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11章 金鉱山で行方不明者を捜索せよ
15 クラーラーの再訪
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◇◇◇◇◇
リーパ護衛団本部の執務室にクラーラが駆け込んできたのは、バルナバーシュが午後の眠気と戦いながら、書類に目を通していた時だった。
「クラーラさん、お急ぎのようですがいかがなさいました?」
応接室に行く間もなく執務室にやって来たクラーラを、ルカーシュは扉を開けて室内へと招き入れる。
「こんな手紙が出てきたので、急いでお知らせしないと、と思いまして」
「中身を拝見しても?」
机の上に広げられた何通もの手紙の一通を手に取りクラーラに尋ねる。
「ええもちろん。そのために持ってまいりましたの」
同意を得て、バルナバーシュとルカーシュは手紙の中身を急いで確かめる。
「これは……」
中身を読んでバルナバーシュは驚きを隠せないでいた。
「家の使用人ハミルとテジット金鉱山で働く幼馴染との手紙のやり取りです。本人が金鉱山に行っている留守中に部屋を調べていたら、その手紙が出てきたもので」
一見儚げに見えるが、マルツェルの妻はなかなか行動力のある女性だ。
幼馴染から送ってきたとされる手紙には、マルツェルの様子や実際に会ってみてなにを言っていたか等が詳細に書き記されていた。
信じられないことに、マルツェルがクラーラ宛に書いた手紙を全部その幼馴染が預かるふりをして捨てているというのだ。
そして幼馴染は、手紙の中で何度も『いくらお前の頼みでも、自分は手を下せない』と断っている。
マルツェルの使用人が、手紙の中で幼馴染になにを頼んでいたのか決定的なことは書いてはいないが想像に難くない。
「やはり……クラーラさんの危惧した通りのようですね。急いで現場に知らせてマルツェルの身の安全を第一に——」
「それよりも、これだけでは決定的な証拠になりません。レネ君はじめ、現地の人たちには負担をかけるかもしれませんが、現場を押さえたいのです。幼馴染が手紙の中で何度も断っているので、ハミルは自ら主人に手を下しに行くはずです。そこを押さえればハミルも言い逃れできません。夫もそう願っているはずです」
クラーラは意志の強そうなその灰色の瞳で、バルナバーシュを見上げる。
「——わかりました。団員全員に知らせると勘付かれる可能性があるので、面識のあるレネに知らせてどうにかしてその使用人よりマルツェルを先に見つけ出し、事の次第を伝えることにしましょう」
「ありがとうございます。無理を言って申し訳ございません」
「とんでもない。私も友人としてできる限り尽力します」
バルナバーシュの力強い申し出に、クラーラは深く頭を下げた。
クラーラが退室した後、バルナバーシュは背もたれに体重を掛けため息を吐く。
最初からクラーラは、ハミルがマルツェルを陥れたのではないかと疑っていた。
行方不明になる当日、飲みに出かけたマルツェルを迎えに行ったハミルが、いないと騒ぎ出したのが発端だった。
今回のデジット金鉱山行きも、ハミル自らが志願したという。
先ほど読んだ手紙の内容から、彼が犯人だと思って間違いない。
「はぁ……難しい展開になってきたな。あいつ一人がいいのか、誰か他にも協力させた方がいいのか……」
「そこは現場のレネの判断に任せたらいいんじゃないですか?」
ルカーシュはバルナバーシュの心配を他所に、涼しい顔をしてそう助言した。
養父の自分よりも剣の師匠であるルカーシュの方が、レネのことをよく理解していた。
二人の師弟関係は謎に包まれているが、ルカーシュはレネの人格を壊さないよう上手く育てている。
その師匠が、レネに判断を任せていいというのなら間違いないだろう。
こうしてバルナバーシュは、レネ宛に手紙を認めると、早馬を使って現地へと届けさせた。
◆◆◆◆◆
「レネっ、もう一人後ろにっ!」
マルツェルが叫び声を上げる。
ハミルを拘束している隙を狙って、後ろからドゥシャンが忍び寄りレネに襲いかかった。
自分よりも一回りも大きな男が襲ってきたが、レネは顎に肘打ちを食らわせ、一撃でドゥンシャンを気絶させる。
「……!?」
ハミルがまるで化け物でも見る目でレネの方を見ている。
今までレネのことを、なにもできないひ弱な役立たずだと思っていたのに、意外な行動をとってびっくりしているのだろう。
「なんだよ、オレはただ仕事してるだけだぞ」
その間抜けな顔を見て、レネは少しだけ胸のすく思いがした。
「ハミルっ、お前はよくも俺をこんな目に遭わせてくれたなっ!」
「……ぐっ」
マルツェルは自分を陥れた使用人を思いっきり殴り、ハミルはまた床に転がる羽目となる。
半年間も金鉱山で過酷な動労をさせられ、助けに来るふりをして命まで奪おうとしたのだ。
本当はボコボコに殴り倒しても足らないくらいだろう。
「マルツェルさん、取り敢えずこの場を離れて宿に行こう」
レネはハミルを引き起こすと、マルツェルに自習室を出るよう促した。
「……そうだな。見つかるとまずいよな」
