宴もたけなわではございますが、異世界に呼ばれましたので

バラモンジン

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5.王宮に呼ばれたからには

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 王命で呼び出され、奈月は慌てた。

「え、私どうしたら良いですか。王宮での作法なんて分かりませんし、失礼なことを言いそうで怖いです。粗相をしたら不敬だと首を刎ねられたりしませんか。日本に帰る前に殺されたくないです」

 あたふたと身体が動く。

「巫女様、そう焦りなさんな。国の方が頭を低くしてお願いする立場なのだ。問答無用で呼びつけるなど言語道断。すぐに応じる必要などないですからな」

「その通り。だいたいこの地での魔物の襲来が完全になくなったと確認できたわけでもないのに、ここを離れろとはどういう了見だ。いっそ魔物を率いて謁見の間に乗り込んでやろうか」

 大賢者もお怒りだ。奈月は少し冷静になった。

「あの、私としても、この村が襲われるのは嫌です。招集に応じるにしても、どうすれば安心して出立できるでしょうか」

 奈月の日本人としての事なかれ主義が、偉い人の命令を無視することをためらわせる。この国での王権の強さが想像できないせいもある。

「なに、簡単なことだ。用があるならそちらが来い、と言ってやれば良いのだ」

「無理無理無理。そんな強気でいられません」

「だが、村では巫女様の歓迎会の準備が始まっておるぞ。これはワシらからの精一杯の感謝の気持ちだ。ぜひ参加していってほしい」

「招集に一日遅れても大丈夫なんでしょうか」

「構うものか。自分たちで召喚した巫女でもないのに、思い通りに動かせると思う方がおかしい」

「でも見方によっては、私は不法入国者ということになりませんか」

「無断ではあるが、不法ではないな。魔導院顧問の俺が、魔を払う巫女を招くために組んだ魔導陣に導かれてやってきたのだ。何か言われたら、国を挙げての拉致だと言い張れ。加勢するぞ」

 賢者は奈月にそう言って励まし、伝言を持ってきた男に言った。

「というわけで、護衛の騎士には帰ってもらえ。近いうちに魔導院顧問のセレノスが連れて行くからと」



 その日は予定通り、村長の屋敷で聖火の巫女、奈月の歓迎会が催された。

 飲んで食べて、歌って踊って、泣いたり笑ったり、尽きることのない話題で語り合った。奈月を囲んで賑やかで温かなひと時が過ぎていった。



 その翌日、奈月は、村長の息子と賢者の三人で、例の焼けた森に行った。歩くと一時間の道のりが、賢者の転移で一瞬だった。

「魔の気配は感じないな。奈月殿、念のため、トーチを掲げてみてくれ」

 奈月はトーチを高く掲げた。

「火をつけられるか」

 カチッ。

 ほわりとオレンジ色の炎が浮かんだ。しばらく待ったが変わりはなかった。

「もう大丈夫だろう。魔に反応すれば炎が青くなるはずだ」

 賢者の言葉に、村長の息子が深く息を吐いた。

「巫女様、賢者様、ありがとうございました。これで安心して森に入れます。少しでも早く森を再生できるように、明日から皆で頑張ります」

 奈月は村の人たちの笑顔を思い出して、心から安堵した。


 それから三日。
 賢者はまだ奈月を王宮に連れて行こうとしない。

「あの、賢者様、まだ王宮に行かなくて大丈夫なのでしょうか」

「うん? トーチの魔導陣に少し手直しをしようと考えておったのよ。どれ、ちょっと貸してみろ」

「何をするのですか」

「王宮に集まった者の中で、下種な考えをするやつを炙り出す小技だ。奈月殿に悪意を向ける者や、都合よく利用してやろうという者の前で火を灯せば、青い炎になる。改心したり、そんなことはしないと誓えばオレンジの炎に戻る。どうだ、余興としては面白かろう」

「悪趣味な気もしますが」

「連中は皆、腹に一物抱えている者ばかりだ。そうでなければ上の地位にいられない。巫女に関する小さな恥くらい、どうということもないさ」

「それより、トーチで魔を払うのに、私の歓喜や祝福を消費するのを止めることはできませんか」

「この間の飛竜退治で減ったと感じるのか?」

 奈月は思い返す。 
 結婚式や披露宴でたくさんのお祝いの言葉をいただいたことを。
 陽一と見つめ合って、人生で一番の幸せをかみしめたことを。
 どの瞬間も奈月の中で色褪せていない。

「いいえ。そのまま私の中にあります」

「だろう? あれは説明のための言葉の綾だ。実際には、対峙した魔を光に変えて鏡のように反射しているだけだ。歓喜と祝福は、その際の触媒に過ぎん。同じ量を光として返すから魔は消滅するのだ」

「触媒ということは、それ自体は変化しない?」

「しないな。減りも増えも変質もしない」

「なんだ。良かった」

 実は奈月は、陽一に対する愛情が目減りしていくのではと恐れていたのだ。いつか帰れると分かっていても、陽一と離れている時間が長引くほど、陽一が思い出の中の人に思えてくる。指輪のはまった薬指をギュッと握って、奈月は陽一の顔を思い出す。大丈夫だよ、といういつもの陽一の声が聞きたい。
 

「さて、トーチの方は整った。そろそろ王宮に行くか」

「あの、王宮に行くのにこの格好で大丈夫でしょうか。脱げないので着替えのしようもないのですが」

「何か言われたら、聖火の巫女の正装だと言っておけ」

「アクセサリーも外せないんですよね。どういう仕組みか分かりますか」

「ふむ、仮説はあるが、確証は持てない。トーチを持って暴れてくれれば、何かしら分かるかもしれん」

「私は時と場所を弁えていますから、王宮で暴れたりしません」

「意思を持ったトーチの方はどうかな」

 賢者が言うと、トーチは気のせいかキリッとして見えた。暴れないでよ、と奈月は願った。


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