クラフト生活をしながら同級生にコスプレさせて異世界をスローライフします

春風

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第32話 ~マフユと2人で~

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第32話 ~マフユと2人で~




朝靄が立ち込める森の中、私たち二人の足跡だけが静かに地面に刻まれていく。

「マフユ、そっちは大丈夫か?」


振り向くと海斗が木の根に足を取られないよう慎重に歩いていた。村から離れたこの奥地は普段ほとんど人が訪れない。


「問題ない。お前の心配するようなヤワな女じゃない」


そう言いながらも尻尾がぴくりと揺れる。実際は木の根に躓きそうになったのだ。

「そうか」


海斗は特に追及せず先に進む。こういう時、彼は深入りしない。それが私には心地よい。

---

最初に出会った日のことを思い出す。

あの日もこんな森の中だった。盗賊に襲われ、一族の掟を破りか私を彼は命懸けで救ってくれた。

「この男が……」

当時は信じられなかった。敵対する人族に助けられるなんて。しかも彼の目的は単純だった。

「助けたいから助けた」

ただそれだけの理由で命を張る人間。理解不能だった。

---

今でも完全には理解できていない。ただ……

「マフユ!」

突然海斗が大声を上げる。目の前に小型の魔獣が現れたのだ。

「任せろ」

反射的に腰の短剣に手をかけるが、海斗の方が早い。素手で魔獣の攻撃をいなし、即座に捕獲した。

「手慣れてるな」

呆れたような声が出る。彼の動きには一切無駄がない。

「素材確保は基本中の基本だからな」

こともなげに言うその姿に尻尾が微かに揺れる。胸が締め付けられるような感覚。

「ん?」

彼が私の尻尾を見て首を傾げる。しまった。感情が漏れてしまった。

「なんでもない」

慌てて尻尾を抑えようとするが制御できない。嬉しいのか悔しいのか自分でもわからない。ただ彼の強さに惹かれているのは確かだ。

「……手伝おうか?」

不意にかけられた言葉に心臓が跳ねる。どうやら私の苦悩が伝わってしまったらしい。

「必要ない!」

強く言い過ぎたかと思ったが彼は特に気にした様子もなく微笑んだ。その笑顔にまた尻尾が反応する。今度は大きく揺れた。

「わかったよ。無理するな」

そう言って背中を向ける海斗。追いかけようとして足を止める。彼の背中は広く頼もしい。

「あんな男に……」

独り言を漏らすが否定できない事実がある。私は彼の存在に心のどこかで安心感を覚えている。それどころか……

「好きなのか……?」

自分で思ったことに驚いた。そんなわけがない。これは恩返しの一環だ。それ以上でも以下でもない。

---

昼食時に事件は起きた。採取した果物を選別していると誤って落としてしまった。

「あっ……」

慌てて拾おうとした時、先に手を伸ばしたのは海斗だった。

「怪我は?」

至近距離で顔を覗き込まれ息が止まりそうになる。

「なっ……ない!」

飛び退くように距離を取り尻尾が激しく左右に振れる。こんな反応をするのは生まれて初めてだ。

「そうか。よかった」

彼は気にせず果物を丁寧に拭いている。その仕草一つ一つが目に焼き付く。馬鹿げている。彼はただの恩人なのに。

「あのな」

珍しく真面目な声で呼び止められる。

「何?」

警戒しながら向き直ると彼の手には綺麗に洗った果物があった。

「お礼」

そう言って私に差し出す。まるで子供扱いだ。

「いらん」

断ろうとするが既に手の中に入っていた。温もりが指先から伝わってくる。

「食べてみろ」

命令口調だが強制力はない。むしろ優しさが込められている。不本意ながら一口齧ると甘酸っぱい果汁が広がる。

「美味い……」

思わず漏れた言葉に彼の顔が緩んだ。それを見てまた尻尾が勝手に反応する。もう止められない。

「だろう?」

得意げな表情に苛立ちを覚える。だが不思議と嫌ではない。むしろ……

「ありがとう」

素直な言葉が口を突いて出た。自分でも驚くほど自然に出た言葉だった。

「どういたしまして」

海斗の笑顔は夕陽よりも眩しかった。

帰り道、並んで歩きながら考えた。私は一体どうなってしまったのだろう。この感情は一体何なのだろう。

「マフユ」

突然名前を呼ばれて我に返る。

「何だ?」

平静を装って返事をするが声が震えている。きっと彼にもバレている。

「また来よう」

簡潔な誘い文句だが私には十分だった。頷くだけで精一杯だった。

「ああ」

短い返事と共に尻尾が小さく揺れる。否定できない事実がある。私は彼の側にいたいと思っている。それこそが最大の問題なのだ。

この感情が恋なのか恩義なのか今はわからない。でも一つだけ確かなことがある。私はこの男から離れたくない。それだけは間違いようのない真実だ。
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