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第56話 ~無自覚の魔術師~
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第56話 ~無自覚の魔術師~
朝日の差し込むキッチンで鼻歌を歌いながら卵を割る。隣では海斗がパンをトースターに並べていた。昨夜の余韻を引きずったままの私たちにとって、新婚夫婦のようなこの時間が信じられないほど幸せだ。
「卵焼き焦げそう」
「え?」
慌ててフライパンに目を戻すと端っこが茶色くなりかけている。
「危ない……」
冷や汗を拭いながら菜箸で卵を整える。そんな私を海斗が横目で見ていた。
「代わるよ」
言葉と共に彼の腕が伸びてきた。自然な動作でフライパンを持ち上げる。
「えっ?大丈夫よ」
「手伝うよ」
海斗は当然のように言うと、器用に卵を返していく。その横顔が真剣で思わず見惚れてしまった。
(格好いいなぁ……)
こんな些細なことでも彼の魅力に気づかされる。心臓が早鐘を打ち始めた。
「できた」
「ありがとう……」
卵焼きの皿を受け取ろうとすると、不意に指先が触れた。ほんの一瞬の接触なのに全身が熱くなる。
「あっ……」
驚いた様子の海斗と目が合った。彼の瞳に映る自分の顔が真っ赤だ。
「ごめん……」
「いえ……」
気まずい沈黙が流れる。こんなことで動揺するなんて自分でも恥ずかしい。だけど海斗の指の感触がまだ残っていて……
「彩音」
不意に名前を呼ばれて顔を上げる。海斗の表情は真剣だった。
「手伝ってくれてありがとう」
「え?」
なぜか逆にお礼を言われたことに混乱する。
「いつも家事をやってもらってて申し訳なかったから……」
そういうことか。彼なりに気を遣ってくれたんだ。でもそれだけじゃない気もする。
「そろそろ皿運ぶぞ」
「うん」
会話を切り上げた海斗の耳が僅かに赤くなっているように見えた。気のせいだろうか?
---
テーブルに食器を並べながら彼の様子を伺う。海斗はサラダボウルを置くと私の前に立った。
「ソース取ってくれる?」
「あ、はい」
ソース差しを渡す瞬間、また指先が触れた。今度はもっとしっかり。海斗の大きな手が私の指を包み込むようにして受け取る。
「ん?」
海斗が怪訝な顔をする。きっと私の指が震えていたからだろう。
「彩音?大丈夫か?」
「だ、大丈夫!」
慌てて手を引っ込める。海斗の視線が心配そうに私を見つめていた。
「もしかして具合悪い?」
「違うの!」
必死に否定する。こんな些細なことで動揺する自分が情けない。
「実は……」
言いかけて止まる。正直に言うべきか迷った。海斗が不思議そうに首を傾げる。
「何?」
「その……」
言い淀む私に海斗が近づいてきた。椅子に座る私を見下ろす位置で屈み込んでくる。
「彩音?」
「近い……」
思わず呟くと海斗はハッとしたように身を引いた。
「ごめん!」
慌てて距離を取る海斗を見て申し訳なくなる。彼なりに気を遣ってくれてるのに。
「違うの!嫌とかじゃなくて……」
「?」
海斗の顔に疑問符が浮かぶ。ここで素直に言わないと誤解されてしまう。
「緊張しちゃって……」
「緊張?」
海斗が首を傾げる。無自覚なんだろう。だからこそ厄介だ。
「海斗が……近くにいるとドキドキするの」
「!」
初めて彼の表情が変わった。驚きと戸惑いが混ざったような顔。
「あ……ごめん」
「謝らないで!」
否定したくなる。彼のせいじゃない。私が勝手に意識してるだけだ。
「海斗の……その……優しいところとか……格好いいところとか……見てるとドキドキしちゃうの」
言い終わって顔を伏せる。恥ずかしくて死にそうだ。海斗の反応が怖い。
「そうだったのか……」
海斗の声が聞こえた。顔を上げると彼は微妙に顔を赤くしている。
「ごめん……そういうつもりじゃなくて……」
「分かってるよ」
笑顔で返す。海斗が困った顔をしているのが可愛い。
「俺……いつも気づかないんだよな」
「え?」
「彩音がどういう気持ちでいるか……ちゃんと見てなかった」
海斗の言葉に胸が温かくなる。彼は本当に優しい。
「私こそ……過剰に反応しちゃってごめんね」
「いや……嬉しいよ」
