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2、人気アイドルの秘密
しおりを挟む…某テレビ局の3番スタジオ。
ここでは今人気の月9ドラマが撮影されているのだが、何やら不測の事態が起きたのかスタッフ達がザワついていた。
「なになに?どったの?」
「お、拓磨。お前鏑木さん見なかった?」
「鏑木?…アイドルの鏑木奏多?」
ザワついていたスタッフの1人…同僚のADの元に歩み寄り、その話に耳を傾ける。
どうやら人気アイドルの鏑木奏多が出番の時間になってもスタジオに来ないらしい。
さらに控え室を探しても見つからなかった、とのこと。
「鏑木さん、いつもなら15分前にはスタジオ入りしてるのに…」
「まだ来てないの?」
「あぁ。現時点で30分の遅刻だ」
「ほーん」
不安そうな同僚には関係ないが、俺はさして興味が無い。
ドルオタではあるが、鏑木奏多は推しではないからだ。
ちなみに俺の推しは『27-CAN』(トゥエンティセブン キャン)という27人組の女性アイドルグループ。
略称は『ツナ缶』。
メンバー全員がマグロの名を冠した芸名を名乗っており、ファンは『小魚』、ファンクラブは『魚群』と呼ばれ……
「拓磨?拓磨ー」
「ハッ!…ごめん。意識飛んでた」
「だろうな。魂抜けた顔してたもん」
「ちょっと三途の川見えてたわ」
スタジオのすみっこでそんな小学生並みのくだらない会話をしていた俺たちだが、不意に背後から声がかかる。
「吉田!社!」
「あ、プロデューサー」
「どうしたんすか?」
背後からのしのしと歩いてきたのはこの番組のプロデューサー。
凄腕で有名だが、AD使いが荒く目上には媚びる典型的なパワハラ上司だ。
「どうしたもこうしたもあるか!お前ら、今すぐ鏑木さんを探してこい!」
「えぇー、でもさっきマネージャーの人が…」
「いいから!」
「……はぁい」
こうして俺と同僚…吉田は行方不明のアイドル、鏑木奏多を探すことになった。
なってしまった。
「どこ探す?」
「そうだなぁ…マネージャーの人が携帯片手に上の階探しに行ってたはずだし…」
「じゃあ俺は控え室の方に歩いて行ってみるわ」
「なら俺は下の階かな」
吉田に手を振り、俺は早歩きで鏑木奏多の控え室へと向かう。
(1回他の人が控え室見たらしいけど、すれ違ってるかもしれないしな)
そう言えばさっき荷物を運んでた時にすれ違ったのは誰だったんだろうか?
そんな疑問を抱きながら、『鏑木奏多さま』と書かれた張り紙を見つけるとドアをノックした。
「鏑木さーん?いらっしゃいますかー?」
しかし返事はない。
なら他の場所を探そうと、ため息混じりに踵を返し……
ガチャっ
「え?…おわっ!?」
突然控え室のドアが開き、何者かの腕が俺の体を引きずり込む。
「だれかー!た、たすけてぇ!」
「五月蝿いですよ」
「もごごっ」
口に何かを詰められ声を塞がれると、俺はそのまま控え室の奥へと連れ込まれる。
…これ、完全に拉致監禁だよな…?
顔面蒼白になりながらも犯人の方を向けば、そこには2人の男が佇んでいた。
1人は黒いスーツを着こなすメガネのお兄さん。
そしてもう1人は抜群に綺麗な顔をした…
「も!もごごもごー!(あ!鏑木奏多!)」
「…奏多。この青年で間違いないですか?」
「うん。この感じ、間違いないよ。…あれほど抜いたばっかりなのに、根性で抑えるので精一杯だ」
「もご…?(なに…?)」
なんの話をしているかよく分からないが、どうやら俺を探していたらしい。
メガネのお兄さんが俺の口に入れていたもの…丸めたおしぼりを引っこ抜くと、改めて俺の方に向き直った。
「突然乱暴にして失礼しました。私は彼…鏑木奏多のマネージャーをしております、佐原と申します」
「あ、ご、ご丁寧にどうも…社 拓磨、ただのADです」
反射的に頭を下げたが、よくよく考えれば相手は拉致監禁未遂犯。
慌てて顔を上げ、キリッと睨みつけてみせる。
「ってか、なんで俺を探してたんですか?俺としては早く鏑木さんにスタジオに行って欲しいだけだったんですけど…」
「あぁ、それは…その、複雑な理由があってね…」
「…単刀直入にお願いします。社さん。奏多と契約を結んで頂けませんか?」
「……けい、やく…?」
鏑木奏多のマネージャー…佐原さんがとても真面目な顔で俺の目を見つめる。
契約、とはなんの事だろう?
「えっと、意味が分からないんですけど…1から説明して貰えます?」
「そうだよね、ごめん…僕からお話ししよう」
そう言って鏑木さんは一歩前に出て俺の前に座る。
「これは極秘なんだけど…実は僕、かなり重度のEDなんだ」
「………は?」
…いーでぃー…?
綺麗な顔から出てきた言葉の衝撃に、俺は思考が停止する。
「…しわくちゃの宇宙人が出る映画?」
「それはET」
「ならヨーロッパ連合?」
「それはEU。…口に出すのは恥ずかしいんだけど…いわゆる、勃起不全症なんだ」
「ふぁっ」
…なんてこったい。
ゴシップ雑誌もビックリなスキャンダル的事実に、俺は素っ頓狂な声を漏らす。
「そ、それで…その…ED…が、どういう関係で俺に繋がるんです?」
「それは…10年以上勃たなかった僕のアレが…つい1時間ほど前に、いきなり反応してね…」
鏑木さんの視線が気まずそうに泳ぎ始めると、佐原さんが小さくため息をつく。
「それが貴方だったんですよ、社 拓磨さん。貴方が奏多の隣をすれ違った瞬間、奏多は10年振りの性欲に襲われ…ついさっきまでトイレで抜きまくっていたのです。軽く10回ほど」
「じゅっ…!?」
「佐原!そ、そんな回数まで言わなくても…」
鏑木さんが恥ずかしそうに顔を赤くしているが、俺としてはそれどころでは無い。
…あの人気アイドルの鏑木奏多が、俺をオカズに抜きまくった???
EDの話に加え、とんでもない爆弾を投下された俺は死んだ魚のような目になる。
「ま、まさか…契約ってのは、愛人契約…とか…?」
冗談じゃない。
俺は普通に女の子が好きだし、いくらイケメン相手とはいえ男は絶対に無理だ。
と、思っていたのだが鏑木さんは至極真面目な表情で首を横に振った。
「いや、それは違う。…勘違いしないでほしいんだけど、僕も女の子が好きなんだ」
「えっ…で、でも俺をオカズにしたとか…」
「うん、それはそうなんだけど…今こうして君を目の前にしても、湧き上がって来るのは性欲だけで…恋愛感情みたいなのは微塵もない」
「…ん?」
それはつまり…どういうことだってばよ?
俺は眉をひそめながら首を傾げる。
「だから、安心してくれ。僕が欲しいのは、あくまでも君の体だけだから!」
「アイドルどころか人として最低の発言だなオイ!」
目の前のイケメンアイドルのトンデモ発言に、俺は反射的に声を張り上げた。
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