194 / 663
11章 金鉱山で行方不明者を捜索せよ
15 クラーラーの再訪
しおりを挟む
◇◇◇◇◇
リーパ護衛団本部の執務室にクラーラが駆け込んできたのは、バルナバーシュが午後の眠気と戦いながら、書類に目を通していた時だった。
「クラーラさん、お急ぎのようですがいかがなさいました?」
応接室に行く間もなく執務室にやって来たクラーラを、ルカーシュは扉を開けて室内へと招き入れる。
「こんな手紙が出てきたので、急いでお知らせしないと、と思いまして」
「中身を拝見しても?」
机の上に広げられた何通もの手紙の一通を手に取りクラーラに尋ねる。
「ええもちろん。そのために持ってまいりましたの」
同意を得て、バルナバーシュとルカーシュは手紙の中身を急いで確かめる。
「これは……」
中身を読んでバルナバーシュは驚きを隠せないでいた。
「家の使用人ハミルとテジット金鉱山で働く幼馴染との手紙のやり取りです。本人が金鉱山に行っている留守中に部屋を調べていたら、その手紙が出てきたもので」
一見儚げに見えるが、マルツェルの妻はなかなか行動力のある女性だ。
幼馴染から送ってきたとされる手紙には、マルツェルの様子や実際に会ってみてなにを言っていたか等が詳細に書き記されていた。
信じられないことに、マルツェルがクラーラ宛に書いた手紙を全部その幼馴染が預かるふりをして捨てているというのだ。
そして幼馴染は、手紙の中で何度も『いくらお前の頼みでも、自分は手を下せない』と断っている。
マルツェルの使用人が、手紙の中で幼馴染になにを頼んでいたのか決定的なことは書いてはいないが想像に難くない。
「やはり……クラーラさんの危惧した通りのようですね。急いで現場に知らせてマルツェルの身の安全を第一に——」
「それよりも、これだけでは決定的な証拠になりません。レネ君はじめ、現地の人たちには負担をかけるかもしれませんが、現場を押さえたいのです。幼馴染が手紙の中で何度も断っているので、ハミルは自ら主人に手を下しに行くはずです。そこを押さえればハミルも言い逃れできません。夫もそう願っているはずです」
クラーラは意志の強そうなその灰色の瞳で、バルナバーシュを見上げる。
「——わかりました。団員全員に知らせると勘付かれる可能性があるので、面識のあるレネに知らせてどうにかしてその使用人よりマルツェルを先に見つけ出し、事の次第を伝えることにしましょう」
「ありがとうございます。無理を言って申し訳ございません」
「とんでもない。私も友人としてできる限り尽力します」
バルナバーシュの力強い申し出に、クラーラは深く頭を下げた。
クラーラが退室した後、バルナバーシュは背もたれに体重を掛けため息を吐く。
最初からクラーラは、ハミルがマルツェルを陥れたのではないかと疑っていた。
行方不明になる当日、飲みに出かけたマルツェルを迎えに行ったハミルが、いないと騒ぎ出したのが発端だった。
今回のデジット金鉱山行きも、ハミル自らが志願したという。
先ほど読んだ手紙の内容から、彼が犯人だと思って間違いない。
「はぁ……難しい展開になってきたな。あいつ一人がいいのか、誰か他にも協力させた方がいいのか……」
「そこは現場のレネの判断に任せたらいいんじゃないですか?」
ルカーシュはバルナバーシュの心配を他所に、涼しい顔をしてそう助言した。
養父の自分よりも剣の師匠であるルカーシュの方が、レネのことをよく理解していた。
二人の師弟関係は謎に包まれているが、ルカーシュはレネの人格を壊さないよう上手く育てている。
その師匠が、レネに判断を任せていいというのなら間違いないだろう。
こうしてバルナバーシュは、レネ宛に手紙を認めると、早馬を使って現地へと届けさせた。
◆◆◆◆◆
「レネっ、もう一人後ろにっ!」
マルツェルが叫び声を上げる。
ハミルを拘束している隙を狙って、後ろからドゥシャンが忍び寄りレネに襲いかかった。
自分よりも一回りも大きな男が襲ってきたが、レネは顎に肘打ちを食らわせ、一撃でドゥンシャンを気絶させる。
「……!?」
ハミルがまるで化け物でも見る目でレネの方を見ている。
今までレネのことを、なにもできないひ弱な役立たずだと思っていたのに、意外な行動をとってびっくりしているのだろう。
