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メッセージ
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「あー・・・ アリス、このメッセージを聞いてるって事は魔族の包囲を抜けて王都に来たってことだな。 相当、腕を上げたんだろう。 それを見れないのが残念だ」
ロザリンドさんの掌から浮かんだ光の球体からノイマンの声が聞こえる。
少し苦しそうに聴こえるのは私を助けたすぐ後のせいだろうか・・・
「もう知ってるかも知れないが、俺は人間じゃない。 人造人間といってな、俺を創ったのは天秤の大賢者フォン・ヴァンデルフだ。 君を救うために俺の心臓を君に渡した。 アリス、君を助けたのは君の事が好きだったからだ。 それ以上でも、それ以下でもない。 どうか気に病まないでくれ、俺は十分に生きた。 最後に大切な人の命を救えたのは俺にとって上出来な人生だった」
ここまで一息に喋って咳ばらいをした。
「メッセージがこれだけならマスターに伝えて終わりだったんだがな、わざわざ王都まで来たんだ。 ここまで来るのに随分時間も掛かっただろう? 気持ちの整理がついた頃に言うのが良いと思ってな。 俺の足跡を辿って旅をしてるんなら俺の事はもういい、せっかく自由を手に入れたんだ。 俺の事は適当に胸に閉まっておいて自分の旅を始めろ。 お節介な俺の姉が今からいろいろ言うかも知れないが、俺の使命やなんかをお前が背負う必要は全く無い。 自分の行きたい場所へ行き、やりたい事をやれ。 俺からのメッセージは以上だ、幸運を祈る」
声が途絶えた。
久しぶりに聞いたノイマンの声、短いメッセージ。
散々泣いたのに声を聴いたせいでまた涙が流れた。
「貴女へのメッセージはここまで、きっと最後の魔力を使って送ったんでしょうね。
クッキーをひと口お食べなさいな、気分が落ち着くわ」
ロザリンドさんが優しく声をかけてくれる。
ロザリンドさんの瞳もランプに照らされて涙が光っていた。
テーブルの上のクッキーに手を伸ばし、ひと口かじる、じわりと酸味が広がった。
遅れて甘みがついてくる。
おいしい、何だか今の気分によく合う味だ。
「干した山葡萄が入ってるの、あの子の好きな味よ」
ロザリンドさんもクッキーをひと口かじって紅茶をすする。
「はぁ、さて・・・
何から話しましょうか、私たち姉弟の使命か。 ノイマンの旅の目的か、それに貴女の紋章の事もあるわね。 貴女はなにが知りたいかしら?」
私はティーカップをソーサラーに戻し、今言われた疑問を考える。
私はノイマンの事が知りたくて王都までやって来た、だからやっぱり。
「ノイマンの事を教えてもらえますか? 彼が旅に出た理由はウェインから聞いたことがあるのですが・・・」
ウェインは王を殺して姿をくらませたと言っていた。
ロザリンドさんの表情が暗くなった。
「王の話しは聞いたのね?」
私も暗い表情で頷いた。 ノイマンは王に子供を殺されたと言っていた。
この話題は何度思い返しても気分が悪くなる。
「そう・・・
ノイマンはあの事件の後、役目を終わらせる。 私にそう言い残して王都を去っていったわ。 私達、姉弟の役目は王都を護り続けていくこと。 その役目を終わらせるということは魔王の封印を解いて王都を壊滅させるか、王都を包囲している魔族を滅ぼすかのどちらか。 あの子は王都を壊滅させる以外の道を選んだようだけど、その方法を探すのがノイマンの目的だった」
ロザリンドさんは紅茶をひと口含んだ。
いろんな思いも一緒に飲み込むようにごくりと音をたてて飲み下し、フーッと息をついた。
あんな事件があった後にノイマンは自分の使命を投げ出さず、終わらせるために旅に出たんだ。
私もティーカップを手に取り、熱い紅茶をひと口含んでごくりと飲み込んだ。
「ノイマンに一度、なにを探しているのか聞いたことがあるんです。 そしたら彼は探し物をしていると言っていました。 あるのかどうかも分からない、もしかしたら無い物を探しているのかも知れないって。 それは魔族を滅ぼす方法だったんでしょうか?」
何かが腑に落ちない・・・
「それはどうかしら、あの子は魔族を滅ぼそうとは思っていなかったと思うわ」
フェムノも言っていた、魔族を憎しみや恨みの籠らない眼で見てきたのはノイマンだけだと。
魔族を滅ぼさず、王都も救う方法・・・
王都が開放されれば自分の使命から開放される。
そんな方法あるんだろうか?
確かにあるのか無いのか分からない探し物だな。
「それを見つける前に私のせいで・・・
探し物を途中でやめてまで私を助けることにノイマンは悔いは無かったんでしょうか?」
ノイマンの目的を聞くとますます自分を助けた理由が分からない。 王都にはたくさんの人が住んでいる、ノイマンはそのたくさんの人達を護るために大賢者が産み出した存在だ。 それなのに私を助ける為に全てを投げ出してしまうだろうか?
