異世界転生した俺は最強の魔導騎士になる

ひとつめ帽子

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第3章 少年期中編

第50話 一握りの者達

 フレデリックは普段から険しい顔をより険しくさせ、副団長のカルロスらが向かったであろう貧民街へと急ぐ。
事の発端はリゼットの護衛団を務める者達からの情報だ。
ギルバートの目撃証言に合わせ、連中が身体に施した呪いの力であるグール化。
奴らがいつ動いてもおかしくは無かったが、先日のアジトでの失態を考えれば入念に準備をしてから突入しておきたかった。
だからこそ突入は協力者達の準備も踏まえ、明日の昼前という指示をしたのだが、カルロス等は傭兵を何人も引き連れて朝一に飛び出してしまった。
夜通しで気配を消す事に長けている者に中の様子は伺ってもらってはいたが、得た情報は乏しい。
故に、相手がどのように待ち構えているのかもまだわからないのに……。

 もはや残っている傭兵団はほんの二十余名。
アジトで重傷を負った者が帰ってくればその倍以上にはなるが、帰還後にすぐ戦える訳も無い。
そして彼等を待っている猶予もまた無い。
今自分が指揮している傭兵団は新参者までいる寄せ集めの戦士達。
精鋭と呼べる者は僅か三人。
戦力不足も甚だしい。
昨日のうちにジーナスに訪れている冒険者達にも声を掛けたが、彼等との合流もまた昼前である。
グール対策として神官を幾人か連れて行く手筈も整えねばならず、どうしても時間がかかってしまうのだが、カルロスは待ちきれなかったのだろう……。

 ともかく、飛び出してしまった彼等の応援に向かう為にも近場で泊まったいた冒険者数人にも声をかけ、神官も四人引き連れてきた。
そしてもう一人、心強い味方も隣にいる。

 真っ赤な鱗をした二本足で立つトカゲに騎乗するのはリゼット・グレンジャー。
彼女が乗っているのはディノセイヴァー。
短い前足にも大地を踏みしめる両脚にも鋭い爪を持つかなり獰猛な魔獣だが、リゼットはそれを使役している。
狭い路地もディノセイヴァーなら縦横無尽に駆け回れる上、爪を使って壁までよじ登る。

「先発隊はどれくらい前に向かったんだい?」

 リゼットは手綱を握り締めて尋ねてくる。

「すでに飛び出して二時間は経っている。
急がねば手遅れになる」

「傭兵団の副団長って言えば“疾風の双刃”のカルロスだろ?
かなり腕の立つ奴だと聞いた事があるが……」

 リゼットはひょっとすると片付けてくれているかもしれんな、と軽口を叩くが、俺は頷く事もしなかった。

「相手がギルバートで無ければ、あるいはそうかもしれん。
しけし奴はいろんな意味で、想像を超えた外道なのだ。
そして純粋にかなり腕が立つ。
そんなギルバートとカルロスでは正反対の性格だ。
カルロスが冷静さを欠けば、間違いなく足元を掬われる」

 そう言ってギリッと歯噛みするフレデリック。
そんな話をしているうちに、貧民街が見えてきた。
そして、遠くから聞こえてくる悲鳴。
その声が、最悪の事態は既に起きている事を知らせているようであった。
先頭のフレデリックやリゼットが足を止めると、他の皆も停止した。

「お前達は神官を守れ。
ヨシュア、イーニッド、マルコ、構えろ」

 フレデリックは短く指示を飛ばし、左手に魔鉱石がはめ込まれた黒革のグローブを着けて、愛用のクレイモアを右手で構える。
ヨシュアと呼ばれた青年は長槍のパイク。
イーニッドと呼ばれた女性は杖を。
そしてマルコと呼ばれた中年の男は両手にそれぞれモーニングスターを構える。
その前にフレデリックとディノセイヴァーに乗ったリゼットが立ち、広い路地の奥を睨みつける。
貧民街につながる道はここだけである。

