、お湯を沸かしてお茶の準備をする。
待っている間、椅子に座ってボーっとしていた。
どうすれば、ムルを救えるだろう……あの黒服の人はどうすれば……
考えれば考えるほど分からなくなる。
「どうしたらいいの……」
そう呟いて俯いていると、不意に声をかけられた。
突然だったから、驚いて肩がビクッとなる。
ゆっくり振り返ってみると、メイドさんが立っていた。
「どうかしましたか？」
「お嬢様にお客様が……」
「お客様？一体どなたが……」
「ルーク様です」
「ルーク様が……！？分かりました、すぐ向かうと伝えてください」
「承知しました」
そう言って、メイドさんはすぐに出ていった。
こんな夜に珍しい……何かあった
のでしょうか？ 不思議に思ったけれど、今はとりあえず会うしかない。
私は急いでガスの火を止め、ルークの元に向かった。