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49話〜3人の魔法使い

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「何を馬鹿な、迷宮が踏破されただと。 相手が悪かったな、私はそんな嘘を信じるようなマヌケでは無い」


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「なんと!? 私が長年研究していた魔法を完成させるとは!」

 身体強化によっておぼつかなかった足取りがまるで10代のように軽くなり、老魔法使いは嬉しそうに飛び跳ねている。

『かははは! 我に着いてくればまた我の叡智を分けてやらんでもないぞ! どうする?』

「おぉ、是非とも! 私も聖剣様について行かせてくれ!」

 老魔法使いは高笑いするフェムノの提案を躊躇なく受け入れる。



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 そんな流れで魔法使いの仲間が3人出来た。

 魔法陣に詳しいジャスハン。

 新魔法の構築に精通するボロミア。

 魔法具の生成が得意なデコイス。

 全員がフェムノに心酔し、着いてくると言い出した。

「なんだこれ、俺なんかいらねーじゃねーか」

 カルバンがぼやく。

「いや、カルバンがいなければ3人には会えなかった」

 バーンダーバが肩を落とすカルバンを慰める。

 ジャスハン、ボロミア、デコイスの提供した金は全部で金貨3万枚に達した。

 セルカとロゼはジャスハンが提供したお金を持って一足先にダイナスバザールへと買い出しに走っている。

 その間にフェムノがどうしても他の魔法使いにも会いたいと言いだしたのでカルバンの案内で訪れた塔の魔法使いをさらに2人仲間に引き入れた。

 後半の2人は明らかに仲間に引き入れる気満々で話していた。

「ところで、御三方」

 バーンダーバが魔法使い達に話しかける。

「なにかな?」

 ボロミアが答える。

 フェムノの身体強化魔法で嬉しそうにジャンプしていた魔法使いで、3人の中では最年長のようだ。

「金銭の提供には非常に感謝している、我々は村を作ろうとしているんだが。 その村に貴方達も住むという事でよろしいのか?」

 バーンダーバの問いに3人は顔を見合わせる。

「村か、聖剣様も村作りをされているのですか?」

『無論、お前達はその村に塔を建てる許可をやろう。 我がたまに行って叡智を授けてやる変わりにお前達は村の発展に勤めよ』

 フェムノは明らかにこの魔法使い達を都合よく使うつもりのようだ・・・

「はい、仰せのままに」

 恭しく魔法使い達がフェイの背中の剣に頭を下げる。

 非常に居心地の悪そうな顔でフェイがバーンダーバを見る。

「ところで、貴方達の家の必要な物はどうしますか? 人を雇って運ばせますか?」

「そうじゃな、その辺の手配はしてもらえるのか?」

「えぇ、私がやっておきましょう。 それじゃあ商人ギルドへ行きましょうか、ロゼ達と街の外で待ち合わせている時間まではまだ余裕がありますしな」

 カルバンを先頭に魔法都市を歩く。

 バーンダーバは雑多な魔法都市には珍しい円形の広場の中央に建てられた銅像を見つけた。

 銅像はローブを纏い、勇壮な顔で杖を構えている男だ。

「あれがラスレンダールなのか?」

 バーンダーバが銅像を指さして誰ともなく聞いた。

「なんと、魔族なのに知らんのか? あの銅像は今回の魔王を倒した勇者パーティに入っていた魔法使い、レイの像だ」

 ジャスハンが答える。

「惜しい魔法使いを亡くした、間違いなく、史上に名を連ねる男だった」

「そうだな、10代でクラス6の魔法使いはもう二度と現れんだろう」

 ジャスハンもボロミアもデコイスも、口々に像の人物を称えていた。

「だが、レイは魔王討伐の旅の途中で命を落とした」

 ジャスハンが悲しそうな目で銅像を見る。

「今回の魔王は過去最大勢力だった、壮絶な戦いだったんじゃろうなぁ・・・」

 ボロミアが続ける。

「レイの事だ、旅の途中で人間の最高峰クラス7の魔法をも会得していたはずだ。 そんな男が命を落とすとはな」

 デコイスも銅像を見つめる。

「凄い男だったのだな」

 バーンダーバが呟く。

「うむ、魔法使いとしては人間の限界に限りなく近かっただろう」

 カルバンも本人に会ったことを思い出していた。

 魔法使いにしては背の高い、ローブの上からでも分かるほどに骨格に恵まれた体をしているのが見て取れた。

 優しい顔立ちをしていたが、その深い知性を思わせる瞳は目が合った時にどきりとしたのを覚えている。

「さぁ、行きましょう。 商人ギルドはすぐそこです」

 カルバンが歩みを再開する。

 バーンダーバはカルバンについて行きながらじっとレイの石像を首を回して眺めていた。

 もしかすれば、自分がこの銅像の主と戦い、あるいは自分が殺していたか、殺されていたのかもしれない。

 バーンダーバはそんな事を考えて、出会わなかった事に胸を撫で下ろしている自分に気付いた。

 魔王が討たれた時は自分が勇者と戦えなかった事を呪ったにも関わらず、出会わなかった事に胸を撫で下ろしている自分が酷く滑稽に思えて呆れたように首を左右に振ってカルバンの方を向いた。
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