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4話〜四天王筆頭の夢は農園ライフ?

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『ほぉ、して、その目的とはなんだ?』

「あぁ、私は魔界のスラム街で魔王様に拾われたのだ。 その時に魔王様が言っていた「お前のようなガリガリの餓鬼ばかりの魔界を変えたい」という言葉だ。 道半ばで倒れた魔王様に代わり、私が成し遂げようと思う」

空の星を見ながらバーンダーバは物思いに耽るように喋った。

辺りはいつの間にやら日が暮れて、星空が輝いていた。

今宵の夜に月はない。

『なんだ、また戦争を始めようというのか?』

元が戦好きなのだろう、面白がるようにフェムノが声を弾ませる。

フェイは不安気な表情だ。

「まさか、魔王様も戦争は望んでいなかった。 最初、人間の住む現界に足を踏み入れ、人間達に土地の一部を貰えないかと持ちかけた。 見返りは魔界に存在する【魔石】、魔力を多く含む石で魔物の亡骸が地中で溶けた後に結晶化した物だ。 現界にもあるが、魔界は魔力濃度が高いせいか現界よりも多く取れる上に質もいい。 それで土地の一部譲渡を願い出た」

「えっ!? そうだったんですか? そんな話は初めて聞きました。 私は、魔界の魔族がいきなり攻めてきたと聞かされていましたから」

それを聞いたバーンダーバは少し悲しそうな顔になった。

「そんな事はしていない、まぁ、最終的には攻め入る形になってしまったが。 人間の王族達は我々魔族が現界に暮らす事に難色を示してな、魔石と食料の交換という形になった。 魔王様は、先ずは自分達を知ってもらおう、それから土地を貰いそこで作物を育てて魔界へと送ればいいと考えた」

そこで言葉を切ってバーンダーバは俯いた。

「魔界はそんなに食料に困っていたんですか?」

「ん、あぁ、そうだ。 魔界は高い魔力濃度のせいで土地が痩せていてあまり植物が育たない、それを食らう草食動物も少なく、草食動物を食う肉食動物はさらに少ない。 元々、魔族も少なかったからそこまで問題はなかったが、それにしても少な過ぎたのだ」


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元々が争い事の好きな人種である魔族。

かつて、魔界と現界がまだ1つの世界だった頃。

魔族は散々に暴れ回り、暴虐の限りを尽くした。

それを見かねた次元の大神オルパターンが魔力の渦巻く不毛な大地を切り離し、そこに全ての魔族を押し込んだ。

そこを【魔界】と名付けた。

押し込められた魔族は出してくれと懇願した。

そこで、時の大神クーンアールが言った。

心を入れ替え、平和を望むなら現界に住まわせよう。

だが、現界を我が物にしようとすれば必ず人間の勇者がお前達の王を討ち取るだろう。

と。

魔界と現界を繋ぐ通り道が造られた、自由に出入り出来る物ではなく、1万以上の魔族が忠誠を誓う魔王とその配下のみ。

その通り道を使う事を許された。

それは暗に群れても平和を望み、暴力を捨てられるかという神の試練だろう。

出入り口が出来ると魔族は魔王に率いられ何度も現界を支配しようとした。

その度に時の大神クーンアールの加護を受けた勇者が現れ魔王を打ち倒した。

魔王が倒れると従っていた魔族は強制的に魔界へと送られた。

何人もの魔王が倒れ、いつしか魔族は現界を奪う事を諦めて魔界に籠るようになった。

高い戦闘力と好戦的な性格、そして貧困という問題が重なり魔界は争いが耐えなかった。

強い者に従う習性を持つ魔族はいくつかの国に分かれて暮らしていた、突出した強者の数だけ国があった。

その中に一際大きな3大国があった、強力な魔族を率いた3人の魔王。

西の荒野一帯の長、氷烈・ヒルサザール。

魔界としては最も肥沃と言える北の平野を統べる、怒炎・オンオール。

東の山岳地帯を束ねる女帝・・・ヴィーマイ。

いずれも1万以上の魔族を率いて魔王の称号を持つ猛者。

その他、小さな国もあったがどの国も貧困に喘いでいた、ゆっくり増える人口にとうとう民衆の不満が爆発した。

他の国を滅ぼして人口を減らし、食料を手に入れようとしたのだ。

魔界は三者三つ巴の大戦争に突入して夥しい血が流れた。

そこへ突如、瞬く間に3人の魔王を討ち取り、凄まじい強さは魔界において戦鬼とまで恐れられた男が突如として出現した。

その男の名はダーバシャッド。

彼は名乗りを上げて僅か1年で魔界を平定してしまった。

そして、魔界の貧困を、食料問題を解決する為に現界の王族に助けを求めた。

王族は魔族に現界の土地の借用を認めなかった、魔石と食料の交換ならすると応じた。

過去に散々と迷惑をかけたから当然と言えば当然だ。

魔王ダーバシャッドはそれを受け入れ、魔石と食料を交換した。

魔界は歓喜した、飢えから解放されたと。

だが、長くは続かなかった。

現界の王族達はどんどんと魔石の数を増やすように要求してきた。

貰える食料は少なくなっていき、渡す魔石の量はどんどん増えていった。

次第に魔族達に不満が広がっていった、ダーバシャッドにも人間に対する怒りが募りだした。

そして、不満は臨界点に達して爆発した。

ダーバシャッドは3人の魔王とバーンダーバを四天王として従え、現界に攻め入った。

その猛攻は凄まじく、1夜で現界最大の都、王都クライオウェンを滅ぼした。

その時に殺した人の数は数十万にも及び、人類史上最大の大虐殺と言われた。

その後も、元々が魔界の魔王として君臨していた四天王の力もあり、魔王軍は現界をどんどんと平らげていった。

それでも、立ち塞がったのはやはり、時の大神クーンアールの加護を受けた勇者だった。

勇者は史上最強の魔王軍を仲間と共にたった3年で壊滅に追いやった。

魔王を失った魔族は制約によって魔界へと帰って行った。



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「というわけだ、私は恐らく、エルフの血が流れているからこの現界に留まっていられるのだろう」

魔王が討たれた時、バーンダーバは現界にある最大の迷宮【次元の牢獄】にいた。

いつの間にか定期連絡に来ていた魔族が来なくなり、おかしいと思って迷宮を出て制圧した現界の魔王城に行けばもぬけの殻。

魔界へと帰り、魔界の魔王城についた頃にはバーンダーバには汚名しかなかった。

そして、失意のままに彷徨い歩き、いつの間にか現界に彷徨い出て今に至る。

「そんな話は初めて聞きました、魔王さんが最初は友好的に現界へ来ていたなんて」

「あぁ、我が魔王、ダーバシャッド様は非常に寛大な方だった。 私にとっては命の恩人であり、自らの名の一部をとって私に名付けてくれた親のような存在でもある」

バーンダーバはぱちぱちと燃える焚火を見つめながら薄らと笑みを浮かべている。

その穏やかな表情を見たフェイには、目の前の男がとても四天王には見えなかった。
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