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3話〜勇者にフラれた3人組

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ぐうぅぅ~~。

沈黙を破ったのは女の腹の虫だった。

「ふふ、腹が減ったか。 折角だ、死んだ者を弔うとしよう」

お腹を押さえて恥ずかしそうに顔を赤らめる女を尻目にバーンダーバはベヒーモスを捌きにかかった。

「あの、いいです。 助けて頂いた上にご馳走にまでなれません」

「そうか、なら、手伝ってくれ。 火は起こせるか? それと、鍋かなにかを持っていたら貸してほしい」

バーンダーバの言葉に女は「あっ」と小さく声を上げて離れた場所に落ちていたリュックを走って取りに行き、走って戻ってきた。

リュックの中から鍋を取り出して脇に置き、石を組んで土台を作ってその上に鍋を置いた。

魔法で火を起こし、鍋の中に魔法で水を満たす。

何百回とやったのであろう、手際がいい。

バーンダーバはそれをチラリと見ながら魔力で短剣を創り出し、それで手際よくベヒーモスを捌いていく。

『おい、女よ、我の質問に答えよ』

聖剣の声に女が手を止めてバーンダーバの方を見る。

「聖剣よ、話なら食いながらで良いではないか」

聖剣の方を向かずにバーンダーバが答える、聖剣は『ふむ、それもそうか』と言って黙った。

女は少し首を傾げつつもまた作業に戻った。

バーンダーバが鍋に切り分けたベヒーモスの肉を入れ、女が持っていた塩と香草を入れて鍋に蓋をする。

コトコトと鍋の音だけが荒野に響く。

『ううんっ』、と聖剣が咳払いをする。

特に意味もなく鍋を見つめていたバーンダーバとエルフの女が顔をあげる。

「うるさいヤツだな、全く。 驚かせてすまない、私はバーンダーバ、コッチはお喋りな聖剣だ」

「え!? 聖剣!? すみません、今、聖剣って言いましたか?」

ひっくり返りそうな勢いで立ち上がってエルフの女が声をひっくり返しながら半ば叫び声のように聞いた。

『如何にも、我は聖剣と呼ばれている。 名はフェムノだ、二人とも聖剣よりもフェムノという名で呼んで欲しい。 して、お前の名はなんというのだ?』

「あた、私はフェイと言います」

『して、フェイよ。 何故こんな荒野に1人でいるのだ?』

「それは、その、故郷を出て冒険者になって。 旅をしていたんです」

フェイが言葉を濁す。

「そろそろ肉が煮えるだろう、食べながら話そう」

言いづらそうにしているフェイの話を遮るようにバーンダーバが鍋の蓋を開ける。

フェイは皿を1枚出して肉を載せてバーンダーバに渡した、自分は鍋の蓋に肉を載せている。

「それじゃ、いただくとしよう」

「あの、いただきます」

2人はベヒーモスの肉を口を大きく開けて頬張った。

「美味しい」

「ん、美味いな」

それだけ言うと2人はまた黙って肉を頬張る。

・・・

・・・・・・

『おい、食いながら話すと言っていたではないか。 黙るな』

「お前は何年も喋らなかった癖に喋り出した途端に喋れ喋れとうるさい奴だな」

バーンダーバがフェムノを見て可笑しそうに笑った。

「あの、なんで聖剣がこんな所に?」

『フェイ、我はフェムノだ。 聖剣は称号であり名ではない』

フェムノが拗ねたような声を出した。

「あ、すみません。 その、なんでフェムノさんがここにあ、いる?んですか」

ここにある・・、と、聞こうとして失礼かと思い、フェイはなぜいる・・のかと聞いた。

「あぁ、それは」

言いかけてバーンダーバは言葉に詰まった、なんと言えばいいのだろうか?

自分が魔界からきた人類の敵、魔王軍の四天王だと言えば怖がらせるだろう。

だが、ならば何故聖剣などという代物を持っているのか説明がつかない。

『コイツはな、元魔王軍の四天王だ。 笑えるぞ、勇者に聖剣を取られぬように迷宮の奥で護っている間に主君である魔王を勇者に討たれたのだ。 そして、我を持ったまま行き場もなくブラブラと彷徨い歩いているのだ。 どうだ? 笑えるであろう? くはははははっ』

・・・

・・・・・・

「うふ、あはははははっ」

沈黙の後にフェイが口を大きく開けて笑い始めた。

バーンダーバはなんとも言えない表情で笑うフェイを見ている。

「あ、すみません。 バーンダーバさんの事を笑っていたんじゃないんです、実は、私はアルセンの、勇者の幼馴染で、魔王を倒して世界が平和になったら一緒になろうって約束してたんですよ」

「!!」

バーンダーバは驚いて目を見開いた。

「それが、なんか一緒に旅をしてた武闘家の女の子の事が好きになったから、申し訳ないけど君とは一緒になれないって振られたんですよね。 それで、故郷にも居ずらくなっちゃって、故郷を飛び出して旅をしてたんです。行く宛も無くてフラフラしてて。 それを思って、なんだかバーンダーバさんと似てるなっていうか、変な縁だなって思って笑っちゃったんです。 ごめんなさい」

『かははははっ、なんとまぁ。 コレは妙な巡り合わせだ、3人が3人とも勇者に運命を狂わされた者が揃っているという訳か。 我は本来なら勇者の手に握られ魔王を倒すはずだったのが、勇者は我を必要とせずに魔王を倒し、存在意義を失った。 フェイは勇者に愛を裏切られ、故郷で居場所を失った』

