[R18]これはあくまで治療です!

空き缶太郎

文字の大きさ
10 / 27

10、『友達』

しおりを挟む
 
風呂上がりの言葉通り、あれから鏑木さん…じゃなくて、奏多はまた忙しくなった。

どうやら音楽フェスに出るらしく、毎日の仕事に加えボイトレやダンスの練習などもしているらしい。


「アイドルって大変だなぁ」

ポテチを齧りながらテレビに映る奏多を見つめる。

俺の目的はもちろん推しアイドル・27-CANなのだが…一応『友人』だし、奏多の出番もチェックしていた。

『この広い世界でたった一人のキミに出逢えたのは奇跡』
『何よりもキミだけを抱きしめたい』

「…キザな歌だなぁ…」

ファンタジーな衣装でカメラに爽やかスマイルを向ける奏多はまさに『王子様』。

片手間にSNSを見てみれば、案の定ファンと思しきアカウントの呟きが大量に流れていた。

「前は意識して見ることもなかったけど…顔良し性格よし頭も運動神経も歌も完璧ってズルいよなぁ…」

『まぁでもアイツEDだし』と心の奥で呟けば、なんとなく男として勝てた気がした。

『さぁCMの次は27-CANの登場です!』
「おっ、ツナかんCM明け?…部屋からペンラ持ってこよ」

そしてCM明けにお目当ての27-CANツナかんの出番が来ると告知され、俺は慌てて席を立った。


………………………………………………


「……拓磨、見てくれたかな?」

歌番組のステージを終え、スタジオ端の椅子に腰掛ける。
汗を軽く拭いながら呟けば、隣にやってきた佐原が冷静に言葉を返す。

「そうですね…彼の好きなアイドルも出ていますので、生で見ていた確率は高いでしょう」
「好きなアイドル……あぁ、彼女たちか」

ふと視線を上げれば、CM明けに備えて位置取りをする大人数の女の子達。

「27-CAN(トゥエンティセブン キャン)の方々ですね。メジャーデビューは比較的最近ですが、元々地下アイドルとして活動してきたとか」
「…佐原、詳しいね」
「マネージャーとして当然です」

僕は拓磨から軽く話を聞いていたけど…流石に仕事上芸能界に詳しい佐原には常識レベルのようだ。

(…あの子たちのサイン貰って帰ったら、拓磨喜ぶかな…?)

先日お風呂の中で長話をした時に聞いた彼の趣味や好きな物。
その話の八割ほどが彼女たちの話だった。

「……終わったら声掛けてみようかな」
「おや、彼女たちに興味が?」
「うん、ちょっとね(拓磨が好きって言ってたし)」
「それは良かったです(ようやく女性に興味が…)」

何故か嬉しそうに微笑む佐原が気になったが、僕はあえてスルーして彼女たちのステージを見ていた。


『うぉぉおお!!C・U・T・E!メバチちゃぁあん!!今日も鮮度抜群だよぉお!!!』


…幻聴かな?
何か意味不明な叫び声が聞こえたような…
拓磨の声によく似ていたような…

僕は軽く頭を横に振り、ミネラルウォーターを軽く口にした。

『みんな大好きDHA♡ 誰もが 恥じらう あの子の微笑み』
『ライバルになんて渡さない。あの子のハートは僕のもの』

(恋をテーマにした歌か…まぁ、僕を含めてよくあるアイドルソングだね)

拓磨が長年追っているというアイドル…27-CAN。
何度か共演経験もあるけど、ここまで意識して見るのは初めてだ。

(顔も可愛い方だけど…僕にはピンと来ないなぁ)

拓磨と契約してかれこれ2週間程経つが、ED治療に進展はない。

仕事の空き時間に病院にも行ったが、『特定の人物にだけ反応する??もうその子と結婚すればハッピーエンドじゃない?』と言われてしまった。

拓磨が女の子ならそうしたかもしれないけど、彼は僕の大切なだ。

そうして僕が悶々とする中、歌番組の生放送は終わる。
そして出演者達が各自控え室へと帰っていく中、僕はわいわいと話す女の子達に声をかけた。

「あの、ちょっといいかな?」
「っ!?か、鏑木さん!」
「お疲れさまです!」
「今日もかっこよかったです!」

総勢27人もの女の子達が僕をいっせいに取り囲み、甲高い声を上げる。

皆いずれも可愛い子達なのだが…やはり拓磨の時のような感情は湧き上がっては来なかった。

「お疲れさま。お仕事終わりでお疲れのところ悪いんだけど…サイン、貰えないかな?実は僕の友達が君らの大ファンで…」
「本当ですか!?」
「是非サインさせてください!」

急なお願いにも彼女たちは快く頷いてくれた。
サイン色紙を数枚取り出し、27人が1枚9人ずつでサインをしていった。

「急にごめんね」
「いえ!先輩アイドルの鏑木さんのお願いですし」
「それに、その大ファンだっていうお友達の方に喜んで頂きたいですから!」
「……ありがとう。僕もそう思うよ」

『友達に喜んでもらいたい』

拓磨の喜ぶ顔を想像しただけで、僕は胸の奥に熱い感情を感じた。

「そういえば君達も来週の音楽フェスに出るんだろう?」
「はい!…日本の一大音楽イベントに出演出来て、とても嬉しいです!…でも…」
「私たち今年が初めてだから、緊張して…」
「…大丈夫だよ。君達程場数を踏んでいれば、あの舞台でも充分なポテンシャルを発揮できるよ」

根拠の無い言葉だが、社交辞令的にそう告げれば彼女たちは嬉しそうに微笑んだ。

「じゃあ、次はフェス会場のドームで」
「はい!」
「鏑木さん、ありがとうございました!」
「こちらこそ」

そして彼女たちに手を振り、サイン色紙片手に佐原の元へと戻った。

「…奏多、それは…?」
「サイン色紙。拓磨があの子たちのファンって言ってたから」
「………はぁ」

サイン色紙を見せれば、何故か頭を抱えて盛大にため息をついた佐原。

「佐原?」
「…いえ、なんでもありません。それより、次はフェスに向けたトレーニングですよ。少し休んだらすぐに出発しましょう」
「うん、分かったよ」

サイン色紙を大切に抱え、僕は一足先に控え室へと戻って行った。



「…少し、手を打ちますか。……もしもし、佐原ですが………」

 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

兄弟カフェ 〜僕達の関係は誰にも邪魔できない〜

紅夜チャンプル
BL
ある街にイケメン兄弟が経営するお洒落なカフェ「セプタンブル」がある。真面目で優しい兄の碧人(あおと)、明るく爽やかな弟の健人(けんと)。2人は今日も多くの女性客に素敵なひとときを提供する。 ただし‥‥家に帰った2人の本当の姿はお互いを愛し、甘い時間を過ごす兄弟であった。お店では「兄貴」「健人」と呼び合うのに対し、家では「あお兄」「ケン」と呼んでぎゅっと抱き合って眠りにつく。 そんな2人の前に現れたのは、大学生の幸成(ゆきなり)。純粋そうな彼との出会いにより兄弟の関係は‥‥?

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される

中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」 夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。 相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。 このお話はムーンライトでも投稿してます〜

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

処理中です...