 すると、奥から貧相な体をした街の住人が我先にと大勢駆け出してくる。
その中には怪我をしている者もおり、それをここより先に行かせるわけにはいかなかった。

「魔術師達ッ!“スリープ”をかけろっ!!」

 その声にいち早く反応したのはイーニッド。

「“見えざる安らかな雲よ、彼等を眠りに誘いたまえ、スリープ・クラウド”ッ」

 素早い詠唱が終わり、魔法が解き放たれると前方の街の住人がバタバタと倒れて行く。
しかし、中には倒れない者がいた。
白目を剥き、顔色は青く変色し、口から血を垂れ流すその存在。
それが倒れ込んだ街の人に襲いかかろうとした瞬間、フレデリックが縮地にて地を駆け抜けその頭を斬り裂いた。

「次が来るぞっ!
ヨシュアッ!マルコッ!前に出ろッ!!」

 フレデリックの声を皮切りに、グールの群れが駆け込んできた。
その数の多さに新参者の傭兵団員は震え上がる。
しかし、先輩の団員に頬を叩かれ、倒れた街の人を守れッ!と指示され我にかえる。

 向かってくるグール達をまとめて薙ぎ倒す者。
それはリゼットである。
振るわれた鎖の鞭がグール達をまとめて建物の壁に打ち付ける。
直ぐ様リゼットが飛び降りると、ディノセイヴァーが大きく跳躍し、鋭い爪と牙で次々とグールの頭を粉砕していく。

「隙は私が作るッ!トドメを頼むよっ!」

 リゼットが声高にそう言うとフレデリック達は頷く。
ちらほらと街の人も逃げてくるので、そこは狙わないよう気を配りながらリゼットは鞭を振るう。
吹き飛ばされるグールをフレデリック、ヨシュア、マルコが正確に頭部を破壊し、その動きを止める。
僅かに討ち漏らしたグールもイーニッドが放つ疾風の刃が頭部を両断していく。

 あっという間に屍の山が出来上がる。
傷を負った街の人のもとへと神官がすぐに駆け寄り解呪と治癒を行い、グール化を防いでいく。
その最中もまたグール達の第二陣の群れがやってくる。
その後、一時間ほどの攻防が続き、グール達の姿が見えなくなった。
足元に転がる無数の死体の中に、フレデリックはカルロスを見つける。
そっと片膝をつき、目を瞑るフレデリック。
近寄ってきた傭兵団もまた、黙祷を捧げた。

「馬鹿者め……だから、待てと言っただろう……」

 声を絞り出すように、フレデリックは言い、

「遅くなって、すまなかった……」

 そう詫びた。
傭兵団の中には泣いている者もいた。
カルロスは面倒見のいい副団長だった。
新参者にも優しく、時に厳しいまさに模範となる者だったのだ。
故に、多くの者から慕われ、逆にカルロスもまた団員達を家族のように親しみを込めて接していた。
だからこそ、ギルバートの行いを誰よりも許せなかったのだ。

 フレデリックは悔恨を振り払うように首を振り、立ち上がる。

「……盗賊団の姿がない。
奴等はまだ街の中だッ!
次の手を打ってくるはず。
各自警戒を怠るなよッ!」

 フレデリックは自分に言い聞かせるように団員にも告げる。
団員は顔を引き締め頷いた。

「リゼット。
俺達は貧民街を一度見て回る。
お前は護衛団と冒険者等と合流し、手分けして街中を警備してくれ。
貧民街の安全が確保出来れば我々もすぐに向かう」

「承知した。
気をつけろよ、フレデリック」

「お前もな、リゼット」

 そう言葉を交わし、お互いに背を向ける二人。





 その後、リゼットは一度屋敷に戻り、護衛団の皆を集める。

「緊急事態だ。
傭兵団はほぼ壊滅状態。
現状、この街の戦力はかなり乏しい。
故に、我々も協力して街を守ろうと思う。
反対の者はいるか?」

 わかりきった質問でもあるが、念の為に聞いてみる。
皆薄く笑い、反対するような奴はいないと口には出さずに目で訴えてくる。

「……良いだろう。
サリア、ガウェンは街の東を見て回ってくれ。
ローランドとローラは街の西を。
私は空から見て回る。
ラントは時計台に登って敵の動向を探れ。
必要なら援護射撃を頼む。
それぞれ道中で冒険者に声を掛けて協力を仰げ。
いいな?」