フェムノが可笑しそうに喋っているが、バーンダーバは笑っていいのかなんなのか、微妙な顔で話を聞いている。

『そして、バーンダーバ。 お主は本来なら我を取りに来た勇者と死闘を繰り広げるはずが。 我を勇者が必要としなかったせいでつまらぬ汚名を被り魔王軍を追放された。 なんとも、間抜けな3人が揃ったものよ! かぁーはっはっはっは!』

フェイも口元を押さえて控えめにくすくすと笑っている。

『よし、フェイよ、我の所有者にならぬか?』

「えっ!?」

フェムノの突然の提案にフェイは裏返った声が出た。

バーンダーバはフェムノのペースに振り回されるのに早くも慣れてきたのか驚いた顔はしていない。

『女の一人旅は危険である、我を持っていればあんなベヒーモス程度に遅れを取ることはない』

「そんな、聖剣なんて私には不相応です!」

フェイは胸の前で両手をブンブンと振った。

『なにを言うか、我に相応しいかどうかは我が決めるのだ。 フェイよ、我はお主が気に入ったのだ。 是非、我の担い手となって欲しい。 我は役に立つぞ、フェイは魔法が使えるのだろう? ちょっと柄を持って魔力を流してくれ』

フェイはバーンダーバを見る、バーンダーバは首を傾げつつも手でやってみるように促した。

フェイが柄を握り、魔力を流し込む。

聖剣全体が銀色に輝きだした。

その銀色の光がフェイを包む。

『バーンダーバ、少し相手をしてくれないか?』

フェムノに言われ、バーンダーバは立ち上がって漆黒の弓を具現化した。

『それで戦うのか?』

バーンダーバの腰には見事な剣が下がっている。

「私は弓手だからな、距離を詰められた時に直ぐに対応出来るように接近戦も弓で対応する」

『そうか、フェイよ、剣の心得はあるか?』

「はい、少しですけど」

『よし、バーンダーバに切りかかってくれ』

「えぇっ!」

困ったようにバーンダーバの顔を見る。

「大丈夫だ、私もそれなりに腕には自信がある」

「そ、それじゃあ」

フェイはグッと踏み込むと地面が抉れて一瞬で間合いを詰めた!

どころかバーンダーバに激突しそうになりバーンダーバに受け止められた。

「・・・ 凄いな」

バーンダーバがボソリと呟いた。

フェイは驚いて言葉も出せずに口をぱくぱくしている。

『仕切り直しだ、フェイ、今度はお主の思考速度も上げよう。 それで自分のスピードについていけるはずだ』

「まだやるんですか!?」

フェイが悲鳴のような声をあげる。

「フェイ、私も少し興味がある、もう少し付き合ってやってくれ」

バーンダーバに言われ少し迷った後に「はい」と返事をしてフェイが聖剣を構える、また聖剣から銀色の光が溢れてフェイを包み込んだ。

「いきます」

今度は先ほどと打って変わって落ち着いた表情をしている。

そして、さっきのような力任せの踏み込みではなくふっと距離を詰めると袈裟斬りにバーンダーバの肩を狙う。

それをバーンダーバが弓で受け流す、フェイは流れるような動作で切り返して胴を払う、それをバーンダーバが今度は流さずにしっかりと受ける。

衝撃でズズンっと音がしてバーンダーバの足元がひび割れた!

バーンダーバが聖剣を押し返す、そこからフェイの上・中・下のコンビネーションからフェイントも交えた凄まじい猛攻撃が続いたがバーンダーバはその全てを受け切った!

上段の攻撃をバーンダーバが受け止めてさらに地面がめり込んだ時、ようやくフェイは動きを止めた。

「す、凄いですね。 バーンダーバさん」

「何を言ってる、凄いのは聖剣とフェイだ」

『ははは、我は凄いだろう!』

はっきり言って最初のフェイの構えからの動きは素人に毛の生えた程度だったが、後半の動きはバーンダーバも舌を巻いた。

強者揃いの魔界にあっても聖剣を持ったフェイより強いのは10人もいないかもしれない・・・

バーンダーバはそう思い、コレが勇者の手に渡らなかったことは幸運だったかもしれないと考えた。

『にしても、バーンダーバよ。 お主も相当な手練だな、途中からかなり本気でフェイを魔力強化したのだが、全て受け切られるとは思わなかった!』

「そうか、聖剣に褒められるなら悪い気はしないな」

『かははははっ! 素直な男だ! フェイよ、どうだ? 我が役に立つのは証明されたであろう? 我の担い手になって決して損は無いぞ!』

フェイが助けを求めるようにバーンダーバを見る。

バーンダーバはこの聖剣がフェイの何を持って見初めたのかに若干の興味を持っていた。

「聖剣本人がそう言っているんだ、フェイ、旅の邪魔になることはないだろう。 だが、私としては魔王様に託された物だ。 はいどうぞ、という訳にはいかん。 少しの間、私も旅に同行させてもらえるか?」

フェイはなんと言っていいのか困った顔をしている。

『決まりだ、フェイよ、よろしくな』

「はい、じゃ、その、よろしくお願いします」

フェイは聖剣フェムノを目線に掲げて頭を下げた。

「さぁ、食べよう。 せっかくのベヒーモスの肉が冷めてしまう」

バーンダーバが促すと「はい」と返事をして、なんだか嬉しそうにフェイが鍋の蓋を持ち上げた。

「どうした?」

「あー、なんだか、人と話しながらご飯を食べるのなんて久しぶりだなと思いまして。 それに、まともにご飯を食べるのも久しぶりです。 なんだか、すっごく美味しいですね」

そう言いながら、食事を口に運ぶフェイを見ているとバーンダーバは何かを思い出した。

大事な何かを。

「フェムノ、やるべき事があったのを思い出した」
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