床に伸びているドゥンシャンはどうしようもないので、ハミルだけを拘束したまま連れて行くことにした。
リーパ護衛団本部の執務室にクラーラが駆け込んできたのは、バルナバーシュが午後の眠気と戦いながら、書類に目を通していた時だった。
「クラーラさん、お急ぎのようですがいかがなさいました?」
応接室に行く間もなく執務室にやって来たクラーラを、ルカーシュは扉を開けて室内へと招き入れる。
「こんな手紙が出てきたので、急いでお知らせしないと、と思いまして」
「中身を拝見しても?」
机の上に広げられた何通もの手紙の一通を手に取りクラーラに尋ねる。
「ええもちろん。そのために持ってまいりましたの」
同意を得て、バルナバーシュとルカーシュは手紙の中身を急いで確かめる。
「これは……」
中身を読んでバルナバーシュは驚きを隠せないでいた。
「家の使用人ハミルとテジット金鉱山で働く幼馴染との手紙のやり取りです。本人が金鉱山に行っている留守中に部屋を調べていたら、その手紙が出てきたもので」
一見儚げに見えるが、マルツェルの妻はなかなか行動力のある女性だ。
幼馴染から送ってきたとされる手紙には、マルツェルの様子や実際に会ってみてなにを言っていたか等が詳細に書き記されていた。
信じられないことに、マルツェルがクラーラ宛に書いた手紙を全部その幼馴染が預かるふりをして捨てているというのだ。
そして幼馴染は、手紙の中で何度も『いくらお前の頼みでも、自分は手を下せない』と断っている。
マルツェルの使用人が、手紙の中で幼馴染になにを頼んでいたのか決定的なことは書いてはいないが想像に難くない。
「やはり……クラーラさんの危惧した通りのようですね。急いで現場に知らせてマルツェルの身の安全を第一に——」
「それよりも、これだけでは決定的な証拠になりません。レネ君はじめ、現地の人たちには負担をかけるかもしれませんが、現場を押さえたいのです。幼馴染が手紙の中で何度も断っているので、ハミルは自ら主人に手を下しに行くはずです。そこを押さえればハミルも言い逃れできません。夫もそう願っているはずです」
クラーラは意志の強そうなその灰色の瞳で、バルナバーシュを見上げる。
「——わかりました。団員全員に知らせると勘付かれる可能性があるので、面識のあるレネに知らせてどうにかしてその使用人よりマルツェルを先に見つけ出し、事の次第を伝えることにしましょう」
「ありがとうございます。無理を言って申し訳ございません」
「とんでもない。私も友人としてできる限り尽力します」
バルナバーシュの力強い申し出に、クラーラは深く頭を下げた。
クラーラが退室した後、バルナバーシュは背もたれに体重を掛けため息を吐く。
最初からクラーラは、ハミルがマルツェルを陥れたのではないかと疑っていた。
行方不明になる当日、飲みに出かけたマルツェルを迎えに行ったハミルが、いないと騒ぎ出したのが発端だった。
今回のデジット金鉱山行きも、ハミル自らが志願したという。
先ほど読んだ手紙の内容から、彼が犯人だと思って間違いない。
「はぁ……難しい展開になってきたな。あいつ一人がいいのか、誰か他にも協力させた方がいいのか……」
「そこは現場のレネの判断に任せたらいいんじゃないですか?」
ルカーシュはバルナバーシュの心配を他所に、涼しい顔をしてそう助言した。
養父の自分よりも剣の師匠であるルカーシュの方が、レネのことをよく理解していた。
二人の師弟関係は謎に包まれているが、ルカーシュはレネの人格を壊さないよう上手く育てている。
その師匠が、レネに判断を任せていいというのなら間違いないだろう。
こうしてバルナバーシュは、レネ宛に手紙を認めると、早馬を使って現地へと届けさせた。
◆◆◆◆◆
「レネっ、もう一人後ろにっ!」
マルツェルが叫び声を上げる。
ハミルを拘束している隙を狙って、後ろからドゥシャンが忍び寄りレネに襲いかかった。
自分よりも一回りも大きな男が襲ってきたが、レネは顎に肘打ちを食らわせ、一撃でドゥンシャンを気絶させる。
「……!?」
ハミルがまるで化け物でも見る目でレネの方を見ている。
今までレネのことを、なにもできないひ弱な役立たずだと思っていたのに、意外な行動をとってびっくりしているのだろう。
「なんだよ、オレはただ仕事してるだけだぞ」
その間抜けな顔を見て、レネは少しだけ胸のすく思いがした。
「ハミルっ、お前はよくも俺をこんな目に遭わせてくれたなっ!」
「……ぐっ」
マルツェルは自分を陥れた使用人を思いっきり殴り、ハミルはまた床に転がる羽目となる。
半年間も金鉱山で過酷な動労をさせられ、助けに来るふりをして命まで奪おうとしたのだ。
本当はボコボコに殴り倒しても足らないくらいだろう。
「マルツェルさん、取り敢えずこの場を離れて宿に行こう」
レネはハミルを引き起こすと、マルツェルに自習室を出るよう促した。
「……そうだな。見つかるとまずいよな」
床に伸びているドゥンシャンはどうしようもないので、ハミルだけを拘束したまま連れて行くことにした。
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