「なんだよ、オレはただ仕事してるだけだぞ」
その間抜けな顔を見て、レネは少しだけ胸のすく思いがした。
「ハミルっ、お前はよくも俺をこんな目に遭わせてくれたなっ!」
「……ぐっ」
マルツェルは自分を陥れた使用人を思いっきり殴り、ハミルはまた床に転がる羽目となる。
半年間も金鉱山で過酷な動労をさせられ、助けに来るふりをして命まで奪おうとしたのだ。
本当はボコボコに殴り倒しても足らないくらいだろう。
「マルツェルさん、取り敢えずこの場を離れて宿に行こう」
レネはハミルを引き起こすと、マルツェルに自習室を出るよう促した。
「……そうだな。見つかるとまずいよな」
床に伸びているドゥンシャンはどうしようもないので、ハミルだけを拘束したまま連れて行くことにした。
リーパ護衛団本部の執務室にクラーラが駆け込んできたのは、バルナバーシュが午後の眠気と戦いながら、書類に目を通していた時だった。
「クラーラさん、お急ぎのようですがいかがなさいました?」
応接室に行く間もなく執務室にやって来たクラーラを、ルカーシュは扉を開けて室内へと招き入れる。
「こんな手紙が出てきたので、急いでお知らせしないと、と思いまして」
「中身を拝見しても?」
机の上に広げられた何通もの手紙の一通を手に取りクラーラに尋ねる。
「ええもちろん。そのために持ってまいりましたの」
同意を得て、バルナバーシュとルカーシュは手紙の中身を急いで確かめる。
「これは……」
中身を読んでバルナバーシュは驚きを隠せないでいた。
「家の使用人ハミルとテジット金鉱山で働く幼馴染との手紙のやり取りです。本人が金鉱山に行っている留守中に部屋を調べていたら、その手紙が出てきたもので」
一見儚げに見えるが、マルツェルの妻はなかなか行動力のある女性だ。
幼馴染から送ってきたとされる手紙には、マルツェルの様子や実際に会ってみてなにを言っていたか等が詳細に書き記されていた。
信じられないことに、マルツェルがクラーラ宛に書いた手紙を全部その幼馴染が預かるふりをして捨てているというのだ。
そして幼馴染は、手紙の中で何度も『いくらお前の頼みでも、自分は手を下せない』と断っている。
マルツェルの使用人が、手紙の中で幼馴染になにを頼んでいたのか決定的なことは書いてはいないが想像に難くない。
「やはり……クラーラさんの危惧した通りのようですね。急いで現場に知らせてマルツェルの身の安全を第一に——」
「それよりも、これだけでは決定的な証拠になりません。レネ君はじめ、現地の人たちには負担をかけるかもしれませんが、現場を押さえたいのです。幼馴染が手紙の中で何度も断っているので、ハミルは自ら主人に手を下しに行くはずです。そこを押さえればハミルも言い逃れできません。夫もそう願っているはずです」
クラーラは意志の強そうなその灰色の瞳で、バルナバーシュを見上げる。
「——わかりました。団員全員に知らせると勘付かれる可能性があるので、面識のあるレネに知らせてどうにかしてその使用人よりマルツェルを先に見つけ出し、事の次第を伝えることにしましょう」
「ありがとうございます。無理を言って申し訳ございません」
「とんでもない。私も友人としてできる限り尽力します」
バルナバーシュの力強い申し出に、クラーラは深く頭を下げた。
クラーラが退室した後、バルナバーシュは背もたれに体重を掛けため息を吐く。
最初からクラーラは、ハミルがマルツェルを陥れたのではないかと疑っていた。
行方不明になる当日、飲みに出かけたマルツェルを迎えに行ったハミルが、いないと騒ぎ出したのが発端だった。
今回のデジット金鉱山行きも、ハミル自らが志願したという。
先ほど読んだ手紙の内容から、彼が犯人だと思って間違いない。
「はぁ……難しい展開になってきたな。あいつ一人がいいのか、誰か他にも協力させた方がいいのか……」
「そこは現場のレネの判断に任せたらいいんじゃないですか?」
ルカーシュはバルナバーシュの心配を他所に、涼しい顔をしてそう助言した。
養父の自分よりも剣の師匠であるルカーシュの方が、レネのことをよく理解していた。
二人の師弟関係は謎に包まれているが、ルカーシュはレネの人格を壊さないよう上手く育てている。
その師匠が、レネに判断を任せていいというのなら間違いないだろう。