予想外の言葉に驚く。海斗が微笑んでいた。
「彩音が俺のこと意識してくれてるって分かって……嬉しい」
「海斗……」
心臓が跳ね上がる。こういうことをさらっと言ってしまうのが彼の無自覚な攻めなのかもしれない。
「でも……どうすればいいんだろう」
「どうって?」
「これから一緒に暮らすわけだし……気まずいのも嫌だし……」
海斗が真剣に悩んでいる。それがまた可愛いと思ってしまう。
「そのままでいいと思うよ」
「え?」
「海斗は今まで通り接してくれれば……私は勝手にドキドキするから」
冗談めかして言うと海斗が吹き出した。
「なんだそれ」
「本当だよ?」
笑い合う私たち。ようやく緊張が解けた感じがする。
「じゃあ……」
海斗が席に戻ろうとした瞬間—
「彩音」
「なに?」
不意に名前を呼ばれて顔を上げる。海斗の目が私を捉えていた。
「可愛い」
一瞬で時が止まった。海斗の表情は至って真剣で、それがまた破壊力抜群だ。
「え……」
「今……すごく可愛い顔してたから」
無自覚に爆弾を投下した海斗はそのまま席に戻ってしまった。残された私は呆然とするしかない。
(本当に無自覚なんだ……)
この人の天然っぷりは想像以上だ。心臓が激しく鼓動するのを感じながら思う。
(好きすぎる……)
テーブルに突っ伏して悶絶する私を見て海斗が不思議そうな顔をしている。この無自覚の魔術師に勝てる日は来るのだろうか……
「彩音?大丈夫か?」
「む……無理……」
頬を押さえながら呻く私に海斗が近づいてくる。
「具合悪い?」
「違います!」
慌てて否定する。海斗の優しさが今の私には毒だ。
「じゃあなんで伏せてるんだ?」
「海斗の……せいです!」
つい八つ当たりみたいな口調になってしまう。海斗が困惑した顔をする。
「俺の?」
「さっき……可愛いって……」
言いかけて恥ずかしくなる。海斗はますます不思議そうな顔をした。
「それは……本当のことだけど」
「だからぁ!」
今度こそ耐えられなくなって立ち上がる。海斗が驚いた顔で見上げている。
「海斗ってば本当に!」
文句を言おうと思ったのに言葉が出てこない。彼の前だとどうしても素直になれない。
「彩音?」
「もう!いいから早く食べよう!」
誤魔化すように席に戻る。海斗はまだ困惑した表情のままだった。
「変な彩音……」
「変なのは海斗の方でしょ!」
言い返しながらフォークを握る。海斗は小さく笑ってから朝食に手をつけた。
(なんでこうなるんだろう……)
海斗は無自覚に私を翻弄する。それが腹立たしくもあり、嬉しくもある。
「彩音」
「なに?」
「本当に具合悪くない?」
「うん」
笑顔で答える。海斗は安心したようにパンを千切った。
(この人と一緒にいると飽きないな……)
照れくさい気持ちを抱えながらも心からそう思う。海斗との毎日はきっと刺激的で幸せなものになるだろう。
「彩音」
「また?」
「俺たち……これからどんな未来になるんだろうな」
「未来?」
唐突な問いに首を傾げる。海斗はパンを口に運びながら続けた。
「家族ができたり……仕事始めたり……色々あるだろ?」
「あ……」
そうか。私たちには長い人生がある。一緒に歩んでいく未来が。
「そうだね……」
考えるだけで胸が高鳴る。海斗と一緒に過ごす時間が増えれば増えるほど、この気持ちも大きくなっていくんだろう。
「俺はさ」
「うん?」
「彩音と一緒なら……どんな困難も乗り越えられる気がする」
「海斗……」
こんなことをさらっと言ってしまうところがずるい。完全に落とされてしまっている。
「私も……海斗と一緒なら何だってできる気がする」
「本当か?」
「うん」
互いに見つめ合って微笑む。言葉にしなくても分かり合えるような感覚があった。
「じゃあ……」
「ん?」
「これからもよろしくな」
海斗が手を差し出してくる。その手を掴むと温かい感触が伝わってきた。
「こちらこそ」
握り返す手に力を込める。この先何があっても、この手を離さないと決めた。
「彩音」
「なに?」
「幸せだな」
「うん……」
自然と笑みがこぼれる。海斗との日常はまだまだ始まったばかりだ。たくさんの出来事が待っているだろうけど、それも楽しみでしかない。
(きっと毎日が幸せで溢れてる)
そう確信しながら朝食を再開する。海斗との新しい生活がこれから始まる—。
