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54話〜ポールとウェーソン

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「おう、随分と羽振りのいいモン着てんじゃねーか」

 そう声を掛けられ肩を叩かれたのはCランク冒険者パーティ・灰色剣グレイソードのパーティリーダー、ポール。

 夕食時、冒険者ギルドの酒場で他にも席は空いているのに隣の席に座る男。

 ポールは馴れ馴れしく隣に座った男に顔を顰めた。

 顔を顰めたのは一瞬、男は自分が歓迎されていない事など全く気付いていない。

 男はBランクパーティのリーダー、双剣の異名を持つウェーソン。

 柄のいい男とは言えない。

 実際、ポールが駆け出しの頃から酒場でウェーソンがクダを撒いているのを見ている。

 ポールは食事中に面倒なのに絡まれたと内心でため息をついた。

「ソイツは狼人間ライカンスロープの毛皮じゃないか? Cランクパーティのリーダーにゃ不相応な装備だ」

 ウェーソンはチョッキを摘んで少し引っ張りながら聞く。

「ある人に貰ったんだ」

 ポールの着ているチョッキは確かにライカンスロープの毛皮だ、ダイナスバザールの冒険者ギルドに来た時に素材買取の受付にいるワイナーから毛皮3枚を渡された。

 バーンダーバの伝言とともに。

 ポールは最初は断ったが、「それじゃあバンの気持ちを無下にすることになるぞ」というワイナーの言葉に押されて受け取った。

 せめてと、ポールは自分の取り分を金に変えずに逆に仲間に金を渡して毛皮でチョッキを作った。

 そのまま全てを金に変えるのが忍びなかったのだ。

 彼にとって、このチョッキは命の恩人から貰った大切な物になっている。

「随分と気前のいい奴だな」

 ふと見ると、ウェーソンは自慢の双剣を腰に下げていない。

 駆け出しの冒険者が使うような剣を2本下げてはいるが。

 その視線に気付いたウェーソンの表情が曇る。

「あぁ、これに関しちゃ聞かないでくれ。 喧嘩で負けたんだよ」

 苦々しい顔でウェーソンは呟いた。

 ポールは素直に驚いた、ウェーソンはBランクで異名が付くほどの冒険者だ。

 レベルは確か30を超えていたはず、強さだけで見ればAランクの冒険者と比べても遜色は無い。

 ウェーソンはポールの前に置いていた皿に乗っている豆を断りもなく摘んで口に運ぶ。

 手でウェイターに自分にも酒を出すように頼む。

「そいつは災難だったな」

 ポールは勝手に自分の摘みを取られたことには何も言わずに労いの言葉をかける。

 ウェーソンはまた豆を口に運んだ、その口元は緩んでいた。

「はっ、相手が悪かったよ。 なんせ最近話題の勇者のケツを蹴れブレイバーキックアスのリーダー、バンだ。 なんでも、パーティメンバーは聖剣に選ばれた聖女に赤い鱗の王ロッソケーニヒだって話だ。 リーダーがあんだけ強いのに、仲間まで化け物揃いだからな。 俺なんか相手になんねー訳だぜ」

 聞かないでくれと言いつつ自分でペラペラと喋る、今日は機嫌がいいらしい。

 ダイナスバザールの冒険者ギルドではブレイバーキックアスの名前はもう有名だ。

 なんせ、ギルドマスターが「うちに迷宮を踏破したパーティが在籍している」と喧伝しているからだ。

 その名は勇者のケツを蹴れブレイバーキックアス

 リーダーは元魔王軍四天王筆頭・魔弓と呼ばれた男、バン。

 聖剣に選ばれた聖女・フェイ。

 レッドドラゴンの王・ロゼ。

 それを聞いた時、ポールは自分と別れた後の僅か一月の間にあの2人は何をしたんだろうと笑った。

 そして、あの言葉を思い出した。

 グレイソードとバンとフェイの6人で食事をとった時にメリナが呟いた

「なんだか、伝説の幕開けに立ち会った気分」

 というあの言葉を。

 ポールは「ふふっ」と笑った。

「なんだよ、信じらんねぇのか?」

「いや、俺も会ったよ。 実際に魔弓の腕も見たからな、目の前でライカンスロープ6体が同時に眉間を射抜かれるのを」

 ポールの言葉にチョッキとポールの顔を交互に見る。

「それってまさか・・・」

「あぁ、そのブレイバーキックアスのバンさんに貰ったんだ」

「マジかよ、なんで?」

 ポールはバーンダーバとの出会いを語った。

 ウェーソンはそれを聞きながら驚き、笑い、感慨深く「そうか」と呟いた。

「今はどこで何してんだろうな、荒野の迷宮を踏破したって聞いてから2ヶ月以上経つが誰も新しい話を聞かねぇな」

 ウェーソンの言葉にポールもあの気のいい魔族とエルフの混血の男が何をしているのかと思いを巡らせる。

 どこかであったらあの時のお礼をまたちゃんとしたいなと思いながらコップの酒をぐっと飲んだ。



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 上空から村を眺める。

 川から水路を引き、その水路の周りに規則正しく畑が並んでいる。

 粗末だが家も100軒近く建てられた。

 雨風を防げる最低限の物だ。

 バーンダーバがノインドラで奴隷を買い取ってから2ヶ月が経った。

「美しい村だ」

「そうかい? アタイは粗末な集落にしか見えないけどね」

 バーンダーバの呟きにロゼが辛辣な言葉を返す、バーンダーバはそれを可笑しそうに「ふっ」と笑う。

『ロゼは立派な王宮の箱入り娘だったからな、仕方なかろう』

 フェムノが茶化す。

「バン、そろそろ降りて皆に獲物を届けましょう」

「ん、そうだな」

 ゆっくりと旋回しながら村の広場へと降りていく。

 それを見つけた村人達が集まってきた。
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