 淀みのない指示をすると皆頷く。
そしてすぐ様それぞれ駆け出していった。

 心強い奴等である。

 リゼットは駆けていく彼等を見つめてそう思い、自分も駆け出した。

 皆と別れて向かった先は大きめな厩舎。
その中にはグリフォンが一匹大きな翼をはためかせながらこちらを見つめていた。
上質な肉を投げ渡すと、パクッと一飲みにするグリフォン。

「グリッド、仕事だ。
頼んだぞ」

 そう言ってリゼットはグリフォンに跨ると、外まで駆け出して一気に上昇する。

「グリッド、あまり高度を上げるなよ。
結界にぶち当たるからな」

 グリフォンの首筋を撫でながらリゼットは警告すると、グルルッと返事をしてくる。
リゼットは空から街を見下ろし、その様子を伺う。
すると、人目のつかない裏路地ばかりを選びながら駆けて行く集団を見つけた。
その内の幾人かは鉄仮面をつけている。
そいつらが向かう先……それを見上げてみればジャンの屋敷がある。

 奴等の狙いはそこか。

 即座に急降下し、リゼットは貧民街へと向かってフレデリックと合流する。
傭兵団らは貧民街を一通り見回ったようで、現在は修道院の中を団員達が捜索していた。

「そっちは何かわかったのか、リゼット」

「リンデント公爵の屋敷に連中向かってるぞ。
私一人では止められんかもしれん。
フレデリック、一緒に来れるか?」

 リゼットがそう言うと頷いたフレデリックが団員達に声を掛ける。

「マルコッ!こいつらはお前に任せるッ!
貧民街を見て回ったら街中へ行けッ!
盗賊共を残らず蹴散らすぞッ!」

 そう言い放つと、マルコが強く頷いた。
そしてフレデリックは大きく跳躍し、グリフォンに跨る。
騎乗したのを確認したリゼットは手綱を引き、再び空へと上昇する。
そして、リンデント公爵の屋敷へと急いで向かった。



 既に夕日へと変わりつつある中、リゼットは門の向こうへとふと目をやる。
まだ街より遥か遠くではあるが、ポツリポツリと人影らしきものが見える。
そいつらはジーナスの門に向かって真っ直ぐ走ってくる。

「まさか……連中、外からも来るのかッ!」

 リゼットの声にフレデリックも反応し、その視線の先を見やる。
それを見たフレデリックもまた苦い顔をする。

「……リゼット、公爵は俺一人で守りきる。
お前は引き連れてる魔獣を全て連れて門へ向かえ。
門番達だけで相手をしていたらグールを増やすばかりだ」

「馬鹿言うな。
お前の実力は認めるが、一人は無謀だ。
お前こそグールになるつもりかっ!」

 そんなやりとりをしてる間に、街中から悲鳴が聞こえてくる。

「リゼット、時間がないッ!
今は街の中だけでもジーナスは混乱している。
そこに外から更にグールの群れが飛び込んできたら収拾が付かない。
今はそれぞれやるべき事をするしかないッ!」

 フレデリックの声が響くと、リゼットはしばし黙り込み、その後頷いた。
空を駆け、屋敷へと向かうグリフォン。
ほんの数分で屋敷の中庭に降り立つと、フレデリックも即座に着地する。

「死ぬなよ、フレデリック」

 短く、けれど語気を強めてそう言うリゼット。

「死ぬつもりはない。
死ぬ気で守り通すつもりなだけだ。
お前も、武運を祈る」

 フレデリックはそう答えてクレイモアを握りしめる。
その力強い背中を一瞥し、リゼットはその場を離れる。
彼女が向かう先はジーナスの門。
そこにはグールと成り果てた盗賊達が数多く向かってくるのであった。



 この街の崩壊が近づいて来ている。
それを止められるかどうか。
それはほんの一握りの者達の手に委ねられていた。
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