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10、『友達』
しおりを挟む風呂上がりの言葉通り、あれから鏑木さん…じゃなくて、奏多はまた忙しくなった。
どうやら音楽フェスに出るらしく、毎日の仕事に加えボイトレやダンスの練習などもしているらしい。
「アイドルって大変だなぁ」
ポテチを齧りながらテレビに映る奏多を見つめる。
俺の目的はもちろん推しアイドル・27-CANなのだが…一応『友人』だし、奏多の出番もチェックしていた。
『この広い世界でたった一人のキミに出逢えたのは奇跡』
『何よりもキミだけを抱きしめたい』
「…キザな歌だなぁ…」
ファンタジーな衣装でカメラに爽やかスマイルを向ける奏多はまさに『王子様』。
片手間にSNSを見てみれば、案の定ファンと思しきアカウントの呟きが大量に流れていた。
「前は意識して見ることもなかったけど…顔良し性格よし頭も運動神経も歌も完璧ってズルいよなぁ…」
『まぁでもアイツEDだし』と心の奥で呟けば、なんとなく男として勝てた気がした。
『さぁCMの次は27-CANの登場です!』
「おっ、ツナかんCM明け?…部屋からペンラ持ってこよ」
そしてCM明けにお目当ての27-CANの出番が来ると告知され、俺は慌てて席を立った。
………………………………………………
「……拓磨、見てくれたかな?」
歌番組のステージを終え、スタジオ端の椅子に腰掛ける。
汗を軽く拭いながら呟けば、隣にやってきた佐原が冷静に言葉を返す。
「そうですね…彼の好きなアイドルも出ていますので、生で見ていた確率は高いでしょう」
「好きなアイドル……あぁ、彼女たちか」
ふと視線を上げれば、CM明けに備えて位置取りをする大人数の女の子達。
「27-CAN(トゥエンティセブン キャン)の方々ですね。メジャーデビューは比較的最近ですが、元々地下アイドルとして活動してきたとか」
「…佐原、詳しいね」
「マネージャーとして当然です」
僕は拓磨から軽く話を聞いていたけど…流石に仕事上芸能界に詳しい佐原には常識レベルのようだ。
(…あの子たちのサイン貰って帰ったら、拓磨喜ぶかな…?)
先日お風呂の中で長話をした時に聞いた彼の趣味や好きな物。
その話の八割ほどが彼女たちの話だった。
「……終わったら声掛けてみようかな」
「おや、彼女たちに興味が?」
「うん、ちょっとね(拓磨が好きって言ってたし)」
「それは良かったです(ようやく女性に興味が…)」
何故か嬉しそうに微笑む佐原が気になったが、僕はあえてスルーして彼女たちのステージを見ていた。
『うぉぉおお!!C・U・T・E!メバチちゃぁあん!!今日も鮮度抜群だよぉお!!!』
…幻聴かな?
何か意味不明な叫び声が聞こえたような…
拓磨の声によく似ていたような…
僕は軽く頭を横に振り、ミネラルウォーターを軽く口にした。
『みんな大好きDHA♡ 誰もが 恥じらう あの子の微笑み』
『ライバルになんて渡さない。あの子のハートは僕のもの』
(恋をテーマにした歌か…まぁ、僕を含めてよくあるアイドルソングだね)
拓磨が長年追っているというアイドル…27-CAN。
何度か共演経験もあるけど、ここまで意識して見るのは初めてだ。
(顔も可愛い方だけど…僕にはピンと来ないなぁ)
拓磨と契約してかれこれ2週間程経つが、ED治療に進展はない。
仕事の空き時間に病院にも行ったが、『特定の人物にだけ反応する??もうその子と結婚すればハッピーエンドじゃない?』と言われてしまった。
拓磨が女の子ならそうしたかもしれないけど、彼は僕の大切な男友達だ。
そうして僕が悶々とする中、歌番組の生放送は終わる。
そして出演者達が各自控え室へと帰っていく中、僕はわいわいと話す女の子達に声をかけた。
「あの、ちょっといいかな?」
「っ!?か、鏑木さん!」
「お疲れさまです!」
「今日もかっこよかったです!」
総勢27人もの女の子達が僕をいっせいに取り囲み、甲高い声を上げる。
皆いずれも可愛い子達なのだが…やはり拓磨の時のような感情は湧き上がっては来なかった。
「お疲れさま。お仕事終わりでお疲れのところ悪いんだけど…サイン、貰えないかな?実は僕の友達が君らの大ファンで…」
「本当ですか!?」
「是非サインさせてください!」
急なお願いにも彼女たちは快く頷いてくれた。
サイン色紙を数枚取り出し、27人が1枚9人ずつでサインをしていった。
「急にごめんね」
「いえ!先輩アイドルの鏑木さんのお願いですし」
「それに、その大ファンだっていうお友達の方に喜んで頂きたいですから!」
「……ありがとう。僕もそう思うよ」
『友達に喜んでもらいたい』
拓磨の喜ぶ顔を想像しただけで、僕は胸の奥に熱い感情を感じた。
「そういえば君達も来週の音楽フェスに出るんだろう?」
「はい!…日本の一大音楽イベントに出演出来て、とても嬉しいです!…でも…」
「私たち今年が初めてだから、緊張して…」
「…大丈夫だよ。君達程場数を踏んでいれば、あの舞台でも充分なポテンシャルを発揮できるよ」
根拠の無い言葉だが、社交辞令的にそう告げれば彼女たちは嬉しそうに微笑んだ。
「じゃあ、次はフェス会場のドームで」
「はい!」
「鏑木さん、ありがとうございました!」
「こちらこそ」
そして彼女たちに手を振り、サイン色紙片手に佐原の元へと戻った。
「…奏多、それは…?」
「サイン色紙。拓磨があの子たちのファンって言ってたから」
「………はぁ」
サイン色紙を見せれば、何故か頭を抱えて盛大にため息をついた佐原。
「佐原?」
「…いえ、なんでもありません。それより、次はフェスに向けたトレーニングですよ。少し休んだらすぐに出発しましょう」
「うん、分かったよ」
サイン色紙を大切に抱え、僕は一足先に控え室へと戻って行った。
「…少し、手を打ちますか。……もしもし、佐原ですが………」
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