朝日の差し込むキッチンで鼻歌を歌いながら卵を割る。隣では海斗がパンをトースターに並べていた。昨夜の余韻を引きずったままの私たちにとって、新婚夫婦のようなこの時間が信じられないほど幸せだ。
「卵焼き焦げそう」
「え?」
慌ててフライパンに目を戻すと端っこが茶色くなりかけている。
「危ない……」
冷や汗を拭いながら菜箸で卵を整える。そんな私を海斗が横目で見ていた。
「代わるよ」
言葉と共に彼の腕が伸びてきた。自然な動作でフライパンを持ち上げる。
「えっ?大丈夫よ」
「手伝うよ」
海斗は当然のように言うと、器用に卵を返していく。その横顔が真剣で思わず見惚れてしまった。
(格好いいなぁ……)
こんな些細なことでも彼の魅力に気づかされる。心臓が早鐘を打ち始めた。
「できた」
「ありがとう……」
卵焼きの皿を受け取ろうとすると、不意に指先が触れた。ほんの一瞬の接触なのに全身が熱くなる。
「あっ……」
驚いた様子の海斗と目が合った。彼の瞳に映る自分の顔が真っ赤だ。
「ごめん……」
「いえ……」
気まずい沈黙が流れる。こんなことで動揺するなんて自分でも恥ずかしい。だけど海斗の指の感触がまだ残っていて……
「彩音」
不意に名前を呼ばれて顔を上げる。海斗の表情は真剣だった。
「手伝ってくれてありがとう」
「え?」
なぜか逆にお礼を言われたことに混乱する。
「いつも家事をやってもらってて申し訳なかったから……」
そういうことか。彼なりに気を遣ってくれたんだ。でもそれだけじゃない気もする。
「そろそろ皿運ぶぞ」
「うん」
会話を切り上げた海斗の耳が僅かに赤くなっているように見えた。気のせいだろうか?
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テーブルに食器を並べながら彼の様子を伺う。海斗はサラダボウルを置くと私の前に立った。
「ソース取ってくれる?」
「あ、はい」
ソース差しを渡す瞬間、また指先が触れた。今度はもっとしっかり。海斗の大きな手が私の指を包み込むようにして受け取る。
「ん?」
海斗が怪訝な顔をする。きっと私の指が震えていたからだろう。
「彩音?大丈夫か?」
「だ、大丈夫!」
慌てて手を引っ込める。海斗の視線が心配そうに私を見つめていた。
「もしかして具合悪い?」
「違うの!」
必死に否定する。こんな些細なことで動揺する自分が情けない。
「実は……」
言いかけて止まる。正直に言うべきか迷った。海斗が不思議そうに首を傾げる。
「何?」
「その……」
言い淀む私に海斗が近づいてきた。椅子に座る私を見下ろす位置で屈み込んでくる。
「彩音?」
「近い……」
思わず呟くと海斗はハッとしたように身を引いた。
「ごめん!」
慌てて距離を取る海斗を見て申し訳なくなる。彼なりに気を遣ってくれてるのに。
「違うの!嫌とかじゃなくて……」
「?」
海斗の顔に疑問符が浮かぶ。ここで素直に言わないと誤解されてしまう。
「緊張しちゃって……」
「緊張?」
海斗が首を傾げる。無自覚なんだろう。だからこそ厄介だ。
「海斗が……近くにいるとドキドキするの」
「!」
初めて彼の表情が変わった。驚きと戸惑いが混ざったような顔。
「あ……ごめん」
「謝らないで!」
否定したくなる。彼のせいじゃない。私が勝手に意識してるだけだ。
「海斗の……その……優しいところとか……格好いいところとか……見てるとドキドキしちゃうの」
言い終わって顔を伏せる。恥ずかしくて死にそうだ。海斗の反応が怖い。
「そうだったのか……」
海斗の声が聞こえた。顔を上げると彼は微妙に顔を赤くしている。
「ごめん……そういうつもりじゃなくて……」
「分かってるよ」
笑顔で返す。海斗が困った顔をしているのが可愛い。
「俺……いつも気づかないんだよな」
「え?」
「彩音がどういう気持ちでいるか……ちゃんと見てなかった」
海斗の言葉に胸が温かくなる。彼は本当に優しい。
「私こそ……過剰に反応しちゃってごめんね」
「いや……嬉しいよ」
予想外の言葉に驚く。海斗が微笑んでいた。
「彩音が俺のこと意識してくれてるって分かって……嬉しい」
「海斗……」
