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第1章 眠れるあいつの隠し事(基本壱輝目線)
37. In a dream
しおりを挟む彩兎の息を呑むほど綺麗な指が、するりと俺の下半身へ伸びた、と同時に思考回路が回復する。
咄嗟に彩兎を突き飛ばした。
壁に頭がぶつかる鈍い音が聞こえる。
彩兎はぶつけた頭を押さえたり、痛がる素振りを見せることもなく、ただ驚いたように目を見開いていた。
しかしそれも一瞬の事で、すぐにいつもの笑顔に戻る。
「も~壱輝ったら~。す~ぐ本気にしちゃうんだから~」
すくっと立って、何事も無かったかのように言う。
それを俺は、何も言えずに見つめていた。
「あ、シャワー入ってくるね」
バスタオルを持って、シャワー室に向かう彩兎に咄嗟に言った「ごめん」は、自分でも情けなくなるぐらいにちいさかつ。
「俺も、ごめんね…」
微かに聞こえた彩兎の声は、少しだけ震えていた。
一人になった部屋で、俺は放心したようにただ宙を見つめながら考えていた。
そもそも、事の始まりは利人がくれたチョコを、彩兎が食べたことから始まって…。
あー、もう。何なんだよ、めんどくせぇ。
ベットに倒れ込むように寝っ転がる。
今日は、もうこのまま寝てしまおう。
(今彩兎が帰って来たら、きっと普通に喋れねぇしな)
瞼を下ろすと、どっと疲れが押し寄せてきた。
そのまま眠りに落ちた俺は、珍しく夢を見た。
「ここは…どこだ?」
高くて幼い声。
自分の手も足もやけに小さくて、ここが夢の中だと気づいた。
きょろきょろと辺りを見回すと、自分は今公園にいるようだった。
春なのか、花壇には沢山の花が咲き、その周りには桜も咲いていた。
探索しようと少し歩くと、ブランコの所に1人で座って俯いている、同い年くらいのフードを被った子供がいた。
「ねぇ、君一人なの?」
呼びかけると、跳ねるように驚いたその子が、逃げるように走り出した。
「あっ、ちょっと待って」
慌てて追いかけると、その子は益々スピードを上げて走った。
「くっそ…俺の足の速さなめんなよ…」
こっちも全力で走ると、その子は焦ったように振り向いて言った。
「こっちこないでよ!ぼくはなにもっ…」
後ろを向きながら走ってるその子の目の前に、電柱が迫る。
やべぇ、このままじゃ…。
「お、おいっ前見ろ!ぶつかるぞっ」
「っえ?」
その子が前を見た瞬間、電柱にぶち当たる。
慌てて駆け寄ると、その子は頭を抱えて蹲っていた。
「大丈夫か!?」
「うぅ…いたい……」
頭をさすってやると、その子はまた跳ねるように驚いて、少し距離をとるように後ずさった。
顔を覗き込もうとすると、しゃがんでしまった。
「み、みないでっ」
「…?なんで?」
「きもちわるいからっ、ばけものだからっ」
自分が嫌いなのか?
それにしては酷い怯えようだ。
「あ、後ろっ!」
「え?」
後ろを向いた隙に、フードを取ると綺麗な紫色の髪が風に舞った。
「やっ、みないでっ」「きれー…」
その子の叫び声と、俺の呟きがかぶる。
「…え?いま、なんていった…?」
「だから、綺麗って…」
すると、その子は驚いたように俺をみた。
初めて見たその子の目は、綺麗な赤色だった。
「ぼくがこわくないの?」
「全然怖くねぇよ、何でだ?」
「ぼく、へんだっていわれるんだ。めとか…かみとか」
「そんなことねぇよ。綺麗だ」
「ほんとのほんと?」
「本当だ」
すると、その子は泣き出してしまった。
「えっ、泣いてっ?!…お、おい」
「…ヒック。だって…そ、なことっ…いままで、だれもっ…ヒック」
その子の頭をあやすように撫でながら、俺は必死に泣き止ませようと話しかけた。
「泣くなよ…。お前は化け物でもないし、気持ち悪くもねぇから」
ところがその子は泣き止むどころか、益々泣き出してしまったのだった。
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