こうしてバルナバーシュは、レネ宛に手紙を認めると、早馬を使って現地へと届けさせた。
◆◆◆◆◆
「レネっ、もう一人後ろにっ!」
マルツェルが叫び声を上げる。
ハミルを拘束している隙を狙って、後ろからドゥシャンが忍び寄りレネに襲いかかった。
自分よりも一回りも大きな男が襲ってきたが、レネは顎に肘打ちを食らわせ、一撃でドゥンシャンを気絶させる。
「……!?」
ハミルがまるで化け物でも見る目でレネの方を見ている。
今までレネのことを、なにもできないひ弱な役立たずだと思っていたのに、意外な行動をとってびっくりしているのだろう。
「なんだよ、オレはただ仕事してるだけだぞ」
その間抜けな顔を見て、レネは少しだけ胸のすく思いがした。
「ハミルっ、お前はよくも俺をこんな目に遭わせてくれたなっ!」
「……ぐっ」
マルツェルは自分を陥れた使用人を思いっきり殴り、ハミルはまた床に転がる羽目となる。
半年間も金鉱山で過酷な動労をさせられ、助けに来るふりをして命まで奪おうとしたのだ。
本当はボコボコに殴り倒しても足らないくらいだろう。
「マルツェルさん、取り敢えずこの場を離れて宿に行こう」
レネはハミルを引き起こすと、マルツェルに自習室を出るよう促した。
「……そうだな。見つかるとまずいよな」
床に伸びているドゥンシャンはどうしようもないので、ハミルだけを拘束したまま連れて行くことにした。
58
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました
あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」
穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン
攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?
攻め:深海霧矢
受け:清水奏
前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。
ハピエンです。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
自己判断で消しますので、悪しからず。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
ざまぁされたチョロ可愛い王子様は、俺が貰ってあげますね
ヒラヲ
BL
「オーレリア・キャクストン侯爵令嬢! この時をもって、そなたとの婚約を破棄する!」
オーレリアに嫌がらせを受けたというエイミーの言葉を真に受けた僕は、王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を突き付ける。
しかし、突如現れた隣国の第一王子がオーレリアに婚約を申し込み、嫌がらせはエイミーの自作自演であることが発覚する。
その結果、僕は冤罪による断罪劇の責任を取らされることになってしまった。
「どうして僕がこんな目に遭わなければならないんだ!?」
卒業パーティーから一ヶ月後、王位継承権を剥奪された僕は王都を追放され、オールディス辺境伯領へと送られる。
見習い騎士として一からやり直すことになった僕に、指導係の辺境伯子息アイザックがやたら絡んでくるようになって……?
追放先の辺境伯子息×ざまぁされたナルシスト王子様
悪役令嬢を断罪しようとしてざまぁされた王子の、その後を書いたBL作品です。
殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?
krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」
突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。
なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!?
全力すれ違いラブコメファンタジーBL!
支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる