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6章 吟遊詩人を追跡せよ
プロローグ
しおりを挟むリーパ護衛団の団長の証、それは王から賜った両手剣だ。
バルナバーシュも団長を引き継ぐ際に、先代からこの剣を受け継いだ。
本部にある医務室へバルナバーシュは灰色の髪をもつ幼い少年を連れて来ていた。
ベテランの癒し手であるイグナーツから、ある診察を受けるためだ。
「イグナーツ、診てやってくれ」
「ええ。——久しぶりだね。最初あった時よりもずいぶん顔色も良くなって元気そうだ。君のことはボリスからよく聞いてるよ。外で遊びまわって生傷がたえないって」
人の好い笑みを浮かべ少年に話しかける。
可憐な少女のような外見とは違い、中味は元気いっぱいの男の子だ。
「僕はバルみたいに強くなりたいんだ」
目をキラキラとさせて少年は養父を見つめた。
その瞳はまっすぐで、希望に満ちていた。
「私邸に下宿してる連中も、あんまりわんぱくなもんだからコイツの相手に手を焼いてるみたいだ」
少年の肩を抱いて、バルナバーシュは語る。
いつもの鬼のように厳しい団長の顔は消え、すっかり父親の顔になっていた。
「子供は元気がいちばんですな」
イグナーツはニコニコと笑い少年の頭を撫でた。
「上の服を脱いでそこに座ってごらん」
「はい」
少年は素直に頷きシャツのボタンに手をかけた。
「じゃあはじめるよ」
背中に手をあて初老の癒し手は目を瞑ってなにかを読み取っていた。
緑色を纏った不思議な瞳が開くと、男はそっと少年の背中から手を離す。
「はい、もう終わったから服を着てもいいよ」
イグナーツは優しく微笑み、灰色の髪をした少年の頭を撫でる。
少年が医務室から出て行った後に、バルナバーシュは初老の癒し手から詳しい結果をきいた。
「背は平均よりも少し高くはなりますが、しかし成人しても身体つきは華奢なままでしょう。言ってしまえば、あの雰囲気のままの美青年になるかと」
「——そうか……」
バルナバーシュは心なしか項垂れる。
「これは私の個人的な意見ですが、彼は貴方のように両手剣の使い手になるよりも、俊敏さを活かした方がいいと思います」
何度も稽古で両手剣を持たせてはみたが、養い子にはしっくりこないのだ。
両手を使って剣を振るといった動きが、どうもぎこちない。
自分が同じ年のころにはもっと上手く扱えた。
けして才能がないわけではない。
俊敏で素早い動きと、人の気配を読む能力は自分以上だ。
試しに片手剣を持たせてみたら、左手で上手くバランスをとり、両手剣を持っている時より下半身の据わりがよい。
(——あいつの得物は間違いなく片手剣だ……)
リーパの団長は、先代が戦の報奨として国王から賜った両手剣と、土地建物の相続があるので、息子であるバルナバーシュが引き継いだ。
相続の問題を抜きにしても、当時、団の中でバルナバーシュに敵う団員などいなかった。
団長になる以前には、数年間東国の大戦に一傭兵として参加し、敵の総大将の首を獲り、戦で特別大きな戦果をおさめた者だけに贈られるコウペル勲章を授与されている。
次の代を考えた時、この土地と屋敷を相続する権利があるのは、今のところはレネ一人だ。
では団長の証である両手剣は?
バルナバーシュとて、実際に戦う時に王から賜った剣を使用するわけではない。あれはただの象徴だ。
なので、実際に使用する得物がなんであれ、細かく思い悩む必要はないのかもしれない。
(——だが……俺は親父から、直接剣の手ほどきを受けた……)
心の中に迷いが生じていた。
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