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2話〜異界の聖剣・フェムノ

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時の大神・クーンアールに選ばれし勇者。

その勇者が本来なら持つべきだった聖剣。

この聖剣はなんでも、別の次元の世界を救ったという、とんでもない曰く付きの剣だ。

だが、勇者は聖剣を取ることなく魔王を倒し、私同様に行き場を失い今は意味もなく私が持ち歩いている。

『まぁ、そういう事だな。 我もお主同様に活躍の場を得ることは無くなった』

バーンダーバのまとめに聖剣が同意の意を示す。

聖剣がバーンダーバに話しかけている。

「お前、喋れたのか?」

『まぁな、我が気に入った所有者にのみ話しかけている』

「・・・なんで、今更になって私に喋りかけてきたのだ?」

バーンダーバが迷宮から聖剣をもって出て、魔王城から追放されてもう何年もふらふらと行く宛もなく歩いていた。

迷宮で一緒にいた時も合わせるともう何年になるか分からない。

その間、聖剣は喋るどころか、そんな素振りを見せたことすら一度もない。

『もちろん、お主があまりにも哀れだから話しかけてやったのだ』

・・・

・・・・・・

「ふふ」

『くく』

「はぁーはっはっは」

『かぁーはっはっは』

滑稽にも程がある。

まさか、誰からも見放されて最後に自分に声をかけてくるのが聖剣とは。

そう思い、バーンダーバは腹の底から笑った。

笑いすぎてバーンダーバの目にはうっすらと涙が流れていた。

「哀れか、そうだな、今の私は哀れ以外の何物でもないな」

『そう卑下するな、こんな事を言っている我も似たような物だ。 この世界の神に魔王を打ち払う為に異界から召喚されて結局使われず仕舞いなのだからな。 かははは』

何も無い荒野の地面に座り込み、剣を目の前に掲げて喋る自分はどれほど滑稽なのか。

しかも、その内容はまるでお互いを慰め合うような物だ。

それを思うとまた笑いが込み上げてきた。

「ははは、それで、傷を舐め合うように私に喋りかけてきた、という訳か」

『そういう事だ、もう、お主は随分と宛もなく歩いている。 そろそろ、なにか目的を定めてもいいのではないか?』

「目的もなにも、魔王様亡き後、私には何も目的が無い」

『つまらんことを言うな、我はな、その昔、自分の主君である魔王を裏切って人間側に付いたのだ。 その理由はな、人間と戦うよりも同胞である魔族と戦った方が楽しそうだと踏んだからだ』

「ほぅ、面白い話だな。 お前は随分と争うのが好きだったんだな」

『あぁ、我は闘争の女神ゼラネイア様の5人の神子の1人、魔王ガーシャル様の眷属だ』

「本能のままに闘争に走り、自らの親を裏切るとは。 とんだ孝行息子だな」

『そんな事よりも今はお主の話だ、いい加減になにか目的を持ってはどうなんだ?』

「ふむ、目的か・・・ 私は・・・」

魔界でも、魔族とエルフの混血で差別され居場所など無かった。

行く宛もなく、だが死にたくも無く。

ただ、その日を生きる為に魔界のスラム街を彷徨っている所を魔王様に拾われた。

〈俺はお前のようなガリガリの餓鬼ばっかりの魔界を変えたい、先ずは魔界を統一して、その先は自然が豊富な現界に行き、資源を得て魔界を豊かにするつもりだ。 お前もそれに力を貸せ〉

それが、バーンダーバが生涯命をかけて忠誠を誓う事になる魔王ダーバシャッドとの出会いだった。

最初はなんとむちゃくちゃなオッサンだとバーンダーバは思った。

だが、初めて誰かに認められたのが嬉しくてバーンダーバは必死に強くなってこのオッサンの力になろうと頑張った。

だが、バーンダーバは魔王の危機にその場のいる事が出来なかった・・・

何も無い

そうバーンダーバは思った。

私には、この先の目的と言える物がなにも・・・

「わた・」

「きゃあぁぁーーーー!」

バーンダーバが言いかけた時、絹を裂くような女の悲鳴が響き渡った。

反射的にバーンダーバは何も考えず、聖剣を持って悲鳴の聞こえた方へと走る!

距離にして約2km、バーンダーバはものの2分でその距離を疾駆して現場に駆けつけた。

そこに居たのはエルフの女とそれを喰おうと大口を開けているベヒーモス。

バーンダーバの姿を認めるとベヒーモスは「ぐるるるる」と威圧する様に喉を鳴らした。

体長3メートルはありそうなベヒーモスが標的をバーンダーバに変え、後ろ足で立ち上がって「があぁぁぁっ」っと咆哮をあげた!

バーンダーバはベヒーモスに向かって剣を持っていない方の手を向け、掌で“待て”をしながら

「出来れば殺したくはない、お前も喰わねば生きていけんだろうが、見てしまった以上、同族を見殺しにするのも気が引ける。 大人しく引き下がってはもらえないか?」

ベヒーモスに向かって静かに語りかけた。

一瞬、睨み合いが続くかに思われたがベヒーモスは後ろ足を蹴り出して襲いかかってきた。

溜息をついて聖剣を地面に突き立て、弓に矢をつがえる動作をすると漆黒の弓矢が魔力によってその手に具現化された!

弦を放すと漆黒の矢が音も立てずに消えたような速さで飛び、ベヒーモスの眉間に風穴を開けた。

その一連の動作はほんの一瞬の出来事でベヒーモスは後ろ足を蹴り出した場所から寸分を動かずに屑折れた。

「大丈夫か?」

バーンダーバが見下ろす女は年の頃は10代半ば程、旅人のような格好をしてはいるがボロボロで浮浪者と見分けがつかない程だ。

エルフには珍しい赤い髪に、控えめな胸の女性が多いエルフにはまた珍しい豊満な胸をしていた。

「あ、ありがとうございました」

「酷い格好だな、冒険者か?」

「あぁ、はい、そんな様なものです」

なんとも言い難い返答が帰ってきた、バーンダーバの事を警戒しているような素振りも無い。

「そうか」

バーンダーバもなんと言っていいか分からず、次の言葉が見つからなかった。

『女よ、何故こんな所にいたのだ?』

沈黙を破ったのは物言わぬハズの剣だった。

女もなにがなんだか分からずにキョトンとした顔をしている。

バーンダーバもなんと説明してよいやら黙ってしまった。

・・・

・・・・・・

『おい、黙るな』

聖剣のツッコミが荒野に虚しく響いた。
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