「あの子は悔いには思っていないはずよ、それは間違いないわ。 むしろその場であなたを助けなかったらその方が後悔することをよく分かっている。 だからあなたが目の前で倒れたときは躊躇なく助けたんでしょうね。
同じ思いは二度としたくないでしょう・・・」
そう言って俯いたロザリンドさんの瞳は涙で光っていた。
「・・・同じ思いって言うのは、ノイマンの子供の話ですか?」
あたしの問いにロザリンドさんは頷いた。
ロザリンドさんの掌から浮かんだ光の球体からノイマンの声が聞こえる。
少し苦しそうに聴こえるのは私を助けたすぐ後のせいだろうか・・・
「もう知ってるかも知れないが、俺は人間じゃない。 人造人間といってな、俺を創ったのは天秤の大賢者フォン・ヴァンデルフだ。 君を救うために俺の心臓を君に渡した。 アリス、君を助けたのは君の事が好きだったからだ。 それ以上でも、それ以下でもない。 どうか気に病まないでくれ、俺は十分に生きた。 最後に大切な人の命を救えたのは俺にとって上出来な人生だった」
ここまで一息に喋って咳ばらいをした。
「メッセージがこれだけならマスターに伝えて終わりだったんだがな、わざわざ王都まで来たんだ。 ここまで来るのに随分時間も掛かっただろう? 気持ちの整理がついた頃に言うのが良いと思ってな。 俺の足跡を辿って旅をしてるんなら俺の事はもういい、せっかく自由を手に入れたんだ。 俺の事は適当に胸に閉まっておいて自分の旅を始めろ。 お節介な俺の姉が今からいろいろ言うかも知れないが、俺の使命やなんかをお前が背負う必要は全く無い。 自分の行きたい場所へ行き、やりたい事をやれ。 俺からのメッセージは以上だ、幸運を祈る」
声が途絶えた。
久しぶりに聞いたノイマンの声、短いメッセージ。
散々泣いたのに声を聴いたせいでまた涙が流れた。
「貴女へのメッセージはここまで、きっと最後の魔力を使って送ったんでしょうね。
クッキーをひと口お食べなさいな、気分が落ち着くわ」
ロザリンドさんが優しく声をかけてくれる。
ロザリンドさんの瞳もランプに照らされて涙が光っていた。
テーブルの上のクッキーに手を伸ばし、ひと口かじる、じわりと酸味が広がった。
遅れて甘みがついてくる。
おいしい、何だか今の気分によく合う味だ。
「干した山葡萄が入ってるの、あの子の好きな味よ」
ロザリンドさんもクッキーをひと口かじって紅茶をすする。
「はぁ、さて・・・
何から話しましょうか、私たち姉弟の使命か。 ノイマンの旅の目的か、それに貴女の紋章の事もあるわね。 貴女はなにが知りたいかしら?」
私はティーカップをソーサラーに戻し、今言われた疑問を考える。
私はノイマンの事が知りたくて王都までやって来た、だからやっぱり。
「ノイマンの事を教えてもらえますか? 彼が旅に出た理由はウェインから聞いたことがあるのですが・・・」
ウェインは王を殺して姿をくらませたと言っていた。
ロザリンドさんの表情が暗くなった。
「王の話しは聞いたのね?」
私も暗い表情で頷いた。 ノイマンは王に子供を殺されたと言っていた。
この話題は何度思い返しても気分が悪くなる。
「そう・・・
ノイマンはあの事件の後、役目を終わらせる。 私にそう言い残して王都を去っていったわ。 私達、姉弟の役目は王都を護り続けていくこと。 その役目を終わらせるということは魔王の封印を解いて王都を壊滅させるか、王都を包囲している魔族を滅ぼすかのどちらか。 あの子は王都を壊滅させる以外の道を選んだようだけど、その方法を探すのがノイマンの目的だった」
ロザリンドさんは紅茶をひと口含んだ。
いろんな思いも一緒に飲み込むようにごくりと音をたてて飲み下し、フーッと息をついた。
あんな事件があった後にノイマンは自分の使命を投げ出さず、終わらせるために旅に出たんだ。
私もティーカップを手に取り、熱い紅茶をひと口含んでごくりと飲み込んだ。
「ノイマンに一度、なにを探しているのか聞いたことがあるんです。 そしたら彼は探し物をしていると言っていました。 あるのかどうかも分からない、もしかしたら無い物を探しているのかも知れないって。 それは魔族を滅ぼす方法だったんでしょうか?」
何かが腑に落ちない・・・
「それはどうかしら、あの子は魔族を滅ぼそうとは思っていなかったと思うわ」
フェムノも言っていた、魔族を憎しみや恨みの籠らない眼で見てきたのはノイマンだけだと。
魔族を滅ぼさず、王都も救う方法・・・
王都が開放されれば自分の使命から開放される。
そんな方法あるんだろうか?
確かにあるのか無いのか分からない探し物だな。
「それを見つける前に私のせいで・・・
探し物を途中でやめてまで私を助けることにノイマンは悔いは無かったんでしょうか?」
ノイマンの目的を聞くとますます自分を助けた理由が分からない。 王都にはたくさんの人が住んでいる、ノイマンはそのたくさんの人達を護るために大賢者が産み出した存在だ。 それなのに私を助ける為に全てを投げ出してしまうだろうか?
「あの子は悔いには思っていないはずよ、それは間違いないわ。 むしろその場であなたを助けなかったらその方が後悔することをよく分かっている。 だからあなたが目の前で倒れたときは躊躇なく助けたんでしょうね。
同じ思いは二度としたくないでしょう・・・」
そう言って俯いたロザリンドさんの瞳は涙で光っていた。
「・・・同じ思いって言うのは、ノイマンの子供の話ですか?」
あたしの問いにロザリンドさんは頷いた。
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