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1章 君に剣を捧ぐ
21 豹変
しおりを挟む1カロ=1キロ
◆◆◆◆◆
レネはバルトロメイと真剣で勝負するのは初めてだ。
それも二刀流としての姿を師以外に見せることも初めてだった。
こんな男に負けてやるつもりなど微塵もない。
(馬鹿にしやがって!!)
覚悟が足りないのはどっちだ?
一方的に思いを伝えて、やるだけやってさっさと逃げ出した負け犬を、そのまま逃がすわけにはいかない。
周りの団員たちだって、こんな貧弱な自分が屈強な団長そっくりのバルトロメイに敵うはずがないと思っている。
(——糞野郎ども、見ているがいい……)
バルトロメイの姿を見ているだけで、レネは身体が熱くなる。
まさに、自分のなりたかった理想がそこに詰まっている。
どんなに剣を振って身体を鍛えても、このような筋肉は付かない。
バルトロメイも少年の頃は男たちから欲望の対象として狙われていたが、男らしく成長するにつれて狙われることはなくなったという。
しかしレネは少年の域を脱しても、望んだような変化は訪れなかった。
それどころか、護衛になった今の方が狙われる。
少年の頃に同じ経験をしたこの男は、自分の苦しみをわかってくれていると思っていた。
(それなのに……)
この男から受けた辱めを思い出すだけで、神経が焼き切れそうだ。
怒りで、目の前が真っ赤に染まる。
「うおおおおおおっっっ!」
身体の中でグルグルと暴れまくる獣が、叫び声と共に、とうとう外へと解き放たれた。
今までにないくらいに二本の剣が、まるで身体の一部の様に馴染んでいる。
ドクドクと身体を巡る血が滾り、言いようもない高揚とした気分がレネを支配した。
その空気の変化をバルトロメイは肌で感じたのか、攻撃をためらっている。
レネの殺気に押されているのだ。
「逃げやがって……負け犬が。お前は全部中途半端なんだよ」
レネは戦うとき無駄口を叩くことはしないのだが、今回だけは黙っていられなかった。
「——なんだと」
バルトロメイの眉がピクリと動いた。
負け犬呼ばわりされこのままではいられないのだろう、バルトロメイが素早く左から斬り上げると、レネは後ろに跳んで躱し、今度はバルトロメイが右から薙ぎを仕掛けて来る前に、今までにない素早さで動いた。
「ッ……!?」
今までは左右交互にしか攻撃を仕掛けてこなかったが、二本の剣の軌道が中央で交差する。
一定のリズムに慣れてしまったバルトロメイの身体は咄嗟に反応できず、剣を持っている右側の防御はできたが左側をバッサリ斬られ、脇腹を押さえて蹲る。
それでも剣を離そうとしないバルトロメイに、レネは柄頭で首の付け根を殴り昏倒させた。
この決闘は相手を戦意喪失か戦闘不能にさせた方が勝ちだ。
「——勝者、レネ・セヴトラ・ヴルク!」
審判役のルカーシュが勝者の名前を呼び上げる。
「おい……」
「……ああ……」
「猫が……勝った……」
見学していた団員たちもまさかの結果に驚いているようだ。
(勝った……)
レネの中を今までとは違う種類の興奮が駆け抜ける。
◆◆◆◆◆
「バートっ!! 大丈夫かっ!?」
横に控えていた癒し手のイェロニームが、急いでバルトロメイに駆け寄り傷を塞ぐ。
「ここは、癒し手がいるのかっ!?」
その様子を見ていたシモンが、驚きの声を上げた。
「ええ。先代からの縁で」
隣に居るバルナバーシュがその経緯を説明する。
決して口には出さないが、シモンはバルトロメイの塞がり切った傷を見て安心している。
「ほう。それにしてもコジャーツカの剣を使うとは驚いた。それも二刀流とは……儂も初めて見た。実に見事だ」
バルナバーシュの肩に手を置き、そう言い残すとシモンは裏門から去って行く。
その後ろ姿はどこか寂しげだった。
「おいっ!?」
治療が終わったのを確認し、レネが意識を失い倒れたままのバルトロメイを肩に担ぐと、驚いたイェロニームがすぐさま止めに入る。
バルトロメイに比べたら掠り傷だが、レネだってまだ傷の治療を受けていない。
「なんのつもりだっ!!」
二十カロも違う体重差の男を担ぐその姿は異様だ。
周囲の団員たちもなにが始まったのかと、レネに注目する。
「——狩った獲物は喰う」
その言葉に、シン……と水を打ったかのように静まり返った。
想定外のレネの行動に、誰も反応できない。
オレの獲物を横取りするなとばかりに、殺気走った目で辺りに睨みをきかせると、レネはバルトロメイを担いだまま私邸へと歩いて行く。
もうこれ以上「なにをするつもりだ」とレネに尋ねる者はいない。
団長であるバルナバーシュでさえも、養子の変わりように言葉を失っていた。
レネの姿はまるで、自分よりも大きな獲物を木の上へと引き摺り上げる豹のようだ。
「ほら、仕事の終わった人たちはさっさと帰りなさい」
唯一レネの行動に動じてない副団長が、茫然と立ち竦んでいる団員たちを鍛練場から帰るように促すと、その声に正気に戻った男たちが次々と動き出す。
バルトロメイは既に団員ではないし、決闘でお互いの全てを懸け合っていたのだ。
勝利したレネが、バルトロメイをどうしようと外野に異を唱える権利はない。
「何だ……あれ……」
「ちょっと俺……心臓を撃ち抜かれたかも……」
「……男前だったな……」
「あんな外見に騙されて、とんだ勘違いをしてたのかもな……」
団員たちが『猫』だと思っていた相手は、実はとんでもない猛獣だった。
手を付けられない程の凶暴さと美しさを兼ね合わせた獣に、その場に居た誰もが魂を持って行かれた。
「——ますます手の届かない存在になっていくな……」
誰かがぽつりと呟いた。
その後、狩られた獲物がどうなるかなど、レネの豹変に圧倒され、決闘の目撃者の間では話題にも上がらなかった。
いや……本当は狩られた獲物の末路など、恐ろしくて考えたくもなかったのだ。
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