心臓が跳ね上がる。こういうことをさらっと言ってしまうのが彼の無自覚な攻めなのかもしれない。
「でも……どうすればいいんだろう」
「どうって?」
「これから一緒に暮らすわけだし……気まずいのも嫌だし……」
海斗が真剣に悩んでいる。それがまた可愛いと思ってしまう。
「そのままでいいと思うよ」
「え?」
「海斗は今まで通り接してくれれば……私は勝手にドキドキするから」
冗談めかして言うと海斗が吹き出した。
「なんだそれ」
「本当だよ?」
笑い合う私たち。ようやく緊張が解けた感じがする。
「じゃあ……」
海斗が席に戻ろうとした瞬間—
「彩音」
「なに?」
不意に名前を呼ばれて顔を上げる。海斗の目が私を捉えていた。
「可愛い」
一瞬で時が止まった。海斗の表情は至って真剣で、それがまた破壊力抜群だ。
「え……」
「今……すごく可愛い顔してたから」
無自覚に爆弾を投下した海斗はそのまま席に戻ってしまった。残された私は呆然とするしかない。
(本当に無自覚なんだ……)
この人の天然っぷりは想像以上だ。心臓が激しく鼓動するのを感じながら思う。
(好きすぎる……)
テーブルに突っ伏して悶絶する私を見て海斗が不思議そうな顔をしている。この無自覚の魔術師に勝てる日は来るのだろうか……
「彩音?大丈夫か?」
「む……無理……」
頬を押さえながら呻く私に海斗が近づいてくる。
「具合悪い?」
「違います!」
慌てて否定する。海斗の優しさが今の私には毒だ。
「じゃあなんで伏せてるんだ?」
「海斗の……せいです!」
つい八つ当たりみたいな口調になってしまう。海斗が困惑した顔をする。
「俺の?」
「さっき……可愛いって……」
言いかけて恥ずかしくなる。海斗はますます不思議そうな顔をした。
「それは……本当のことだけど」
「だからぁ!」
今度こそ耐えられなくなって立ち上がる。海斗が驚いた顔で見上げている。
「海斗ってば本当に!」
文句を言おうと思ったのに言葉が出てこない。彼の前だとどうしても素直になれない。
「彩音?」
「もう!いいから早く食べよう!」
誤魔化すように席に戻る。海斗はまだ困惑した表情のままだった。
「変な彩音……」
「変なのは海斗の方でしょ!」
言い返しながらフォークを握る。海斗は小さく笑ってから朝食に手をつけた。
(なんでこうなるんだろう……)
海斗は無自覚に私を翻弄する。それが腹立たしくもあり、嬉しくもある。
「彩音」
「なに?」
「本当に具合悪くない?」
「うん」
笑顔で答える。海斗は安心したようにパンを千切った。
(この人と一緒にいると飽きないな……)
照れくさい気持ちを抱えながらも心からそう思う。海斗との毎日はきっと刺激的で幸せなものになるだろう。
「彩音」
「また?」
「俺たち……これからどんな未来になるんだろうな」
「未来?」
唐突な問いに首を傾げる。海斗はパンを口に運びながら続けた。
「家族ができたり……仕事始めたり……色々あるだろ?」
「あ……」
そうか。私たちには長い人生がある。一緒に歩んでいく未来が。
「そうだね……」
考えるだけで胸が高鳴る。海斗と一緒に過ごす時間が増えれば増えるほど、この気持ちも大きくなっていくんだろう。
「俺はさ」
「うん?」
「彩音と一緒なら……どんな困難も乗り越えられる気がする」
「海斗……」
こんなことをさらっと言ってしまうところがずるい。完全に落とされてしまっている。
「私も……海斗と一緒なら何だってできる気がする」
「本当か?」
「うん」
互いに見つめ合って微笑む。言葉にしなくても分かり合えるような感覚があった。
「じゃあ……」
「ん?」
「これからもよろしくな」
海斗が手を差し出してくる。その手を掴むと温かい感触が伝わってきた。
「こちらこそ」
握り返す手に力を込める。この先何があっても、この手を離さないと決めた。
「彩音」
「なに?」
「幸せだな」
「うん……」
自然と笑みがこぼれる。海斗との日常はまだまだ始まったばかりだ。たくさんの出来事が待っているだろうけど、それも楽しみでしかない。
(きっと毎日が幸せで溢れてる)
そう確信しながら朝食を再開する。海斗との新しい生活がこれから始まる—。
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