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43話〜作戦会議

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「怪我人はいませんかー?」

 フェイが声をかけて回っている、その声を遠巻きに聞きながらバーンダーバ、カルバン、ロゼ、セルカが頭をつき合わせて話し込んでいる。

「先ずは、食料と住む場所だ。 この大所帯の食料をどうするか、なにか案はあるか? どこかを耕して実りを得るまで、最低でも半年分の食料がいる」

「森に入って私が確保しよう、獲物を取るのは得意だ」

 バーンダーバが請け負う。

「馬鹿言え200人分だぞ、1人で狩れるわけないだろ」

「いや、バンなら出来ると思う。 俺とロゼがついてってバーンダーバが狩った獲物を運んで奴隷達に解体させたらいけると思う」

 セルカが意見を言う、セルカはバーンダーバの戦闘風景を見ているし、目の良さも知っている。

 そしてバーンダーバなら倍の400人分の獲物も狩れるだろうと算段した。

「あー、わかった。 そう言うなら任せよう、住む場所はどうするか・・・」

「あの」

 話していると女性が声を掛けてきた、隣にはアビーが立っている。

「娘を助けて頂いてありがとうございます、アビーの母親でシルビアです」

 深々と頭を下げる。

「礼には及ばん、当然の事だ。 ところで、アビーは兄と姉の事も話していたが、無事なのか?」

「はい、あちらで食事を頂いています。 本当にありがとうございます」

 涙を流して何度も頭を下げる。

「シルビア殿は食事はもういいのか? 遠慮なく頂いてくれ」

 バーンダーバが優しい笑顔で話す。

「はい、長くまともな食事とっていなかったのであまり食べれないのです」

「そうか、これからは飢えることの無いように務める。 安心してくれ、アビー、食事は美味しかったか?」

「あ、はい・・・」

 持ってきたのは奴隷用の粗末な物だ、お世辞にも美味しいとは言えない。

 アビーは子供特有の嘘をつけない顔で返事をした、その顔には(不味い)とはっきり書いてある。

 その表情を見てバーンダーバが気付いた。

「そうか、セルカ。 我々の食料を少し」

「よせバン、全員に配れるならまだしも、誰かだけに食い物を多くやるんじゃない。 200人もいるんだ、余計な不満が溜まるぞ」

 食料を出そうとしたバーンダーバをカルバンが静止する。

 バーンダーバが難しい顔をする。

「カルバン、大量に獲物を取ってくると約束するから、少しだけでもダメだろうか?」

 バーンダーバがアビーを見て泣きそうな顔でカルバンに言う。

「おい、なんちゅー顔で俺を見るんだ! 俺が悪者みたいじゃないか! やめろ! そんな顔で見るな、分かった、やればいーじゃねーか!」

「ありがとうカルバン!」

 バーンダーバが晴れやかな笑顔になる。

「持ってけ」

 セルカがリュックからありったけの食料を出した。

「セルカ、カルバン、恩にきる。 さぁこれを分けなさい」

「そんな、それは皆さんの食料でしょう、受け取れません」

 シルビアが手を振る。

「構わん、まぁ、冒険者用の保存食ばかりでそんなに美味しい物でもないがな。 他の子供達にも分けてやってくれ」

 そんな様子を壮年の男が見つめていた、それに気付いたアビーが「あっ」と声を上げる。

「おじちゃんっ!」

 そう言って壮年の男に走りよっていく。

 壮年の男はアビーの頭を不器用に撫でていた。

 バーンダーバがそこへ歩いていく。

「アビー、その人が君を逃がしてくれた人か?」

 バーンダーバの問いににこやかにアビーが頷く。

「そうか、貴方も無事で何よりだ」

「む」

 武骨といった雰囲気で男は頭を下げた。

「私もわからない事が多い。 苦労をかけるかもしれんが、貴方にも力を借りる事になるだろう。 その時はよろしく頼む」

「あぁ」

 男は空腹で頭が回っていないのか、上の空で返事を返す。

「それじゃアビー、母さんと一緒にご飯を食べておいで」

「はい、ありがとうございます」

「ありがとうございます」

 何度も頭を下げてシルビアがアビーを連れて子供達の下に戻る。

 シルビアが他の子供達にも声をかけて食料を配っている、幸いにも、揉め事になりそうな空気は無い。

 まだまだ皆、目には生気がない。

 それでも、食料を貰った子供の中で、親も一緒にいれば皆一様にこちらに頭を下げる。

 その光景は見ていてバーンダーバ達の心が傷んだ。

「とにかく、屋根のある場所に行かないとな。 奴隷達は今は体力の限界だ、病気にでもなったらすぐに死んじまう」

 カルバンがため息をつくように呟いた。

「それなら森はどうだ? 木の下なら雨も防げる」

「馬鹿野郎、魔物はどうすんだ。 いくらお前らが強くても200人全員は護れんだろう」

「それなら大丈夫だ、魔力感知で広範囲に索敵が出来る。 この間、迷宮に潜った時に覚えたのだ」

『ほう、もしかしてそれでフェイを見つけたのか?』

 怪我人の治療に回っていたフェイが戻ってきた、後ろではフェイに頭を下げている人が何人見える。

 フェイはそんな彼らに手を振りながらこちらへやって来た。

 話を聞いたフェムノが質問する。

 バーンダーバは「自分は魔弓以外に何も出来ない」と言っていた、それなのになぜあの迷宮でフェイのいるフロアの場所が分かったのかフェムノは疑問に思っていた。

「うむ、必死だったからな。 フェムノの真似をして上手く魔力を薄く引き伸ばすような真似は出来んが、魔力を広範囲に拡散して調べたのだ」

『ほう、やってみろ』

 フェムノに言われてバーンダーバが魔力を周囲に展開する。

 フェムノのように、薄く伸ばして触れて調べると言うよりは強引に魔力を飛ばしまくってそこら中を舐るような魔力感知だ。

 その途方もない魔力量にフェムノは笑った。

『かははははっ、こんなデタラメな魔力の使い方は初めてだ。 なるほどな、これだけの密度の魔力だから迷宮の壁を抜けてフェイを感知出来たわけか』

「うむ、フェムノのように上手くは使えんな」

「あー、よくは分からんが。 居を構えるならやはり安全な場所がいいだろう。 お前さんがずっとそこにいて奴隷を護っとくわけにもいかんしな」

「カルバンよ、その奴隷という言い方はやめないか? 彼らはもう奴隷じゃない、これから村を作るなら彼らは(村人)と呼ぶべきじゃないか?」

「あぁ、分かったよ。 んで? お前さんが村にずっといて村人を護るのか?」

「ふむ、そうだな。 そういうわけにもいかんか・・・ よし、先ずは皆に聞こうではないか」

 バーンダーバは立ち上がって「少し話を聞いてくれ」と地面に座り込む(村人)達に大声で話し始める。

 今度は何を言い出すんだ?

 そんな不安気な表情でカルバンがバーンダーバの背中を見つめる。
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