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10章 娼婦たちを護衛せよ
29 一仕事した後の飯は美味い
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「——シニョーラ、さすがにやり過ぎでは?」
「あら、なに言ってるの? この館の主人の特権よ?」
細長く薄暗い個室にオリエッタが入って来ても、カッサンドラは覗き込んでいる窓から目を離すことはしない。
レネたちを特別室に入れると、すぐに自分はその隣にあるこの部屋へとこもった。
ここは、隣にある大きな鏡の裏っ側になっており、向こうから気付かれることなく覗き見ができるようになっている。
ちゃんと客の相手ができているかカッサンドラがここで娼婦たちの働きを観察したり、新人の娼婦をこの部屋に入れて、実際の客のあしらい方を覚えさせたりと使い方は色々だ。
別料金を払ってここの部屋で人の行為を覗き見する客もいる。
もちろん、この特別室を使う客たちは観察者の目があることは承知で、覗き見されることを愉しんでいる。
そんなことを全く知らないバルトロメイとレネは、獣のように激しく、欲望の火がついた身体を慰め合っていた。
若く美しい青年たちの裸体を見るだけでも眼福なのに、絡みあい快感に喘ぐ姿は、息をするのも忘れるほど、カッサンドラを夢中にさせる。
そのまままぐわってくれればよかったのに、レネが我慢するようになにかを告げると、急にバルトロメイが鼻血を吹き出した。
なにを言ったのか非常に気になるところだが、それからバルトロメイがレネに口淫を施すことで、終わりを迎えた。
今はゆっくりと二人で湯に浸かっている。
それにしても、バルトロメイの口技は、ここの娼婦たちにも見せて学習させたいほどで、いったいどこであんな技を覚えたのだろうと不思議に思う。
翻弄されるレネも、娼婦たちが裸足のまま逃げ出したくなるような淫猥さで、カッサンドラの目を釘付けにした。
レネの身体は想像していた以上にしなやかで美しく、思わず食べてしまいたくなるような甘い色彩をしていた。
男から抱かれるために造形された……清らかな身体。
まるで足跡一つない真っ白な雪原だ。
見た者は、必ず踏み荒らしたくなる。
そんなレネが、バルトロメイを抱く側だったというのが信じられない。
よく日焼けした逞しい身体に、後ろから白い身体が絡みつき、腰を振っている場面を想像しただけで、かッと頭に血が上りのぼせてしまいそうだ。
逞しい美男が華奢な美青年に犯される……そんな背徳的な光景を見てみたかった。
ちょっと今度シルヴァーノの店にでも行って、男娼たちの絡みでも見てこようかしら……と真剣に思案する。
とは言っても、レネとバルトロメイみたいな極上品はいないが……。
それにしても……いいものを見せてもらった。
二人を見ていると、なくしていたなにかが補充された……そんな気分にさせてくれる。
「シニョーラ、そろそろ出ないと……」
浴槽から立ち上がった二人の姿に感嘆しながらも、オリエッタは心配そうに目配せする。
「……しかたないわね……」
二人より先にこの部屋を出ないと、鏡越しに覗いていたことがばれてしまうかもしれない。
カッサンドラは名残惜しく立ち上がり、オリエッタに急かされるように部屋を出た。
食堂には、ショックで食欲をなくした以外の娼婦たちと、入浴を終えて客用の絹のガウンを羽織ったバルトロメイとレネが席に着いていた。
「身体を動かしたからお腹空いたでしょ? 遠慮せず召し上がれ」
働きを見せた二人の護衛には、いつも通りの食事に加え肉料理を一品追加するように頼んでいた。
「うわ……美味そうっ!!」
レネは目をキラキラと輝かせ、肉に噛り付く。
ゴンドラから降りてきた時の、鳥肌の立つような凄まじい雄っ気はすっかりどこかへいってしまい、今はまるで子どもみたいに食べることに夢中だ。
戦う姿を見て怯えていた娼婦たちまでもが、そんなレネに笑いを漏らしている。
(ふっ……笑いたくもなるわよね……)
思わずカッサンドラも釣られて口元に笑みを浮かべる。
娼婦たちはみな男の生理をよく理解している。
レネの顔は、風呂に入る前と比べると明らかにスッキリとしており、妙に上機嫌になっていた。
娼婦たちから見れば、顔に「一発ヌイてきました」と書いてあるようなものだ。
正確には二発なのだが……でもそんな細かい所はどうでもいい。
女たちからそんな目で見られているとも知らず、レネは無邪気に食欲を満たしている。
彼が雄なのだと知ってからは、なんでも可愛く見えて仕方ない。
それとは対照的にレネよりも敏いバルトロメイは、複雑な表情をしていた。
ガウンの襟元が開いているので、鎖骨から発達した逞しい大胸筋までが覗いている。
日焼けした褐色の肌とは違い、白い地肌に散る赤い痕に、女たちの目が泳ぐ。
それは明らかに捕食された痕で、しるしを付けたのは、隣にいる綺麗な猫ちゃんだとバレバレなのだ。
牛追い祭りで偶然にもバルトロメイから助けられて、最初は自分でも思い切ったことをしたと思ったが、この二人を護衛に付けて本当によかった。
とんだ逸材を拾ったものだ。
それに……どんな美酒にも勝る、美しい青年たちの絡みを垣間見ることができた。
カッサンドラは非常に満足していた。
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