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50話〜セルカとロゼ

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「セルカ、なんでアンタは男のフリをしてんだい?」

 買い物の途中でふとロゼがそんな事をセルカに聞いた。

「あー、気づいてたのか」

 セルカはなんとも苦い顔を浮かべた、ロゼのほうは見ずに市場の露店に並べられた野菜を見ながら答える。

「変装はバッチリだと思ってたんだけど、なんで気付いた?」

 手に取っていた葉物野菜をカゴへ戻しながら聞く、視線はやはり合わせない。

「匂いだね、アンタからは女の匂いがするんだよ」

 それを聞いたセルカは嫌悪に満ちた顔で一瞬ロゼを見た。

「・・・ そうか」

 買い出しをするのに買った荷車を引いて八百屋の前を去る、結局野菜は荷車に載せる事はなかった。

「んで、なんで男のフリをしてんだい?」

 セルカは無表情を装っているが、頭の中でどう言ったものかと思考を巡らせていた。

 ロゼもそれが分かっているので沈黙を何も言わずに待っている。

 セルカが露店主に手を振って荷車を引いて進み始める、ロゼもそれに黙ってついて行く。

「・・・ 俺はな、中身が男なんだよ」

 ゴロゴロと荷車を引きながらセルカがボソリと呟いた。

 ロゼの眉がぴくりと動く。

「意味わかんねーだろ? 俺もだよ。 実はな、俺は結構いい所のお嬢様なんだ」

 荷車を止めて今度は雑貨屋に入る。

「ルイズベルって国の王の一人娘だ、笑っちまうだろ?」

 水筒を品定めしながらぽつりぽつりと話す。

「ガキの頃から自分で自分がオカシイのに気付いてたんだ、体が女なのに女が好きだったからな」

 水筒の口を開けて中にフーっと空気を入れて穴の有無を確かめる、大丈夫だと確認した物を店主に見せながら荷車に積んでいく。

「13になった時だ、政略結婚させられそうになった時に頭がオカシクなりそうだった。 嫌で嫌で堪らなかった」

 店主に金を渡して店を出る。

「親父にその事を打ち明けたんだ、俺は男だってな。 結婚なんて勘弁して欲しいって」

 別の雑貨屋に入り、水筒を見る。

「大喧嘩だ、そりゃあそうだよな。 1人娘が自分の中身が男だとか言い出すんだから」

 水筒にフーっと空気を入れて顔を顰める、それを置いて別の水筒を手に取る。

「もう5年前か、俺は国を飛び出して名を変え、冒険者になった。 冒険者って別名で【渡り鳥】って呼ばれてるだろ? それが気に入ったんだ」

 また水筒にフーっとすると今度は大丈夫だったのか、「うん」と頷いて荷車に入れる。

 「せめて自由になりたかった、どこへ行っても何をしても良いくらいの自由がな」

「ま、それに他に何も出来なかったしな。 仕事は親から貰うもんだ、親を捨てた俺には冒険者くらいしか出来ることがなかった」

 店主に金を渡して店を出る。

冒険者それも、グルマなせいでマトモには出来てないけどな」

 荷車の積荷を数える。

「嫌んなるぜ、何をやっても上手くいきやがらない!」

 セルカが積荷を満載した荷車をドカッと蹴りつけて「くそっ」と悪態をつく。

 視線を下に向ける、ロゼの方からセルカの顔は見えない。

「・・・ これが俺の男のフリをしてる理由だ、俺からすりゃあフリをしてるつもりは無い。 これが素だからな、はい、説明終わり」

 顔を上げて荷車を引き、セルカは無言で歩き始める。

「ふーん、中身が男か・・・ 難儀だねぇ」

 そう呟いてセルカのあとにロゼが続いた。

「前に魔力濃度の濃い場所にいたらグルマじゃなくなるかもしれないって言ってたね」

 追いついたロゼがセルカの横を歩きながら聞いた。

「あぁ、今のところは成果無しだけどな」

「諦めちゃいないんだろ?」

「あたりまえだろ、まぁ、他にしたいこともないしな」

 急にロゼがセルカの肩にガシッと腕を回す。

「かっこいいじゃないか、惚れちまいそうだね」

「冗談よせよ、男か女かもわかんねーのに」

「心は男だろ、それもいい男じゃないか」

 ロゼはニヤリと笑う。

「そりゃどーも」

 なんとなく2人はヘラヘラと笑いながらダイナスバザールの雑踏を歩いた。


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 カルバンが商業ギルドで3人の魔法使い達の荷物を村を作る予定地へと送付依頼を出したあと、一行はラスレンダールからほど近い草原地帯でロゼ達と合流した。

「おぉ、素晴らしい! 正しくレッドドラゴン!」

「なんと美しい鱗だ!」

『変な所触ってんじゃないよ、噛み千切るよ』

 さわさわと鱗を撫で回していたボロミアを首を回してロゼが睨む。

 睨まれてボロミアがすぐに手を引っ込めた。

「200人分でまぁまぁの量になったからさ、あっちこっちで買い足してたら来るのが遅れたんだ、すまない」

 セルカがロゼの背中から顔を出して謝る。

「いや、しっかり品定めもしたんだな。 粗悪品は無さそうだ」

 ちらっと物を見たカルバンが納得したように答える。

「あぁ、んで、なんで魔法使いが3人も仲間になってんだ?」

 セルカがロゼを物欲しそうに眺める魔法使いの方を顎でしゃくる。

『我の叡智をもってすれば当然の結果だ』

 ドヤるフェムノにセルカが「へへっ」と笑って答える、要領は得ていないがカルバンの疲れた顔を見て何事かを思った。

 全員でロゼに乗り込み、村人の待つ場所へと飛びたった。
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