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1章 君に剣を捧ぐ
27 騎士とは
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男っぽいなりはしているが、ダニエラも同じ女だ。
婦人ものの下着専門店で、バーラが下着選びで悩んでいると、「若い娘が、そんな臍まである色気のないパンツはダメだって」とピラッと一枚の下着をバーラに渡してきた。
「ええっ!? これ? 私が? 腰がスースーしません?」
面積の狭さに戸惑っていると、
「そんなの可愛いもんだろ?」
隣のダニエラの買い物かごにはもっと際どいデザインの下着が入っていた。
「普段は男物だけど、どうしても要りようの時があるんだ」
そう言ってニヤリと笑う。
(……要りようって……!?)
頭の中で想像してしまい、バーラは顔を真っ赤にする。
「ん?……今持ってるピンクより、バーラはこっちの薄いラベンダーの方が映えるな」
隣で赤面している間にも、ダニエラは目敏く先程バーラに渡した下着の色違いを見つけたようだ。
「そうですか?」
自分の瞳の色を薄めたようなその下着は、ダニエラのかごに入っている下着よりも上品な色だ。
これだったら有りなのではないかと、バーラも思えてきた。
「バーラの瞳は綺麗な菫色だからな。それに髪色ともこっちが馴染むな」
下着の色をそういう風に選んだことがなかったので、なるほどと感心する。
そしてこの男装の麗人は自分などよりもよっぽど女子力が高いのではないかと、バーラは軽い自己嫌悪に陥る。
結局ダニエラに勧められるまま、バーラはふだんは絶対穿かないレース地の下着を上下セットで買ってしまった。
(……これが勝負下着と言うものなのね……)
使う宛てがなくなってしまったのは悲しいが、これまで勝負下着の一枚も持たず勝負に出ようとしていた自分が無謀だったのだと気付く。
バーラはダニエラと二人で買い物を済ませ、チーズタルトが美味しいと評判のカフェでお茶をしていた。
「女同士での買い物は楽しいな。それにバーラはもっと磨けば綺麗になるぞ」
「私もっと自分を磨きたいです!」
ダニエラはズバズバと正直になんでも言ってくれるので付き合いやすいし、男装してお洒落など興味なさそうに見えたのだが、メストの街中で若い女が喜びそうな店をちゃんと押さえている。
彼女が一緒でなければどこに店があるかなんてわからなかったし、こんな買い物を楽しめなかっただろう。
「今日はどうもありがとうございました。色々素敵なお店を紹介して頂いて、ダニエラさんのお陰で楽しい時間を過ごすことができました」
結局バルトロメイはリーパ護衛団に戻ってしまい、シモンの前では元気な振りをしていたが、実はバーラは落ち込んでいたのだ。
「こうやって機会があればまた一緒に買い物したいな」
「ええ。また是非ご一緒したいです!」
今度はいつ会えるかわからないが、シモンとオレクも旧交を温めていたようだし、いずれ近いうちに会えるのではないかという気がする。
「そう言えば、ダニエラさんとオレク卿はどういったご関係なんですか?」
「オレクと私か? 私は父の代わりだよ。父はオレクがリーパの団長時代に副団長を務めていたんだ。護衛団ができる以前から大戦でも一緒だった相棒だ。戦でオレクが片目を失ってからは父がその片目の代わりになった。オレクが引退してからも暫く団に残り今の副団長へと引継ぎをして、第二の人生として牧場経営を一緒に始め、やっと軌道に乗り出した頃、病に倒れてそのまま亡くなった。それで私が父に代わってオレクの片目代わりをしているのさ。オレクには父が亡くなってからも家族諸共よくしてもらってる」
「まあ、なんだかとても素敵なご関係ですね。ダニエラさんはいつから男装を?」
「子供の頃からさ。うちは代々騎士の家系だったが男の子が生まれなくてな、一番お転婆だった私に父は剣の使い方を仕込んでいったのさ。だから私もずっと騎士になることを目指して剣の腕を磨いた」
昔を思い出したのか、ダニエラの口元に柔らかな笑みが浮かぶ。
「お父様自身も騎士でいらっしゃったんでしょう? リーパ護衛団に入団されて周囲から反対はされたかったのでしょうか?」
「父は傭兵団に入っても騎士だったよ」
深い青の瞳がバーラを見つめる。
「——それは?」
傭兵団にいるのに騎士とはいったいどういうことなのだろうか?
「父はオレクに剣を捧げていたから。傭兵団にいながらも、死ぬまでオレクの騎士だったのさ」
「……!?」
「騎士団に所属したり、領主に仕えることで、騎士の称号は得ることができるかもしれないが、自分が心から陶酔した相手に剣を捧げることこそが真の騎士としての誉だと、女は騎士団に入れないと知って落ち込んでいた私に、父がかけてくれた言葉さ」
「…………」
目から鱗の発言に、バーラは言葉を失う。
「その言葉を受けてから私は必死になって剣の腕を磨き、子供の頃から羨望の目で見ていたオレクに自らの剣を捧げ、オレクはそれを受け取ってくれた。だから私も女の身ではあるが、オレクの騎士だと自負している」
知らないうちに、目から涙が零れていた。
「凄いです。なんだか私……自分が恥ずかしくて……」
なにもせずに、バルトロメイが傭兵を辞めて、自分との人生を選んでくれるのを待っていたのが恥ずかしかった。
(私なんかが、付け入る隙なんて最初っからなかったのね……)
恋に破れた女は食い気に走る。
だが今日だけは、そんな自分を許してあげたい。
「ダニエラさん、私アップルタルト追加します!」
「よしっ! じゃあ私もとことん付き合おう」
そう言ってダニエラは手を上げ店員を呼び止めると、アップルタルトと木の実のタルトの注文を追加した。
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